第722話 県北レイド2つ目は“帝釈峡ダンジョン”が待ってる件
さて、1日ほど間が空いたとは言え、連続でのA級ダンジョンの間引きとは結構辛いミッション。それでも招かれた12チームを、長く拘束しておくのも罪ではある。
そんな訳で、2日前と同じくゲート前に朝の9時前に集合するチームの面々。半数以上がレイド作戦に慣れたメンツとあって、その行動に
そんな中で一際騒がしいのは、何と言っても来栖家チームの子供達だろうか。いや、ペット達もいるので多少騒がしくなるのは仕方が無いのだけれど。
茶々丸やコロ助は、探索前にはどうしても興奮してお行儀が悪くなるのだ。それを
それは仕方が無いと、周囲の視線が温かいのは護人としても救いではある。そんなチーム編成だけど、今回も“
メンツも全く変わらず、そして挑むのは同じくA級の“
前情報に関しては、昨日の内に家族でチェックは終わって大丈夫な筈。特に長女の紗良は、その辺に関しては抜かりなく準備を整えてくれている。
まさに縁の下の力持ち、もちろんお昼のお弁当やらポーション類の準備もバッチリだ。そんな感じで始まる2度目の県北レイド、ここもミッション内容はほぼ同じ。
つまりは間引きを夕方過ぎまで頑張って、湧いている仮定のレア種を討伐するって事のよう。しんどい内容だけど、これもA級ランク探索者の務めと子供達はヤル気満々。
もちろんそれはペット達も同じく、と言うか彼女らからすれば1日の中休みも必要無かった気も。甲斐谷の演説は簡潔に終了、まぁ探索前なのでそれも当然ではある。
そして全軍に対して、進行開始と的外れな号令が。
「香多奈っ、変な命令出してんじゃ無いわよっ、みんなに笑われてるじゃないのっ!」
「えっ、私はハスキー達に命令しただけだよっ……コロ助とかもう待てなさそうだったし、茶々丸なんかあの調子じゃ探索前に
「まぁほとほどにな、2人とも……探索前から姉妹喧嘩は控えてくれよ、今日もハードなダンジョン内の長距離移動が待ってるんだからね。
ハスキー達や茶々丸も、ダンジョン内の探索が始まったら落ち着いてくれるさ」
それは毎度の事なので、護人もさっさとダンジョンのゲートへと入る予定。と言うか、ハスキー達は既に誰よりも先行してそちらへと向かって駆けて行っている。
そして後ろを振り向いて、早く行こうよと家族を待ち構える素振り。周囲の仲間達からは、お互いに頑張ろうと温かい声が掛けられている。
それに愛想よく答える子供たち、頑張るねと一番元気な返答はもちろん末妹から。異世界+星羅チームと岩国チームとも挨拶を交わして、いざ始まる県北レイドその2である。
そしてゲートを潜った瞬間、一行の目の前に広がる紅葉の景色。
来栖家チームが周囲の紅葉した景色に見惚れている間に、他のチームは担当エリアの振り分けを終えていた。この“
人口湖の最南端にはダムが存在し、中央には神龍湖が。そして北の帝釈川の上流には白雲洞や鬼の岩窟と言う洞窟エリアが存在するそうな。
12チームの振り分けだが、まずはチームを3つに大まかに分けるとの事。その中にはA級チームが必ず含まれて、最優先で階層渡りを行ってくれとの通達が甲斐谷から。
残ったB級ランクのチームは、浅層での間引きを中心に行うって寸法らしい。確かにそのやり方は合理的で、どのチームからも反対の意見は出ず。
と言うか、前もっての作戦会議でその辺の段取りは決まっていた。そして来栖家チームの割り当ても、中央の神龍湖周辺と決まっているよと護人の言葉に。
最初の移動が少なくて、楽で良いねと香多奈の呑気な返答振り。
「でもレア種で竜とか引き当てちゃわないかな、その辺がちょっと心配かも。うわっ、お姉ちゃんってば怖い顔で
だって、モロに地名に竜って入ってるじゃんっ!」
「アンタが言うと招くから軽口を叩かないようにって、何度言っても分かんないわねっ! 本当に呆れちゃうよっ、こんな子は置いて行こうよ、護人さん」
「いやいや、それはさすがに可哀想だろう……とにかく今回の“帝釈峡ダンジョン”もA級ランクだし、みんな気を引き締めて探索しようか。
階層渡りは、以前の“
つまりは、ゲートを捜してうろつき回るか、それとも中ボス的な存在の敵を倒してゲートを湧かせるかの2択らしい。その辺の説明は、ミーティングでも聞いたし紗良もネットから情報収集済みである。
そんな訳で、この“
確かに周囲の遊歩道を含めると、かなり広くて大変さは先日の“比婆山ダンジョン”とタメを張るかも。“
そんな事を考えていると、まず岩国2チームがこちらに声をかけてロードバイクで移動して行った。『反逆同盟』も、南のダム方面へと足を運ぶとの事。
お隣さん混成チームは、逆に北の洞窟エリアへと向かうそうな。移動が楽の来栖家チームだが、その分深く潜る事はチーム内には周知済み。
頑張るよとの頼もしい返事と、それから紅葉が綺麗だねぇとの呑気な呟きも漏れ聞こえて来る。そんな“帝釈峡ダンジョン”は、子供達の言った通り秋真っ盛り。
峡谷だけあって、人口湖の周辺は切り立った崖も目立つ。その周囲を赤や黄色の紅葉が覆っていて、確かに観光するにはとっても良い所かも。
そんな軽口を叩く合間に、あの辺に敵が密集してるねと
「おっと、本当だ……あれはオーク兵の集落かな、結構な数が湖の底にいるなぁ。しかしまぁ、1層なのにこの密度は凄いな。
最初の戦闘は譲って貰えるか、他のチームに訊いてみようか」
「了解、待ってるね……ハスキー達もちょっと待つんだよ、ここは私達だけじゃないんだからね。香多奈っ、先行しないように茶々丸の手綱を持ってて」
「は~い、アンタ本当に元気だねぇ……昨日も休暇村の周りを、ハスキー達と駆け回ってたじゃん。
今日も夕方過ぎまでの間引きなんだから、ペース配分気をつけなさいよ?」
何となく姉の口振りでお説教する末妹に、姉の姫香は冷たい視線を飛ばすモノの。喧嘩は吹っ掛けずに、まぁまだ1層だもんねと感情の制御を行っている模様。
そんな感じでしばらく待っていると、残った庄原など数チームとの話し合いは簡潔についた模様。戻って来た護人は、初戦を譲って貰えたよと家族にゴーサインを出す。
そこからの勢いは、まさに決壊したダムの水流の如し……オークの集落は一部石造りで、さすが渓谷に居を構えるダンジョンである。
そんなの関係ないぜと突進する、ハスキー達&茶々萌コンビは今日も元気。こちらの接近はとうに気付かれており、後衛陣も近付きながら遠距離攻撃の準備を始める。
具体的には護人の弓矢攻撃と、それに合わせてムームーちゃんも水の槍を飛ばしてくれる。ルルンバちゃんも、魔銃の代わりに魔玉を媒体の魔法を放ち始める。
周囲は途端に騒がしくなって、オークの集落からも派手に反撃ののろしが上がり始めた。武装の整った兵士団が入り口から押し寄せ、見張り台からお返しの矢の雨が。
まるでファンタジーの戦争シーンだねぇと、ルルンバちゃんの影に隠れながら興奮した末妹の呟き。護人と紗良は防御魔法を張り巡らせながら、フォローに大忙し。
その頃の前衛陣は、姫香も加わって集落入り口で押し合いへし合いを行っていた。実際は、
そこに魔法が加わると、更に増すカオス度。
レイジーの炎のブレスで、敵の兵団の盾役たちが急激に崩れて行くのが分かった。末妹の『応援』で巨大化したコロ助は、被弾も多いけどラッシュで敵を
茶々萌コンビは、その特性を活かそうとショート突進と退避を繰り返して敵の
ツグミは影のワープで、見張り台の弓持ちオークに急襲を掛けていた。大半は後衛陣の遠距離攻撃で魔石と化していたが、これにて敵の遠隔部隊はほぼ全滅した。
安全になった後衛の香多奈から、ありがとねと感謝の言葉が戦場にこだまする。ツグミはそれには応えず、入り口に大挙している敵陣の背後から襲い掛かって行く。
これで20匹近く残っていたオーク兵は、前後からの挟み撃ちに遭った状態となってしまった。そんな訳で、最初の集落が陥没するまで10分程度しか掛からない有り様。
少し離れた場所で見学していたB級チームのメンバー達は、さぞかし驚いて見ている事だろう。そんな前衛の姫香は、魔石拾い頼んだねと末妹に言葉を残して集落内へ。
「了解っ、最初から40個以上回収出来るなんて、太っ腹のダンジョンだねぇ。これで集落の中にゲートが無かったら、骨折り損のくたびれ儲けになっちゃうけど。
あっ、集落の中にもまだ敵が潜んでいそうなのかなっ?」
「そうだね、残敵に注意しながら俺たちも一緒にゲートを捜そうか。取り敢えず譲って貰ったチームに、手だけでも振っておこうかな?
おっと、ありがとう薔薇のマントにムームーちゃん」
「あははっ、一緒に手に変化して振ってくれてるねっ♪」
何とも便利な機能の薔薇のマントと、ムームーちゃんはただ真似して面白がっているだけの可能性が。ただまぁ、向こうも手を振り返したので目的は果たせた感じ。
そうして次の層のゲート探しにシフトした来栖家チームは、先行したハスキー達に感謝しながら集落探索を始める。集落内にオーク兵はまばらで、家畜として飼われていたのか大蟹やら水馬が暴れ回っていた。
それらを片付けて進むハスキー達は、ノリノリで探索を楽しんでいる雰囲気を体現している感じ。そうして数分後には、集落の一番大きな建物内に目的の物を発見。
やったぁと素直に喜ぶ子供たち、チーム員に怪我は無さそうでまずは良かった。県北レイドの第2章を飾るには、まずまずの出だしと言えそう。
ついでにツグミが、オークの集落を漁って鑑定の書や魔玉(水)や木の実を少々ゲットしてくれていた。大喜びの末妹は、こんなのまだ序の口だよねと強欲振りを発揮している。
姫香は自分の
それを察知するも、素早く割って入って軽く
幼児に気遣われる護人だが、保護者は大変なんだよと思わず愚痴モードに突入しそうに。それをグッと
全員いるねと、チーム員の多さに確認を行うのも毎度の事。ペット達は返事が出来ないので、そのチェックを子供達が行うのもいつもの流れ。
そしてオッケーと明るい香多奈の返事と共に、来栖家チームは仲良くゲートを潜って行く。出た先はやはり人口湖である神龍湖の干上がった大地の部分。
所々に水の張った部分は残っているけど、ほぼ水は消え去って歩き回るのに支障はない。ふと一行が見上げたその先には、真っ赤な神龍橋が架かっていた。
橋を下から見上げるなんて、なかなか無いよねと末妹の呟き。
――そんな訳で、しばらくその風景を堪能する子供達であった。
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