第735話 県北レイドから無事戻って残りの休暇を過ごす件



 丸々4日間の県北レイドの旅程を終えて、戻って来た来栖家の面々は次の日はさすがに丸1日休みを取る事に。稲刈りに関しては、1日休んだ次の日に行う予定。

 さすがの遠征参加の帰りで、家族全員がぐったりしているかと思ったら。異世界チームの面々は、存分に暴れてとっても満足そうと言う。


 ムッターシャやザジは朝から元気で、護人や土屋や星羅とは体の造りが違うのかと思う程。その点で言えば、最年少のレイド参加者の香多奈も超元気。

 今週いっぱいは、学校の計らいで1週間連続休みなのはそれなりに理由がある。この時期に地元の農家たちが、一斉に稲刈りをするのでそのための長期休暇となっているのだ。


 “大変動”前にはこんなシステムは無かったのだが、今は食糧事情がとっても大事。そのために取られた優遇措置と言うか、1週間のシルバーウイークの出来上がりとなった訳である。

 それを満喫するぞと意気込む末妹は、遠征の疲労なんかでへこたれてはいられない。いつも通りに早朝の家畜の世話を終わらせて、朝食を食べたらお隣さんの子供たちと遊びの算段を取り付ける。


 その予定も常識派の和香が、新入りの遼のお世話をしながら上手く手綱を握ってくれて。最初は、頑張ったズブガジとルルンバちゃんを洗ってあげようと提案する。

 それからハスキー達も露天風呂で洗ってあげて、その後お風呂掃除をすれば良いと。それは良いねとの賛同を得て、桃井姉弟も誘ってのお掃除大会が始まった。

 この辺は、お手伝いもみんなですれば遊びに変わる子供の能力。


「は~い、かゆいところは無いですかぁ? ズブガジちゃん、ちょっとしゃがんで頂戴なっ。上の方にブラシが届かないよっ!」

「やっぱり泥汚れがひどいねっ、“帝釈峡たいしゃくきょうダンジョン”は水溜まりが多かったからかな? ルルンバちゃんは綺麗好きだもんね、洗って貰って嬉しいって」

「良かった、いまピカピカにしてあげるからねっ!」


 和香は意外と笑いのセンスもある様子で、各所で笑いを取りながら2台の魔導ボディの洗浄の指示を出す。露天風呂の前のスペースは、そんな感じで簡易洗浄場に。

 ハスキー達も何かしてると集まって来て、次はアンタ達だよと言われてやや怖気付いている感じ。コロ助などは、これは敵わないとさっさと逃げ出す始末。


 もう涼しくなって来たから、風邪を引かないように温泉のお湯を使うからねと、和香の計画はペット達にも優しい。桃井姉弟も汗を流しながら、一緒にブラシを扱っている。

 一番年長の茜だが、この集団のノリにはまだ慣れていない様子。特にハスキー達を洗うと聞いて、噛まれないかなとちょっと怖がっている感じ。


 久遠も似たようなモノで、ただし体を動かすのは嫌いでは無いみたい。来栖家の遠征レイドの動画も、後で一緒に観ようとの誘いにも興味を示している。

 子供達で遊ぶと言う行為には、抵抗なく参加出来ているみたいでまずまずな感触が。それを一番上手に出来ているのが、新入り最年少の遼だろうか。


 彼はハスキー達ともすぐに仲良くなって、毎朝の姫香のマラソンにも積極的に参加している。それはひとえに、ハスキー達も一緒に駆けっこ運動が楽しいからに他ならない。

 そのお陰で仲良くなったレイジーやツグミを、香多奈の指導を受けながら洗って行く遼である。その姿はとっても楽しそう、自分が少々濡れても全く気にしないポジティブ振り。


 ついでに茶々丸も洗ってあげて、仔ヤギも満更でもない様子。気持ち良さそうに子供たちに身を委ねる茶々丸は、恐らく日本一強いヤギには違いない。

 その頃にはようやくコロ助も捕獲されて、姫香によって連行されて来た。さすがのコロ助も、『身体強化』を駆使して追い掛けて来る少女には敵わなかったようだ。


 ついでに暇をしていた姫香も、愛犬の入浴のお手伝いに参加する。これには、末妹に諸々の用件を言い渡されていた桃井姉弟も、思わずホッとした顔付きに。

 何しろ香多奈の言動はたまに突飛になるので、それを実行して良いのか判断に迷うのだ。後で大人に大目玉を喰らうのは、茜や久遠からすれば回避したい流れ。


「はいっ、ブルブル来たっ……ツグミもコロ助も容赦ないねっ、風邪ひかないようによく拭いてあげて、みんな。それが終わったら、露天風呂の掃除だよっ。

 そんで夕方の訓練終わったら、みんなでいつものようにお風呂に入るからね」

「露天風呂の欠点は、やっぱり秋の落ち葉が浴槽まで入って来ちゃう事かなぁ。山に近いから、結構な量が容赦なく降って来るんだよね」

「秋は仕方無いよね……春は桜の花びらが舞って、凄く綺麗なんだけどねぇ」


 露天風呂の近くに桜の木や紅葉もみじを植えて、景観は良くなったけど落ち葉問題は解決せず。お陰で毎日の掃除は、割と大変で子供たちの良いお小遣い稼ぎになっている。

 これらはキッチリと、毎週末に1回100円で清算されるシステムである。つまり頑張れば500円以上稼げると、近所の子供たちも熱を入れて参加している次第。


 新人ズの3人も、このお小遣い制度にはバッチリまって楽しんでいる様子。ご近所さんとも段々と慣れて来て、良い感じに過ごせているようだ。

 何より精神的に安定して来たのが、その表情から分かるようになって来た。今も笑顔で浴槽のお掃除に取り組んでいて、ここに来た時の暗い印象はもう無い。


 後はたくさんご飯を食べて、お肉をつけて貰うだけ。血色は随分と良くなって来ているので、それも遠くない未来に達成は出来そうである。

 何しろ周囲には、割とお節介な大人や子供集団がわんさか生活しているのだ。凛香チームですら、かつての自分達を反映しているのか新人ズにはとっても親切だ。


 小島ゼミの先生たちは、素直に生徒が増えた事に盛り上がっている。新人たちの学力を見極めて、来栖家の香多奈に追いつかせるのが目的なのだそう。

 取り敢えずはその程度まであげさえすれば、小学校に入学しても学校の授業について行けるって算段である。食べて行くだけで精いっぱいの新人ズは、総じて学力は低かったよう。


 異世界チームの面々は、ギルドが新入りの子供を増やすのに特に反対はなさそう。夕方の訓練では等しくしごいてくれるし、その点はとっても公平である。

 もともと最近の異世界チームは、あちこちで暴れ回ってとっても満足そう。子供たちも、後でザジ師匠に県北レイドの動画を見せて貰おうねと盛り上がっている。

 そんな騒がしい、午前中の来栖家の敷地内であった。




 一方の来栖邸の建物内で、県北レイドの疲れをいやしている面々である。とは言え、紗良は真面目に魔法アイテムのチェックを妖精ちゃんと終えた所。

 魔石も向こうで換金したのに、後半の“帝釈峡ダンジョン”でまた溜まってしまった。こちらの換金と県北レイドの報告に、今日中に協会に出掛ける予定。


 何しろ明日は、家族総出での稲刈りが待っているのだ。動画の編集依頼を含めて、今日中に終わらせられる仕事は今日中にやり切っておきたい。

 そんな訳で、午後からは護人と姫香が協会へと向かう流れに。比較的に元気な人選なのだが、護人に限っては義務感の方が強い気もする。



【トンボのペンダント】装備効果:風耐性&物理耐性up・小

【蛙のネックレス】装備効果:水耐性&魔力up・小

【天狗の高下駄】装備効果:浮遊効果&風耐性&能力値up・大

【迅雷の独鈷】装備効果:雷撃&魔法攻撃up&魔力回復・特大

【天狗の団扇】装備効果:招風&物理耐性up&全耐性up・大

【天狗の錫杖】装備効果:魔力up&魔法攻撃up&物理耐性up・中

【水蛇のイヤリング】装備効果:水耐性&ステup・中

【海賊船の秘蔵酒】使用効果:幻の秘蔵酒・秘薬素材

【海賊の鉤爪】装備効果:不折&貫通&破壊・大

【魔玉弾丸製造機】使用効果:属性石・魔玉・魔石から弾丸を製造・永続

【海賊王のベスト】装備効果:水耐性&筋力&耐性up・大


その他:『強化の巻物』(水耐性)×2、『強化の巻物』(攻撃)×2、『強化の巻物』(防御)×2、『魔法の鞄』(空間収納)×1、『ガマの油』(秘薬素材)×800m、『鑑定プレート』(薬品)×1、『天狗のお面』(激怒&ステup付与)×1、『裂帛の木の実』(薬品素材)×12、『清浄の木の実』(薬品素材)×18、『錬金レシピ書』(造船)×1、『ダイヤの指輪』 (防御&魔法防御up) ×1、『サファイアの指輪』(魔力&耐性up)×1、




 そして紗良と妖精ちゃんによる、魔法アイテムの鑑定結果がこんな感じ。12層+レア種2匹を討伐したにしては、少ない気もするが実はそんな事もない。

 紗良のメモは、何度も回収した事のある魔法アイテムは全て“その他”で羅列書きなのだ。その中には『魔法の鞄』や『鑑定プレート』など、売れば百万超えの品が存在する。


 アクセサリー類や秘薬素材、それから錬金のレピシ書も同様に価値は高い。もっとも“造船”のレピシ書をどう活用するかと聞かれても、全くピンと来ないけど。

 これらは紗良とリリアラが共有して、研究するので恐らく売る事は無いだろう。その他の品は、売るかギルド財産にするかのどちらでも良い感じ。


 その他の品に関しては、やはり天狗と海賊船のドロップした魔法アイテムが凄そう。特に『迅雷の独鈷どっこ』と『魔玉弾丸製造機』はさすがレア種のドロップ品だ。

 それ程のレアなアイテム達を、誰が使うかは考え所である。ちなみに『魔玉弾丸製造機』の方は、魔銃の弾丸の製造機でより精錬された強化弾を作り出せるみたい。


 “比婆山ダンジョン”の回収品を含めて、分配や管理が大変になりそう。特にマント系とか宝珠もあったし、スキル書の相性チェックもまだ行っていないのだ。

 協会の報告も大変だけど、夜の分配やその他一連の作業も盛り上がりそうな雰囲気。そんな事を姫香と話し合いながら、護人の運転するランクルは協会の駐車場へ到着した。


「あら、いらっしゃい……レイド遠征後なのに、お疲れの所ありがとうございます。レイド報告と魔石の換金作業と、それから動画編集の依頼でよろしかったですか?」

「こんにちは、能見さんっ……こっちはバッチリ、2つのA級ダンジョンの間引きに励んで来たよっ! さすがにハードだったよね、その分の儲けは確実に上がったけど。

 今日も換金額、半端なく行くと思うけどよろしくねっ!」


 それを聞いて、思い切り顔を引きらせている江川は正直者には違いない。そんな彼も、随分と日馬桜町の協会支部に随分と馴染んで来た。

 護人から魔石の入った袋を受け取って、裏へと引っ込んで行く江川と入れ違いに仁志支部長が登場。こちらも笑顔で、レイド遠征を見事に果たした来栖家チームをねぎらってくれる。


 一方の姫香と能見さんは、いつものように建物の隅のブースでの動画の視聴会を始める。こちらは8時間以上のデータを2本分なので、普通に観たら大変な事に。

 それを何とか2時間程度でチェックしようと、姫香は要所の確認に忙しそう。そんな2人を尻目に、護人と仁志は呑気に近況報告を交わし合っている。


 近況報告に関しては、特に大きな事案は無し。唯一、近場で言えば宮島から渡れるようになった“太古のダンジョン”が、最近少し騒がしいとの話であった。

 どうやら失踪したチームが出て、その捜索チームを依頼する騒ぎになっているそうだ。同じ廿日市市はつかいちし内の出来事なので、耳に入れておいた方が良いと仁志は判断したらしい。


 そんな話をしていると、江川がにこやかな笑顔でトレイを手に戻って来た。その上に現金は乗っておらず、案の定の金庫のお金では足りないとの言葉である。

 振り込みで構いませんと、護人は一応今回の成果を聞いて見ると。ポーション売りと依頼金を含めて、安定の5百万超えコースだとの報告である。

 それには、隣の仁志支部長も苦笑いするしかないと言う。





 ――そして、その夜のスキル書の相性チェックでは更なる波乱が。







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