第716話 不死身の悪霊相手にとっても手古摺る件
来栖家の力関係的に、年下の方が発言力が強いのはいつもの流れである。そんな訳で、この仕掛けを発動させる事が末妹の我が儘によって決定した。
姫香もノリノリで、紗良に魔法を撃ち込む準備をお願いしての罠の発動に踏み切る。取り敢えずは間引き目的での探索なので、まぁこんな討伐もアリなのだろう。
そう自分に言い聞かせる護人は、実はさっきから嫌な予感がヒシヒシ。長女の紗良も、恐らくは危険察知がマックスに発動しているような顔色である。
それでも年少組の勢いによって、いざ開始される“冥界エリア”の推定悪霊退治ミッション。思えば、急に敵の数が減ったのもこの仕掛けに誘い込む布石だったのかも。
そう思った時には、既に姫香が石棺の上のポイントに触れていた。そして例の如く、周囲がより一層薄暗くなって、天候の悪化に伴って雷鳴が
演出過多な気もするが、構える来栖家チームの前に出現したのはたった1体の亡霊だった。石棺が派手な音を立てて真っ二つに割れて、古風な着物を着たミイラが出現する。
ミイラの手には見事な飾りの杖を握られており、恐らくは術者ベースの亡霊だと思われる。お供はナシかなと香多奈が口を開いた途端、そのミイラの背後に暗黒のドームが。
そこから這い出て来る、巨大な蛇のゾンビ&ラミアのスケルトン軍団。
「うわっ、部下を呼び寄せたよ、あの棺から出て来たミイラ! かなり強そうだね、さすが冥界エリアの仕掛けだよっ。
部下のあの骨、ひょっとして元はラミア?」
「そうみたい、ゾンビの蛇も巨大だ……ってか、あれってヒドラじゃんっ! 凄いね、この罰ゲームはレア種並みかもしれないよっ、護人さんっ」
「悲しい事にそのようだな、みんな気を引き締めて行こう……紗良、最初に敵が
了解しましたと、紗良の《浄化》スキルが敵の大将のミイラを中心に輝きを放つ。ところが敵も
それでもダメージは入っているようで、前へと進み出たレイジーの炎のブレスでラミア軍の3体が砕け散ってくれた。そのお返しにと、棺のミイラが杖を振りかざす。
そこからの顛末だが、まさに全員が突如として出現した闇色の暴風に
両者とも立派な毛皮が雷の熱に焼けただれて、皮膚が赤く染まっている有り様。絶叫する香多奈や後衛陣は、そこまで被害は無かった様子。
それでも暴風に吹き飛ばされて、チームは薄暗闇のエリアでばらばらになってしまった。そこに襲い掛かる、続けて召喚されたゾンビ&スケルトン軍。
こちらは10人程度が4セットで、土の中から這い出ると言う演出付き。それでも、てんでバラバラに吹き飛んだ来栖家チームにとっては、ド肝を抜かれる召喚である。
ゾンビヒドラとラミアのスケルトン軍も、まだ健在でボスの術者を護る配置についている。雷鳴はなおも轟いており、ここまで劣勢なのは久し振りな面々である。
皆と同じく暴風に転がされた護人は、素早く膝立ちになって家族の位置を把握する。茶々萌コンビやツグミは、既に近付いて来た死霊軍と乱戦に突入している模様。
後衛陣は幸いにも、ボスのミイラ死霊とは随分と離れた場所に飛ばされていた。紗良と香多奈もようやく起き上がって、怪我はないよと手を振ってくれている。
そこに良い獲物を見付けたと、忍び寄るゾンビ&スケルトン軍10体編成チーム。咄嗟に護人は、紗良に《結界》を張るようにと指示を飛ばす。
末妹の香多奈は、果敢にも浄化ポーションの入った水鉄砲を構えて姉を護る構え。生意気な奴めと、上空の暗い雲から漆黒の雷が紗良と香多奈を目掛けて落ちて来る。
悲鳴をあげて必死に《結界》を支える紗良は、これは自分が標的になっていると確信する。どうやら先ほど《浄化》スキルで攻撃されたのを、敵ボスはかなり根に持っているようだ。
それ以上に怒り心頭な生物が、実は紗良の肩の上にいた。転がりながらも何とか同じ位置をキープしていた来栖家のエースは、腹立ち紛れに前方の軍勢に『雷槌』を放つ。
こちらは安定の白刃の雷で、敵の放つ黒雷とは性質が全く違うよう。それを喰らって、面白い程バタバタ倒れて行く召喚されたゾンビ&スケルトン軍。
それを見た末妹も、調子に乗って水鉄砲で攻撃をかましているのはともかくとして。どうやら後衛の2人に関しては、《結界》内にいれば安心のよう。
何しろ怒れるミケは、ドラゴンも
後は敵のボスの興味を、後衛陣から外せば安全は確保出来そう。
「紗良と香多奈は、その場で《結界》キープで待機していてくれっ。ミケっ、2人を頼んだよ……こっちは何とか、ボスの気をこっちに
「了解しました、気を付けてくださいっ!」
「あっ、姫香お姉ちゃんっ、私達はこっちだよっ! 紗良お姉ちゃんっ、姫香お姉ちゃんがレイジーとコロ助をこっちに連れて来てくれてるっ!」
姫香も暴風に吹き飛ばされたけど、幸いにもダメージは軽微で済んだみたい。自分でポーションを飲んで処置を済ませた彼女は、怪我をしたハスキー達を抱えて退避している途中。
予備のポーションをぶっ掛けて、2匹とも一応の処理は済ませているようだけど。一刻も早い治療をと、姫香は《剣姫召喚》を発動させての奮闘中みたいである。
ちなみに分身体は、追い掛けて来る死霊軍を相手に戦闘を繰り広げていた。10体以上の敵軍に対して、何とも剛腕な分身体である。
或いは本体なのかも、《舞姫》や《豪風》も発動してゾンビやスケルトンを蹴散らしている。その活躍を見ながら、護人は敵のボスへと接近を試みる。
相変わらず召喚した兵力を抑え込んでる、ツグミと茶々萌コンビはまだ健在の様で心配無さそう。それよりも、その重さのせいでほぼ飛ばされなかったルルンバちゃんの位置が酷い。
何とボスのミイラの真正面で、あわやゾンビヒドラに呑み込まれそうに。
反撃してとの護人の叫びに、すかさず反応する素直なAIロボ。左手の魔術を行使しつつも、対面している敵が多いとみて切り札の実行に踏み切る彼である。
今までコストが悪過ぎると、主に末妹によって封印させられていたのだが。ここは使い時だと、『殺戮のバルカン砲』を魔法の収納から取り出して、《合体》スキルで強引にボディにセットする。
ヒドラの接近より先に、必殺の
その背後に鎮座していたスケルトンラミア軍も、この魔法の銃撃を受けて半分近くが破壊されて行く。何と言う破壊力、そしてこの兵器は場の空気が一変する力も持ち合わせていた模様。
その背後では、プッツンしたミケが《昇龍》を発動して黒雷を完全無効化していた。攻撃も防御もカバーする雷龍は、今や側にいたゾンビ&スケルトン軍を撃破済み。
とんだ剛腕は、ルルンバちゃんの必殺技に劣らず凄い。末妹の推せ押せ~との声援が、ようやく戦場に響き渡り始めて来栖家のペースは確定したっぽい。
今やすっかり召喚した部下を失ったボス術者ミイラは、なおも新たに死霊の兵団を召喚中だった。それを遮るように、護人は『ヴィブラニウムの神剣』を手に斬りかかる。
今や護衛のスケルトンラミアは、数える程でルルンバちゃんもサポートに突進して来てくれていた。その勢いのまま、護人と敵の死霊ポストの距離は縮まって行く。
最後の悪
その途端、ミイラの絶叫と共に周囲に漂っていた暗闇も真っ二つに割れて行った。元の薄暗闇すら
石棺から出現したボス怨霊の消滅によって、召喚された雑魚敵も全て消え去ってくれたよう。護人はホッと一息つきながら、チーム員の安否を確認する。
と言うか、大怪我を負ったレイジーとコロ助がまず心配ではある。孤軍奮闘を続けていたツグミや茶々萌も、少なくない傷を負っているみたいだ。
「みんな、自分で歩けるかい? いったん紗良の所に集合しようか、それから治療を受けよう……うわっ、茶々丸もかなり怪我してるな。
萌、歩くの手伝ってあげなさい」
「みんな、こっちだよっ……叔父さんっ、レイジーとコロ助の治療は紗良お姉ちゃんがバッチリ治療してくれたよっ! わっ、茶々丸とツグミも怪我しちゃってる。
強い敵がわんさか出て来たし、本当にビックリだったよねぇ!」
「反省はしないのね、香多奈ってば……まぁ、無理やり罠を発動させて、怪我させちゃってゴメンねみんなっ。
ツグミも大丈夫かな、怪我は結構酷い?」
幸いにもツグミの怪我は、レイジーとコロ助程では無いみたい。紗良がすぐに駆け寄って、『回復』スキルを発動させ始める。茶々丸に関しては、萌が支えて近付いて来たのを末妹がポーションぶっかけての応急処置。
乱暴に見えるが、茶々丸は嬉しそう……相棒の萌も安心したように、喉を鳴らして良かったねと話し合っている様子。このコンビは、普段から何気に仲が良くてホッコリする。
後衛陣に関しては、皆の治療を進めながら荒ぶるミケを
仕舞いには護人が抱え上げて、よしよしと子供をあやす仕草。
そんな感じで、何とかチームの怪我治療も終わって一息ついた面々。そうなると、興味が向くのは当然の如く報酬に他ならない子供達である。
宝箱はどこだと、敵の出現&討伐地点をうろつき回って捜索してみると。例の石棺の中に、ギッシリと敷き詰められている魔結晶が目に飛び込んで来た。
それを発見して、やったぁと飛び上がって喜ぶ香多奈である。その騒ぎに釣られて、治療を終えたハスキー達も半分埋もれた棺を覗き込む。
ちなみに敵のドロップだが、ボス死霊からは魔石(大)とオーブ珠がドロップ。他にもゾンビヒドラやスケルトンラミアは軒並み大き目の魔石を落としてくれた。
スキル書も2つ落ちていて、このダンジョンで既に5個目である。オーブ珠も3個目で、儲けを考えるとウハウハな感じかも。
しかも石棺の中には、魔結晶(中)が10個に魔結晶(小)が40個くらい敷かれてあった。それを見た末妹は、目を円のマークにして有頂天に。
隣のコロ助に抱きついて、アンタも頑張ったよねと今更ながらに
ついでに立派な杖とか
埋葬品とかは下手に持って帰った危ないよと、紗良の忠告はごもっとも。それよりさっきの死霊ボスは、レア種だったのかなと子供達の疑問の声が。
護人にも分からないが、そうなら10層を終えた区切りでさっさと探索を終える案が浮上して来る。ところがハスキー達は、傷付けられた事で逆に闘志に火がついた模様。
もう1体くらいは強い奴と戦うんだと、リベンジに瞳を燃やしている。
「仕方が無い、取り敢えず10層をクリアして次に進むかは考えようか」
「了解、護人さん……まぁ、時間はまだ4時過ぎだから、余裕があるのは確かなんだよね」
「今日はずいぶん稼いだからなぁ、私としてはもう探索終わらせてもいいんだけどさ。ハスキー達がまだ頑張るって言うんなら、仕方ないから付き合ってあげようよ。
5時か6時までなんでしょ、ギリギリまで探索しようっ!」
――そんな訳で、県北レイドの初日は引き続きハードになりそう。
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