第718話 お待ちかねの雪原のレア種と遭遇する件



 さっきの炎の攻撃は良かったよと、ペット達を褒める香多奈は上機嫌。何しろ中ボスの“狂った雪の精霊”が、魔石(大)とオーブ珠をドロップしてくれたのだ。

 このダンジョン内で、魔石(大)は既に2個目で50万円以上の儲けである。オーブ珠に至っては、何と4つ目でこれは誰か新スキルを覚えるんじゃとはしゃぐ末妹。


 そんな都合良くとは、誰も言えない少女の予知能力は、良い事に限ればまぁ目をつむっても良いかも。悪い状況をバンバン言われるよりは、ダメージは少ないのは確かなので。

 それより設置されていた宝箱にも、高級な薬品類やインゴットが割とたくさん入っていた。魔玉(氷)や強化の巻物も出て来て、後は防寒具や冬物グッズが少々。


 妖精ちゃん的に当たりなのは、底の方に置いてあったコンパスと紙のはさんであるボードらしい。どちらも魔法の品だそうで、コンパスは面白いねと浮かれる末妹。

 何しろこのダンジョンで、散々に使い方を習ったアイテムである。お宝の場所を指し示してくれないかなと、香多奈は夢見心地で出て来た品を眺めている。


 後は目立った品は特に無く、休憩しながらやっぱり上がるのは次に進むか否かの議題。ハスキー達はまだまだヤル気満々で、子供達はまだ1時間ほど余裕があるよとこっちもヤル気をアピール。

 そんな訳で、午後の6時に掛かるまでは取り敢えず進む方向に。


「そうと決まれば、もう少し頑張るよハスキー達っ! 多分だけど、次の層くらいにはバッチリと目的のレア種が出て来る筈だからねっ。

 そいつを狩って、胸を張ってキャンプ地に帰ろうっ!」

「あらっ、香多奈の見立てじゃ次の層にいきなりレア種なんだ……どうせ氷属性なんだろうから、炎の攻撃が出来る子達は頑張るんだよっ!

 しっかし、ムームーちゃんも可能だと攻撃の幅も広がるかもね?」


 確かにそうかもと、軟体生物にも頑張るんだよとハッパをかける末妹である。そして休憩も終わって、新たな決意で11層へと挑む来栖家チームの面々。

 そこは相変わらずの雪景色だが、再び緩い登りになっていた。とは言え、相変わらず谷側の斜面は急で、落ちたら大変な事になりそう。


 相変わらず手元にある地図を確認した紗良は、チェックポイントが4つに増えてますねと家族に報告。1つずつ増えるポイントは、末妹からすれば報酬が増えてラッキーって事でもある。

 そして地図の指し示す方向へと、毎度のフォーメーションで向かう一行。その行く手を阻むのは、相変わらずの氷属性の敵の群れだった。


 この11層からは、ヒバゴンとは無関係の毛深いずんぐりとした猿型の獣人が多く出没して来た。そいつ等は、主に棍棒を使うけど弓矢持ちも半分くらいいる様子。

 それからスノーマンも、待ち伏せタイプが引き続き厄介で警戒する後衛陣。ついでに別タイプの、雪玉を投げて来るスノーマンも出現するようになって来た。

 この雪玉も、速度が半端なくて当たると痛いでは済みそうにない。


 それをひゃあっと悲鳴をあげながら、避ける仕草の末妹はまるで雪合戦を楽しんでるよう。隣の紗良は割と必死で、顔を蒼褪めてしゃがみこんでいる。

 ここでも炎の部隊は大活躍して、萌もなかなか堂々としたモノ。心なしか威力も増しており、さすが《経験値up》と竜種の設定は伊達ではない。


 2本の炎属性の剣も有効活用されて、MP消費に大いに役立ってくれている。その辺のハスキー達の探索スタイルは、さすがと称賛するレベル。

 他にも雪狼の群れや、それに雪豹が混じっていたりとモンスターの数や種類は結構豊富。この層は、間違ってもレア種の出てる来る気配は無いねと、じっとりした視線で末妹をにらむ姫香である。


 その当人はれっとした表情で、そう言う事もあるよと華麗にスルー。姉妹喧嘩が起こらずホッとする護人だが、この11層は雑魚処理もかなりのハードモードである。

 その代わり、チェックポイントの間隔は平均0.3キロで、少し歩けば次が見付かる感じ。ただし難易度は上がっており、フェイクや隠し位置も工夫がみられるように。


 一度など、大きな木のうろの中に隠されており、見付けた姫香は呆れ顔。偽物が2つも配置されてるポイントも出て来たり、茶々丸などは翻弄されっぱなしである。

 報酬が豪華になっているのは、せめてもの配慮だろうか。中級エリクサー1000mlとか金インゴット&ミスリルインゴットのセットとか、換金したらそれぞれ数百万である。


「ほらねっ、苦労した甲斐は充分にあったでしょ、お姉ちゃん。文句言ってばかりじゃ、ミケさんがくれた運も逃げちゃうよっ!」

「ミケはそんな事で私達の事を見離したりしないわよ、バカ香多奈。護人さん、時間的に次の12層クリアでお終いな感じかなぁ?」

「そうだね、もうすぐ6時だし間引き任務は充分に果たせたかな? レア種っぽい強敵も倒せたし、それで良い事にして貰おう」


 そんな護人の呟きは、気が早かった事が11層ゴールのゲートを潜った後に判明した。いつものように勇んで先行するハスキー達だが、何の障害にも遭遇せずに最初のポイントに到達。

 強化したスノーマンの襲撃に怯えていた後衛陣は、揃ってアレッと言う表情に。その目は積もった山肌の雪ばかりを見ていたのだが、やがて少しずつ視線が上昇して行く。

 そして、視界に映る飛行物を見付けたのは恐らく全員同じタイミングだった。




 白いドラゴンは綺麗かもと、香多奈の呟きは不謹慎には違いないけれど。家族もそう思っていたので、敢えて批難されずにスルーの運びに。

 それより戦える広い場所を陣取るぞと、リーダーの護人の意見はとっても建設的。それに従って、近くのくぼんだ形の谷地を見付けて移動するハスキー軍団。


 その移動が、或いは上空の白竜の気を惹いたのかも知れない。それとも雪竜と表現すべきか、その鱗は見る角度によっては雪の結晶のよう。

 確実にレア種のこの敵と、遣り合うのは敵の有利な雪原である。選んだ窪地は、そこそこ広くて滑落の危険は無いけど、積雪のせいで俊敏な移動は難しいかも。


「くそっ、雪が意外と深いな……みんな、敵の弱点の炎の攻撃で弱らせて行こうか。飛ばれたら厄介だし、まずは翼を破壊して動きを制限するぞ!」

「ブレスも確実に吐いて来るよねっ、後衛陣は気を付けてっ! 前衛陣は、多分だけど尻尾のブン回しとかもあるよっ!」

「ひゃあっ、大きいねぇ……ウチのチーム、ドラゴンって何匹目だっけ? 頑張って倒して、みんなに竜を倒したって自慢するよっ!」


 香多奈の戯言ざれごとはともかくとして、護人や姫香の忠告はちゃんとペット達にも伝わった様子。レイジーや萌のブレス攻撃で、体積の多い白い竜の翼がまずは標的に。

 ルルンバちゃんも遠慮なく炎の魔法をぶっ放して、巨体の竜は先手を取られて怯みまくり。香多奈も必死に『応援』を飛ばして、前衛のサポートに余念がない。


 来栖家チームの先制打に苦しむレア種のドラゴンだが、体力はまだまだたっぷりある模様。反撃の尻尾撃は、しかしハスキー達は華麗に避けてまずはセーフ。

 茶々丸の挙動が少し怪しかったが、地面が雪原なので仕方が無い。調子に乗って暴れ始める雪竜の、次なる必殺技はやはりブレスだった。


 それは凍える程の吐息で、さすが竜種のブレスの威力は半端ではない。中ボスの猿人も氷の吐息を吐いていたが、その遥か上を行くレベルである。

 後衛陣は、紗良が咄嗟に《結界》を張って何とかセーフ……前衛陣は、さすがに全員が無事とは行かずに約半数が被弾してしまった。特に茶々丸と萌は、途端に動きを鈍らせピンチ。


 その報告が家族内に飛び交って、後衛陣がフォローに行くよとさすがのチームワーク。それに応じて、ルルンバちゃんに騎乗した紗良と香多奈が救助に駆けつける。

 すかさず炎のブレスの煙幕を張って、タゲ取りフォローをするレイジーはさすが。護人も飛行モードで、敵の上空を取っての制圧へと参加して行く。


 ミケもいい加減イラついているようで、こいつめと言う視線を巨大な敵へと向けている。ただし、雷龍を召喚する程には、まだ怒りゲージは溜まっていない模様。

 たまに『雷槌』が、白竜のチロチロ動く尻尾に命中するのみ。


「もうっ、ミケさんったら敵の尻尾に雷当てて遊んでるよっ。こっちは茶々萌コンビがダウン取られてピンチなんだよ、ちゃんとしてっ!」

「ミケちゃん……なんて」


 何てステキな生き物なのと、思わず笑いそうになった紗良だけど。香多奈は本気で怒っているようで、その気持ちも分からなくもない。

 治療に励む紗良の向こうでは、護衛役のルルンバちゃん超しに今にも飛び立とうとする雪竜の姿が。その巨体な容姿だが、雪原に反映してとっても美しかった。


 ところが来栖家チームの前衛陣は、敵に対して全く容赦がない。まずはムームーちゃんのブレスが、羽ばたこうとする敵の鼻面を抑え込む。

 続いてミケの『雷槌』と《刹刃》が、白竜の片翼を派手に切り裂いた。ハスキー達と違って、群れで狩りをする習慣のないミケは手出しも気分次第なのだ。


 家族愛は強いけど、どっちかと言えばスパルタのミケは、子供達が戦って経験値を得なさいってスタイル。余程ブチ切れてないと、自分で止めを刺す事は無い良心的(?)な母猫である。

 それでも、白竜の片翼を潰してくれたのはチーム的にもとても有り難い。


「よしっ、何とか作戦通りに片方の翼を潰せたぞっ……後は巨体に気をつけながら、各部位を削って行こう!」

「了解、護人さんっ……ツグミ、私達はもう片方の翼を破壊するよっ!」

「みんな、頑張って! 近付き過ぎて、押し潰されないようにねっ!」


 香多奈の物騒な助言はともかく、慣れた感じでの竜退治はさすが来栖家チームである。ミケのラッキーな横槍があったにしろ、こんな短期間でこちらのペースに持ち込めるとは。

 レイジーも茶々萌コンビを率いて、姫香たちとは反対方向へと回り込む素振り。周囲を動き回られて、雪竜もいい加減イラ付きが我慢の限界に達した模様。


 酷い騒音レベルの咆哮技の顛末は、何と周囲の山々からの雪崩だった。さすがドラゴンと、驚きながら逃げまどう面々だが幸いここは山の頂上付近。

 雪崩の規模も大事にならず、各々の防御スキルで対処出来てしまった。


 そこからは、来栖家チームの反撃の炎の四重奏……規模と言うか見た目の酷さは、こちらの方が上だった気も。ムームーちゃんも、張り切ってこの炎の饗宴に参加を決め込む。

 ダウンを強引に奪ってからの、姫香やツグミの斬撃もかなり酷かった。翼どころか首筋にも大きなダメージを与えて、哀れな雪竜はこの時点でグロッキー状態に。


 その後は、敵の膨大な体力を安全を確保しながら削って行く作業。雪崩に半分埋まったルルンバちゃんも、無事に脱出して最後の追い込みのお手伝い。

 必殺のレーザー砲を失って、派手な戦果をあげにくくなったのは確かにあるけど。やっぱり安定の火力を有して、縁の下の力持ちの彼は家族チームには必要な存在である。

 今回もバッチリ、雪崩を食い止める防波堤ぼうはてい役も含めて大活躍のAIロボ。



「やった、魔石は一番大きいのドロップしたかな……後は素材系と、やっつけた瞬間に宝箱が出現したねっ!」

「そうだな、金色だから中身も期待していいかもな」


 護人の返答に、大はしゃぎの香多奈は激しい戦闘で地形が変わった窪地で喜びのポーズ。ツグミが近付いて、隣の姫香に罠も鍵も無いよと教えてくれた。

 その中からは、白い竜の鱗や牙が割とたくさん。そんな素材に混じって、魔結晶(大)が5個に薬品類も豪華な瓶に入って並んでいた。


 それから氷属性のインゴットや、宝石に混じって装飾品も少々。宝石はやっぱり、白系統の上品なモノが多いみたい。装飾品の中には、魔法のアイテムも混じっているナと妖精ちゃんが確定をくれた。

 それから最後に、見事な輝きを発する宝珠が1個。





 ――努力の甲斐はあったねと、これで家族全員笑顔で帰路につけそう。






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