第741話 新人たちの饗宴が無事に終わりを迎える件



 この“配送センターダンジョン”は、宝箱こそ見付からないモノのコンテナ箱の放置が意外と多い。その中に日用品とか普通に入っているので、回収しながら進むのが楽しい場所である。

 そのため、探索者的にはお勧めのダンジョンなのだが、硬い敵が多いのだが玉にきず。剣とか刃物をメインに使う探索者は、コイツ等を倒すのに苦労するのだ。


 地元の自警団チーム『白桜』も、そんな理由でここを忌避きひする傾向が。武器の使い分けは、他に職を持つナンチャッテ探索者には難易度が高いよう。

 それもまぁ当然である、本職でもないのに毎日夕方に訓練を行う来栖家の方が特殊なのかも。そのせいでチームどころかギルドの戦力が向上して、だから悪い事ではないのだが。


 そんな一員に加わった、桃井姉妹と遼少年も入居翌日から訓練の参加者となった次第。その成果をいきなり発揮したのは、子供特有の柔軟性もあるのかも。

 この時期の子供は、勉強した物をスポンジのように吸収する傾向がある。それに加えて、3人が覚えた特殊スキルが進化の後押しを行ったのかも。


 護人などはそう考察しているが、スキルに関しては分かっていない事の方が多いのは確か。そんな訳で、この新人チームの伸びしろはとっても多そう。

 今の所は、メインでこの3人の面倒を見ているのは土屋女史と美登利だろうか。美登利は主に生活や食事、それから体調や精神的な面で新入りさんたちを支えている感じ。


 土屋女史の方は、夕方の訓練の教官役を買って出てくれて、ギルドとしては大助かり。それぞれが自分の強化を頑張る時間なので、新人さんの面倒を見る人は割と貴重なのだ。

 人付き合いが苦手と自称する土屋だが、この山の上生活でかなり改善されている気も。少なくとも、山の上の住人にはかなり打ち解けて生活に支障はないレベル。

 こうやって新人の面倒を見る事で、更なるコミュ障の改善も期待出来るかも。


「あっ、今度は缶詰が入ってたよ……嬉しいな、こんな儲かるダンジョンもあるんだねぇ。廃屋探索よりずっと楽しいし、またみんなで来たいかな?」

「この町はダンジョンが多いから、協会と相談して良い場所を見繕みつくろって貰うのも可能だな。ただし、ギルド長の護人リーダーが許可を出さないと、3人だけの探索には出掛けちゃ駄目だ。

 お前たちは、まだまだひよっ子で探索経験も少ないからな」

「そうだな、今後も何回か保護者同伴で探索の練習をしようと思ってるよ。それでオッケーが出たら、今度は他のチームと合同で探索して貰おうかな?

 とにかく1人前になるまでば、まだまだ長い道のりだからね、みんな」


 頑張るよと、天真爛漫な遼の元気な返事はとっても癒される。手癖の悪かった発言は、生き延びるのに必死な時代の事なので敢えて触れない事に。

 とは言え、今後の共同生活ではそれが表に出て来ると、周囲の者も大変な事になる。その辺のケアだけは、ちゃんとしようと美登利や土屋とも話し合っている護人である。



 そんな話をしている内に、新人ズのチームは4層を制圧し終えていた。丁寧な間引きと周囲の探索は、初心者ならではで好感が持てる。

 その調子で5層に向かうぞと、土屋女史は開始から2時間近く経ってもノリノリな様子。ところが護人は、それを制して先にお昼にしようと昼食休憩を提案する。


 攻略を終わらせて、その後に安全なダンジョン外で食事を食べるのが普通の探索者の感覚ではある。ところが来栖家は、昼食も探索の一環との考えが意外と強く。

 苦しい探索も、楽しい食事を組み込めば良い思い出になるかなとの計らいに。今回もそうするつもりで、護人は結界装置を作動させて食事の用意を始める。


 育ち盛りの子供達は、大いに乗り気でお腹空いたと今更思い出したような事を口にしている。穂積の姿の茶々丸も、見よう見まねでランチの準備を手伝ってくれている。

 もっとも、幾ら人型になっても仔ヤギはお握りや唐揚げを食べれないけど。好奇心で手を伸ばそうとするので、毎回それを制止するのが大変な護人ではある。

 代わりに乾草を与えてやると、茶々丸はそれを美味しそうに咀嚼そしゃくし始めた。


「よかった、穂積……茶々丸ちゃんの分も、ちゃんとご飯あるんだ」

「もちろんだよ、茶々丸もハスキー達と同じくらいには食いしん坊だからね。探索に行くときは、いつも飼料は持って来ているよ」

「そうなんだ……ねえっ、護人叔父さん。レイジーちゃんにもご飯あげて良い?」


 普段はお行儀の良いレイジーも、お肉の匂いには抗えないようで。食事中の子供達にかなり接近していて、結局は遼の口からおかずをあげて良いかとのお伺いが。

 護人もいいよと許可を出して、そこからは騒がしい食事風景に。それを余所に黙々とお握りを食べる土屋は、やっぱり隣人の中では変わり者の部類なのかも。


 それでもチームを首になった桃井姉弟を心配して、声を掛けた行動力は素晴らしいと思う。何事も巡り合わせである、久遠が《勇者》なんて妙なスキルをゲットした事を含めて。

 遼なんて《闇の君主》である、更に意味が分からない……ただまぁ、このスキルはツグミと言う教師が近くにいて、助かった面もあったり無かったり。


 姉の茜にしても、ようやく最近血色が良くなって来て保護者の土屋も嬉しい限り。後は女性らしくお肉がつけば、さぞかし魅力的に変貌を遂げるだろう。

 それより、新人ズにはさっさと魔石を稼いでランクを上げて貰わないと。A級ランクが2チームもいるギルドに入れて貰った手前、やっぱりそれなりの体裁は整えないとなぁって思う土屋女史である。


 そんな思惑を余所よそに、賑やかな食事は無事に終わりを迎えた。食後に他愛ない話をしながら、お腹を休める作業をこなしつつ。

 こんな時も、コミュ障の土屋は物静かで会話の潤滑油にはなってくれない。いつも騒がしい子供達との生活に慣れている護人は、何となく物足りない思い。


 この中で一番お喋りなのは、実は《闇の君主》の遼少年だと言う事実。子供達でこんな遊びをしたんだよとか、ペット達と山の奥まで探検したとか。

 とってもアグレッシブに、彼は山の上の生活を満喫していてその点は嬉しい限り。首元の“変質”も中級エリクサーの投与で、今ではほぼ目立たなくなってくれた。


 さすが100mlで30万円もする高級薬である、それが来栖家には常にストックされていると言う事実。護人は相槌を打ちながら、遼の好転を微笑ましく思うのだった。

 ちなみに探索を再開した5層の攻略も、至って順調でルルンバちゃんの出番も半分もない程。前衛の久遠も、段々と安定感が出て来て頼もしい限り。


 そして中ボスの間に到達するまでに、コンテナ箱が1個とそれにふんしたイミテーターと1回戦闘になった。正解のコンテナ箱の中には、乾電池や味噌や砂糖などの調味料が。

 その回収を素直に喜ぶ新人ズ、そこは子供らしくとっても良い笑顔で見ていて癒される。5層の討伐もすべて終えて、いよいよ中ボスの部屋の前で一息つく一同。


「それじゃあ、みんな自分達メインでは初の中ボス戦になるのかな? 大抵は強い奴が待ち構えているけど、敵わないって感じじゃないから頑張って倒そうか。

 ルルンバちゃんも、この調子でフォロー頼んだよ」

「中ボスは、恐らくゴーレムの可能性が高い……久遠の持つフレイルなら、一撃で致命傷を与えられると思うぞ。

 従者も出て来るかもだから、後衛で話し合って足止めするように」

「えっと、ツグミちゃんに教えてもらった、影しばりの奴とか?」


 そんな遼の発言に、見せ場だから頑張ってと周囲から応援の声が飛んで来る。潜在能力の高いスキルを持つ遼少年だが、現状で出来る技と言えばこの程度。

 それでもツグミとの訓練で、何とか覚えたこの影を使う技は彼の努力の結晶である。使い所を言い渡されて、張り切る彼はヤル気充分で前衛の後に続く。


 リーダー役の茜も同じく、前に所属していたチームでも5層の中ボス戦は何度か経験はしたモノの。チームの実力も低く、茜自身もついて回っていた感が強かった。今回は、茜も弟の久遠もそれを大幅に上回る活躍振りである。

 それは与えられた装備の面も大きいけど、新しく自分達が覚えたスキルの恩恵も当然ある。ここまでして貰ったギルドには、当然ながら恩義を感じずにはいられない。


 チームの実力アップと活躍が、その恩を返す手段だと思っている茜は割と緊張気味。それでも前を行く魔導ゴーレムは、見た目以上に頼りになる。

 ただし、来栖家チームでの立ち位置はずっと後衛寄りだったみたいで、本当に良く分からないチーム事情だ。この新人チームを3人でやって行くのなら、やっぱり頼りになる前衛がもう1人か2人は欲しい。

 その辺は、例えこの中ボス戦が無事に終わっても今後の課題になりそう。



 その中ボス戦だけど、土屋の推測通りに3メートル級のゴーレムが待ち構えていた。お供もやっぱりいて、2メートル級のパペット兵士が2体ほど。

 何故か作業着を着ているその1体を、遼の影縛りが足止めに掛かる。もう1体は、素早く駆け寄った久遠が勢い良くフレイルで粉砕する。


 課題の待ちの姿勢の脱却は、まぁ1歩前進と言った所だろうか。戦闘に自信がつくに従って、その辺の塩梅あんばいも少しずつ改善されて行くに違いない。

 久遠はその勢いのまま、影縛りで足止めされたパペット兵士に背後から近付いて一撃を喰らわす。結果、従者2体はほぼ何も出来ずに魔石へと変わって行く破目に。


 一方、部屋の中央で中ボスのゴーレムと組み合ってるルルンバちゃんは、今日の主役は自分で無いとちゃんと分かっていた。そのため、相撲のように押しつ押されつの繰り返し。

 その様子は、まるで行司ぎょうじさんの「のこった~!」って台詞が聞こえて来そう。がっぷり四つに組み合って、土俵の中央で良い勝負。


 そして護人の、雑魚は全部いなくなったよの声を聞いた途端に。思わず繰り出した上手投げが、見事に決まって中ボスゴーレムは部屋の端まで吹っ飛んで行った。

 最後はそいつに、久遠が止めを刺して今回の探索は全て終了の運びに。素直に喜ぶ遼少年と、部屋に設置された宝箱を見てワクワク顔になってる茜。


 保護者の護人と土屋女史に関しては、何とかなったなとホッとした表情である。最後の仕事をやり遂げたAIロボは、ついでにと宝箱の開封を行ってら大人しく後ろに下がる仕草。

 サポート役も万全にこなすルルンバちゃんは、先輩探索者として貫禄が出てきた気も。そんな宝箱の中からは、ポーションやエーテルなどの薬品類や、木の実や鑑定の書や魔玉(風)が幾つか。それからカップ麺や缶ジュース、お酢や料理酒などがケース箱で入っていた。


 中ボスと宝箱からは、残念ながらスキル書のドロップは無くて残念ではあったけれど。見事に5層クリアは、最初の探索とすれば及第点をあげられる。

 後は帰路も探索の一部と、みんなで気をつけながら地上を目指すのみ。




 それから帰りに協会に寄って、無事に探索は終了したよと能見さんに報告。一緒に動画チェックをして貰いながら、気になった部分やアドバイスを素直に受ける新人ズの面々である。

 その間に江川が魔石とポーションの換金をして貰って、結果は15万円とまずまず。間引き依頼料も含めれば、1人頭で7万円程度だろうか。


 もちろん保護者枠の護人と土屋はただ働きだが、もう何回かはこのスタイルを続けるつもり。せめて新人ズの青葉マークが取れるまでは、大切に育てて行きたいと思う所存。

 子供達は素直に、今回の儲けを聞いて目を丸くして喜んでくれていた。初々しい反応ではあるが、出来ればこの初心を何年経っても覚えていて欲しいと思う。


 護人と土屋も、出来れば新しく入って来たギルド員と長い付き合いをしたいと思っている。それは生き延びて欲しいとの願いでもあるし、同じ職場で長らくやって行きたいと言う意味もこもっている。

 《勇者》と《闇の君主》と言う、何だか厄介なスキル持ちの所属する新チームだけど。周囲を見渡せば、それ以上に癖の強いキャラが集合している山の上である。

 つまりは彼らの個性も、大切に育てて行って問題無し?





 ――初探索の成功に湧く一行だが、やっとスタートラインに立っただけ。






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