第728話 7層も相変わらず集落攻めイベントの件



 ハスキー達が発見したのは、ゴロゴロ岩の転がる河原に建っていた集落だった。どうやらリザードマン達の棲家すみからしく、かなり豪華な造りである。

 ここなら濡れずに攻略出来るねと、それを見た末妹は呑気な発言。リザードマンだけじゃなく、ヤモリ獣人もいるねと姫香の観察も抜かりが無い。


 ヤモリ獣人は、リザードマンよりかなり小柄ながら、俊敏で不意打ちなどが得意な奴らだ。チームに警告しながら、それじゃ行こうかと音頭を取る姫香。

 このダンジョンで何度目かの集落攻めだが、慣れて来た一行に躊躇ちゅうちょは無い。サクッと仕留めるよと、レイジーを先頭に殴り込みをかける来栖家チーム。


 今回は、後衛陣も遅れる事無く後に続いて支援の構え。向こうもこちらの接近に気付いており、激しく威嚇して来て早くも大激闘の予感が周囲に漂い始めている。

 そしてハスキー達&茶々萌コンビの特攻からの先手で、いざ戦いの始まり。珍しく頭を使ったコロ助の『咆哮』で、敵の攻撃は巨大化したコロ助に集中する。

 それを《防御の陣》で跳ね返しながら、『牙突』で反撃を行うコロ助である。


 この辺は何度も集団戦を繰り返して、学習したハスキー達の基本戦術に組み込まれて来た模様。レイジーの指示なのかもだけど、本当に賢いワンコ達である。

 良く分かっていない茶々丸は、ご機嫌に萌を背中に乗せて『突進』を繰り返している。そのワンパターンも、最近は《刺殺術》の冴えが半端なく良い調子。


 その上、萌の槍での攻撃も加わって、威力は倍化の茶々萌コンビの突進攻撃。たまに変な場所に突っ込んで、レイジーからお説教を喰らうのはアレだけど。

 それを含めて、切り込み隊長を自認する両者ではある。


 そんな感じで推移する戦闘風景に、不利を感じたのか敵の集落から援軍が放たれた。巨大な蛙に騎乗したヤモリ獣人達が、列をなしてハスキー達に襲い掛かって来る。

 それを見たツグミが、『毒蕾』を放って敵の足止めに掛かる。ところが大蛙たちは、その手の毒攻撃には免疫があるのか平気な様子。


 苦しむのは騎乗しているヤモリ獣人兵達ばかり、もっともそのせいで統制は思いっ切り崩れてくれた。そこに後衛の護人や紗良から、矢弾や範囲魔法が降りかかる。

 こちらの攻撃は、大蛙たちは跳ね返せなかった様子。動きが鈍った所に、リザードマン兵を片付けたハスキー達に襲い掛かられて呆気なく終了の運びに。


 戦闘跡地には、魔石や素材系が結構な確率で落ちていて子供達も嬉しそう。魔石も小サイズの割合が増えていて、さすが7層まで降りて来た甲斐はあったと言うモノ。

 他にもガマの油や手裏剣やら、耐水性の良さそうな皮素材やら結構な量が拾えてしまった。それを拾う間にも、集落からは慌しい気配が漂って来ている。


 恐らくだが、続けて打って出るか集落で待ち構えて籠城ろうじょう戦に持ち込むか、議論が交わされているのかも。たまに矢が飛んで来るが、護人が全て弾く係を担ってくれて被害は無し。

 それでも安い挑発を受けて、黙っていられるハスキー達ではない。紗良の怪我チェックの完了と、言っておいでの姫香の合図を受けて再び戦闘モードの彼女達である。


 遅れずに行くよとの護人の声で、後衛陣も後に続いて援護の構え。敵には忍者タイプがいるねとの、香多奈の発言の後に一行はそれを体感する破目に。

 戦場に放り込まれる派手な色の煙幕は、刺激臭も混じって大変な事に。


「うわっ、これ何っ……目が痛いっ、変な臭いもするっ!?」

「忍者の煙幕攻撃かなっ、味方の筈の向こうの陣地も被害を負ってる気がするけどっ。紗良姉さんっ、これ《結界》で追い出せないかなっ?

 私も『圧縮』で、何とか出来ないかやってみるねっ!」

「わ、分かった……やってみるねっ」


 子供達の対応力は、何とも素晴らしくさっそく最適解を編み出そうと奮闘中。護人は素早く薔薇のマントで飛び上がって、戦況を確認しつつ次弾の阻止に奔走する。

 案の定、高台のやぐら台に怪しい黒ずくめのヤモリ獣人の一団を発見。向こうも味方の被害に慌てていて、2発目を投げるか躊躇ちゅうちょしている模様。


 痛い目に遭ったのは肩の上のムームーちゃんも同じで、奴らは悪者デシと珍しく腹を立てていた。そこからの《闇腐敗》の攻撃は、敵が可哀想になるレベル。

 固まっていた高台の忍者軍団は、文字通り腐敗して行ってこれにて戦力外に。その頃の後衛陣は、紗良の《結界》が上手く作動してくれた模様でまずは一安心。


 更に空気が妙な動きを見せたのは、姫香の『圧縮』のせいだろう。それと共に晴れて行く煙幕、それらは掃除機に吸い込まれたように一か所に吸い込まれて行く。

 それにより、前線で戦闘中のハスキー達の姿もようやく確認に至った。もっとも、人より嗅覚が敏感な彼女達は、刺激臭に戦闘どころではない模様。


 それはリザードマン兵も一緒で、周囲は何だか悲惨な有り様ではある。『圧縮』を使いながら近付いた姫香は、ホルダーからポーションを取り出して、ハスキー達に振り掛けての応急処置に忙しい。

 近くに敵がいるのにと思うけど、その心配は無用みたい……何と言うか、レイジーのオーラがとんでもない事に。或いはオート防御機能と呼ぶべきなのか、近付く敵を勝手に倒してくれている。


敵の所業によっぽど腹が立ったのだろう、彼女の吹き出す炎のオーラから自然に生まれる炎の狼は立派な翼をまとっていた。それが振るわれるたびに、周囲のリザードマンの首がねられて行く。

 幸い、そのオート機能は姫香をちゃんと味方だと判断してくれた模様で何より。そして解毒ポーションのお陰で、ハスキー達の視界と鼻の調子も幾分かマシになってくれた。


 それ以上に、敵の被害の酷い事と言ったら、何と言うか自爆お疲れって感じ。姫香は多少呆れつつ、随分と隙間だらけの敵の防御網を眺める。

 そこに並び立つ萌は、茶々丸の背から降り立って姫香にお供するよとの構え。どうやら腐っても仔竜の彼は、あの程度の毒攻撃はへっちゃらだったらしい。


 茶々丸に解毒ポーションを掛けたのも萌で、ちょっと落ち着いてと相棒をさとした後に。周囲の安全確保にと、こうして姫香の手伝いにはせ参じた様子。

 そんな訳で、敵の増援を押し返す姫香と萌のコンビ戦の開始である。もっとも、レイジーの召喚した有翼の炎狼もそれに追随してくれて凄い暴れよう。


 お陰で、敵の忍者部隊もリザード弓矢部隊も、関係なく倒して行けている。もっともそちらは、空から奇襲をかけてくれた護人&ムームーちゃんの業績も大きい。

 かくして、後衛陣と合流したハスキー達&茶々丸がしっかり治療を受けている間に、集落攻めはガッツリと進行する事に。隠密の得意なヤモリ獣人がいるので、苦労するかと思ったが制圧は順調にこなす事が出来た。


 集落で飼育されていた、大蛙や水ヒルも再び合流したハスキー達と共に片付けて行く。集落の内部の掃討は、モノの5分と掛からず完了の運びに。

 そしてゲートも、最奥部に設置されていたのを姫香が発見してくれた。宝箱こそ無かったけれど、それに類する隠し財産的な品々は発見出来た。


 大したモノは無かったけれど、属性石(水)やらポーション類や金貨や銀貨などなど。値打ちモノと言えば、蛙のペンダントと魔結晶(中)が5個くらいだろうか。

 ペンダントは魔法アイテムだと、妖精ちゃんが大威張りで確定してくれてまずは一安心。ここの稼ぎは意外とショボいんじゃと、末妹が心配し始めていたのだ。


「何とか持ち直したけど、レア種にも遭遇しないし敵の数だけ多いA級ダンジョンって感じだよねぇ、ここって。あくどいトラップも無さそうだし、楽勝かもっ?

 少なくとも、一昨日のダンジョンよりは深く潜れそうだね」

「まぁ、“比婆山ダンジョン”はかなり癖が強かったからねぇ……同じ広域ダンジョンって言っても、較べる所が色々と違って来るのは確かかもね。

 例えばここは、えっちらおっちら雪山を登らなくて済むし」

「本当にねぇ、涼しくて気候も過ごしやすいし、秋の紅葉はとっても綺麗だし。川の側の散策もいやされるし、これでモンスターが出なければねぇ」


 モンスターが出なかったら稼げないじゃんと、その意見は真っ向から否定する末妹。長女の紗良は気にした風もなく、3時のおやつはどこで食べようかと思案中。

 今日は6時までは頑張ると決まっているので、途中のティータイムはマストである。それ用のお菓子やサンドイッチも、今回は多めに持参した紗良であった。


 お昼からまだ1時間ちょっとで、まだお腹は空いていない一行ではあるけれど。お茶を飲みながらまったり時間は、何となく待ち遠しいねと話し合う子供達である。

 そんな事を話し合いながら、休憩も終わってゲートを潜るチームはいざ8層へ。今度はどこかの遊歩道に出たようで、周囲は割と複雑な景色となっていた。


 遊歩道は左右に斜面沿いに伸びており、近くには恐らく神龍湖が拡がっている。左に歩くと橋が架かっており、そこを渡った先には神社らしき赤い鳥居が。

 橋は意外と長くて、奥の孤島っぽい陸地は霧がかかっていて神秘的。反対の遊歩道は、地形からしてどうやら下流のダムエリアに向かうようだ。


 香多奈は懐から取り出した『魔法のコンパス』で、最寄りのゲートの場所をチェック。それから橋の向こうのあの霧の中かなぁと、やや自信の無さそうな口調でそう呟く。

 それは入手したばかりの魔法アイテムへの信頼度ではなく、いかにもな場所に突っ込むべきかの葛藤が含まれているよう。確かにあの白い霧は、ダンジョンが仕掛けた何かのギミックと考えるのが自然だろう。


 姫香はあちこちキョロキョロと眺めまわして、他に引っ掛かる場所は無さそうと護人に告げた。つまりは、視界内には獣人の集落は見付からなかったって事らしい。

 ハスキー達も心得ていて、どっちに進むのとルート選択をあるじに委ねる素振り。決まったルートしか無いのならともかく、分岐を決めるのはご主人たちの任務である。


「それじゃあ、橋を渡ってあの霧のエリアに行こうか。ゲートがあるのは確かみたいだし、あんまり悩んでいても仕方ないからね。

 取り敢えず、橋を渡る際にも注意して進むようにね」

「了解っ、それじゃあ行くよ、ハスキー達っ!」


 元気な香多奈の声掛けに、一斉に橋を渡り始めるハスキー軍団&茶々萌コンビである。橋は意外と広くて、いかにも戦闘しても場所には困りませんよって感じ。

 それが護人の考え過ぎでないと分かったのは、丁度みんなが真ん中付近に辿り着いた時。水の中を注意していた姉妹だが、実際に敵が来たのは空からだった。


 そちらを注視していた護人の警告の言葉に、立ち止まって迎撃態勢をとる来栖家チームの面々。やって来たのは2度目の遭遇の両翼10メートル超えの大鳥だった。

 そしてこの獲物は俺んだと言わんばかりに、毎度のワイバーンも参戦を決め込んだ模様。こちらは何度も見慣れたシルエットで、見間違えようもない感じ。


 ミケさんっと末妹の声掛けに、今回は珍しく反応してくれた来栖家の最終兵器。平和な時間を遮るような敵の飛来に、2筋の落雷が天を裂き割って行く。

 その後に来る轟音に、思わずおへそを押さえる紗良だったり。肩の上の小さな生物ミケは、そんな長女のリアクションには全くの無関心。


 それでも落ちて来るドロップ品を見て、ツグミにキャッチをお願いする香多奈はさすがである。結果、魔石(中)を2つとお肉を含めた素材核種をゲット出来た。

 相変わらずの剛腕振りだが、これで家族の安全は確保出来た。子供達からの感謝の言葉に、彼女の耳がピクピクと動くのはいつもの事である。

 そんなツンデレ対応の愛猫ミケの視線の先は、今から向かう霧の鳥居。





 ――その瞳が心配そうに細まるのを、家族の面々は結局気付かず。





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