第738話 山の上の新人たちでチーム編成してみる件
大型案件の県北レイドを終わらせた来栖家は、山の上の一大イベントの稲刈りも終了に漕ぎつけてホッと一息。例の新人たちも、稲刈りでは大いに戦力として働いてくれた。
いや、厳密にはそれ程には大活躍は出来てはいなかったのだけれど。みんなと一緒に働いて、汗を流せはそれだけで仲間意識も芽生えて来ると言うモノ。
そう言う意味では、休日の稲刈りも大盛り上がりのイベントではあった。そんな新人たちを
それから恒例の、お婆によるおはぎパーティも盛大に行われて子供達に大盛況だった。新入りの面々も、この甘味アタックには頬を緩ませていた。
そんな楽しい行事をこなしての、香多奈に内緒で平日に探索に行くよとの通達に。新入りの子供達は、やや緊張した面持ちながら頷きを返して来た。
同行するのは、大人では護人と土屋女史が保護者枠で参戦。それからペット枠では、レイジーと茶々丸とルルンバちゃんがついて来る事に。
茶々丸に関しては留守番していて欲しかったのだが、皆が出掛けるのを敏感に察知してついて来る破目に。それからムームーちゃんも、護人の肩に張り付いて離れず。
薔薇のマントの我が
そんな訳で、午前中から来栖家のキャンピングカーに乗って出発するメンバー達。キッズ達は緊張しているようだけど、向かうのは“配送センターダンジョン”である。
来栖家チームも過去に探索した事はあるし、護人やレイジーに関しては呑気なモノである。新入り達の緊張をほぐしながら、護人は目的地へと車を走らせる。
「新生チームのデビュー戦だからって、そんな緊張しなくていいからね、みんな。取り敢えずフォーメーションだが、前衛は
後衛をお姉ちゃんと
「了解した……新チームの初探索を頑張ってくれ、桃井姉弟。
ルルンバちゃんの後ろで、ふんぞり返っていればいいから」
「うっ、うん……それより、茶々丸は何で穂積ちゃんの姿になってるの?」
護人は仔ヤギの姿は、車内じゃ邪魔になる為の手段だよと簡潔に説明する。でないと探索に連れて行って貰えないと、茶々丸は理解しているみたいで。
我が儘を通すために覚えた処世術だが、甘々の護人も駄目とは言えずに作戦は今の所成功率がとっても高い。仔ヤギの癖に、悪知恵が働くのは末妹譲りなのかも。
それはともかく、せっかくついて来たけど茶々丸の戦う機会は今日は無さげ。穂積の姿で前衛も可能な仔ヤギだが、今回は新人ズのデビュー戦である。
制御不能な茶々丸より、今日はルルンバちゃんに前衛を任せる予定。ついでに土屋女史視点で撮影もする予定である。それで動画アップで儲けが出れば、新人ズのお小遣いにすれば良い。
今回の魔石の稼ぎも同じく、それについては全部子供達の稼ぎで決まっている。この1回の探索でD級に上がれるとは思わないが、ランクアップのポイントも稼げる筈。
そんな事を思っていると、キャンピングカーはあっという間に麓へと到着。ここから更に数分走れば、町の主要道の真横に“配送センターダンジョン”が見えて来る。
協会に確認したところ、ここの間引きも3ヶ月くらいは間が空いているとの事。それなら敵も結構いるかなと、護人は探索場所に指定した次第である。
あそこは日用品も回収出来るので、近所では割と狙い目のダンジョンには違いない。ただし出て来る敵が、ゴーレムやロックなどと硬い奴らばかりと来ている。
そのために、刃系の武器がメインのチームは敬遠すると言う流れがあるようだ。日馬桜町の自警団『白桜』もこのパターンに漏れず、従って今回の間引きは協会にも喜ばれていた。
「そんな訳で、
「わ、分かった……頑張ってみる」
「緊張しなくて良いぞ、こう見えてルルンバちゃんは歴戦の勇者だからな。後方では私達も見守ってるし、いざと言う時には素早くフォローに入るから。
ただし、罠とか待ち伏せタイプの敵には充分に注意するようにな」
そんな土屋女史の忠告に、神妙な顔で頷く子供チームの面々である。正直揃って硬い表情だけど、新チームとしての初探索なので仕方が無いとも。
バリバリ前衛でフォローする予定のルルンバちゃんも、実は心優しき前衛初心者だったり。そう言う意味では不安が無い訳ではないけど、大人も2人いるし対応は可能な筈。
護人の運転するキャンピングカーは、順調に町を進んでやがて目的地の広い駐車場へ。そこには大きな倉庫が、2つ並んで
今では廃棄されたこの施設、中は年季の入った棚が並ぶだけのがらんどうである。その建物の真ん中あたりに、まるで元から
これが“配送センターダンジョン”の入り口で、過去には来栖家チームも探索に赴いた経験がある。その時には浅層で宝の地図を拾ってしまい、そう言う意味では思い出の場所かも。
今回はそんな事は起きないだろうし、日用品がそこそこ回収出来ればしめたモノだ。新人さんチームのリーダーは茜だと決まっており、彼女には魔法の鞄を渡してある。
車から降りた面々は、そんな訳で最終確認のためにお互いの装備や消耗品のチェックを始める。この辺は、茜が年下2人の面倒を見てあげており微笑ましい限り。
ルルンバちゃんに関しては、護人が面倒を見てあげて万事怠りないねと前衛へと送り出す構え。そして穂積の姿のまま、チームに合流しようとした茶々丸をガッツリ捕獲する。
その点、今回はヒヨッ子たちの狩りの練習だと、完璧に理解しているレイジーは余裕の表情だ。場所も以前1度訪れたダンジョンだし、何も慌てる必要は無いねとの余裕振り。
ややテンパり気味の茜は、あっちを向いたりその場で足踏みしたりと忙しい。それでも護人に出発の号令を出すように促され、ようやく覚悟が決まった表情に。
弟の久遠も、そんな姉の緊張が移ったのか、痩せた頬はモロに血色が無い感じ。最年少の
とにかくあがった出発の掛け声に、素直に反応するAIロボ。今回は前衛だと護人に言い渡されているので、その動きには
それに遅れて、慌て気味に久遠少年が追従する。彼の格好だが、企業の移動販売車で買って貰ったお揃いの探索着を、まずはベース装備として着込んでおり。
その上に、ギルド貸し出しの『勝利の兜』や『軋轢のグローブ』、それから『軋轢のブーツ』などを装着して万全の構え。ついでに『金の腕輪』も付けており、防御力アップの他に筋力アップや耐性アップなど恩恵は数知れずな状態だ。
武器の方は、今回は硬い敵が多いので『魔人のフレイル』を与えてある。コイツはハッキリ言ってレア武器で、間違ってもE級ランクの探索者が持てるランクではない。
その辺は、護人も考えない訳では無かったのだけど。甘い性格は新入りのキッズ達にも波及して、結局は粗悪品を持たせるよりマシだろうとの結論に達した模様。
姫香などはその決定に懐疑的な視線だったけど、口には出さずに送り出してくれた。彼女はスパルタ寄りなので、戦力過多は
自然とツグミもメンバーから外れて、このチームで斥候役をこなすのは自然とルルンバちゃんって事に。《床マイスター》の称号を持つ彼は、床設置型の罠にはとっても敏感なのだ。
その事実を初めて聞いた土屋女史などは、便利な子だなとAIロボを再評価する構え。そんなメンバーによる“配送センターダンジョン”探索は、午前10時過ぎに開始される流れに。
まだ緊張気味の新人ズだけど、第1層に出て来る敵は大ネズミや大ゴキブリなどの雑魚ばかりである。通路もそこまで広くなくて、荷物棚が仕切りに使われてるのも変わらず。
「慌てずに、まずは出て来た敵を倒して周囲の安全を確保して行こうか。久遠、ぼうっとしてたらルルンバちゃんに全部手柄を取られちゃうぞ。
茜も隙間があれば、メイスで殴りに行って良いからね」
「そうだな、大ゴキブリなんて見た目はアレだが雑魚だからな。とは言え、油断していると指先を
久遠、盾でブロックしてる暇があったら殴り殺してしまえ」
物騒な事を口にする土屋女史だけど、言ってる事は
大ゴキなんて、地面すれすれを這っているので盾での受けなど意味が無い。そう気付いた彼は、ヤケクソ気味にフレイルを振るってのゴキ潰し。
そんな攻撃にも、しっかり彼の《勇者》スキルは補佐をしてくれているよう。ほぼ一撃で敵を粉砕して行くのは、フレイルの攻撃力もあるのだろうけど。
久遠の《勇者》スキルは、ほぼ全ての武器を自在に操る事が可能と言う優れたモノである。しかもある程度の魔法も覚えられるようで、少々チート臭すら漂って来そうな性能である。
ちなみに彼の持つ盾は、ドワーフ親方の工房から買い取ったなかなかの逸品である。魔法アイテムでこそ無いけど、軽量で受けの面積も多くて扱いやすい。
何しろ来栖家の在庫には、盾に関してはほぼ置かれてなかったので仕方が無い。護人しかチームに使い手はいないのだが、激戦で結構破損する確率が高いのだ。
とは言え、ドワーフ親方の手製の盾の出来もなかなか馬鹿にならない。『錬金術』スキル持ちの妖精ちゃんに頼んで、強化の巻物で防御力アップや耐性アップを付随して貰って、今ではもっと完璧な仕上がりである。
そんなカスタム済みの盾の使い心地は、今の所は発揮されてはいないけど見た目はしっくり来ている感も。何しろ前衛の久遠は、敵とバチバチに戦う役目なのだ。
装備に関して万全にしてあげたい親心は、ある意味仕方が無いとも。
その隣のルルンバちゃんだが、取り敢えずは無難に前衛をこなせている。使い慣れない予備の魔導ボディながら、ゴーレムの機体パワーは相変わらずである。
これまた使い慣れない両腕に関しても、片手にフレイルともう片手には両刃の剣と二刀流に挑戦中。これらの武器も、ドワーフ親方と妖精ちゃんのコラボ作品だったりする。
真面目な性格も功を奏して、今は近付く敵は全部叩き潰すを繰り返す、殺戮マシーンと化している。そう言ってしまうと血も涙もない感じだけど、本当は心優しいナイスガイなのだ。
今も新入りの子に迷惑を掛けまいようにと、割と必死な戦闘である。こうして最初の戦闘である大ネズミと大ゴキブリの群れは、ルルンバちゃんが撃墜4体、久遠が1体で終了の運びに。
「うん、最初にしてはまずまずの動きっぷりだったね、2人とも。その調子で良いよ、前衛がまず気にするのは後衛に敵を通さないようにする事だからね。
その点で言えば百点をあげられるよね、土屋女史」
「うむっ、緊張した中で頑張って偉かったぞ、確かに百点だなっ……欲を言えば、久遠はもっとビシバシ目立っていいぞ。
この新チームでエースを張るのはお前だぞ、久遠」
そんな発破を掛けられた少年は、まごまごしながらも分かったと頷きを返す。確かに以前所属していたチームとは、立場はまるで違うのだと改めて思い返した感じなのだろう。
隣のルルンバちゃんも、収納に武器を仕舞って頑張ろうねのゼスチャー。無口な仲間のパフォーマンスに、新人チーム内に
取り敢えず、ルルンバちゃんの活躍で最初の緊張は解けて来た感じ。
――後はこのメンバーで、5層の中ボスまで進めば上出来だろう。
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