第737話 秋の大収穫が終わっても平穏は訪れない件
9月ももうすぐ終わろうと言う季節の変わり目、山の上も稲刈りが終わってようやく一息付けた感じ。そしてシルバーウイークも、土日と2日を残すだけに。
来週末は10月の青空市で、同時に子供
取り敢えず、今夜の来栖家の予定は新米を
新もち米での餅つき大会は、陽菜とみっちゃんが遊びに来てから行うそうな。その前に、おはぎパーティくらいは明日の日曜日にやるかもとの事。
植松のお婆も、山の上に新しい子供が増えて気にはなっている模様である。お婆も痩せた新人ズ3人の背恰好を見て、思う所があったのかも知れない。
山の上の大人たちは、つい先日行われた稲刈りで揃ってヘトヘトになっていた。特に県北レイドから、今週休みなしの来栖家などちょっと気の毒かも。
それでも子供たちは、飽きることなく徒党を組んでその辺を駆け回っている。その中には遼もいて、護衛にとついて来てくれるコロ助や茶々丸を見て楽しそう。
そんな子供たちの現在の最大の楽しみは、切り抜かれた田んぼをひたすら駆け回る遊びである。その内に香多奈が、お正月に使った
そして疲れたら、植松の爺と作った天日干しの
お昼は紗良にお弁当を作って貰って、全員で田んぼに
子供たちの秘密基地は、こんな調子で増殖して行くのだった。
一方の来栖邸の面々だが、護人はひたすら疲れ果てていた。そんな訳で、子供たちに夕方まで何もせずに休んでいるよう通達されている始末。
夕方からは、お客さんが続々と来栖邸に集まって来るので、そんな事も言っていられない。今夜は新米パーティで、紗良や美登利は台所で準備に追われている所。
お昼過ぎには植松の爺婆が訪れて、パーティの手伝いを始めてくれている。その内に凛香チームの子供たちも、お手伝いにお惣菜を持って訪れる予定だ。
姫香はと言えば、随分大きくなった例の卵を抱えてリビングで
確かに鶏小屋で回収した時も、大きいなと思った卵は良い感じに変色していた。耳を近付けた姫香は、中で動き回ってる音がするよと楽しそう。
護人もソファにぐったり腰掛けながら、姫香の話し相手をしたりミケに癒されたり。ムームーちゃんは、今は香多奈に抱えられて外の世界を満喫中。
その代わり、ルルンバちゃんがお掃除ロボット形態でリビングを走り回っている。もう少ししたら、ドローン形態に切り替えてリビングのセットを手伝ってくれる事だろう。
その辺の万能振りは、既にメイドロボと呼んでも差し支えないかも。最近は『念動』のアームを、かなり便利に
「そう言えば、ルルンバちゃんの魔導ボディの修理がそろそろ終わった頃かも? 時間を作って、親方の工房に取りに行かなきゃね、護人さん。
それから、インゴット系がかなり県北レイドで回収出来ちゃったし。お土産に持って行けば、親方も喜んでくれるかも」
「そうだな、受け取りだけならチームで行かなくても平気だろうけど。香多奈が聞いたら、ついて行くって言い出して収拾がつかないだろうな。
ああっ、そう言えば新入りたちの探索デビューも近々見てやらなきゃだな。やれやれ、稲刈りが終わってもちっとも気が休まらないなぁ」
そうだねぇと呑気な返事の姫香は、半分以上は卵から産まれる生き物に意識を奪われていた。鳥型の
名前も色々考えており、これで末妹の○○ちゃん地獄からオサラバである。もっとも、妖精ちゃんは自分の呼び名を気に入っている節があるけど。
ルルンバちゃんやムームーちゃんに至っては、もう少し
それを聞いた姫香は、テンションが上がってご機嫌な表情に。
出来れば末妹が遊びから戻って来るまでに、殻を破って出て来て欲しいモノだけど。ここからが長いのも分かっているので、とにかく待ちの姿勢を保つしかない。
リビングで寛ぎながら、一部で盛り上がりを見せる2人だった。
そして夕方過ぎの来栖邸は、いつものように大勢の来客を吸い込んで相当な盛り上がり。そして出て来るご飯は、全て炊き立ての新米である。
今夜ばかりは、夕食の主役はワイバーンのステーキでも、ホッコリ
炊き立ての新米そのもので、それは盛大な拍手によって配膳されて行く事に。子供も大人も大喜びで、運ばれて来たお茶碗で乾杯の合図。
もっとも、それ一膳を食べ終わって、お酒やビールにチェンジする面々も数名ほど。ただし大半のメンバーは、ご飯をお代わりして盛り上がっている。
「えっと、それで……この子が来栖家の、新メンバーって認識でいいのかな? フワモコで可愛いけど、一応は猛禽類の扱いなのかなぁ。
「グリフォンの子供だニャ、なかなか可愛いニャ! 自然界じゃ滅多に見掛けないし、国に売れば結構な値段で買ってくれるニャ。
そんで、軍隊の飛行部隊用に育てられるんだニャ!」
「へえっ、異世界だとそんな事情なんだ……ひょっとして、ワイバーン部隊とかも軍隊にはいるの?」
強い国は軒並み持ってるニャと、ザジは当然のように返答する。ウチらの所属国は、そこまで強くなかったから無かったなぁとムッターシャの追随。
この2人は、既に酒を手にして摘まみのお肉を猛烈にパクついている。
それに負けない食欲のキッズ達、新米を口に放り込みながら美味しいねを連呼している。それから自分達が天日干ししたお米は、もっと美味しいのかなぁと夢見心地。
お喋りの方も
それを和香や穂積が慰めながら、もうすぐ10月の青空市だねと話題を変える。それを聞いた末妹は、来週には陽菜ちゃんやみっちゃんが遊びに来るよと、他の子供たちに報告を返す。
怜央奈は遅れて合流するそうだけど、また月の初めに1週間くらい泊まり込んで訓練や探索に参加するそう。10月には小学校の運動会もあるし、小学生も大忙しだ。
ブラスバンドの練習も、2学期から本格的に始めていてそのお披露目が運動会である。和香や穂積も、与えられた楽器を熱心に練習していて大変そう。
残念ながら、熊爺家の双子や遼は参加出来ないけど、山の上のメンバーは総出で見に来てくれる予定との事。秋はイベントが多いねぇと、子供たちは総じて楽しげ。
そんな会話をしながら、膝の上に萌やムームーちゃんを乗せてその肌触りを楽しむ子供たちである。一緒の席にされた桃井姉弟は、そのお喋りに圧倒され気味かも。
それでも食欲は負けておらず、遼と一緒に元気にお代わりをしている。新人ズも、慣れないながらも稲刈りイベントでは精一杯頑張ってくれた。
つまりそれは、正当な報酬に他ならず。
大人たちの会話は、もう少し仕事寄りで家畜や農業の話題が多めだった。例えば、来年の牧草の植え付けはどうしようとか、そろそろ獣医の孝明先生を呼ぼうとか。
季節の変わり目には、ペットや家畜たちの診断をして貰わないと。高齢の先生だが、それに負けず出張診察してくれるのは本当に有り難い。
それから10月の青空市と、一緒にやる予定の子供
何しろ一緒に行う青空市のせいで、実行委員の人手はそちらに割かれてしまう。最後には集客と収穫の喜びのお裾分けの意味を込めて、お餅の無料配布も予定しているのだ。
それから10月は小学校の運動会もあるし、そろそろ新人チームも探索デビューさせてあげたい。色々とイベントが重なって、何だかグリフォンの子供が産まれた驚きは
この子は本当に刷り込みが成功したのか、やたらと姫香に
姫香はひたすら嬉しそうで、名前を付けた事も含めてしてやったりの表情。そんな彼女も、とうとうお代わりは3杯目へと突入してしまった。
食べ盛りの隼人や慎吾や譲司など、凛香ファミリーの面々も同じ速度で茶碗を空にして行く。賑やかな宴会の雰囲気は、そんな感じで当分の間は続きそう。
或いはそれも、食欲増進の調味料なのかも――。
明けて翌日、シルバーウイークもこの日曜日でいよいよ終了である。その日は、お昼辺りからようやく体調を持ち直した護人が、ルルンバちゃんの魔導ボディを引き取りに行くと家族に告げる。
つまりは異界の隠れ里に向かうのだが、別に家族チームで行く必要も無い。そんな訳で参加自由と口にしたのだが、結局は全員がついて行く事に。
ペット達ももちろん全員探索着を着せて貰って、物凄い張り切りよう。ついでに異世界チームも、所要をこなすからと同伴を申し出て来た。
異界が故郷の彼らは、向こうで無いと入手が難しい物資も幾つかある模様。そんな訳で、大戦力で徒党を組んで“鼠ダンジョン”の3層から恒例の異界渡りへ。
どうせなら、みんな誘えば良かったのにとの末妹の言葉はマルっと無視である。隠れ里は隠されているから、その重要性が高いのである。
皆が知る秘密は、公然の一般常識に他ならないとも。
お世話になっているドワーフ親方の工房のお土産だが、とにかく県北レイドではインゴット類がたくさん手に入った。中でも『ミスリルインゴット』『氷鉱石のインゴット』『ヒヒイロカネインゴット』などは親方も喜びそう。
他にも素材系では、『雪竜の鱗』『雪竜の爪』『雪竜の牙』『ヒバゴンの毛皮』などが入手出来た。それに加えて、単なるお土産に鬼のお酒やワイバーン肉、野菜類や錬金レシピ書の写しなどを持参する事に。
そして今回は、生まれたばかりのグリフォンのヒバリも、紗良の作ってくれた移動用のショルダーバッグの巣に入れて同行する事に。本人は、姫香に鞄ごと抱えられて、外の世界の景色を好奇心いっぱいの瞳で眺めている。
それは隠れ里に到着しても同様で、そこの住民たちや集落の様子を眺めてとっても楽しそう。住民たちも、好奇の目でグリフォンの子供を見遣るも、変に詮索する者もおらず。
そこから集落の端っこの工房へと移動して、挨拶からの荷物の受け渡しを行う。お土産類のせいで熱烈な歓迎を受けるのもいつもの事、そして新人のヒバリのお披露目も終わらせて。
肝心の目的のルルンバちゃんの魔導ボディだが、残念ながら修理はまだ終わってないとの事。腕パーツの取り付けとボディの穴は塞ぎ終わったモノの、本体の回路修復とレーザー砲の修繕がまだ掛かるらしい。
それは仕方無いと残念そうな面々だが、持ち込んだインゴット類のお陰で仕上がりは良くなるかもとの返事を貰った。それを聞いて、新生ルルンバちゃんを待つよと子供たちは超ポジティブ。
そこからはレア種の素材で何を作ろうかなどの話や、世間話でまったりとした時間を過ごす一行。戦力過多の来栖家チームは、素材の使い道も良いアイデアは出ず仕舞い。
そんな中、親方が一緒に話をしていたムッターシャに対して気になる一言を呟いた。最近どうやら、怪しい冒険団チームをこの集落で見掛けたらしい。
それは異世界チームとも因縁浅からぬ、同郷の高ランク冒険者との事。
――それを聞いたムッターシャの、眉間がキュッと細まった。
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