第703話 異世界のお遣いを無事に終えて戻って来る件



 動き出したガーディアンは、飽くまで拠点防御用のプログラムがなされていた様子。一向に入り口を動く気配がなく、仕方なく姫香とツグミは狭い場所で戦う破目に。

 それとは逆に、飛び出した甲虫型の魔導ゴーレムは宙を気儘に飛び回って遊撃の構え。それらを撃ち落として行くレイジー達は、今回はフォローに徹してくれる心積もりみたい。


 茶々萌コンビは、敵さえ見ればただ真っ向勝負を挑むだけのスタイル。今は宙を飛ぶ敵に苦労しながら、無駄な攻撃を繰り出して翻弄されている。

 それとは逆に、後衛陣は空飛ぶ敵は手馴れていて安定感抜群だ。護人も高性能の弓矢を取り出して、お手本のようなハンター振り。


 それを感心しながら見守るムームーちゃんは、すっかり護人を親と認知済みの模様。末妹の香多奈が拾った筈なのに、やはり頼り甲斐では遠く及ばなかったようで残念な限り。

 それはともかく、これが最後の戦闘だよと気合を入れる面々である。とは言え、甲虫型の魔導ゴーレムは、どいつも硬くて一撃では沈みそうにない。


 そう思っていたのだが、後衛を襲おうと突進して来た不埒ふらちな敵は、ミケの雷によって一撃でダウン。さすが来栖家のエース、パワーも規格外である。

 その他のメンバーは、それなりに苦労して高速で突進して来る飛行型の魔導ゴーレムを撃ち落として行く。コロ助の《防御の陣》に衝突した奴も、かなりの衝撃にも関わらず平気な様子だ。


 そんな頑丈なゴーレムを、たった一撃でほふったミケは何気に凄いかも。ルルンバちゃんやムームーちゃんも魔法で応戦するも、敵の勢いをぐには至らず。

 コロ助や萌のハンマーも、敵の速度に空振りが目立っている。そんな中、ようやく2機目を墜落させたのはレイジーの斬撃だった。

 さすがエースの片割れ、信頼と実績の安定感である。



 一方の姫香とツグミのコンビは、ロボット型の魔導ゴーレムを相手にビシバシ攻撃を当てていた。それでも動く、超硬い外殻の魔導ゴーレムである。

 しかも動きが割と滑らかで、繰り出すパンチは勢いに乗って必殺の威力かも。それを避けながら、《舞姫》スキルを発動しての姫香の大立ち回り。


 ツグミもフォローに徹していて、敵の動きを制限してくれている。いつものパターンにめ込んでの、姫香の『天使の執行杖』での強烈な一撃。

 いつもの大鎌モードではなく、今回は珍しくハンマーモードを執行しての振り回しに。その分気力をかなり消耗するも、硬い奴を殴るにはピッタリな武器ではある。


 強烈な打撃を受けた魔導ゴーレムは、胸元から煙を噴き出してグロッキー模様。続けての止めの一撃で、完全に機能停止に追い込む事が出来た。

 派手にガッツポーズをする姫香は、もう“魔獄ダンジョン”のダメージは完全に抜けている様子。ツグミも満足そうに、ドロップした魔石(中)を回収している。

 魔導ゴーレムは、一緒にスキル書と何かの魔導パーツを落とした模様。


「やったね、何か目的のアイテムをゲットしたかも? 奥にも何かあるかもね……ツグミ、もう中は安全かなっ?」

「目的のアイテムって、ルルンバちゃんのパーツ的な? こっちも全部倒し終わったよ、みんなご苦労様っ!

 それじゃあ、隠し部屋の家探しを始めようか」

「ふうっ、みんな安全の確保ご苦労様……隠し部屋の方も平気だったかな、取り敢えず良かったよ」


 最後の戦闘を無事に終えて、安堵の表情の護人だが周囲の確認は怠らず。ハスキー達も、戦闘を終えた後も引き続き警護モードで気を抜かない構え。

 そんな中、子供達は安全になった隠し部屋へとなだれ込んでの家探し開始。棚を中心に探す紗良は、ポーションや木の実や魔結晶(中)をゲットしたと報告して来る。


 そして同じ棚から『錬金レシピ書(魔導)』を見付けたと、飛び上がらんばかりに喜んでいる。レシピ本の収拾は、長女の異世界探索の楽しみの大部分を占める模様。

 その隣では、末妹の香多奈が木箱を漁ったり隠し戸棚が無いかをチェック中。木箱からは金貨が入った袋や、甲殻素材や骨素材が幾つか見つかった。


 これらも何かの材料として、ここに住んでいた魔術師が集めて回ったのかも。そんな素材を、時を経て探索者が回収して回るとは思いもしなかった筈。

 それはともかく、大物アイテムはツグミに導かれて姫香が発見する流れに。壁際の布を何気なくめくり上げると、そこには立派な剣やら防具が幾つか。


 どれもデザインからして、炎系の耐性付きなのかも知れない。剣にしても、レイジーの愛用しているほむらの魔剣と同等かそれ以上な気が。

 それ以上に、姫香がおおっと目を惹かれた物体が一番奥に鎮座していた。末妹も思わず駆け寄って来て、その魔導ゴーレムのボディを遠慮なくペタペタ触っている。


 その見た目だが、以前のルルンバちゃんの魔導ボディより一回り以上小柄だろうか。例えると足の太いカニで、ハサミの代わりに立派な腕が付いている。

 それは以前のルルンバちゃんには無かった武器だが、砲塔をくっ付ける余裕は余り無さそう。人が乗るスペースも限りなく少なくて、背中と言うかお尻のこんもりした部位が邪魔くさい感じ。


 必要なパーツなのだろうが、出っ張っている部分は気になるのが人間である。末妹などは、卵を負ぶっているみたいと高評価のようだけど。

 周囲に並んでいる装備品を回収しながら、姫香はドローン形態のルルンバちゃんをその場に呼び寄せる。それからこの機体を動かせるかなと、《合体》スキルが可能かのお伺い。

 確かにそれが適えば、この大物を持って帰る算段に悩まずに済みそう。


「おおっ、見事に合体出来たねルルンバちゃんっ! 改めて見ると、カニさんタイプのルルンバちゃんもなかなか可愛いかもっ?

 腕をもっと動かしてみて、ちゃんと自在に動かせる?」

「ああっ、本当だ……可愛いかは置いといて、腕がついたのは大きいかもね。でも前のボディより小柄だから、パワーは下がっちゃうかも。

 レーザー砲も、大きさ的にくっ付けにくくなっちゃったかねぇ?」


 そうだねと評する姉妹の前で、奇妙な踊りを続けるAIロボ。本人はちゃんと動けるよ~と、家族にアピールしているつもりだけど、何だか引っくり返ったカメみたいな可愛さがある。

 とにかく子供達の意見は、隠し部屋からの出モノなのだし、ちゃんと貰って帰ろうとの結論だった。他にも追加の『温保石』と『涼保石』を数十個ずつゲットし、隠し部屋漁りはこれにて終了。


 後は同じルートで帰路について、隠れ里へと戻るだけである。帰り道も気を付けるんだよとの護人の言葉に、は~いと元気な子供達の返事。

 特にルルンバちゃんだが、慣れない機体操作を気をつけなさいとの末妹の気遣いはちょっとお姉さんっぽいかも。確かに、重量の増えた機体でのパネル床移動はかなり大変そう。


 それを踏まえてややペースを落とした帰り道は、何事もなく無事に入り口まで辿り着いて終了の運びに。それでも1時間以上掛かってしまって、それなりに大変な道中だった。

 ルルンバちゃんの移動も、割とスムーズで問題は無さそう。途中からは香多奈が後ろに乗っかってみたけど、やはり専用のシートがないと騎乗移動は不便っぽい模様。


「その辺も、戻ったら親方に相談かなぁ……もとの機体がちゃんと修理されて戻って来たら、問題は無いと思うんだけどね」

「確かに、座席が無いとお尻が痛くなっちゃうよっ。あっ、別にルルンバちゃんが悪い訳じゃ全然ないからね?

 戻ったら、ドワーフ親方に可愛くデコって貰おうね?」


 可愛くデコるのは違うだろうと、こめかみ揉みながらの護人の反論は真っ当過ぎる。こんな田舎でも、ギャルに憧れる文化は入り込んで来ているらしい。

 戦闘には必要無いでしょと、呆れ口調の姫香は傍目から見たらその通りなのだけど。保護者から見たら、姫香はもう少し女子力アップに目覚めて欲しいと思っていたり。


 そんな感じで騒がしい一行は、無事にダンジョンを出て山林地帯を移動し始める。来る時は、帰り道を見失わないかなと心配していた面々だけど、ハスキー達には何でもない芸当だった模様である。

 スイスイと山の斜面を先行して上って行って、その動きに全くの遅滞は無い。そこからゲートを再起動して、隠れ里へと戻って行くのに追加で10分ほど。

 こうして、予定していなかった探索活動はとどこおりなく終了の運びに。




 隠れ里へと戻って来た来栖家チームは、ようやく肩の荷を下ろしてのリラックスムード。ドワーフ親方のミッションも無事にこなして、お土産もそれなりに回収して来れた。

 具体的には、炉の活性化に必要な魔結晶やら、後は『炎属性のインゴット』やら。魔導ゴーレムのパーツもゲット出来たので、ルルンバちゃんの機能向上に使って貰いたい。


 それから目玉の『錬金レシピ書(魔導)』だが、こちらは紗良が欲しそうなので考え所である。リリアラも欲しがるかもだし、何とか共同で使う道があれば良いかも。

 まぁ、それはこの工房と来栖家が、もっと仲良くなる材料にもなってくれそう。この先もルルンバちゃんのメンテは必須だし、腕の良い技術師はいてくれないと困る。


 向こうからしても、優秀な探索者は素材ハンターとしても必要には違いなく。お得意さんと言う存在以上に、最近の来栖家チームは依頼などでこき使われている感じも受ける。

 護人としても、異世界進出などは全く望んでいないとしても。その取っ掛かりとして依頼を受けるのは、なかなかに貴重な体験で今の所は楽しめている感じ。


 今回のように貴重な魔法アイテムや錬金レシピ書もゲット出来るし、薬品の素材なども過去には入手した事も。紗良やリリアラの研究素材ゲットの助けにもなるし、異界活動もそれなりに楽しめている。

 そんな訳で、今後も依頼があれば出来る範囲で受けようねと、家族間での話し合いをこなしつつ。そんな感じで戻って来た工房では、故障した魔導ゴーレムが完全にバラされていた。


「うわっ、ルルンバちゃんの中身ってこんな感じになってたんだ? ゴーレムかと思ってたら、意外と機械的な仕掛けも多いんだねぇ。

 何て言うの、電子パーツ的な回路も結構多いね」

「ああ、単なるゴーレムなら修理にそんな時間は掛からないんだろうけどね。回路の故障を修理するとなると、こっちでは錬金的な技術が必要になって来るのかな?

 どっちにしても、親方の言った通り数日は見なきゃ駄目っぽいね」

「そっかぁ、じゃあ新しい魔導ボディを回収した意味はあったんだね、護人さんっ。親方っ、来栖家チームが無事に戻って来たよっ!」


 姫香の大声に、作業中のドワーフ親方が手を止めてこちらへと来てくれた。汗びっしょりのその体躯は、本当に樽みたいでお髭がとってもチャーミング。

 それから末妹が、今回の“魔術師の塔ダンジョン”の戦利品をせっかちにも並べ始めると。すかさず弟子を呼び寄せての、品評会に付き合い始める。


 ドワーフ種も噂では長生きな種族と聞いたけど、案外せっかちな性格なのかも。品物を鑑定しながら、これらは買い取ると耐火ポーションや『炎属性のインゴット』や魔結晶を指差して行き。

 お弟子さんが、この程度ではと値段をつけて行くのに頷きを返す護人は忙しそう。それから魔導ゴーレムの修理代に充ててくれと、結局その辺の勘定は工房に丸投げに。


 最後に親方が、大まかな魔導ゴーレムの修理時間を告げながら、探索で回収した魔導パーツの鑑定を始める。コイツを修理のついでに組み込むかねと、その問い掛けは何だか楽しそう。

 それでルルンバちゃんは強くなるかなと、末妹の問いには微妙な表情の親方である。どうやら焼け付いたレーザー砲塔は、意外と修理が厄介なのだそう。


 俗にいう、新品を買った方が安上がりですよ的な状態らしいのだけれど。そんな物騒なモノ、どこにも売っておらず困り果ててしまう来栖家の面々。

 親方も、さすがにそんなモノが落ちているダンジョンに心当たりは無い模様。今回の場所がワンチャンあるかなとの感じで、レーザー砲塔については1ヶ月は見て欲しいとの事。

 何にしろ、とにかくルルンバちゃんの新ボディ問題は解決に向かいそう。





 ――県北レイドにも間に合うかもと、苦労した甲斐もあったと言うモノ。







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