第732話 最悪にも2度目のレア種を引き当ててしまう件



 護人としては、11層の激闘を受けてこれ以上進むのはかなり尻込みしてしまった。ところが子供たちは、時間もまだ2時間近くあると言う事で、もう少しだけ進もうと前向き発言。

 この辺の遣り取りはいつもの事で、ハスキー達ペット勢もどちらかと言えばまだ元気をアピールして来る。そんな訳で、用心しながら12層に向かう流れに。


 充分に魔力の回復時間は取ったけど、さっきみたいな途切れない大集団に遭遇したらどうなる事やら。その時はまたミケさんに頼むよと、末妹は至って呑気な物言い。

 当の家猫ミケも、任せておけとミャアと返事をしてくれた。紗良の肩の上の定位置へと戻って、限界まで進めと子供にはスパルタなお婆ちゃん猫である。


「それじゃあ、一応は次に進むけどみんな慎重にな。探索で幾らお金を儲けても、命あっての物種なんだから」

「了解っ……ハスキー達も、ここはもう深層なんだからねっ。いつもみたいに、本隊を離れ過ぎないようにしなきゃ駄目だよっ」


 ハスキー軍団は承知したよと、尻尾をブンブン振って返事をして来る。茶々丸については、萌に託すしか手が無いのでアレだけど。

 とにかく気を引き締め直して、12層へといざ進む来栖家チームの面々。そこはやっぱり上流の水深の浅い川べりで、ごつごつした岩が転がって移動は大変そう。


 相変わらず周囲の木々は紅葉に彩られており、見渡せば少し離れた場所に遊歩道が。そして一行が出たすぐ後ろには、例の岩のトンネルが。

 今は11層とのゲートとなっているので、敵が出て来る気配はないとは言え。やっぱり先ほどの記憶がある一行は、そそくさとその場を離れて行く。


 それからすぐに、呆気無く目的の集落を発見に至った。今回もリザードマンの砦のようだが、体格がやたらと良いのが混ざっている。3メートル級の兵士は、装備からしていかにも強そう。

 とは言え、兵士の数はいつも通りで問題はなさげではある。それを見て安心した姫香は、行っておいでとハスキー達に突撃命令を下す。

 それから自分も一緒に、砦落としに参加する意向を示す。


 リザードマンも3メートル級となれば、尻尾の一撃も洒落にならない威力を発揮する。オマケにトカゲ騎乗兵や大蛙騎乗兵も、わんさか出張って来て大変な有り様。

 砦に取り付く前の戦闘の方が、そんな訳である意味大変だった。その代わり、やぐらからの弓兵の援護はほんの少しで、ド突き合いで勝敗が決するシンプルな構図に。


 それには茶々萌コンビも張り切って、自分達より大きな連中に真っ向から対峙して戦果をあげていた。まぁ、その集団に一番効果があったのは、紗良とルルンバちゃんの氷魔法だったけど。

 とにかく前衛陣も頑張って、この戦いは20分で何とか決着の運びに。



 そして集落の隠し部屋から、幾つかの武器や防具を発見。それから属性石(水)やら魔石(中)を5個くらい回収出来た。魔法アイテムの、ダイヤのアクセサリーも1つゲット。

 後はカエルやトカゲの皮素材が幾つか、そして目的のゲートも集落の奥にしっかりと発見に至った。意外とスンナリ攻略出来て、護人としてもホッと安堵のため息。


どうやら11層がイレギュラーだったみたいだねと、子供たちも安心して確保したゲートを眺めている。これなら次に進むのも、幾らか余裕が持てると言うモノ。

 そんな感じで、ほぼ間を置かず13層へと渡って行く来栖家チームの面々である。いつものように周囲を見渡すと、今回は遊歩道と赤い橋の湖エリアだった。


「うあっ、また湖のエリアだっ……ここは集落捜すの大変なのにっ。ハスキー達、どこか手頃な敵の群れを捜して来てっ!」

「パッと見た感じはいないけど、まだ探して彷徨さまよう感じかなっ? 深層に来て、何だかイレギュラーが続く感じだねぇ」

「あっ、えっと……イレギュラーって、あの遊覧船みたいな?」


 そう報告する紗良の視線の先には、確かに湖に優雅に浮かぶ遊覧船が。いや、その帆にはドクロマークがバッチリ描かれていて、船の横っ腹にはずらりと並ぶ砲塔がこちらをにらみつけている。

 アレはどう見ても遊覧船じゃ無いよねと、子供たちは発見した湖面に浮かぶ船を凝視する。獣人がいっぱい乗ってるねと、目の良い姫香が告げて来た。

 香多奈も同じく、海賊の船長を発見と楽しそう。


 ところが、その後の展開は誰もが予期せぬ方向へと導かれて行く事に。何と横腹を見せていた海賊船から、凄い音と共に砲弾が飛んで来たのだ。

 ビックリした一同は、咄嗟にしゃがみ込んだり防御壁を張ったり。幸いにも、防御スキル持ちが多い来栖家チームは、その砲弾をノーダメージでクリア出来た。


 その代わり、周囲の遊歩道は割と悲惨な状況に……これって、あの海賊船がモンスターのパターンかなぁと香多奈の呟きに。それってレア種じゃんと、驚き顔の姫香の返事。

 護人も同じく、なんてこったって表情でなおも砲撃を続ける海賊船を見遣る。腹を立てた末妹が、やり返しちゃってとペット達に無茶な号令を掛けた。


 それに反応したのは、何故か今回ノリノリのルルンバちゃんだった。大活躍の『殺戮さつりくのバルカン砲』で、氷の弾丸を高速射出に踏み切る。

 何しろ家族公認の攻撃指令なのだ、やり過ぎても怒られる事は無いと張り切るAIロボ。その結果、海賊船の横っ腹に並んだ砲塔の大半を破壊する事に成功した。


 残りの半分は凍り付いたようで、相変わらずその威力は半端ではない。湖面で大きくぐらつく海賊船が、束の間声にならない悲鳴を発した気が。

 それを受けて、船上の獣人軍が何すんじゃワレェと騒ぎ始めた。一際豪華な装備の船長も、同じく怒号なのか悲鳴なのか号令なのか大声を発している。

 それが合図だったのか、船上にいた獣人軍もこちらを敵と見定め動き始める。


「わっ、弓矢と一緒にロープが飛んで来たっ……あいつ等こっちに渡って来て、肉弾戦を挑むつもりかなっ?」

「好都合じゃん、こっちだって負けてられないよっ! あっ、海賊船もこっちの岸に近付いて来たねっ……さあ、ハスキー達もそろそろ出番だよっ!」


 段々と岸辺に近付いて来た海賊船は、大きいだけにかなりの迫力があった。甲板に見える獣人達は、マーマンや魚人系ばかりで統一感はあるみたい。

 そして立派な海賊帽を被っているのは、立派な体格のマーマンだった。とは言え、2メートル半のサイズ感は、今までの獣人の中では大した事は無い。


 などと思っていた次の瞬間、海賊王の咆哮と湧き出るオーラが周囲に湧き上がった。その波動は、周囲に物理的な衝撃をもたらして大変な事に。

 どうやらそいつは、乗っている海賊船とパワーが連動しているようだ。それに気付いた護人は、海賊船も船長もとにかく全部倒すぞと号令を下す。


 その言葉に、それじゃあ私は船長の相手をするねと姫香の返事。相棒のツグミがすかさずサポートに向かう中、レイジーは『炎のランプ』を取り出して炎の大鳥を召喚に励み始める。

 それを手伝う萌と、さっさと敵と相まみえたい茶々丸の凸凹デコボココンビは醸し出す空気が好対照。それはともかく、ようやく遊歩道に接舷せつげんを果たした敵の陣営。


 そこからは、海賊船の乗組員が雪崩なだれのように向かって来ると言う事態に。ざっと見積もって40体程度だろうか、しかも甲板に残った弓兵と魔術師からも支援の遠隔攻撃が。

 ちょっとした砦攻めの雰囲気となって来たが、それに関しては今日だけで何度も経験して来た来栖家チームである。敵の多さも同様で、既に馴染んだ遣り取りに他ならない。


 そちらへと突進するコロ助と茶々丸は、遊歩道へと乗り移ろうとする魚人たちを邪魔する防衛線に取り掛かる。いつもと逆の立場だが、パワフルな2匹はノリノリ。

 それに護人とルルンバちゃんも参加して、あちこちから遊歩道に飛び移ろうとして来る敵の殲滅に大忙し。と言うか、戦況を眺めていた香多奈が、明らかに敵の増援の数がおかしいよと声をかけて来た。


 確かに、乗り移りに失敗して湖に落っこちる敵も数多くいる中で。新たに甲板に出現する敵も、ちらほら窺えてどんなインチキをしているのかといきどおる末妹。

 そんな海賊船の船首では、海賊船のかしらと姫香が斬り結び始めていた。敵の片腕は鉤爪仕様で、その姿は海賊映画の大船長を思わせる。


 姫香も映画に入り込んだように、その表情は嬉しそうでノリノリな様子。そんな中、レイジーの創り出す炎の大鳥は物凄い大きさに成長を遂げつつあった。

 コイツなら、敵の巨大な海賊船にぶち当たっても、余裕で沈めてくれそうな感じがする。今やムームーちゃんまで嬉々として手伝って、色んな色の炎が大鳥の中で渦巻ていてる有り様。


 姫香と船長の戦いは、一進一退でなかなかの見モノ。いや、ツグミのサポートが無ければ、姫香の方が不味い場面も何度か。それ程に敵の大将のパワーは、姫香を圧倒していた。

 さすが人間サイズと言えレア種である、海賊船の化身みたいな存在なのは本当なのかも。そいつは右手にサーベル、左手は鉤爪と変則二刀流で嵐のような乱撃を見舞って来る。

 その一撃一撃が必殺の威力なので、姫香も全く気が抜けない。


 実際、避け損なって太ももに深い傷を負ってしまってピンチの相棒に、ツグミも慌て気味。とは言え、影縛りや『土蜘蛛』も効果が無く、2人掛かりでも劣勢な恐ろしい敵である。

 後衛陣も救援に駆けつけたいけど、やっぱりインチキな敵の増援システムは止む事が無い。まるで11層のような召喚装置が、甲板のどこかに仕込まれているかのような錯覚に。


 仕舞いにはブチ切れた末妹が、いい加減にしなさいと『叱責』を飛ばす有り様。ミケも10分以上続くお替わりに、イラついたのかようやく雷を甲板に落としてくれた。

 このコンボが効いたのか、ピタッと止まる敵の雑魚部隊の増援。ホッとしたのも束の間、次に甲板に湧いたのは10メートル級のナマズの化け物だった。


 そいつは一応人型の様で、両方の肩口には何故か砲塔をくっ付けていた。咆哮と共にぶっ放す砲弾に、パニック模様の来栖家チームの面々である。

 ミケのお怒りは、末妹のように可愛くは無かった模様……稲妻の雨は、敵の海賊船を無残にもズタズタに引き裂いて行く。今度の咆哮は、恐らく海賊船のあげた悲鳴だったのかも。


 その仕上げにと、ようやく飛び立った炎の大鳥が海賊船の甲板に舞い降りた。そのお陰で、荒ぶる敵の大ナマズ獣人は無残に火炙ひあぶりの刑にしょされる。レイジーに召喚された炎の化身は、控え目に言っても天災そのものだった。

 ミケも手出しを止める程、その所業は何と言うか酷い有り様で。海賊船の自慢のマストも、ドクロマークの帆すらも灰燼かいじんに帰すその威力は呆れるばかり。


 子供たちも、この距離でも熱いよとレイジーに文句をぶつける始末である。やり過ぎた感は多分にあるけど、お陰であれだけ強かった海賊の船長も途端に弱体化する破目に陥った模様。

 それを察した姫香は、《剣姫召喚》からサクッと船長の首を刈って避難の構え。幾ら彼女が《ブレス耐性》や《全耐性up》を持っていても、この熱に近距離で耐えるのは無理!




 そんな喧騒もようやく収まりを見せたのは、ようやくレア種の海賊船がを上げて消滅に至った5分後の事。後には魔石(特大)やオーブ珠がドロップして、一行もようやく揃って安堵のため息をつく。

 そして遊歩道のギリギリ端っこに湧く、次の層のゲートと頑張った賞の大振りの宝箱。さすがに疲労の色の濃い子供たちだが、そのチェックは嬉しそう。


 その中からは、薬品類や魔玉や鑑定の書(上級)に混じって、良品も結構出て来たみたい。妖精ちゃんによると、アクセサリーや秘薬素材や、敵の海賊の大将が使っていた鉤爪武器は魔法アイテムだそうである。

 それから派手な海賊の服とか、後は変わったスロットマシンのような装置が出て来た。もっとも、紗良が一番喜んだのは1冊の錬金のレシピ本だった模様。


 とにかく全ての宝物を回収し終わった一行は、短い話し合いの末にこの層での帰還を選択。つまりは、もうお腹いっぱいでこれ以上は働きたくないとの意見である。

 ハスキー達も、さすがに夕方過ぎまで戦闘をこなして満足した模様。来栖家のダブルエースも、最後に力を振り絞ってMP不足におちいってる始末だ。

 これ以上の探索は、命に係わりかねない無謀な行為である。





 ――そんな訳で、数日に渡る県北レイドはこれにて終焉しゅうえんの運びに。






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