第715話 雪の仕掛けを突破して2度目の“冥界エリア”に挑む件



 家族が大慌てしている間に、既にレイジーは『炎のランプ』を用意して炎の軍団をせっせと大量生産していた。それに気付いた萌とルルンバちゃんが、自分の炎を追加で捧げている。

 雪崩の真上を飛行中の護人は、何とか《心眼》で姫香の位置を特定する。A級探索者の姫香は、レベルの恩恵や『身体強化』スキルで簡単には死なない筈。


 それを信じて、護人は仲間に救出作業を始めるぞと口にしようとしたその瞬間。ただならぬ殺気が真下から発されて、思わず《堅牢の陣》を周囲に展開する。

 その判断は間違っていなかったようで、凄まじい衝撃が飛行中の護人に襲い掛かって来た。悲鳴をあげたのは、それを尾根から見ていた紗良と香多奈だっただろうか。


 それは巨大な雪で出来たてのひらで、潰されそうになった護人は大慌てでその場から退避。続いての強烈な咆哮で、周囲に次々と雪崩が発生すると言う大ハプニングが。

 それがこの上半身だけの巨大スノーマンの身体に吸収されて行く。その大きさは軽く10メートル超え、下半身が出来たら更に倍になりそうな気配。


 そんな奴より、生き埋めになった姫香が心配な面々は、そこをどけよと巨大な敵に塩対応。いや、確かに塩を撒けば雪は溶けてくれるけど。

 ペット達の共同作の炎の大鳥軍団は、なおも咆哮を続ける巨大スノーマンに果敢に特攻をかけて行く。敵にHPの概念があるかは不明だけど、蒸発した雪がもうもうと蒸気になって行く。


「えっ、姫香お姉ちゃんはどこっ? レイジー、味方を突っ込ませるのは良いけど、お姉ちゃんがあの中にいるんだからねっ!」

「うわっ、水蒸気が立ち上がってどんどん視界が悪くなるねぇ……姫香ちゃん大丈夫かな、どうやって助けたらいいのっ?」


 混乱する香多奈と紗良だけど、姫香の姿は大量の雪と水蒸気に隠れて窺えず。慌てているのは護人も同じく、このお騒がせトラップに戸惑うばかり。

 取り敢えずは巨大スノーマンを倒そうと、子供達にやいやい言われながら奮闘するレイジーである。護人も接近戦を挑みながら、姫香の居場所を《心眼》で確認。


 それによると、どうやら少女は起き上がった巨大スノーマンの左太もも辺りにいるらしい。その情報を家族と共有して、いざ救出作戦の開始である。

 炎の大鳥は、敵の気を逸らすために今度は頭ばかりを狙い始めた。それに合わせて、低空飛行に切り替えた護人が死角から巨大スノーマンに接近する。


 その手には強化シャベルを持ち、『掘削』スキルの準備は万端。出来れば一発で敵の左足を切り飛ばしたいが、上手く行くかは神のみぞ知るである。

 上半身は攻撃して良いと知ったペット達は、派手に攻撃を始める。特にルルンバちゃんの炎の魔法は、なかなかの威力で遠方まで届くのが素晴らしい。


 レイジーの炎のブレスは、高火力だが届く範囲はとっても短い。そう言う意味では、今後の成長具合ではルルンバちゃんは期待大かも?

 とにかく、護人の決死の接近からの『掘削』スキルは、派手に巨大スノーマンの左足付け根を切り取って行った。咆哮を放ちながら、ゆっくりと倒れて行く雪の巨人。


 残った左の太ももからは、『圧縮』スキルで身を護っていた姫香の姿を無事に確認出来た。それを見た家族からはやんやの歓声が、家族愛は健在の来栖家である。

 巨大スノーマンの結末だけど、騒がしい咆哮が気に入らなかったのか、最後の止めはミケが行ってくれた。つまりは、最終的に炎の鳥たちの武勇で、敵のコアが剥き出しになった所に。

 そこに派手に命中する、ミケの放った『雷槌』であった。


「やったね、もう心配したよっ……雪崩なだれに巻き込まれて、急にいなくなっちゃうんだもん。危ない場所をふらつき歩かないでよね、姫香お姉ちゃんっ!」

「元はと言えば、アンタが雪虫についてけって言い出したんでしょ、アホ香多奈っ! もう懲り懲りだよっ、アンタの指示には金輪際従わないからねっ!」

「良かった、その位元気なら怪我とか凍傷の心配は無いかなっ……でも一応、エーテルは飲んでおいてね、姫ちゃん。

 一緒にチョコとか、甘いモノも食べておこうか」


 救出された姫香だが、妹と喧嘩を始めたり姉に体調のケアをされたり忙しい。一方の護人は、倒された巨大スノーマンのドロップ品を回収し終わって尾根へと舞い戻った所。

 それを知った香多奈が、何が落ちてたのとすかさず確認に寄って来た。激闘を終えたペット勢も、疲れたねとお互いをねぎらいながら家族の元へと寄って来る。


 そちらにも紗良はMP回復ポーションを振る舞おうと、お皿を取り出したり忙しい。縁の下の力持ちは、戦闘が終わってからが本番なのだ。

 今回も途中から咆哮に混じって、速度のある雪玉が飛んで来て割と怖い戦闘ではあったのだが。幸いにも、今回はペット達に怪我は無くてまずは一安心の長女。

 あれだけの強敵相手だったのだ、チームに怪我人が出ずに本当に何よりだ。




 そこからチームは小休憩に突入して、一行は温かいお茶を飲んだり腰を下ろして休んだり。ちなみに巨大スノーマンのドロップ品だが、魔石(大)とオーブ珠が1個だった。

 さすがA級ダンジョン、中ボスでなくても魔石(大)を落とす敵が普通に出て来るとは。末妹などは、今のがレア種だったのかなと推測を口にしている。


 それに懐疑的な姫香は、まだ手強い奴が出て来るでしょとお代わりを要求する構え。そんな8層の攻略も、10分後にはゲートを発見して何とか終了に漕ぎつけた。

 そして突入した第9層で、一行の顔色が一斉に変わったのは仕方のない事。4層に続いて、ここでも出現した薄暗い仕様の“冥界エリア”である。


 周囲は山深い山岳エリアで、薄暗いのはもう仕方が無い。そして早速やって来る死霊系の敵は、前回と同じく一様に古風な衣装を着ていた。

 その強さも階層が深くなったためか、レイジーや萌の炎のブレス1発では倒れなくなっている。これは不味いなと、護人と姫香も第2陣として前へと出る構え。


「ルルンバちゃんも前に出て良いよっ、でも前に出過ぎたらダメだからねっ! 紗良お姉ちゃん、あそこの密集してる連中に《浄化》スキル撃ちこんじゃって!」

「りょ、了解っ……行きますっ!」


 死霊系は臭いもきついし、ハスキー達も相手は大変だろう。とは言え、《浄化》スキル持ちの紗良がいるため、来栖家チーム的にはお得意さん感もあったりして。

 今も超苦手属性の魔法攻撃を受けて、バタバタと倒れて魔石になって行くゾンビ&スケルトン軍。やったぁと無邪気に叫ぶ香多奈は、長女とハイタッチで喜びを表現している。


 そんな紗良の活躍もあって、死霊軍団の第一陣は数分後には全て討伐を終える事が出来た。さすがに一気に30体以上のお出迎えは、何と言うか気が滅入ってしまう。

 これでまだ、3つあるチェックポイントを1つも経過していないのだ。つまりはまだ先に進む必要がある訳で、紗良が指し示した進行方向はやはり鬼門の方角だった。


 暫しの休憩を挟んで、進行を開始する来栖家チーム……先行するハスキー達は、後衛との距離を大きく開けないよう指示されてそのペースはゆったりしている。

 こんな厄介なエリアは、やはりチーム一丸となって敵と対峙すべき。そして続いて遭遇した死霊軍団の第二陣は、大イノシシや大蛇の大型ゾンビが混じっていた。


 4メートル級の鬼のスケルトンもいて、その戦力は4層より確実にアップしている。そいつ等に対して前線を構築して、押し返す構えの来栖家チームである。

 そんな死闘はやっぱり5分以上掛かってしまい、紗良の《浄化》も2発目が必要な程。MP消費も激しい戦いは、何とかこちらの勝利で幕を閉じた。


 ここで拾った魔石の半分は小サイズで、一気に難易度が上がる“冥界エリア”である。再び休憩を取りながら、これは大変なエリアだねと話し合う子供達だったり。

 元気な姫香がハスキー達と一緒に、皆の休憩中に何とか1つ目のポイントを発見してくれた。それを敢えて触らずに、念入りに正解かどうかを長女に確認に戻って来る。


「どうかな、紗良姉さん……さすがにみんなの休憩中に、外れを引いてペナルティ喰らったら不味いと思って戻って来たけど。

 周囲に似たようなポイント置かれてないし、多分正解の奴だよね?」

「距離も方角も合ってるし、そうだと思うんだけど。よっぽど意地悪に隠されてないだろうし、触って確認して大丈夫ですよね、護人さん?」

「そうだな、一応俺とルルンバちゃんも一緒に確認に行こうか」


 4層のトラウマがあるので、念入りにチェック体制を整えるのは仕方が無い。そうして姫香のタッチの後に、出て来たのは何と大きな籠に入った大量の野ブドウだった。

 それを抱え上げた姫香は不思議顔、何でこんなモノと戻って姉に確認すると。そう言えば、神話で追い掛ける悪鬼を足止めするシーンで、野ブドウが出て来たねと紗良の返答。


 常に空腹の死霊たちは、それを放られて夢中で食べ始めたのだそうな。そうして逃げる時間を稼いで、黄泉の国から夫のイザナギ神は戻って来れたのだとか。

 それじゃあ特別な品なのかなと首を傾げる姫香だが、妖精ちゃんの鑑定では至って普通の品らしい。それより第三陣の死霊軍団に備えなきゃと、MP回復しながら紗良は家族に危機感をあおっている。


 それも当然、出現する数もることながら、紗良の《浄化》スキルを2発耐えた死霊は初めて。確かにそうだねと、姫香も気を引き締め直して探索に赴く構えをみせる。

 ところが再出発したチームの前に、第三陣の死霊軍の影は姿を見せず。いや、ポツポツとゴーストやスケルトンが襲撃して来るのだが、団体での襲来とまでは行かず。


 そうこうしている内に、2つ目のチャックポイントをレイジーが見つけてくれた。これも恐らく当たりだねと、紗良の鑑定結果を聞いて触っての確定を行う姫香。

 今度貰えたのは、籠にどっさり入ったタケノコだった。思い切り季節外れだが、瑞々しくて良い香りで毒では無さそうな気配が漂って来る。


「あっ、これも日本神話に出て来る、死霊軍団を足止めする時に放り投げた食べ物だねぇ。そしたら、後1つからは桃が出て来るのかな?」

「桃は確か、大竹で探索した鬼のダンジョンからも出て来たねぇ。あれも勿体無いからって、半分は食べたんだっけ?

 残り半分は、結局ジャムか何かにしたんじゃなかった?」

「あっ、そう言えば紗良姉さんの集めた情報を聞いて、聖属性の木の実とか持って来てたんだっけ。今まですっかり忘れてたよ……ってか、紗良姉さんの《浄化》スキルがあれば、例え“冥界エリア”だって手古摺てこずらないと思ってた!

 世の中って広いよね、強烈な個性の敵もまだまだダンジョンには潜んでるよっ!」


 そんな事を嬉々として語る姫香は、強い敵に会いに行くみたいな、どこぞのアニメの主人公みたい。瞳を輝かせて、楽しみが先に控えてるかなって雰囲気である。

 ヤレヤレって感じの家族の面々だが、いざと言う時の隠し玉があるのを知って少しほっとした表情に。何しろ敵が急に減ると言う演出は、不気味以外の何物でもない。


 そして3つ目のチェックポイントも、何事もなく無事に発見に至って。紗良の予言通りに、籠にいっぱいの桃を回収する事が出来てしまった。

 後は示されたゲートの方向へと向かうだけ、順調に進めばあと10分でこの不気味なエリアともおさらばである。ところが立ち塞がるように、最後の仕掛けが一行を待ち構えていた。


 それは半分土に埋もれた石棺で、その上には不気味な色合いのチェックポイントが。とは言え、指示されたポイントは全てチェックしたので、ここで触る意味は何も無い。

 罠だと分かり切ったこの演出……ただし石棺は古めかしくも豪華で、中にはひょっとしてお宝がひしめいている可能性も。つまりこの仕掛けは、無視しても良いけどお宝は諦めてね的な挑発とも取れる。


 このあからさまな仕掛けに、来栖家チームの意見は真っ二つに分かれる事に。つまりは慎重派の護人と紗良は、無視して先に進もうとの意見で。

 対する好奇心の強過ぎる、姫香と香多奈は絶対お宝あるよとイケイケ発言。





 ――さて、罰ゲーム必至のこの仕掛け、無視するか作動するかどっち?







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