第724話 変わった湖底のオブジェを張り切って探索する件



 リザードマンの集落にも、当然のように物見やぐらは存在していた。そこには弓矢使いが詰めており、まだ届かないモノのこちらに矢を射かけて来ている。

 ハスキー達は我関せずと、目の前の門番たちを倒すのに精を出して滅殺の構え。護人の肩の上のムームーちゃんが、ウザいデシと水の槍を飛ばして応戦してくれる。


 ただし相手も水属性なのか、この攻撃で倒れた弓兵は存在せず。さすがA級ダンジョンの獣人である、そろそろ一撃で倒される雑魚は減って来ている感じが。

 それを見たルルンバちゃんが、最近覚えた魔法攻撃でお手伝い。相変わらずのヨチヨチ歩きだが、何とか後衛の速度にはついて来てくれている。


 そして選択した雷属性の魔法で、やぐらから次々と落ちいて行くリザードマン弓兵の皆さん。これは弱点属性だった様で、さすがデシと軟体生物は先輩の所業を褒め称えている。

 それが伝わったのか、何となく照れくさそうな素振りのAIロボ。弟分に褒められて、挙動が不審になるとは全く可愛いヤツである。


 それを横目で見ていたミケが、自分の力の誇示なのか《刹刃》を飛ばして弓兵を斬り刻み始めた。それに興奮する粘体幼児に、満更でも無さげなミケだったり。

 そんな感じで、場はちょっぴりカオスだが殲滅自体は順調に進んでいる。ハスキー達も、遠くの場におびき寄せた敵を倒し終わって、今は入り口に殺到している所。


「おっと、ハスキー達が移動を始めたねっ! ミケさんも珍しくヤル気を出してるし、この層も楽勝でゲート確保が出来るかもだよっ。

 さあっ、みんな張り切って行こうっ!」

「こんな始まったばかりで張り切り過ぎたら、疲れて動けなくなるよ、香多奈。集落の中は、どこに伏兵が潜んでいるか分からないから気を抜いたら駄目たよっ」

「そうだな、宝物を見付けても不用意に近付かないようにな」


 護人のいつもの忠告に、は~いとこちらもいつも通りの元気な香多奈の返事が。集落の中からは、ハスキー達と残党の戦いの音が勢い良く響いて来ている。

 姫香もこれ位は参加しようと、武器を担いで駆けて行ってしまった。気を付けてねとの家族の言葉に、少女は振り向かずに手を振って応える。


 そんな感じでの3つ目の集落攻略も、恙無つつがなく終了の運びに。中には大ザリガニや大トカゲが家畜として飼われていたが、ハスキー達が全て討伐を終えてくれていた。

 姫香も少しだけ手伝ったようで、まだ暴れ足りないかなと愚痴っている。元気の良いハスキー達から獲物を奪うのは、なかなか骨が折れる作業のようだ。


 恒例の宝物探しだが、ここにはしっかり宝箱が設置されていた模様。ツグミが発見したそれを、嬉々として子供達は確認しての中身チェック。

 中からは定番の鑑定の書や薬品類に加え、スキル書が1枚に強化の巻物が2枚入っていた。それから短剣や槍などの武器類や、鱗や水草などの素材系が割とたくさん。


 銀貨や金貨も少々入っていたが、そんな儲けたって感じでも無し。最初の宝箱はシケてたねぇと、香多奈は遠慮のない物言いである。

 ゲートもハスキー達がしっかり発見していて、これにて3層は終了っぽい。



 3つ目の集落を制圧し終えて、一息ついた来栖家チームはさぁ4層へと行こうかと話し合っている所。小休憩も終えて、ペット達の体調もバッチリである。

 探索のペースは至って順調、恐らく参加した12チームの中でも階層は深く潜っている部類だろう。とは言え、まだお昼にもなってないので他のチームに確認する程でもない。


 そんな感じでどんどん進むよと、姫香の号令で一行は4層へとゲートを潜って到着を果たす。そこも見慣れた湖底の風景で、見上げる紅葉の景色は相変わらず綺麗。

 心をグッと掴まれるけど、子供達が反応したのは別の景色と言うかギミックだった。何と湖の壁の断崖側に、沈没船が横たわって無残な姿をさらしていたのだ。


 この観光地だが、“大変動”以前には遊覧船が湖畔を行き来して集客に大いに貢献していたみたい。神龍湖はカルスト地形の独特な湖で、断崖沿いを行き交う水船遊びは迫力満点。

 そんな情報を口にする紗良だけど、まさかその記憶をダンジョンが拾うとは。過去のデータにもあったのかは不明と、報告する長女はちょっと不安そう。


「えっ、でも沈没船には絶対にお宝が隠されてるよねっ! 行ってみようよ、あの中にもゲートはきっとあるでしょ?」

「まぁ、あるかも知れないけど……あの沈没船、色んな獣人が棲みにしてる感じなのかな。リザードマンや魚人の姿が、チラチラ見えてるんだが。

 おっと、断崖に隠れて巨大なトロルも不意打ちを狙ってるな」

「えっ、あっ……本当だ、見えなかったよ! 右側のルートの所だねっ、左側は水が残ってて池みたいになってるから渡れないし。

 それを見越して、不意打ちしようとしてるんた!」


 頭いいねと思わず敵をめる、素直な姫香は置いといて。かと言って、水場を渡ろうにもそこに敵が潜んでいる可能性も捨て切れない。

 隠れている岩トロルは全部で3体ほどだろうか、揃って5メートル級の巨体で強そうではある。とは言え、存在は既に護人の《心眼》でバレているので怖さは半減だ。


 それならそいつ等を倒して、堂々と沈没船に乗り込もうと発言する香多奈。問題があるとすれば、その喧騒を聞きつけて沈没船にひそむ敵が集まって来ないかどうか。

 そうなると一気に乱戦で、てんやわんやの状態になってしまう。岩トロルは頑丈そうで、簡単に始末とはなかなか行かないだろう。


 結局は、作戦として護人と姫香とルルンバちゃんで岩トロルの相手をする事に。他のメンバーは控えていて、追加の敵が出て来た時にそっちの相手をする形に。

 そんな取り決めで、まずは護人と姫香のシャベル投げから戦闘はスタート。岩に成りすましていた岩トロルは、動く事も出来ずにモロにその攻撃を喰らう破目に。


 姫香の『身体強化』込みのアタックは強烈だが、護人の『掘削』スキルでの投擲も物凄い威力。お陰で岩トロルは、反撃の機会も与えられずはやくも2体がダウンの憂き目に。

 5メートル級の獣人を、たった一撃とは揃って呆れる剛腕振りではある。ところが残った1体は、成りすましが効いてないと知るや咆哮からの反撃に転じた。


 自分も攻撃しなきゃと、果敢にも前に出ていたルルンバちゃんなのだが。思い切り裏目に出て、トロルの背後から出て来たゴーレム軍団相手に孤立する破目に。

 これは召喚技と言うより、どうやら渓谷の岩石生まれの岩トロルの仲間だったみたい。岩トロルたちの更に背後に隠れていて、何とも小憎たらしい演出である。


 しかも空からも、戦いの喧騒を聞きつけて大トンボの群れの襲来が。途端に賑やかになった周囲に、待機組も出番が来たぞと大盛り上がりで対応に向かう。

 上空の大トンボは、1ダース程度でどうやら風属性の模様。ミケさん出番だよと騒ぎ立てる香多奈だが、肝心の本猫ミケは気が乗らないよう。


 それならと茶々萌コンビが反転して、上空から迫る大トンボに対抗する構え。いや、茶々丸は『突進』し甲斐のある硬い敵を見付けて、張り切って特攻を仕掛けるつもりだったようだけど。

 萌にそれを遮られて、明らかに不服そう……とは言え、いつもみたいに脳震盪のうしんとうで目を回されても困るので、萌のナイス判断だったかも。そしてその本人は、射程の長い炎のブレスで上空の敵を一斉照射の構え。

 この炎を浴びた連中は、哀れにもぼたぼた地面に落下して行く。


「おおっ、萌ってばいつの間にあんな頼もしくなっちゃってたのっ!? レイジーのブレスより遠くに届いて凄いかもっ、さすが腐っても竜の子だけはあるねっ。

 その調子だよ、ミケさんも見倣って!」

「ミケちゃんは、どうも虫けらには興味がないみたいだね、残念。代わりに私が魔法を使うね、丁度向こうは範囲に入りそうな布陣だし。

 それにしても、トンボかぁ……帝釈峡は確か、トンボも有名なんだよね」


 そうなんだと、興味津々の末妹に紗良は説明を始めようとして。その前に敵を倒すねと、《氷雪》スキルで空を飛んでいた大トンボの群れを一斉清掃。

 目論見通り、そいつ等は萌の炎と紗良の範囲魔法で壊滅の憂き目に。安定の雑魚処理能力、まぁ大トンボの風魔法は実は結構な威力を誇っていたのだが。


 コロ助の『咆哮』で、敵のヘイトを買ってからの《防御の陣》はかなり有効だった模様。お陰で後衛陣は、敵に狙われる事なく余裕で迎撃を行えた次第である。

 そして岩トロールとゴーレムの大群を相手取っていた前衛陣も、危なげなくそいつ等の撃破に成功した。敵に接近戦に持ち込まれても、護人や姫香に動揺は全くない。


 そんな感じで、沈没船前の戦闘は何とか終了に漕ぎつけた格好に。後衛では、紗良が帝釈峡の国定公園には日本一小さなトンボがいるんだよと解説している。

 その名も“ハッチョウトンボ”と言うそうで、それなりに有名だったようなのだが。ダンジョンはその設定を拾う事無く、バカでかいトンボを用意したみたい。


 理不尽だよねぇと、それには納得の行かない様子の長女に対して。末妹の香多奈は、受け取り方はそれぞれだからねとクールな返し。

 年齢に似合わない冷めたコメントは、一体誰の影響なのかなと相手をしている紗良は苦笑い。とは言え、落ちた魔石を拾うのに忙しそうな末妹は年相応の笑顔である。


「良かった、後衛も無事に敵の襲撃を切り抜けたんだねっ。横目でチラッと見てたけど、萌の炎のブレスの威力上がってない?

 あんだけ強力なら、この前の雪山でもっと活躍出来たのに」

「文句言わないでよっ、萌には萌のペースがあるんだからっ! お姉ちゃんこそ、今回は急に視界からいなくならないでよねっ!」


 そこから始まる毎度の姉妹喧嘩だが、紗良がさり気なく両者の気をらしてくれた。つまりは、あの沈没船の中に宝箱があるかもだよと。

 それを聞いて、すぐに入ろうと皆を急き立て始める香多奈は凄く欲望に正直。姫香も喧嘩しても何の得にもならないよねと、沈没船の入り口をチェックし始める。


 ハスキー達も同じく、基本的に室内などの狭い場所は嫌いなのだけど。ゲートやら何やらを発見して、ご主人に褒めて貰うのをモチベーションに頑張る彼女達である。

 その沈没船の入り口だが、騒ぎを聞きつけた獣人の混成軍の姿がチラホラ。どうやら種族違いでも、向こうは協力してこちらに挑んで来る感じらしい。


 そんなの関係ないぜと、早くも戦いが巻き起こって茶々萌コンビはここでも元気。ショート突進を繰り返して、さっき大トンボの時に活躍出来なかったストレスを解消している。

 この辺は、別に別行動をしても構わないのだが、ハスキーの速度に萌はついて行けないのだ。そのため、最近はすっかり騎乗がお気に入りの萌である。


 茶々丸も同じく、突進のパートナーは心強くていつも一緒が良いに決まっている。何だかんだで、まだまだ仔ヤギの彼は寂しがり屋さんなのだ。

 後衛陣が手助けするまでもなく、入り口付近の戦いは数分も経たずに終焉の運びに。魚人やリザードマン数匹では、勢いのあるペット勢は止められなかった模様。


 沈没船の入り口だが、湖底に横倒しになった大穴は間違っても正規ルートではない。しかも船内は90度傾いていて、普通に進むにも苦労しそうだ。

 それでも広いスペースに、目的のゲートとか獣人の集落エリアがあるんじゃないかなとの推測に。取り敢えず入ってみようかと、半分以上お宝目当ての捜索隊は突入指示を出す。


 レイジーの『歩脚術』は、こんな場所では超便利。ツグミも器用に、忍犬らしく壁をよじ登って奥を目指している。コロ助と茶々萌コンビは、やや苦労しつつそれに続く。

 後に続く後衛陣は、うひゃあと道なき道を眺めるばかり。





 ――ちょっとしたアスレチックコースだが、果たして奥には何があるのやら?





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