第713話 山岳エリアも厳しさを増して来た件
「うわっ、いつの間にかスノーマンの群れに囲まれちゃったよ……これはピンチっ、後ろの方からも迫って来てるよ、叔父さんっ!
凄い数だね、さすがA級ダンジョンだよっ」
「姫香ちゃんの方も、いつもの力押しが通じないみたい。ルルンバちゃんの突進も防ぐとは、体格以上のパワーの持ち主なのかも、あの中ボスのヒバゴンさん。
それより、スノーマンに《氷雪》魔法は効果あるのかなぁ?」
「無いかもな、取り敢えず紗良は《結界》で香多奈を護っていてくれ。背後の敵は俺が……うわっ、急に大砲をぶっ放さないでくれ」
薔薇のマントの暴走で、いつかの大砲モードの砲弾で吹っ飛んで行くスノーマンの群れである。確かにあれだけ密集していたら、
急な破砕音が響いて、チームは何事と混乱する破目に。ムームーちゃんも同じく、なんデシかと目を回しながら護人の肩の上で混乱中だったり。
そんな混乱した中ボス戦、薔薇のマントのヤンチャのお陰で背後のスノーマンは随分とスッキリ片付いてくれた。今はルルンバちゃんが前衛なので、背後の護衛は護人が頑張らねば。
そんな気負いで刀を振るうリーダーの、後衛の防御は今の所問題は無し。もれなく近付く敵をぶった斬って行って、安全エリアの確保に努めている。
左辺では、レイジーと茶々萌コンビが湧き出る雪のゴーレムを炎のブレスで燃やし尽くしている。それはもう容赦のない
奥の奴らなどは、合体して巨大化を目論んでいたのだけれど。それすらくっ付く端から溶かされて行って、見せ場の無さは可哀想になる程である。
一方の右辺は、ツグミとコロ助が担当していた。ツグミはちゃっかりと、母親のレイジーから『炎魔の魔剣』を借りており、炎属性でMP消費削減に努めている。
ところがコロ助の方は、相変わらずの力のゴリ押しで『牙突』スキルとハンマー振りでの殲滅戦である。この辺は姉弟ながらも、全く性格が違って面白い。
それでも周囲のスノーマンは、順調に数を減らして行っている。ツグミも主の姫香のいる主戦場に、雑魚の群れを近付けまいと奮闘している模様。
コロ助は反対に、何も考えずにただ暴れ回っている感じを受ける。このへんも性格の違いが如実に表れており、何だかなぁって感じ。
それでも、そんなスノーマン退治の喧騒も少しずつ鎮まって行く。
そんな中、中央の姫香VS中ボスの戦いは、一層のエキサイティング振りを醸し出していた。サポート役のルルンバちゃんも、最近習った接近戦で豪快なパンチを繰り出している。
魔法を使えばダメージは与えられる筈だけど、夕方の特訓で姫香に習っているのは肉弾戦である。そんな訳で、素直なAIロボはその成果を披露するため必死。
幸いにも姫香のちょっかい掛けに、注意力が散漫になった仮称ヒバゴンにそのパンチは何度かヒット。さすがのパワー系猿人も、魔導ゴーレムの全力パンチは相当
姫香も天性の戦闘センスで、急がば回れで細かい削りに攻撃をシフトして行く。この辺は1年以上も探索者を続けて、
その攻撃に《豪風》を纏わせ始めたのも、パワーより切れ味を優先させるため。幾ら『天使の執行杖』だろうと、理力を相当込めないと切れ味は増してくれない。
ところが姫香は、“魔獄ダンジョン”での長時間ソロを経験して理力切れの恐ろしさを体感してしまった。ツグミもその時いたけど、2人とも回復手段に関しては時間を掛けて休むしかなかったのだ。
護人にしても、理力(SP)を込めての攻撃はいざと言う時の手段に取ってある。それを強制的に使わせ続ける姫香の『天使の執行杖』は、威力は強いが諸刃の
その辺の調整も、姫香は戦いの中で行っている模様である。戦闘のセンスは、さすが来栖家チームの切り込み隊長と言った所。
そんな細工が功を奏して、次第に弱って行く4メートル級の猿人中ボス。そして周囲のスノーマンの討伐が終わる頃、奮闘を続けていた中ボスもいよいよ年貢の納め時に。
止めは姫香の、フルパワーの《舞姫》込みの斬撃で終焉の運びに。さすがA級ダンジョンの中ボス、いきなり魔石(中)とオーブ珠のドロップに湧く子供たちである。
「うひゃあっ、オーブ珠まで出ちゃったよっ! 凄いねぇ、雑魚の雪男の魔石もこの部屋だけで40個近くあるんじゃないかなっ?
ここだけで大儲けかもっ、宝箱もチェックしなきゃ!」
「雪しか詰まって無かったら笑うけどね、案外ありそうじゃない、香多奈?」
不吉な事言うのは止めてよと、物凄い剣幕の末妹の反論に。ゴメンと悪ぶれもせずに謝る姫香は、妹を
幸いにも、銀色の立派な宝箱の中には様々な品物が入っていた。鑑定の書や木の実や魔玉(氷)から始まって、ポーション系も中級エリクサーや浄化ポーションなど高級品も混じっている。
珍しいのは耐寒ポーションで、これを飲めば寒さを感じずに探索が行えるそう。ただし、600mlしか無かったので、全員で飲むには微妙な量である。
特に寒くて敵わないと言うメンバーは、この中にはミケ位のモノだろうか。末妹が勧めてみるも、そっぽを向かれて相変わらずのツンデレ対応な猫である。
その間にも、姫香が交替して中身の検証を続ける。他にも値打ちモノが数点、白い毛皮や立派な斧は妖精ちゃんによれば魔法の品らしい。
後はスキル書が1枚に強化の巻物が2枚、雑貨で言うと耐寒装備が数点ほど。ただし残念ながらこちらは、ただの衣類で魔法の品ではないとの事。
それでもマフラーや上着など、数だけは割と多かった。
中ボスの部屋には6層へ向かうゲートのみ、退出用のゲートは存在しなかった。前もっての説明だと、探索者が下山する意思を示せば自然とその先にゲートが生じるらしい。
つまりは区切りの層で間引きを終了せずとも、別に大丈夫って事でもある。レイド作戦としては、攻略時間は夕方の5~6時までと決まっているので護人もそれに従うつもり。
そんな訳で、6層に到達したのは午後の1時半くらいでまずまずのペースだろうか。甲斐谷からは、極秘裏にA級チームは出来たらレア種の討伐までしてくれと頼まれている。
護人の目論見としては、10層に至るまでにレア種と遭遇出来れば余裕の探索が可能な感じ。それ以降だと、かなり面倒な作業になってしまう予感がして来る。
こちらの想像通りに上手く行くかは、進んでみないと分からないのも確かだ。そんな訳で、紗良と香多奈の地図読み指令から6層の探索が賑やかにスタート。
紗良の地図読みによると、6層からチェックポイントが1つ増えて3つになったらしい。その後のゴール地点に進むまで、ちょっと大変で難易度アップかも。
ただし6層の山岳エリアは、積雪は見られるモノの尾根に出て来たのか登り坂一辺倒ではない模様。体に掛かる負担的には、軽減されそうで良かった。
そして指示通りに、真東に向きを変えるハスキー軍団である。
「あれっ、尾根道は今回微妙に曲がって続いてるねぇ……これはポイントが、道なりに置かれてないパターンかもっ?
距離はどの位だって言ったっけ、紗良姉さん?」
「0.5キロ……500メートルだね、確かに曲がってるね、姫香ちゃん。これは尾根を降りて探さないといけないかな……あるとしたら右の谷側だねっ」
「やっぱり段々と、オリエンテーリング問題も難しくなって来るようだね。この先はハスキー達の嗅覚に期待だな、引っ掛けにも惑わされないようにしなきゃ。
そんな訳で頼んだぞ、みんなっ」
リーダーの護人の言葉に、一斉に尻尾を振って頑張るよと吠えるハスキー軍団である。茶々萌コンビも同じく、手柄は渡さないと張り切ってちょっと怖いけど。
捜索の目は多い方が、確かに良いので護人もそこには触れない事に。それより雪の斜面を降りる作業は、思ったより大変なのがじきに判明した。
6層エリアは、そう言う意味では確かに難易度は高そうではある。それでもコロ助がポイント見付けたよと、興奮しながら吠えてくれてまず1つ目は無事にクリアの運びに。
姫香が勇敢にも、斜面を下ってそれに触れて戻って来る。今回貰えたのは瓶入りの上級ポーション800mlだった様で、クリア報酬も段々と豪華になって来た。
その報告には香多奈もご機嫌な表情、そして次は北東に04キロねと家族に指示を出す。途中までは尾根道で大丈夫そうと、紗良も補足で助言を飛ばしてくれる。
そして張り切って先行するハスキー達、その姿はすっかりポイント探しゲームに
「ねえっ、護人さん……この6層で遭遇した敵だけどさ。後衛に不意打ちして来たスノーマン3体くらいしか、今の所は出遭ってないよね。
急にこんなに減っちゃうと、ちょっと不安になって来るんだけど」
「本当だねっ、中ボス部屋で張り切って出し過ぎちゃったのかなっ? それとも6層からは、ルールが変わってオリエンテーリングの謎解きがメインとか。
だったら負担も減って、ポイント探しに集中出来るねっ!」
「或いは数は減るけど、大物が出て来るとかのパターンかな? おっと、みんな……言った傍から上空注意だ!」
護人の締めの言葉に、えっと一斉に山の空を見上げる一行。それは確実にこちらをロックオンしていて、いよいよ降下からの襲撃に入ろうとしていた。
推定ワイバーン種だが、雪山特化なのか鱗の色は灰色から白に近い。竜種のように前脚は無くて、尻尾が毒針になってるのは確かにワイバーンである。
そいつは後衛目掛けて、これでもかと自身の体積を披露しながら襲い掛かって来た。それを暴虐の雷撃×2連がお出迎え、どうやらミケとルルンバちゃんの魔法の仕業らしい。
落下の衝撃は、護人の《堅牢の陣》と紗良の《結界》で綺麗に相殺となった模様。つまりは来栖家に被害はゼロで、大物相手に完封勝利である。
そしてドロップする魔石(小)とワイバーン肉のいつものコース。コイツは強い癖に魔石は小っちゃいんだよねぇと、香多奈の文句は何となく懐かしい気も。
そう言えば、散々“三段峡ダンジョン”で相手したよねと、去年の冬のレイド作戦を思い出しながら姫香が呟く。末妹はルルンバちゃんと一緒にドロップ品を拾いながら、敵がいないなんて甘くないよねぇと諦めた表情。
そして先行していた前衛も、いつの間にかちょっと拓けた場所に出ていたようで。そこで転がってた、岩から抜け出したような2メートル級のゴーレムと、熾烈な戦いを繰り広げていた。
途中で邪魔するように、周囲からスノーマンが不意打ちを仕掛けて来るのが少々ウザい。それに引っ掛かるのは茶々丸位で、萌が必死にフォローしている。
何だかんだで、この騎乗移動の2匹は良い関係なのだろう。ただし、足場の悪いこんなエリアでは、得意の突進チャージ攻撃が使えずストレスが溜まっているかも。
ついでに今回のポイント探しでも、完全にハスキー達に後れを取っているのは悔しい所。相手が格上の年長者なのは確かだけど、茶々丸はとっても負けず嫌いなのだ。
対する萌は、自分の所属する群れが安全なら別に自分の手柄はどうでも良いタイプ。相棒の暴走を何とか制御しながら、前衛の群れの長のレイジーの指示を聞き逃さないよう常に頑張る構えをみせている。
実際、萌の戦闘能力はここ何回かの探索で劇的な成長を遂げていた。《経験値up》に加えて元から持っていた《竜の心臓》が、最強種の覚醒を促したのだろう。
そこに来て、巨人のリングの《巨大化》付与が相性抜群な効果を及ぼして。秘かに竜形態まで手に入れて、さっきの中ボス程度ならワンパンで勝てる実力を手に入れていたり。
だけど、決して前に出る性格ではない萌は、ミケと同じくそっと縁の下の力持ちのポジションに甘んじるつもり。これは実はハスキー達も、相棒の茶々丸も知らない秘密である。
――そんな訳で、チームの隠し戦力はこっそり膨れ上がって行く事に。
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