第739話 新人チームで張り切って経験値稼ぎを行う件



「ねえっ、ルルンバちゃんはどうやって落ちた魔石を拾ってるの? 3本目の手も使ってないし、魔法でも使ってるのかなっ?」

「ああ、ルルンバちゃんは『吸引』ってスキルを持ってるからね。最初に覚えたスキルだったかな、元がお掃除ロボだからみんなが納得のスキル取得だった筈。

 拾った魔石は、お腹のカタツムリの収納箱に入っているのかな?」

「凄いねぇ、ルルンバちゃん……お掃除ロボから、こんな大きく成長したんだ」


 やはり男の子2人は、機械と言うかロボットに憧れみたいなモノがあるようだ。さっきの戦い振りを褒めながら、頼りになるなぁ的な称賛を与えいてる。

 新チームの結束は、そんな感じでまずまず好調な出だしの様で良かった。ちなみにルルンバちゃんの3本目の腕とは、例の女性の左腕で太い本体の腕の下にコッソリと生えている。


 これは魔術を使うために必要な腕で、その使用も割と独特である。未だに収納にストックした魔玉を媒体に使うのだが、魔銃での攻撃より威力は高い感じ。

 範囲攻撃も可能なため、香多奈の命令で今後はコッチのスキルを伸ばす事に。何しろ魔銃は、銃に詰め込む手間が掛かるので大変なのだ。


 その点、魔玉だけを使う《魔力炉心》頼りの魔法攻撃は、威力も攻撃範囲も申し分なし。手間いらずの便利さで、この利点を伸ばせとの末妹の指示も頷ける。

 そんな訳で、物理攻撃と魔法の両方を偶然にも頑張っている《勇者》ルルンバちゃんだったり。久遠くおんには悪いが、その純粋さはよっぽど正義の使者っぽい気も。


 それはともかく、随分と雑魚敵も増えてるねと、一応の警戒を呼び掛ける護人である。とは言え、まだまだ救助の手を出す予定もないし、しっかりその左手には茶々丸をキープ中。

 それじゃあ探索を続けますと、リーダー役のあかねの号令に。しゅたっと手を挙げて、先に立って進み始めるルルンバちゃんであった。


 その隣を歩く久遠は、まだまだこの配列に慣れていない感じ。それでも次に出て来たパペット兵には、盾を構えて勇ましく突っ込む構え。

 それを隣からサポートするAIロボと、後方から応援する後衛陣の2人である。その戦闘結果は1分も掛からず、久遠の圧勝に終わった。


 持ち前の『盾術士』もそうだが、やはり凶悪な能力の『魔人のフレイル』の存在が大きい。これなら中ボス戦まで、見学だけで良いかなとの土屋の感想もさもありなん。

 その後に出て来た大ネズミ3匹も、今度は前衛2人で仲良く半分こ出来た。討伐時間も初戦よりずっと短く済んで、さすが若いだけあって対応力も随分早い。


 その度に褒め言葉を掛ける大人たち、レイジーもひよっ子にしてはまずまずだなって表情で後に続いている。穂積の姿の茶々丸も、護人に手を繋がれてようやく大人しくなってくれた。

 ちなみに、何故ずっと穂積の姿なのかは不明なままである。撮影役の土屋女史も、そちらはなるべく写さない配慮を行っている。下手をすると、学校をサボった疑惑が本物の穂積少年の身に及ぶかも知れないので。


 戦闘が終わって魔石を拾う新人ズの子供達は、報酬ゲットを身に染みて実感しているようで嬉しそう。ルルンバちゃんも、自分が拾った魔石を差し出して稼げてるよアピール。

 それを受け取る茜は、これだけあればランク上がるかなぁと夢見心地である。探索前に、回収品は全部3人で分けて良いよと護人は言い渡しているので。

 とは言え、まだまだ存分に稼いだとは言えないレベルには違いない。


「探索ってのは、敵だけ捜せば良い訳じゃないぞ、みんな。罠や宝箱、待ち伏せている敵だっているかも知れないからね。

 周囲には充分に、気を配って進むようにな」

「そうだぞ、ひょっとしたら宝箱がすぐ近くにあるかも知れないからな」


 そんな土屋女史の言葉に、途端にキョロキョロと辺りを窺い始める素直な子供たち。当然ながら、1層にそんな大層なモノは無いのだが。

 それでも周囲の通路の仕切り代わりの棚には、捨て置かれたようにコンテナ箱が置かれていた。透明なのとか色付きとか、数えらるだけで4個ほどある。


 あの中に何か入ってるかもと、期待に満ちた声でりょうが声を発する。それに釣られるように、大移動を開始する子供達&ルルンバちゃん。

 大人たちもサポート役にと後に続いて、何かあった時に手助け出来る構え。何しろ探索にまだ慣れていない子供たち、1つの事に集中すると他がおざなりに。


 それでも何も入ってないとか、何か紙が入ってたと嬉しそうに報告するりょうはとっても無邪気。紙は鑑定の書だったようで、回収物としてはまずまず。

 他はゴミばかりで、大した収穫は無し……1層はそんな感じで、全部チェック終わったから次に進みますと茜の号令掛け。それに反応して、男の子2人のハイッとの返答。


 そんな感じで1層での戦闘は大きいのが1回に小さいのが4回ほどで次の2層の階段へ到着。後ろのサポート陣の顔色を窺って、茜は階段を降りるよとの指示出し。

 大人しく従うルルンバちゃんは、そんなの慣れっこだよと勇ましい限り。男の子2人は、階層渡りは敵が強くなると分かっているのでやや尻込みしている感じ。


 生存本能とはそんなモノなので、それを叱る事を護人は当然しない。その危険と安全の折り合いは、自分の実力とエリアの危険度を直に学んで身につける類いのモノである。

 スパルタのレイジーなどは、さっさと進めみたいな視線でヒヨッコ軍団を眺めていたり。土屋女史に関しても、男の癖にだらしないぞとそっち寄りな発言が飛び出している。


 実際、このチームには治療系のスキルを扱う者が存在しない。茜の覚えた回復魔法は、まだまだ頼りなくて実践投入には覚束おぼつかないレベルである。

 ポーション薬はガッツリ持って来ているので、その点は安全配慮に落ち度はない筈。罠系の備えはルルンバちゃんに頼んであるし、これほど恵まれた経験値稼ぎはまずないとも。


 そんな感じで背後からのプレッシャーを受け、前衛の久遠はへっぴり腰で進んで行く。心配そうに見守るAIロボに、負担をかけ過ぎるのも悪いとでも思ったのだろう。

 ルルンバちゃんは全く気にしないのだが、とにかく2層の探索は曲がりなりにもスタート。そしてようやく登場した、ロックと呼ばれる岩系の硬いモンスター。

 それが転がって近付く姿は、どこかユーモラス。


「おっと、出て来たな……そいつが探索前に話していた、とっても硬い敵パート1だよ。配送センターが出来る前、この場所は大きな岩が転がる荒れ地だったからね。

 その名残なのかな、ちなみにパート2は岩系のゴーレムだからね」

「どっちも刃系の攻撃はあまり効かないぞ……大抵の探索者が苦労するのは、前情報を知らずに突っ込んで後で後悔するパターンだからな。

 さあ、そんな敵にはどう対処するんだった、久遠?」


 そう問いかけられた久遠は、てやっと掛け声を発してフレイルでの攻撃を繰り出す。俊敏とはかけ離れた敵のロックは、その一撃をもろに受けて呆気なく粉砕されて行く。

 やったねと喜ぶ後衛の茜と遼は、こっちの通路からも敵が来るよと索敵にも抜かりが無い様子。いいぞとそれを褒める土屋女史と、接近する大ネズミをブロックに向かう久遠。


 ところが脇道の通路は、それ程広くも無くてルルンバちゃんが入り込むスペースは無い。大ネズミは3匹いて、果たして初心者の久遠に多数相手のブロックが可能かどうか。

 その時、咄嗟とっさに後衛の茜が手に持っていた扇子せんすひるがえした。その途端に、久遠の横をオレンジ色の熱波が通り抜けて大ネズミの集団にヒットする。


 後衛も一応は攻撃手段が欲しいねとの、前もっての装備決めでの会話があったのだが。結果、茜の手にはいつかの探索で入手した『炎の扇子』が持たされていた。

 これを使う練習は、実は3日前から始めていた茜は、しっかり敵に当たったのを確認して思わずガッツポーズ。炎攻撃に怯んだ敵を、久遠がしっかり止めを刺して行く。

 そして拾い上げた魔石を姉に渡して、何だか誇らしげな表情。


「やったね、茜お姉ちゃん……ナイスフォローだったよ、前のチームじゃ考えられない動きじゃない?

 その調子で頑張ろう、目標は5層の中ボスって言われてるからね」

「うっ、うん、頑張ろうっ! 確かに前のチームじゃ、戦闘のサポートも中ボスとの戦闘も出来なかったよね。

 生まれ変わった私たちは、前とは全然違うからね!」


 そんな熱い事を語り合う桃井姉弟は、青春ノリで何だか見ていて微笑ましい。りょうも、同じ後衛の茜が活躍したのを見て、僕も頑張るぞと気合を入れている。

 そんな茜の支給装備だが、来栖家の倉庫が見繕った結果、ちょっとちぐはぐな感じになってしまった。魔法使い系の装備品は、滅多に集まらないから仕方が無いのだが。


 まずは頭だが、『魔法の車掌帽』は魔法アイテムでなかなかの装備品だ。魔力アップとMP回復効果が付いているので、魔法使いには超有り難い装備である。

 他の装備に関しては、移動販売車から買って貰った探索着がメイン。ただし、手首には『目玉のバングル』がめられており、その性能もかなり強力。


 それからアクセサリーには『ダイヤの首飾り』と、余った品を渡されたにしては割と豪華な感じ。後衛は防御力が弱いのは仕方無いが、各耐性はかなりの上昇振り。

 後衛なので装備の薄さは仕方無いけど、その分動きやすくて長時間の探索でも疲労は少ない筈。これがどんどん探索に慣れて行って、レベルが上がれば話はまた違って来るけど。


 来栖家の後衛陣は、軒並み軽装なのでこの2人もその流れを踏襲とうしゅうするかも。何しろA級ランクの来栖家チームは、レイド依頼も多くて広域ダンジョンに潜る機会も半端なくあるのだ。

 装備を着込んだ分、重くなるのは当然の結果である。体力に自信のない紗良や、まだ子供の香多奈はそれを嫌って最低限の装備が常となった感じだろうか。


 前衛とは別なことわりで探索に関わる後衛陣は、まだ来栖家チーム的にも正解を見付けられてないのかも。ただまぁ、他のチームも似たような装備なので、大きく外れては無いと思いたい。

 それより、この2層にも通路を仕切る棚に置き忘れのコンテナ箱が幾つか。それをチェックした遼が、ペットボトルが入っているとチームに声を掛けた。


「おっと、それの中身はポーションかな? 薬品は色で大まかに判別が出来るけど、たまに意地悪で似たような色合いの毒薬が混じっているから注意するようにな。

 慣れない内は、さっき拾った鑑定の書で見分けるのをお勧めするよ」

「うわっ、そうなんだ……私たちの元いたチームは、割と無頓着に使ってたかもっ? 鑑定の書も、売れば1枚1千円だし……お金になるから、安価な品の鑑定は避けてたかな」

「それは生活の知恵ではあるが、危険と引き換えにする程のモノじゃ無いな。ウチのギルドでは、来栖家の紗良ちゃんが《鑑定》スキル持ちでタダで鑑定して貰えるぞ。

 それから来栖家さんの妖精ちゃんも、魔法アイテムの見極めとかは可能かな。ただし、こちらは甘味を要求される事があるから注意しろ」


 真顔でそう口にする土屋女史に、それって本当なのと戸惑い顔の茜である。妖精ちゃんも今回は家でお留守番、新人の3人には興味がない様子の小さな淑女である。

 それは仕方が無い、彼女的には《勇者》や《闇の君主》がどうなろうと関係無いのだ。妖精ちゃんの興味の大半は、土屋の語ったように甘味にあるのかも。


 それはともかく、残りのコンテナ箱には特に何も無く2層の探索は終了した。一応はティッシュ箱やペーパータオル、それからスポンジの入った箱は発見出来た。

 それを遼に差し出された茜は、これらも回収するのかと困り顔で大人に尋ねて来る。護人は当然だよと、茜に貸し出した魔法の鞄を思い出させる。

 恐らく彼女の元いたチームは、価値の薄い日用品はスルーしていたのだろう。


 魔法の鞄があれば、重い品や嵩張かさばるアイテムも持ち帰りが可能である。ある意味、探索者が一番欲しいアイテムがこの魔法の鞄に間違いは無いだろう。

 それこそ、探索に革命が起きる感覚を味わえる筈。





 ――願わくば今回の探索も、この鞄にいっぱいの宝物に巡り合いたいモノ。






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