第736話 今年も家族総出とお隣さんで稲刈りが行われる件



 さて、来栖家チームが県北レイドから戻って来て2日後の休日。シルバーウイークと言うより、この辺りでは稲刈り休みが適用されてこの週は派手に連休である。

 それを有り難く利用して、来栖家は家族総出での稲刈りデーである。それには、当然のように山の上のお隣りさん達も揃って参加を決め込むとの事。


 それから麓からは、植松の爺婆にいつものお手伝いの辻堂夫婦、それから林田の美玖も今年も参加してくれるそう。今年は牛の冬用の牧草も一緒に収穫するのでかなり大変。

 それ用の機械を熊爺家から借りて、護人はそちらにかかりきりになる予定である。田んぼの稲刈りに関しては、今日は植松の爺と隼人を中心にやって貰うつもり。


 ちなみに、護人のサポートには姫香とゼミ生の学生さんが行う予定である。ルルンバちゃんにはコンバイン操縦を頼んで、隼人と一緒に主戦力に。

 この山の上の農作業に関しては、隼人は今や主戦力となっている。辻堂夫婦とも連携を密にして、今や護人の片腕と言っても良い働きぶり。


 来栖家が最近、異世界チームなどと一緒にレイド遠征へ出掛けるので、その間の留守には本当に頼りになる。まさかこんな頼もしい存在になるとは、入居当時には思ってもいなかった。

 植松の爺婆も、この青年には絶大な信頼を置いているみたいで何より。凛香チームの良きお兄ちゃんは、農業の知識もこの数か月で随分と増えている様子。


「さて、今日はキッズ達もたくさんお手伝いしてくれるみたいだけど。どんな手順ですればいい、護人の旦那? 今回も、コンバインは2台でフル稼働なんだろ?」

「ああ、1台は隼人が乗って、もう1台はルルンバちゃんが操作してくれる。それからキッズ達は、爺が手作業でのカマ刈りを指揮してくれるそうだよ」


 小さい田んぼと、それから前もって刈った外周側の稲は天日で自然乾燥させるそうな。昔のやり方だけど、お米だって機械で乾燥させるより天日乾燥の方が美味しくなるに決まっている。

 手間はかかるけど、子供のお手伝いとしてはこのやり方は楽しいかも。カマを操るのも、意外と手前引きの刈り込み作業は怪我をしないのだ。


 これは昔からカマを扱ってる者なら、ある程度の常識である。植松の爺や星羅や土屋女史が、キッズ達の面倒を見る役になっているので心配もいらない筈。

 ちなみに林田の美玖も、こっちでカマ刈り作業に参加するそうな。


 そんな仕事の振り分けも適当に、朝の9時ごろから来栖家の稲刈りは開始された。ちなみに、紗良や美登利はみんなのお昼の準備をしたり、その他のサポートに走り回ったり。

 妖精ちゃんに至っては、縁側に置いた卵の上に陣取って温める役目を担っている。良く分からないが、自分もしっかり働いているアピールなのかも知れない。



 そんな中始まる稲刈りだが、隼人のコンバインは凛香チームが、ルルンバちゃんの方はムッターシャやザジかサポートする体制に。具体的には、米袋の交換や搬送など雑用係である。

 辻堂夫婦は、色んな場所でサポートしながら引っ切り無しに乾燥機を回す役割。なるべくスムーズに全ての作業が終わるよう、計画は万全である。


 ルルンバちゃんのコンバインは、去年も操作しただけあって戸惑いは無し。その点、やっぱり去年も操作したけど、1年振りの隼人は思い出すのに一苦労。

 そんな訳で、最初は護人がついての操縦指導が入ったモノの。それ以降は、隼人もすっかり勘を取り戻して順調にコンバインの操作を続けてくれた。


 午後になる頃には、黄金で埋め尽くされた田んぼの稲穂は順調に刈られていて良い感じ。1時間もすれば、乾燥機も回り始めて順調に作業は進んで行く。

 植松の爺による天日干しの田んぼ隊も、子供たちが中心で元気に稲を手刈りして稲束を作って行く。ある程度刈り取って田んぼに空きが出来たら、大人を中心に稲架はざ掛け用の馬を作り始める。


 これに稲束を逆さに吊るして、約3週間ほど天日干しする訳だ。この方法だと、機械で乾燥させるよりお米は美味しくなるし、わらが取れるので昔の手仕事にも使える。

 子供たちにそう言う芸当を教えるのも面白いねと、植松の爺は土屋女史や小島博士と話し合ってとっても楽しげ。例えば草鞋わらじを作ったり、わら縄を編んでみたり。


 他にも農作業や家畜の寝藁ねわらに使ったりと、意外と便利だし情緒のある天日干しである。現在は子供たちによる集団戦で、どんどんと稲束が作られて干されて行っている。

 香多奈や美玖はともかく、和香と穂積もなかなかの手際で既に農作業に慣れた田舎の子の風格だ。その点、桃井姉弟や遼はまだまだ染まっていない感じで、へっぴり腰が目立つかも。


 それでもお昼を迎える頃には、見事に田んぼ一枚が子供たちの手作業で刈り取られていた。稲架はざ掛けも綺麗に出来上がっていて、後はスズメけの仕掛けを備えるだけ。

 隼人とルルンバちゃんのコンバイン部隊も、順調に稲刈りを進めてくれていた。田んぼの半分近くが収穫を終えていて、この調子なら夕方を前に終えられそう。


 ただし、護人の牧草刈りに関しては、最初からそこそこ苦戦してしまっていた。何しろ初めて使う機械が多く、刈り取り機くらいしか馴染みがない。

 牛が冬に食べる飼い葉は、サイロなどに放り込んで密封して発酵させる必要がある。来栖介にはサイロなど、そんな洒落たモノは存在しないので、別の方法で密封させる必要がある。


 それが可能となる、刈り取った牧草をロール状にラッピングする機械もあるのだが、その使い方が良く分からない。熊爺家からも、機械の貸し出しと一緒に応援隊が来ているけど、一緒に四苦八苦する始末である。

 機械を持っているからと言って、別に専門家でも無いと言う良い証明である。とにかく何度か失敗しながら、ロール状の俵が来栖家の厩舎横の倉庫に仕舞われて行く。


 ちなみに、ラッピングしなければ発酵もしないので、それは食用で無く寝わらなどに使用される。家畜を飼うと言うのは、なかなかに膨大な手間が掛かるのだ。

 来栖家もそのお隣さんも、それを楽しみながらこなしているのはとても良い点だ。その恩恵のしぼりたての牛乳は、子供たちも称賛の美味しさである。


 それこそ普段の家畜の世話をいとわわない程で、そもそもみんなでやれば朝や夕方のお世話も10分程度で終わってしまうのだ。春や夏の間は、放牧しておけば勝手に周囲の草を食べてくれて、食事のお世話の必要も無いのだし。

 来栖家で飼育されている牛はほんの数頭で、お世話もそれほど大変でもない。熊爺に売って貰った縁で、今もこうやって機械などの貸し出しでお世話になって、絆も強く残っている。


 春先に生まれた2匹の子牛も、今では随分と大きくなって嬉しい限り。ただし、今後ウチで飼い続けるか、売ってお金にするか悩ましい所である。

 香多奈などは、絶対に売っちゃダメと完全に情が移ってるみたいだけど。季節になれば子牛はまた産まれるし、それら全てをお世話し続ける能力は来栖家には無い。


 まかり間違って、仔ヤギの茶々丸みたいにダンジョン探索について来るようになったら目も当てられない。護人はたまに、うっかり牛やヤギと一緒にダンジョンに潜る夢を見てしまうのだ。

 困った事である、しかも夢の中の牛はやたら強いし。


 ちなみにお試しで作った牧草だけど、今後も作って行くかは未定である。本格的にするなら、機械を揃えたり倉庫を拡張したりと先行投資は相当必要だ。

 ただし、外から飼い葉を買うよりは、長い目で見たら随分と安くなるのは当然である。その辺も、家畜の数を含めて家族で話し合って行く必要がある。


 牧草は上手くやれば、年に何度か収穫が可能らしい。それを思えば、今年のお試しはたった1度で本格的と言うには物足りない限りである。

 それでも来栖家の家畜が冬を越すには、充分な量の牧草を一応は収穫する事が出来そう。それもこれも、午後も何とかこのロール作業が上手く行けばの話ではあるけど。

 サポート役の姫香も、これにはお手上げ状態だったり。




 お昼は賑やかに、野外の中庭に一緒に集まってお握りを摘む形式となった。何しろ田んぼ作業で、ほぼ全員が泥んこである。いや、田植えと違って今の時期は、田んぼは水抜きされてはいるのだけれど。

 やっぱり多少の泥やくっ付き草の被害は全員あって、それを家へと持ち込ませない紗良の策略である。何故か茶々丸やコロ助も泥まみれで、一体何をして遊んでいたのやら。


 その点、レイジーやツグミや萌は超キレイで、作業中もあぜ道で護衛業に励んでくれていた。さすが来栖家の護衛犬である、家族行事中でも万全の配慮に抜かりは無し。

 そんなレイジーも、子供たちのお肉のお裾分けには抜かりなく並んでいる。食欲に関しては、コロ助と同類なのは致し方のない所だろうか。


 そんな騒がしい昼食も終わって、午後の作業へと取り掛かって行く山の上の面々である。黄金の収穫品は、或いはダンジョンの回収品に勝るのかも知れない。

 みんな元気に働いて、田んぼの稲刈り攻略に全力投球と言った感じ。


 午後からは、護人の牧草チームも何とか軌道に乗って、順調にロール機も稼働し始めてくれた。コンバイン機の2台も、お互い競り合うように田んぼを切り抜いて行く。

 サポートの動きも午後は慣れて来たようで、米袋の回収から乾燥機に掛けるまでの流れ作業は何ともスムーズ。お陰で夕方前には、全ての作業が終了してしまった。


 子供たちに褒められて有頂天なルルンバちゃんは、今はお掃除ロボモードで和香に抱きかかえられている状態。子供たちの会心の稲架はざ掛けの馬も、夕日を浴びてとっても情緒的には違いない。

 それからは、みんなよく頑張ったねと宴会モード……の前に、露天風呂で男女に別れて疲れを洗い流す作業。今日は残念ながら新米は出ないけど、夕食の準備は紗良や美登利や植松のお婆の手によってバッチリだ。


 ちなみに、新米パーティやお餅つきパーティは、週末に盛大に行われる予定である。今回は、県北レイドで獲得したワイバーン肉やロック鳥の鳥肉、それから天狗や鬼のお酒を振る舞う予定。

 他にも、季節外れのタケノコも全部調理して、今夜の大宴会のテーブルを華やかにしている。ダンジョン産の素材が多めだが、周囲も探索者ばかりなのでまぁ平気。



 そうやって始まった夕方の大宴会は、来栖邸のリビングとキッチンを開放して強引に全員を詰め込んで行われた。賑やか過ぎるし酔っ払いは出現するしで、大変だったのはさて置いて。

 取り敢えず、酔っぱらった面々を無事に家へと送り届けるまでは来栖家のメンバーで完了させて。秋の一大イベントは、何とか終了の運びに。


 ついでに、先日のスキル書とオーブ珠の相性チェックの報告なのだけど。何と今回は2名が新スキルを所有に至って、家族で驚きの声をあげる事となった。

 まずはオーブ珠からの所有はレイジーで、覚えたスキルは《咆哮》と言う名前。コロ助も持っているスキルだが、微妙に効果は違うみたいである。


 そもそもコロ助のはスキル書から覚えた奴で、レイジーの新スキルはオーブ珠からである。特訓で使ってみた感じでは、周囲の仲間のステータスを上昇させるバフ効果がある模様。

 もちろん敵の挑発にも使えるみたいで、なかなか使い勝手の良さげなスキルを覚えてくれた。さすがリーダー犬、ペット勢を束ねる立場だけはある。


 それから2つ目のスキルは、茶々丸が覚えて名前は『岩獄』と言うらしい。土系のその魔法スキルだが、敵を岩の触手でロックする効果があるみたい。

 これは得意の『突進』を避けられるのが嫌で、覚えた感じがしないでもない。茶々丸らしいとも思うけど、それを有効に使いこなせるかは今の所は未定である。


 1度に2匹も新スキルを取得とは、さすがA級ダンジョンを2つもハシゴしただけはある。苦労した甲斐はあった、ついでにレア種から宝珠までゲット出来たし。

 ちなみにその宝珠《氷砕》だが、大宴会の後始末で管理や諸々を油断していたら。案の定、妖精ちゃんにガメられて、すっかり部下扱いのムームーちゃんに使われてしまった。

 そんな訳で、スキルを覚えたのは県北レイド後で合計3匹と言う結果に。





 ――秋も深まる中、パワーアップを遂げる来栖家チームの面々である。






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