第730話 今回のA級ダンジョンも無事に10層へ到達する件



「そんで、あの天狗様は結局はレア種だったのかな、姫香お姉ちゃん? 随分と強かったし、結局はあの大きいのだけが本体だったんで……うおっと、これは天狗の団扇うちわかなっ?

 凄いねっ、これは間違いなく魔法アイテムでしょ、妖精ちゃんっ?」

「うわっ、その宝箱の奥の魔晶石は大サイズじゃ無いのっ? 天狗は魔石(特大)とオーブ珠を落としたし、間違いなくレア種だったと思うよ。

 強さも相当だったね、A級ダンジョンとは言え反則級だったよ!」


 そう言っていきどおる姫香だが、激戦の後の脱力で気だるげモード。今は紗良から治療を受け終わって、末妹の宝箱チェックを一緒に眺めている。

 その中身だけど、鑑定の書(上級)や薬品類に混じって、姫香の指摘した魔結晶(大)や魔法アイテムも見え隠れ。相当な価値になりそうで、香多奈も先程から上機嫌である。


 分かっているだけで、天狗の団扇と独鈷杵どっこしょと錫杖が魔法アイテムだと妖精ちゃんの鑑定結果。後は天狗のお面とか高下駄とか、お酒が大瓶で数本ほど。

 木の実も結構入っていて、いつもの奴とは違う種類も幾つかあるようだ。ペットの治療がようやく終わった紗良も混じって来て、それを見て喜ぶ素振り。


 チームの治療の終了を聞いて、護人もようやくホッとした表情に。とにかくタフな戦いを切り抜けられて、リーダーとしても肩の荷が下りた事だろう。

 それにしても、8層でレア種を引くとは大サービスだねぇと、香多奈の呑気な物言いに。そんなサービスいらないよと、姫香は呆れた口調でやり返す。


 しばらくはそんな感じで、休憩しながら軽口を叩き合う姉妹はまだ元気そう。紗良の用意したお茶と一口チョコで、まったりと神楽舞台の上で時間を過ごす。

 激戦後の休息時間をこなす来栖家は、他のチーム状況を巻貝の通信機で確認してみる。それによると、レア種を引いたチームは今の所来栖家のみと言う結果に。


 異世界+星羅チームは、快進撃を続けておりもうすぐ区切りの10層だそうな。さすがにパワーが違うねと、ザジと話し合う香多奈はやや呆れ顔。

 いつの間に抜かれたのよと、隣で休憩中のコロ助たちにボヤきながら。今日も6時まで探索するとしたら、何層まで潜れるかなぁと計算に忙しい末妹である。


「まぁ、15層はちょっと無理かな……その直前くらいで、引き返す事になるんじゃないかな。確かこのダンジョンは、途中離脱も簡単なんだよね?」

「確か、ダンジョンを東西の方向に歩いて行けば、割と簡単に退去用のゲートを発見出来るらしいね。このダンジョンは北南に長く伸びてるから、そう言う仕様になってるそうだよ」

「それじゃあ、この前の“比婆山ダンジョン”と同じで時間いっぱいに潜れるね、叔父さんっ。ひょっとしたら、もう1匹くらいレア種と出会えるかも知れないよっ!?」


 滅相な事を言うんじゃありませんと、軽くたしなめる護人は慌てた表情。末妹の戯言ざれごとは、未来を引き寄せる力があると家族では認知されているのだ。

 これは早めに探索を切り上げるべきかなと、護人はその理由付けを考えながら休憩を終えた一行を率いて次の層へ。とは言え、レア種討伐も立派な仕事の内の1つでもある。


 問題は、本当にそんなポンポンレア種が湧いているかどうかである。何しろ滅多に湧かないから種なのだ、A級ダンジョンだからってその理屈を曲げられたら困る。

 そんな思いで到着した9層は、何と湖側の公園みたいな場所だった。整備されて平らな地面は、何と言うか久し振りで気持ちが良い。


 ところがそんな公園の端っこに、場をわきまえない獣人の集落が1つ。金属製の扉の前に立つ歩哨は、立派な体格のオーガ獣人の模様である。

 さっきは天狗で次は鬼なんだねと、呑気な物言いの末妹の意見はごもっとも。とは言えコイツ等は、西洋ファンタジーのモンスター感バッチリの仕様である。


 さっきみたいな、妖怪カテゴリーの奴とはちょっと違う感じ。だからどうだと言う訳ではないけど、ハスキー達のヤル気には全く関係ないみたいである。

 早速遠くから喧嘩を吹っ掛けて、向こうの出方を窺う百戦錬磨れんまのレイジー達。向こうも喧嘩っ早さでは負けないようで、籠城ろうじょう戦など考えてもいない様子。


 そうして公園の敷地で始まる戦いに、末妹の『応援』も響き渡る。姫香も前線に参加して、敵の増援に抗する構え。オーガ獣人は、さすが9層の敵だけあって手強い実力の持ち主のよう。

 それでもハスキー達のパワーも、それに全く引けを取らないのも事実。お得意のフォーメーションで、強敵を次々と狩って行く速度は称賛レベルである。


 護人やルルンバちゃんも、敵の増援に矢や魔法を撃ち込んでの牽制作業に忙しい。ついでに紗良の《氷雪》魔法で、敵の集落に大きなダメージも入って行った。

 お返しの矢の雨は、今までと違って強弓ごうきゅう仕様でやたらと太くてダメージが大きそう。さすがオーガ獣人は、膂力りょりょくに優れているとみえる。


「公園の敷地はあまり広くないから、全部が集落の敵から射程内だな……ルルンバちゃん、遠距離隊を潰して来るからここの守りを頼んだよ。

 紗良に香多奈、くれぐれも矢の飛来には注意してくれ」

「分かりました、護人さんも気を付けて……大きくない集落だけに、敵が密集しているかもっ」

「鬼退治を頑張って、叔父さんっ! ムームーちゃんも、サポートしっかりねっ!」


 末妹の声援に、頑張るデシと張り切ってテレパシーを返す軟体幼児である。そんな訳で、すっかり慣れた薔薇のマントの飛行能力で鬼の集落に奇襲をかける護人。

 その姿は簡単に敵に把握されて、すぐに標的となってしまうのも織り込み済み。これで少なくとも、後衛陣が矢の雨にさらされずに安全を確保出来る。


 とは言え、その攻撃を切り抜けて接近するのはかなり厄介でもある。ムームーちゃんの水の槍での反撃が、素直に有り難いしかなり効果もあるようで一安心。

 その隙を突いて、やぐらに取り付いて敵の殲滅を行う護人はすっかりその所業も慣れて来た感じ。とは言え、あちこちから敵の威嚇いかくと殺気が飛んで来て、生きた心地もしない状況に違いはない。


 それでも1つ目のやぐらを破壊し終えると、圧も随分と減ってくれた気が。護人が2つ目に取り掛かっている間に、ハスキー達も集落の入り口に取り付けたようだ。

 相変わらずその勢いは称賛モノで、対応するオーガ獣人も戸惑っている。ガタイの良い獣人連中がビビっている姿は、何だかギャップがあって見ていて面白い。


 そして高台の制圧は、ツグミが手伝いに参戦してくれて一気にはかどる流れに。集落入り口の攻防も、姫香とルルンバちゃんの参加で一気にこちらのペース。

 この辺は、何度も集落攻めをこなしているだけあって、既にチームも慣れて来た感が。例え相手が、今回が初見のオーガ獣人だとしてもやる事は同じである。

 そんな訳で、20分も経たずに9層の集落の攻防は終了の運びに。


「ふうっ、何だかんだ言っても深層の敵は強いよねぇ……A級ダンジョンだから、その辺は仕方がないんだけどさ。

 オーガ獣人とか、マッチョの集団の相手はしんどかったねぇ」

「ハスキー達も、最初の頃と較べて随分と苦労していたねぇ……次は10層だし、きっと強い中ボスが待ち構えているよっ。

 楽しみだねぇ、きっとお宝もバンバンたよっ!」

「ここの集落でも、一応は宝箱は回収出来たから良しとしなさい、香多奈。魔結晶とか、金貨袋とか結構良いモノが置いてあったからね。

 あとは、強化の巻物とお酒が樽で回収出来たかな?」


 それはムッターシャやザジが凄く喜びそうだねと、姫香が笑ってそう返して来た。山の上の住人で、ことの外お酒が好きなのはこの2人である。

 日本酒も口に合うようで、あればあるだけ飲んでしまうのもこの2人。リリアラも強いけど、まぁ付き合いで飲む程度だろうか。後はゼミ生と小島先生も、たしなむ程度は飲む感じ。


 広島の県北はお米どころで、かつては日本一の賞を取った事もあるそうな。そんな地方での地元のお酒も、さぞかし美味しそうではある。

 この県北レイドが終わったら、あちこちへのお土産に買って戻っても良いかも知れない。お米は自分の敷地で作っているので、まぁ買い込む必要はない。


 こちらの地域でも、恐らくもうすぐ稲刈りの時期なのだろう。来栖家も戻ったら、自分の所の田んぼでの稲刈りが待っている。

 そんな事を家族で話し合いながら、休憩をこなして次は中ボスの待つ10層へ。




 今回も来栖家チームが出現したのは、景色の綺麗な湖畔こはんの遊歩道だった。山側は急な崖になっていて、近くには立派な橋が架かっている。

 さて、ここでは中ボス討伐だけで良い筈だと、巨大な敵影を捜し始める子供たち。何とも現金な思考だが、口にしている事は至って正しくて間違ってはいない。


 ただし、その姿がなかなか見つけられず、ハスキー達も橋の向こうまで探しに行く破目に。もちろん香多奈の『魔法のコンパス』にも反応は無く、困った指標のないこの四面楚歌しめんそか

 そうこうしている内に、紗良がふと気付いたのはミケの見詰める方角だった。じっと神龍湖の湖面を見つめており、何かありそうと真面目な長女はリーダーに報告する。


 念の為にとハスキー達を呼び戻した護人が、次に考えるのは敵へのちょっかい掛けの方法だった。ミケの視線の先に大物がいるならば、それを釣り上げて対面するのがまずは先だ。

 そう子供たちに口にすると、皆が一斉にどうしようかと考え始める。釣りの道具は無かったっけと、末妹の案は果たして真面目に考えた結果なのかはさておいて。


 姫香はやっぱり雷撃か毒じゃないかなと、どこかの禁止漁みたいな方法を口にする。物騒ではあるが、ダンジョン内の湖だし問題は無い筈。

 そもそも相手はモンスターなのだ、遠慮している場合ではない。そんな訳で、どの辺にいるのか教えてよと、ミケの視線の理由を信じて疑わない姫香の質問に。

 ミケの2本の尻尾がゆらりと揺れて、一条の雷撃が湖面を撃つ。


「わひゃっ、相変わらずだねぇ、ミケさんってば。それでどこ……わわっ、これは凄い大物が釣れちゃった可能性があるよっ!

 ムームーちゃんも、例の毒攻撃やっちゃって!」

「ツグミも遠慮なくやっちゃって、先制攻撃で容赦なく弱らせちゃおうっ! うわっ、あっちからも首が出て来た……。

 これはひょっとして、首が何本もあるタイプかなっ!?」

「ヒドラかな、かなり大きいが……こうやって見ると、まさに湖の主って貫禄だなっ。ムームーちゃんも、どれでもいいから蛇の頭を狙ってご覧」


 スライム幼児の《闇腐敗》は毒攻撃ではないので、戸惑った彼は攻撃を考えあぐねていたのだけれど。護人に良いよと言われて、遠慮なくスキルを執行する事に。

 ツグミも同じく、あの巨大な蛇にどの程度、毒攻撃が効くかは定かではないとは言え。確かに生半可な攻撃スキルでは、あの巨体に大した痛痒つうようを与えられそうもない。


 斬撃も、よっぽどの膂力りょりょくでないと、敵に傷をつけるのも難しいかも。香多奈が今の所は4本だねと、敵の蛇の頭の数を家族に知らせて来る。

 胴体に関しては、なるほど湖底で見えにくいけど1つで繋がっている感じに見受けられる。要するに、アレで敵は1体の勘定になる訳だ。


 下手したら、今まで遭遇したどの竜種よりも大きい敵の出現に、やや慌て気味な来栖家チームである。それでも毒の先制打の効果は少しずつ現れて、敵の動きは鈍っている気も。

 次は氷漬けにしちゃおうと、ミケの追撃が無いのを確認して末妹の香多奈が提案する。ミケ大明神が出張ってくれたら、こんな大物の敵も軽く片付けてくれるのだけれど。


 気が乗らないのなら仕方がないので、知恵を出し合ってあの中ボスに当たるべし。ルルンバちゃんにも魔玉(氷)を大量に用意して貰って、末妹の作戦はかなり大胆。

 つまりは、湖ごと凍らせて動きを封じてしまう作戦みたい。長女の紗良も氷系の魔法が使えるので、ルルンバちゃんの『殺戮のバルカン砲』との同時攻撃を見舞ってやってとのリクエストである。

 何しろ、魔玉(氷)は、前回のダンジョンでしこたま回収済み。





 ――それを聞いたAIロボは、大いにヤル気で準備を始めるのだった。






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