第721話 休暇村で県北レイドの1日休みを堪能する件



 県北レイドの2日目の朝は、至って普通に何事もなくやって来た。そして前日の疲れも感じさせず、元気に早起きする姫香と香多奈の年少組である。

 それから時間を確認しつつ、地元の山の上の留守番組に電話を掛ける末妹。家畜の状態はどうと、お世話を頼んだ和香や穂積と楽しくお喋りをしている。


 一方の姫香は、ジャージに着替えて恒例の朝のマラソンに出掛ける素振り。それに追随するハスキー達&茶々丸は、やっぱり朝から元気いっぱい。

 その点は、昨日の探索で負った怪我とかの影響を引きっていなくてまずは一安心。ペット達の体調チェックは、当然ながら念入りに愛情込めて行う子供達である。


 見知らぬ土地の探索をしつつ、朝からご機嫌に駆けて行くハスキー犬と仔ヤギと少女。絵になるかはともかくとして、ひと汗掻いて30分後にキャンプ地に戻って来た一行である。

 その頃には紗良も起きており、のんびりと朝食の支度を始めていた。希望者は昨日の食堂で、簡単なモノが用意されているとの通知は来ているのだが。


 家族の食事は、なるべく用意してあげたいお母さん気質の長女である。それを嬉々として手伝う末妹は、キャンプ大好きっ娘でルルンバちゃんを手下に大忙し。

 今回もホットサンドの製造機と化した香多奈は、ご機嫌に火の前を陣取っている。具を詰め込み過ぎて失敗した奴は、姫香用に取っておこうなどと呟きつつ。


 やっぱり起きて来た人を掴まえては、朝食の席に強引に招いてとっても楽しそう。朝のマラソンから戻って来た姉にも、同じくサービスだよと形の崩れたホットサンドを配膳する。

 それを文句を言わず、ハスキー達と分け合って食べる姫香もちょっと楽しそう。基本的に、姫香も家族でのキャンプは大好きみたい。

 いつもの喧嘩も怒らず、キャンプ場はホッコリした雰囲気。


「あっ、ようやく護人さんとムッターシャも起きて来たみたい……香多奈、新しいホットサンドはもう焼けてる?」

「もうちょっとかな、紗良お姉ちゃんの方は出来てる?」

「大丈夫だよ、コーヒーを淹れてあげて、香多奈ちゃん」


 そんな子供達の甲斐々々しいお持て成しを受け、男性陣も朝食を食べ終える。それから護人による、今日この休暇村でやる事の確認作業など。

 とは言っても、リーダー会議は護人と土屋女史で出れば良いし、後は休暇の日と定まっているのだ。昨日の探索の疲れを癒すのが、今日の最大の目的とも言える。


 それでも協会の告知では、企業の移動販売車が午後に寄ってくれるとの事。庄原市の協会も、魔石の買い取りやポーションや消耗品の配布を行うそうだ。

 それなら午後からはやる事あるねと、子供達も会議に混じって茶々入れに忙しい。魔法アイテムのチェックは、私と妖精ちゃんでやっておきますねと紗良も発言を行っている。


 昨日の儲けは凄かったよねと、香多奈も回収品の良を思い出して興奮している模様だ。確かに凄かったし、過去最高かもねとは姫香の弁。

 協会の魔石買い取りは、食堂横で朝の10時位から始まるそう。何しろ12チームも参加しているので、混雑しない時間に行こうねと子供達の計画に抜かりは無さそう。


 その辺は全部任せても良いかなの護人の言葉に、任せておいてとの元気な返事が。ペット達は簡易陣地で休んでいれば良いし、これで1日の計画はほぼ決まった。

 後は換金や魔法アイテムのチェックをしながら、明日の探索に備えるべし。




 そして朝食も全員食べ終わった来栖家のキャンピングカー内では、紗良と妖精ちゃんによる鑑定大会が終了の運びに。今回は多かったねと、ずっと見ていた末妹も満足そう。

 その言葉の通り、今回は素材や宝珠を含めてかなり多かった。



【ヒバゴンの毛皮】使用効果:氷耐性&物理防御up・皮素材×3

【氷凍の大斧】装備効果:凍結&筋力up&鋭刃・中

【氷結の鎧】装備効果:氷耐性&物理耐性up&着脱・中

【氷結の短剣】装備効果:凍結&鋭刃・小

【太古の王の剣】装備効果:光属性&不折&鋭刃・大

【死霊王のマント】装備効果:闇属性&自動防御&能力吸収・特大

【死霊王の杖】装備効果:魔力up&魔法攻撃up&魔力回復・特大

【死霊王の頭蓋骨】使用効果:血涙&発狂&呪い・永続

【ヒヒイロカネインゴット】使用効果:全耐性&神秘属性・鉱石素材×5

【氷鉱石のインゴット】使用効果:氷耐性&硬化付与・鉱石素材×5

【魔法のコンパス】使用効果:ダンジョン内深層指示・中

【魔法の地図】使用効果:ダンジョン内マップ作製・中×10

【雪結晶のイヤリング】装備効果:氷耐性&魔力回復・中

【雪竜の鱗マント】装備効果:氷属性&耐性up&能力値up・特大

【属性の宝珠】使用効果:使用者はスキル《氷砕》を習得


その他:『強化の巻物』(氷耐性)×2、『強化の巻物』(攻撃)×2、『雪竜の鱗』×8、『雪竜の爪』×4『雪竜の牙』×2




 素材系は『ヒバゴンの毛皮』『氷鉱石のインゴット』や『ヒヒイロカネインゴット』と、見た事のないモノばかり。中ボスはやっぱりヒバゴンだったらしく、あの刃を通さない毛皮素材は良い防具になりそう。

 インゴット系は、氷耐性の『氷鉱石のインゴット』は用途が分かりやすいのだが。『ヒヒイロカネインゴット』に関しては、神秘属性などとちょっと意味不明かも。


 9層の“冥界エリア”の回収品に関しては、死霊系の装備は一級品ばかりで良い感じ。呪いの品が混じっていても、まぁ許せるかなとは香多奈の弁。

 宝珠《氷砕》の使用者については、またあとでゆっくりと決める事に。たくさん出たスキル書とオーブ珠の相性チェックも、今日中にするかは不明である。


 そして一番楽しそうな『魔法のコンパス』と『魔法の地図』は、どうやらダンジョン内のマップ作成と階段の場所を指し示す機能付きみたい。

 宝箱を示す機能は無かったけど、これは楽しいかもと香多奈は新しい玩具オモチャをゲットしたって表情。魔法アイテムをオモチャ代わりは、妖精ちゃんの流派ならではなのかも?


 それをダメだよと目で制す紗良だが、護人と同じく強くたしなめられない気質の持ち主。それでも宝珠をパクろうとする妖精ちゃんから、何とかそれを奪い返して魔法の鞄へ仕舞い込むのには成功した。

 本当に、家族の中に手癖が悪い者が多いと苦労する……そんな事をしている内に、キャンプ場は段々と他の探索者の姿で賑わいを見せ始めた。


 ザジの姿を見付けた香多奈は、気安く声を掛けて動画の見せ合いっこを提案する。そこから始まる、岩国チームも交えた野外視聴会は大変な賑わいよう。

 探索は数時間に及ぶので、雑魚戦は基本的に早回しなのだけど。家から持って来た大型モニターの前には、かれこれ10人以上の探索者がひしめいて視聴する流れに。


 異世界+星羅チームも、中ボス戦や“冥界エリア”では熾烈な戦いを繰り広げていたようだ。ムッターシャやザジの戦い振りは、余りに敵を楽にほふり過ぎて逆に凄さが分かり辛くなっている気も。

 その点、リリアラの攻撃魔法はとっても派手で観ていて分かりやすいったらない。土屋や柊木も、敵の多いエリアでは活躍していて存在感を発揮していた。


 ただし、やっぱりズブガジの存在感は別格と言う他ない感じ。岩国チームも、あんな(殺戮)兵器が欲しいなぁって目でモニターを眺めている。

 それが終わって、今度は来栖家チームの動画を観ようとの話になると。紗良はさり気なく席を立って、昼食の下ごしらえを始める素振り。

 とは言っても、キャンプの昼食はバーベキューと決まっているけど。


 素材も昨日、ダンジョン内で回収したワイバーン肉とタケノコがある。それを元に、ステーキとか筍の素焼きで充分だろう。ワイルドなのが野外での食事の醍醐味、デザートに桃と野ブドウもあるし。

 ご飯を欲しがる人も多いので、お米は多めに焚いても大丈夫な筈。そんな事をしていると、姫香や星羅がお昼の準備を手伝おうとやって来てくれた。


 そこからは、お肉を焼く準備をしたり桃をカットして並べたり。焚き上がったお米でお握りを作っていたら、あっという間にお昼になっていた。

 そこからは、皆がキャンプ気分を味わいながらの昼食会が始まった。ホスト役の筈の護人だが、ミケとムームーちゃんに膝の上を占領されて椅子から動けず。


 その為、バーベキューコーナーはほぼ姫香と星羅で切り盛りする流れに。幸いお肉の差し入れが、岩国チームからもあって素材に困る事は無さげ。

 ハスキー達も、毎度の如くしっかりと分厚いお肉を確保に成功して満足気。他のキャンプ拠点でも、ここまで騒がしくは無いけど昼食の火おこしは始まっていた。

 県北レイドの休暇日は、そんな感じでまったりムード。



「おっと、そろそろリーダー会議の時間じゃないかな……そう言えば、来栖家チームはもう換金に行ったのかい? 協会の換金受け付け、とっくに始まってるよ。

 それから企業の販売車も、入り口に停まってた気がしたけどな」

「おっと、そうなのか……護人リーダー、一緒に行こうか。しかし来栖家のドロップ運は、相変わらず羨ましくなるレベルだったな。

 スキル書にオーブ珠、合計で幾つドロップしてた?」

「オマケにレア種のドラゴンから、宝珠のドロップっスもんねぇ……ミケちゃん、ちょっと触らせて貰えないっスか?」


 護人が起き上がったせいで睡眠を邪魔されたミケは、不機嫌モードでさっさとキャンピングカーへと引っ込んで行ってしまった。振られた柊木は寂しそう、土屋は護人とリーダー会議へと赴いて行く。

 その去り際に魔石の換金を仰せつかった紗良は、姫香を護衛に向かう事に。昼食の片付けは、せめてそれ位はと岩国チームの男衆に取られてしまったのだ。


 時間がズレたのが良かったのか、換金コーナーは待つ事無く利用が可能だった。紗良は昨日の戦果を、申し訳なさそうな表情で協会の職員に提出する。

 何しろA級ダンジョンの魔石の稼ぎは、さすがに並では無かった。日馬桜町の協会支部では、きっと泣かれて現金がありませんと言われるレベル。


 ところがこの出張買い取りは、そんな事態は織り込み済みだったようで。あらかじめ全額振り込みになりますと、先に言われて何となく肩透かしの気分を味わう姉妹である。

 ただし、やっぱりその額はどのチームよりかなり多かったのが判明……ポーション販売込みで、400万円オーバーは来栖家チームのみだと呆れられる始末。


 実は魔法の鞄内には、魔石(特大)が1個に魔結晶(大)が5個入っているとはとても言えない紗良である。これを売りに出せば、+300万円の儲けが出てしまう。

 大きい魔石は、強化の巻物の錬金に使うのがすっかり身についた来栖家の台所事情である。紗良とリリアラで錬金術の実験もするので、家には常に魔石のストックもあるのだ。


 とにかく来栖家の魔石の販売は、これで全てとなった次第。協会のスタッフには、依頼料は地元の協会から受け取って下さいと説明を受けて終了の運びに。

 儲かったねぇとホクホク顔の姫香は、午後をどうやって過ごそうかを思案中の模様。お昼もガッツリ食べたし、少し運動しようかなと飽くまでアグレッシブな少女である。


 結果、先日の約束を思い出して岩国チームにロードバイクを借りに行く事に。それに香多奈も一緒に行くと言い出して、土屋女史やザジも面白そうだと追従する事態に。

 バイクに乗った事があるのは、このメンバーでは土屋女史だけである。ヘンリーや鈴木にレクチャーを受けながら、操縦法を学ぶ姫香やザジは楽しそう。


 最終的には、30分後にはハスキー達や茶々丸に並走されながら、キャンプ場を自在に走れるように。ザジはさすがの運動能力、それに負けない姫香もなかなかのモノ。

 姉の後ろに乗っかる香多奈も、キャーキャー言いながら荒い運転を楽しんでる。





 ――こうして、レイドの合間の休息日を存分に楽しむ来栖家であった。






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