第740話 新人ズの探索が順調に中盤に差し掛かる件
“配送センターダンジョン”2層の探索は、敵の殲滅も終えてまずまず順調。ルルンバちゃんも前衛を無難にこなして、今の所は4人チームに破綻は無し。
後ろからそれを窺っている大人たちも、まず安心して見ていられる。茶々丸も何とか大人しく、今はムームーちゃんを頭の上に乗せて遊んでいる所。
魔石の稼ぎも順調で、怪我をした者も出ていないのでその点も高評価である。それでも気を引き締めてと、呪文のように護人や土屋は繰り返し声を掛けるのを忘れない。
何しろ子供が中心のチームである、集中力の続く時間も思ったより短いのは当然。場慣れしていないのもあるし、体力も精神力も本人が思ったより消耗は激しい筈。
だからと言って、こちらが簡単に手を貸すのも悪手には違いなく。彼らの成長を思えば、ギリギリまで追い込んであげた方が良いのは分かっている。
そんな中で出来る事と言えば、やっぱり声掛け位しかないと言うこのジレンマ。成長を見届けるって、口で言うのは簡単だけどなかなか難しい作業なのだ。
それに気付かない子供達は、呑気にコンテナ箱を
そんな感じで3層に足を伸ばして、最初に目に付いた棚にそれは置かれてあった。今まで見てたのと同じサイズのコンテナ箱で、色合いは多少違うかなって感じ。
それに気付いた
来栖家チームでの探索の時には、ミケがほぼ百パーセントの確率でコイツの存在に気付いてくれていた。そのため、家族で痛い目に遭った者はいなかったのだが今は違う。
以前の取得スキルは『鍵開け』しか持たなかった遼は、ほぼチーム探索未経験の初心者である。前もってイミテーターの説明はしていたけど、これほど巧妙な変化とは思っていなかったのだろう。
腕を挟みこまれた遼は、驚きに絶叫してそのままの勢いで後退して尻餅をつく。驚いた仲間達は、正体を現したイミテーターに慌てて攻撃を集中させる。
その結果、何とか酷い怪我の手前で遼少年の腕は解放された。そいつにルルンバちゃんが止めを刺して、チーム員の視線は泣き出しそうな遼へと注がれる。
そこに歩み寄ったのは、ポーション瓶を持った土屋女史だった。それから、痛かったなとポンと少年の頭に手をやって、
護人も近寄って、泣かなかったのは偉いなと褒め称える素振り。レイジーも心配そうに、小さな友達に体をすり寄らせて大丈夫かと確認してくれている。
「こんな感じで、怪我をする時は戦闘中以外にもあるから注意するようにね。この敵が探索する前に説明した、イミテーターって言う待ち伏せ型のモンスターだね。
傷の具合は大丈夫かい、遼?」
「うん、千切られるかと思ったけど大丈夫みたい……勝手に動いてゴメンなさい」
「大丈夫だぞ、遼……失敗して覚えられる内は、それに越した事は無いからな。次に同じ失敗をしないようにな、チームに迷惑が掛かるからな」
土屋女史にそう言われた遼は、桃井姉妹にもゴメンなさいをする。笑顔で大丈夫だったと心配する姉弟は、やっぱり根は良い子供達なのだろう。
新人3人の仲も普通に良くなって来ているし、みんな揃って動物好きなのはポイントが高いかも。ルルンバちゃんとも仲良しだし、チームの和は良い感じに
その後ちょっと間を置いてあげると、何とか遼のショックも和らいでくれた模様。そんな《闇の君主》の装備品だが、これまたE級の新人には贅沢過ぎな気が。
まずはチーム員とお揃いの、ベースの探索着は成長を考えてちょっと大きめをチョイスした。それはともかく、他は後衛用の『リッチの法衣』を着込んでいるくらい。
こちらは物凄い性能を備えていながら、紗良や香多奈に敬遠されたデザイン性がネックの品である。とは言え、魔力アップやMP回復アップに加えて、『隠密』機能付とは凄過ぎる。
それを着込んだ遼少年は、やっぱり悪の亡霊チックな見た目で残念な限り。それでも性能が良いので、倉庫の肥やしにしておくのも勿体無いと使用に
本人は気にしていないようなので、まぁ周囲が茶化さない限りは大丈夫だろう。使い続ければ性能の良さは分かる筈なので、愛着もその内湧いて来れば良い。
後は防御や耐性アップにと、『ダイヤの首飾り』を渡してある。攻撃に関しては、遼は少しだけ《闇の君主》の闇魔法を
これもツグミによる、スパルタ特訓のお陰とも。
それに加えて、隠れ里の工房で作って貰った『闇の短剣セット』を遼は懐に忍ばせていた。4本の短剣を、闇の触手で操っての攻撃を現在彼は特訓中なのだ。
なかなか威力もあがらないし速度もまだまだだけど、後衛寄りのポジションでの攻撃手段としてはピカ一かも。3層に到達した現在も、遼は未だ攻撃には参加は出来ていないけど。
スキルの理解度は、ツグミとの特訓によってまずまず開花して伸びしろ充分な遼少年である。物騒な名前のスキルだが、この素直な少年なら強さに呑まれずやって行けそう。
実際、探索者の中にもスキルやレベル上昇で強さを得た結果、悪い道に走る者はそこそこいる。協会も頭を悩ませて、暗躍部隊など出来たりもしているし。
来栖家チームとしても、ギルド員の管理は今の所キッチリ出来て健全な運営が行えてると自負している次第。そな次世代のエースが、久遠であり遼少年な訳だ。
ただし、本人たちがその点を自覚しているかは定かではない。
「さあっ、今まで以上に周囲を警戒して探索に励もうか。さっきのイミテーターが化けるのは、コンテナ箱だけじゃないぞ、子供たち。
ひょっとしたら、壁や床に化けているかもしれない」
「そうだな、チームに斥候役がいないから、ルルンバちゃんに頼った方がいいかもな。例え不意打ちに遭っても、ルルンバちゃんなら屁の河童だからね。
それもチームの役割分担の内だから、気にしなくてもいいよ」
「えっと……じゃあルルンバちゃん、ちょっとだけ先に立って進んでくれる?」
そんな茜の要望に、心得たと両手を上げて進み始めるAIロボである。予備の機体で万全ではないとは言え、C級ダンジョンの敵に遅れなど取る筈もない。
その自信は、決して慢心では無いのはチーム員なら誰でも知っている。さっきの遼の怪我も、自分が代わってあげたかったなぁと心優しく責任を感じているルルンバちゃん。
そんな彼は、すぐに主通路の床の落とし穴を発見して、その横でダンボールに化けているイミテーターも続けて発見する。その後の子供達の大騒ぎは、見ていて何となく微笑ましいかも。
慌てないでと声を掛ける大人たち、そんな助言も慌てる子供達の耳には届かない。それでも茜の扇子の炎で、ダンボールのイミテーターは派手に燃え始めた。
落とし穴に関しては、ルルンバちゃんが強引に乗り越えて事なきを得た形に。繊細さも大雑把さも併せ持つ彼は、まさに次世代のエース候補である。
燃えていたイミテーターの止めを久遠が刺して、その場の騒ぎはようやく終焉に。ついでにわき道から出て来た大ゴキブリを、気付いた遼が初キルに成功。
こちらは実はレイジーが、新人ズが不意打ちを受けそうなのに気付いていたようで。秘かに『針衝撃』スキルを使って、こっそりサポートして敵を弱らせていた模様である。
その後に遼が、ツグミとの特訓で練習していた『闇の短剣』を使っての止め刺し。2本の闇の触手に握られた短剣が、見事に大ゴキを刺し貫いてくれた。
その勝利を知った瞬間、遼は大喜びで飛び上がる。
「やった、初めてスキルで敵を倒したよっ……見てくれた、みんなっ!」
「おっ、やったね遼ちゃん……おめでとうっ!」
「えっ、敵が近付いてたのっ? 気付かなかったよ、ありがとう遼ちゃん」
チームメイトにも喜ばれ、頬を染めて興奮している遼は年相応で可愛いかも。桃井姉弟もやったねと自分の事のように喜んで、さすが最近ずっと一緒に訓練に勤しんだ仲である。
ダンジョン内の、安全確保も不充分な場所でこんな騒ぎをするのは非常識ではあるけど。毎回それをやってるのは来栖家チームの特色なので、強く注意も出来ない護人だったり。
隣にいた土屋が
その後はとにかく気を引き締め直して、探索の続きを始めるキッズ達。5層までは頑張ろうねと、桃井姉は何となくリーダーの役割に慣れて来た感じ。
遼少年も、初めて戦闘で役に立って自信がついて来たのだろう。その足取りは、明らかに探索始めの頃とは違って軽やかとなっている。
緊張もいい具合に取れて、ダンジョンの雰囲気にも慣れて来たのだろう。それは桃井姉弟も一緒で、入った時の引き
良くも悪くも、遼少年はこのチームのムードメーカーなのだろう。要するに、ノリが良くなる場合もあれば、遼が落ち込んだらチームの空気も沈みそう。
最年少の遼は、今後は皆から愛されキャラになって行く予感が。《闇の君主》なんて異質なスキルを持っていると言うに、人生って良く分からない。
護人にしても、今後この少年にどう接すれば良いか悩ましい所。
そんな事を考えている内に、3層の探索は何とか終了に漕ぎつけた。イミテーターの罠を掻い
それぞれ数パックずつと、数もそれなりで子供達の表情もにこやかである。ついでに乾麵も数個ゲットして、遼がそれを手に大喜びする場面も。
それを撮影する土屋は、我が子の成長を見守る親のような表情。ある意味カオスだが、実害も無いので護人は敢えてそこには触れない事に。
そして4層の探索も、敵を蹴散らす前衛陣の動きは少しずつこなれて来た感が。ルルンバちゃんも動きは良くなって、それをサポートする久遠も盾とフレイルの塩梅が取れて来た様子。
この層からゴーレムやパペット兵が接近して来て、威圧感は前より5割増しに。そんな連中を粉砕して行く前衛陣は、開始当初より随分と戦い慣れて来ていた。
堅実に進みながら、新人ズのチームは声掛けも次第に出来るようになっていた。その成長具合は、保護者としても思わずほろりと来そう。
それにしても、ロックを含めて硬質な敵に特効がつく、粉砕系の武器の選択は本当に良かった。お陰でそれほど力のない久遠の攻撃でも、ほぼ一撃で機能停止に追い込めている。
そして止めの2撃目で、安全に勝ち名乗りを上げれる感じだろうか。ルルンバちゃんも、どうやら硬い敵を粉砕する感触をとっても楽しんでいるみたい。
ご機嫌に前衛をこなして、まるで本職のような安定感。
「いいぞ、ルルンバちゃん……段々と前衛の動きも、それから攻撃の具合も安定して来たね。さすが学習型AIだな、不慣れな機体も最近はスムーズな動きだし。
ただまぁ、もうすぐ工房で元の機体の修理も終わりそうだからね。そしたらそっちの、小型の機体は予備に置いておけるかな?」
「そうなのか、意外と修理に時間が掛かったんだな……何にしろ、良かったなルルンバちゃん。久遠も最初と較べると、動きはずっと良くなってるぞ。
茜のリーダー振りも随分と良くなってるし、遼も一生懸命に頑張ってるな。まさか最初の探索で、初キル上げるとは思ってなかったぞ」
付き添いの大人たちにそう褒められて、新人のキッズ達は得意顔で揃って笑顔を見せて来る。少し前まで、食うに困った状況の子供達とは思えない屈託のなさ。
それはある意味、保護した大人たちの勲章とも言える訳だ。心の中をホッコリさせながら、良かったなぁと子供達を見遣る護人である。
それから寄って来たレイジーの頭を、優しく撫でてその想いを相棒と共有する。
――ダンジョンは現在4層、切りの5層の中ボスまであと少し。
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