第743話 秋の収穫も終わって餅つきイベントが開催される件



 月も替わっての10月の金曜日、学校から帰って来た小学生トリオは今日も元気。具体的には、香多奈と和香と穂積なのだが、麓で植松の爺婆の家に寄ったのが起因していて。

 そこで週末に、来栖家で新米でのお餅パーティを企画しているって話になったらしい。それは護人も聞いていて、準備もバッチリ進行中だったりする。


 ただしそれは、陽菜やみっちゃんが月の初めに泊まりに来てからの話。具体的には、明日の午後からなので、その為の用意を今日の内にするとの事。

 それを聞いて、テンション爆上がりの子供たちである。


「この間のおはぎパーティも、物凄く盛り上がったからねぇ……黄な粉の掛かったおはぎ、とっても美味しかったなぁ。

 今度はお餅つきをするんだ、楽しみだなぁ」

「お餅じゃと、ぜんざいにしてもええし、お雑煮でも食うてもええからのぅ。海苔と醤油で食うてもええし、甘党以外も楽しめるけぇね。

 色々準備しちゃるけぇ、楽しみにしときんさいよ」


 笑顔でそう言うお婆に、楽しみと揃って返事をするキッズ達である。それから10月の運動会は見に来てねと、相変わらず和香はお婆泣かせである。

 その点は、お爺も同様でよう出来た孫じゃとウルッと来ている様子。ブラスバンドと組体操、みんなで頑張って覚えているんだよと穂積も上機嫌で報告している。


 総じて放課後の植松家の雰囲気は、こんな感じで爺婆と孫のホンワカした感じ。護人か隼人の迎えが来るまで、雑談しながら過ごすのだ。

 そうして山の上の結束力は、日々強くなって行くのだった。




 その週に行われた新人ズの初探索だけど、協会にも報告は終わって諸業務は全て終了済み。魔石の換金と動画の編集も依頼して、探索手当もしっかり貰い終わっている。

 保護者同伴とは言え、自分達だけの力でかなりの額を稼げてしまった。その感動を3人で共有しながら、最初の探索成功を皆で祝い合ってみたり。


 D級には上がれなかったとは言え、すんなりと5層の中ボスを倒せてしまった。道中も叱られるような事態にもならず、自分達としても本当に満点の探索だったと思う。

 今はその感動と緊張も薄れて、次の探索に向けて夕方の訓練を頑張っている所。実際、ムッターシャやザジ師匠に較べると、本番の探索の何と手ぬるい事か。


 それは決して誇張ではなく、訓練の方が数倍キツくて倒れそうになる事もしばしば。怪我の類いも、特訓で負う事の方が圧倒的に多いと言う。

 りょうはともかく、前衛の久遠くおんへのトレーニングは追い込み方が半端ない。それだけ、ムッターシャの特訓に根性見せてついて来る桃井弟は、見どころはありそうだ。


 遼はまだまだお茶っぴぃで、訓練の相手はレイジーやツグミが担っている有り様である。特にツグミは、スキルの扱い方まで面倒を見てあげて良いコンビかも。

 そのツグミの本来の相棒の姫香だが、珍しく訓練中にも白百合のマントを装備して悩み顔。この前の県北レイドで、実は2枚の高性能のマントを回収出来たのだ。


 その内の1枚の『死霊王のマント』は、闇属性&自動防御&能力吸収と言うぶっ壊れ性能だった。その闇属性がツグミと一緒だからと、姫香が強引に白百合のマントに吸収させたと言う経緯が。

 それを引き出そうと、特訓中も苦心している姫香と白百合のマントである。ただその苦労は、今のところあまりむくわれていない気がする。


「そう言えば、昔に護人さんもマントの飛行能力を引き出すのに苦労してたよね。やっぱり借り物のスキルを引き出すの、かなり難しいみたい。

 残念っ、ツグミと合体スキルを使いたかったのに」

「ああ、闇属性を扱うのは難しそうだね……ちなみに薔薇のマントが食べた『雪竜の鱗マント』だけど、俺もこれの氷属性はまだ扱えないな。

 薔薇のマントも、本当に大食漢で困ったモノだよ」


 そう話し合う護人と姫香は、それぞれのマントが新たに吸収した性能について議論中。本当は萌とか新人ズ用に、キープしておきたかったのが本音なのだけど。

 隙を見ては自身の能力を向上させようとする薔薇のマントには、本当に困ったモノである。いや、向上心は確かに褒められるけど、こちらの計画がマルっと狂ってしまう。


 とにかくチームの強化は、思う方向ではないとは言え進んでいるのも事実である。ペット達も、新たに取得したスキルを家族に見て貰いながら使い勝手の確認など行っている。

 レイジーは良いとして、茶々丸などは放っておくと何をしでかすか分からない。そんな仔ヤギも、既に8つもスキルを持つ立派な戦力の一員である。


 他のチームだと、恐らくバリバリのアタッカー役が務まるのではなかろうか。その前に、戦術が破綻する事態が大いに考えられるけど。

 どちらにしろ、誰かのサポートか舵取りは絶対に必要な暴走仔ヤギには違いない。今回の足止め土系魔法も、恐らくは誰かが言ってくれないと本人は思い出しもしないだろう。

 そして結局、最後には角を構えて勇ましくチャージを行うのだ。


 ちなみにムームーちゃんの覚えた《氷砕》だが、本人は至って普通に使いこなして周囲を驚かせた。どうやらこの軟体幼児は、魔法の才能だけはかなりのモノらしい。

 MP量がそれ程は多くないので、さすがに連発は難しいとは言え。護人の肩に陣取って、砲台代わりに魔法をぶっ放すのなら全然問題は無いレベル。


 その際は護人が一言、あの敵に魔法を放ってとお願いすれば良いのだ。実は新人の中で、一番戦力として安定して活躍を望めるのは、このスライムモドキなのかも。

 そんな夕方の特訓は、今日も熱心に行われるのだった――。




 次の日の午後一番で、約束通りに陽菜とみっちゃんがワープ装置を使って来栖邸へと訪れた。手土産や荷物を大量に持参したのは、1週間以上泊まる予定だから。

 待っていたよと子供たちの熱烈歓迎は、何も陽菜やみっちゃんが大人気だからではない。お昼を抜いて、今からの餅つきを待っていたからに他ならない。


「うむっ、こっちもお昼はまだでとっても期待して来たぞ。ちなみにみっちゃんのお土産は、海産物がいっぱいで新鮮な地元のお魚が大量みたいだ。

 紗良姉、是非とも今夜の食事で美味しく調理してやってくれ」

「ええっ、地元の漁師のオッちゃん達が、ギルメンによろしくって言ってたっス! ついでにこれから1週間くらい、お泊まりの方よろしくお願いしまっス!」

「そんな事より、はやく餅つきを始めようよっ……みんな腹ペコで待ってたんだよ、2人が合流して来るの。

 お爺とお婆っ、はやく餅つきを始めてっ!」


 そんな香多奈の催促に、子供たちからも賛同の声が上がって行く。餅つきの準備は大人たちによって抜かりなく済んでおり、きねうすともち米の用意もバッチリだ。

 中庭には既に山の上のメンバー達が集結しており、もろ箱やあんの準備も完了している。交替で杵を突くよとのお爺の言葉に、我先にと子供たちが集結する。


 結局一番手を担ったのは姫香で、お爺が合いの手を買って出てくれた。周囲からもヨイショとの、子供たちの合唱が響いて餅つきイベントは大盛り上がり。

 そしてお餅が段々と滑らかになった頃に、きねは子供たちの手に順繰りに渡される流れに。餅のね役は護人が交替して、これで万一事故になっても多少は平気。


 何しろ来栖家のあるじは、まかりなりにもレベル30以上の探索者である。子供の一撃を喰らった程度で、怪我をするほどヤワな造りではない。

 それはともかく、香多奈や和香や穂積は交替で元気に餅つきを楽しんで行く。それを引き継いだのは、桃井姉弟や遼の新人ズであった。


 彼らは陽菜やみっちゃんの客人ズとは初対面で、先ほど挨拶を交わし合っていた。和香は餅つきを終わらせると、遼と一緒にムームーちゃんをいじって笑い合っている。

 お餅みたいだねと、スライム幼児の感触を楽しむ無邪気な2人は笑顔がはち切れそう。その隣では、グリフォンの子供のヒバリを紹介された陽菜とみっちゃんが、驚き顔で固まっている。


 ヒバリを抱えた姫香は、ヤンチャ盛りの仔グリフォンの対応に大変そう。グリフォンは鷲の上半身と獅子の下半身を持つ、いわゆる幻獣でドラゴンと扱いは同じである。

 とは言え、萌ほどに大人しくないヒバリは、ピィピィと鳴きながら好奇心旺盛にあちこちにくちばしを突っ込みたがる。前脚も鉤爪が鋭いので、これで引っかれたら人間の方も大変だ。


 今の所、そんな狂暴な性格では無いのは有り難い限りのヒバリである。叱れば悪い事をしたと分かってくれるし、姫香や子供たちの言葉には従順に応じてくれる。

 それでも赤ん坊特有の行動力は、少し目を離しただけでフォローし切れない範囲に及ぶ時も。まぁ、しつけの点では上手く行っているので、護人としては怒る程ではない。

 それでも、末妹がヒバリにスキル書を与えそうになった時は、全力で阻止したのであった。


 まぁ、そうは言っても四六時中見張っておく訳にも行かないし、ヒバリがスキルを覚えるのも時間の問題か。何しろ姉の姫香も、ヒバリを探索に連れて行きたい派なのだ。

 陽菜とみっちゃんも興味津々の様で、この子は新しい戦力なのかと伺っている。姫香はハスキー達を指し示して、この子達に初対面でビビらないのは適性がある証拠だねと話している。


 これは8割がたそうなのだが、普通の動物だとレイジー達と対面するとビビり散らして相手にならないのだ。野生の勘がそうさせているのか、とにかく挨拶すらしてくれない有り様。

 その最初の垣根をアッサリと超えたヒバリは、探索者の適性はバッチリあると姫香は思っている。赤ん坊の無邪気さが顔を出した可能性も、なくは無いだろうけど。


「それじゃあ、将来的にはこの子に騎乗して姫香が戦う訳か。茶々丸に乗って戦う萌みたいな、あんな勇ましい感じを思い浮かべてたらいいのか?」

「それは胸アツっスねぇ、姫ちゃんは元から勇ましいから。きっと、騎馬戦やっても格好良い感じになってくれますよ!」


 そう絶賛する陽菜とみっちゃんだが、別に姫香は格好良さを求めてグリフォンライダーを目指す訳ではない。などとやっていると、きねつきの順番は桃井姉弟と遼が終わって無事に終了の運びに。

 その後はつき上がったお餅の塊を、お婆や紗良や美登利が食べれるサイズに千切って丸めて行く作業。その過程で餡子あんこを包めば餡子餅の出来上がりである。


 つきたてのお餅は、焼かなくても食べられるその場限りの贅沢品である。最初の出来上がり品に、群がるように殺到する山の上の住民たち。

 甘党メンバーはもとより、お餅に合う具材を色々と並べてあるのでその点は心配なし。お醤油とか海苔のりやキムチとか、お米に合うモノは必然的にお餅にも合うのだ。


 子供たちは食欲旺盛に、お昼とオヤツ代わりの餡子餅を楽しんでいる。第1陣のお餅はすぐに無くなりそうなので、すぐに第2陣をつき始めなければ。

 今度は凛香チームの面々や、陽菜やみっちゃんお客さん達がきねを持つ予定。そうやって第2陣が無くなれば、今度は予備に第3陣をつく感じだろうか。


 昔はこれだけついとけば、しばらくは持ったんだけどなぁとお爺は感慨深げだ。まさか山の上の僻地へきちに、こんな賑やかなたくさん住民が増えるなんて。

 その点は護人も同じく、最初は姫香と香多奈の面倒だけで大変だったと言うのに。気付けば紗良が家族の仲間に入って、お隣さんまで大量に増える始末。

 ただまぁ、その分色んなイベントが楽しめると言うモノ。





 ――夜は新米パーティだ、メインはみっちゃんのお土産のお魚!







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