第727話 湖と紅葉を楽しみつつ階層を渡って行く件
6層の攻略は、未だに続いていて前線は酷い有り様となっていた。姫香の杞憂していた王様はいなかったモノの、将軍とオーク
レイジー達左ルートを進んでいた一行は、統率された雑魚兵団と荒ぶる殺戮兵に翻弄される始末。炎の狼を数体ほど召喚して、レイジーはそれに対抗する。
茶々萌コンビは何も考えず、コロ助と共に前衛職を全うしていてパワフルそのもの。まだスタミナは切れていないようで、その点は良かった。
ツグミは建物の上から、弓矢や投石攻撃を行う伏兵の始末に忙しい。ここまで10体以上始末しており、獣人にしてはなかなかよく出来た戦砦である。
一方の姫香の方にも、レア種の重歩兵が魔術師3体を従えて立ちはだかる。重歩兵は他の兵士の軽く倍の体格で、鎧は全て鋼鉄製でとっても硬そう。
盾もバカでかくて、人を潰すのに適したようなトゲトゲ付きだ。先に魔術師を倒したい姫香だが、それを邪魔するように盾と長槍持ちの兵士たちがわらわらと出現して来る。
「わっ、せっかく敵の一団を倒したと思ったら、またお替わりが出て来ちゃったよ。しかも硬そうな奴が指揮を執ってるし、後ろに魔術師がわんさかいるみたいっ。
砦の奥は、一体どうなってるのかなっ?」
「安心していいぞ、姫香……もう敵兵は、ここにいる奴らでお終いっぽいから。レイジー達も、向こうで強い敵の指揮する一団と交戦中みたいだな。
ここと向こうが終われば、後は真ん中の建物を探索するだけだ」
「あっ、それなら良かったね……さすがに戦闘を始めて、もう20分以上経ってるもん。これ以上のお替わりは、さすがにくどくなっちゃうよっ!」
そんな理由で敵兵力を表する末妹は、現在姉の背後に陣取って戦闘を観戦中。紗良とルルンバちゃんとミケもいるけど、ミケは戦闘には全く興味なさげ。
逆にルルンバちゃんは、さっきの騎士魂に火がついたモードを継続中。姉妹の前に壁になって、魔法の連打で敵の兵士を倒しまくっている。
空から舞い降りた護人も、さすがに姫香だけに前衛を任せるのは酷過ぎると感じた模様。“四腕”を発動しながら、後衛の盾になろうと砦の通路を塞ぎに掛かっている。
こんな前衛の働きも久々な護人は、新しい装備の『神封の大盾』を手に騒がしいオーク兵に立ち向かう。盾でブロックしていれば、《奥の手》パンチと薔薇のマントの殴りで敵は勝手に消えてくれる。
その威力は以前の比ではなく、しかもムームーちゃんまで戦闘参加をする素振り。何故か腕の形に変形するのは、恐らく楽しんでいる証拠だろう。
そこからの《闇腐敗》は、特殊技だけあって物凄い威力を発揮してくれた。さすが妖精ちゃんの育て上げた秘蔵っ子だけはある、秘密兵器と呼ぶにふさわしいレベル。
お陰でトゲトゲ盾と金属装備で固め上げた重歩兵オークは、ほぼ出番なくただれ死んでいってしまった。軟体生物の持つスキルの中で、威力は一番高いこの特殊魔法だけど。
かなり悲惨な結果を及ぼすだけに、その内に末妹によって使用禁止にされる可能性も。直球で言うとグロ過ぎるこの魔法、さすが特殊な敵が落としただけはある。
今回は隣の紗良が、素早く香多奈の目を塞いでくれたお陰で。少女が見たのは、瓦解したオーク兵が魔石へと変わって行くシーンのみだった。
特にオーク重歩兵は魔石(中)とスキル書をドロップして、今回も回収品の運は良好の模様。護人の方で後衛の魔術師も倒し終わって、これでこの場の安全は確保されたっぽい。
ようやく砦の攻略戦は、全員の活躍もあって終結の方向へ。ミケさんは今回も観戦モードだよねと、末妹は気まぐれなペットに言いたい事がありそうだけど。
いざと言う時の保険は、本当にいざと言う時に有難味が分かると言うモノ。そう長女に諭されて、何も言い返せない香多奈であった。
そして砦の別方向からも、ハスキー達の勝利の遠吠えが。
「あっ、しまった……ハスキー達の方は撮影役が1人もいないっ! せっかくレイジー達が頑張ったのに、動画にのせて上げれないのは可哀想だよね。
茶々丸とか、頑張ったのにって
「大丈夫でしょ、それにしても敵が多くて大変だったねぇ……魔石拾いも大変だよ、時間ももったいないし拾いながらハスキー達と合流しようか」
「そうだな、よくやったと褒めてやらないと」
そんな護人の言葉で、その後すぐにハスキー達と合流を果たした後衛陣である。護人は知らなかったけど、こちらもオーク将軍やオーク殺戮兵との激闘を、レイジーの指揮のもとに制したのだった。
合流したハスキー達と茶々丸はハイテンション、そしてツグミにドロップ品を見せて貰った香多奈も同じく。向こうは魔石(中)2個に、何とオーブ珠を1個戦闘で回収していた。
他にもオークの武器やら装備品が少々、将軍の着ていた装備品は豪華で宝石もついていた。凄いねぇと喜ぶ末妹と、褒めてと護人に頭突きをかます茶々丸である。
この辺の遣り取りは毎度の事なので、子供達も撫でて褒めてあげる時間はちゃんと取ってあげる。茶々丸が護人に真っ先に向かうのは、以前に香多奈に頭突きを入れてこっぴどく叱られたから。
吹っ飛んで行った末妹に、本人も仰天したのは今では良い思い出である。それはともかく、一緒に紗良が怪我チェックを行なったり、お
この6層だけで、50以上の魔石を回収したと香多奈は上機嫌である。それから満を持して潜入した集落の中心部では、鑑定の書や魔玉(土)などの回収にも成功。
他にも生活空間から、雑多な物が回収出来はしたのだが。実際に持ち帰れそうなのは、金貨や銀貨などの金品類や、あとは予備の武器やら小物の類い程度で特筆すべき物は無し。
逆に全部見て回る時間も無いと、途中からは無視する方向に。辛うじて当たりだったのは、革と石素材の入ったケースと魔石(小)が6個入った袋くらいだった。
そんな来栖家チームは、砦の3階部分に目的のゲート部屋を発見。室内に巣食っていた大蜘蛛2匹をサクッと倒して、これにて無事にゲート確保に至る事が出来た。
そしてようやく、次の層へと進出に至ったのだった。
一行が排出されたのは、今度は幅広の橋の上だった。コンクリ造りの橋の両端は、こんもりと紅葉した森が広がって相変わらず景色は綺麗。
それからモンスターの影も、今回は序盤からチラホラ。具体的には大トンボやら、湖の上には魚人が泳いでいる。幸いながら、今の所はどちらも攻撃範囲外の模様。
橋の上からその姿を追っていた末妹が、あそこに魚人の集落があるねと湖の端の断崖を指し示す。どうやら水中適応の利点を活かし、集落は湖の中にある模様だ。
つまり攻略するには、こちらも水に潜って戦う必要があるみたい。幸いにも水耐性の装備は持って来てあるので、やれと言われたら不可能ではないとは思うけど。
他にないかなと、さり気なく姫香が別ルートを捜すよとハスキー達に指示を飛ばす。橋の片方の孤島のような陸地には、赤い鳥居が小山の上に存在していた。
どうやら神社があるようで、そっちに向かえば何かイベントが起きそうな雰囲気。その反対の橋を渡った先は、遊歩道が湖に沿って続いているのが窺える。
「これは3択なのかなぁ、一番近い湖の中の魚人の集落がまず1つ目でしょ。それからあっちの小山の神社っぽい場所を目指すか、反対側の道を進んで別のゲートを探すか。
ハスキー達は、濡れるのは嫌そうだねぇ?」
「私も普通に嫌だな、その後も探索は続くんだしさ。水エリアの探索じゃあ、装備が濡れたとか感じないのに不思議だよね。
そんな訳で、橋のどっちかに進もうよ、護人さん」
「そうだな、幸い間引きの速度は他のチームに劣ってはいない筈だし……ここはのんびり、道を歩きながら別の集落を捜そうか」
そんな護人の発言を聞いたハスキー達は、それじゃあコッチのルートだねと遊歩道へ向けて歩き始めた。それに追随する後衛陣は、景色を見たりお互い写真を撮ったりと呑気そのもの。
天候も良いし、秋の設定のダンジョン内は気候的にも過ごしやすい。護人やルルンバちゃんは、敵の不意打ちが無いかといつもの護衛モードなので別に良いけど。
ハスキー達も、そんな後衛を気にかけて歩調は至ってゆっくりだ。それが急に早まるのは、敵の集団を見付けて殲滅に駆け出す時くらいのモノ。
今も一斉に駆け出して、茶々萌コンビも遅れじと『突進』モードで凄い蹄の音を立てている。発見した敵は、このダンジョンでは初見のコボルト軍団のよう。
ただし、総じてガタイが良くて見た目から強そうな雰囲気。
そして始まる、傍目から見たら乱闘騒ぎのような壮絶なド突き合い。いや、実際は刃を使う者がいたり、スキルが飛び交ってもっと戦闘風景は派手ではある。
そうして脱落して行くのは、圧倒的に向こうのコボルト兵士達だった。装備も良さげで、間違っても雑魚モンスターではなさそうだけど、さすがハスキー軍団である。
茶々萌コンビも順調にキル数を伸ばしていて、その戦い振りは先輩たちに引けを取らない。ただし、やっぱりどこか騒がしい茶々丸の暴れ具合はマイナス部分かも。
それでも後衛陣が追い付く頃には、無事に戦闘は終了していた。ボス格のコボルトも混じっていたようで、魔石(小)と素材っぽいモノが一緒に落ちていた。
それを見て上機嫌な末妹、相変わらず元気いっぱいである。その隣のルルンバちゃんが回収に向かって来たのを見て、ハスキー達はドロップ品をスルーして再び探索を開始する。
後衛陣も周囲の確認は行っており、そんな彼らが見つけたのは目的の集落ではなく巨大な影だった。上空を横切ったのは、両翼6メートル以上の巨大な鳥だった。
ワイバーンかなとの末妹の推測は外れ、恐らく肉食の猛禽類だろう。その巨鳥がロックオンしたのは、どうやら後衛陣だったみたい。
姫香が大声で危険を知らせ、魔石拾いをしていた面々は慌てて衝撃に備える態勢に。護人と姫香が迎え撃とうと武器を構えるが、それより先に敵に突き刺さる稲妻の刃。
派手な衝撃音が、その数瞬の後に周囲に訪れる。
「わっ、ミケさんってば相変わらず空飛んでる敵には容赦ないよねっ! あっ、今倒された奴ってば、魔石の他にも色々とアイテム落としたねっ。
えっと、お肉の塊とか羽根とかの素材系かな?」
「肉食の鳥の肉って美味しいのかな、まぁ回収するけどさ。こっちは大丈夫だよ、ハスキー達……安心して、近くに集落が無いか探して来て頂戴」
「おっと、向こうの方は川の上流になってるのか。向こう側の湖とは違って、水深が浅くて河原も随分と広いな。
もっとも、大きな石がごろごろ転がってて、歩き難そうだけど」
護人の呟きに、本当だねと子供達もそちらを窺って興味深そうな素振り。ハスキー達もそちらに向かっていて、どうやら河原へと遊歩道も続いているようだ。
そっち方面に獣人の集落があれば、水に濡れなくて済むので丁度良いかも。そんな話を交わしつつ、ドロップ品の回収が終わった面々は再び歩き始めた。
ただし紗良辺りは、他のチームと探索範囲が被らないか少し不安そう。確かめてみようかと、川の上流に赴いた異世界+星羅チームに通信を入れる末妹。
ザジがすぐに出てくれて、こちらは
どうやら“帝釈峡ダンジョン”は、上流側は鍾乳洞とか洞窟エリアになっているみたい。それなら安心かなと、紗良はようやくホッと安堵のため息を漏らす。
そんなら下流のダムエリアは6層以降はどうなってるんだろうねと、子供達の興味は尽きない模様。ただし、今考えるのは来栖家チームが無事に階層渡りを成功させる事である。
その為には、次の層へのゲートをさっさと探し出さなければ。
――その時、ハスキー軍団が何か発見したよと知らせてくれた。
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