第702話 ようやく目的の品を回収に至る件
お昼ももうすぐ2時になって、帰り時間も考えると滞在もあと少しが理想である。来栖家チームが現在いるのは7層で、姫香の言うように8層程度が丁度良さげだ。
この“魔術師の塔ダンジョン”を出るまで1時間として、更に隠れ里での用件で1時間と見れば。やはり3時前後で帰還しないと、帰り時間が遅くなってしまう。
そんな算段をしながら、護人はチームの舵取りに挑む。現在の7層も、下が色とりどりな熱湯池に変わりはないようで移動は大変。
もっとも、通路やパネル床の部屋を踏み外さなければ、落下の心配は今の所はない。とは言え、定期的に戦闘は巻き起こるし、熱湯池からは火炎系の敵がバンバン生まれて来る。
割と厄介なこのエリア、今回はそれに加えての罠も発動したっぽい。先頭のツグミが素早くそれを発見して、パネル床の落とし穴を発動させて後衛陣に教えてくれた。
それを見て、うわぁと嫌そうな表情の香多奈である。
「ひどっ、落っこちたら熱々の池にドボンじゃんっ! 殺意高いよね、このダンジョン……うわっ、落とし穴から何か敵が出て来たよっ、姫香お姉ちゃんっ!」
「あっ、本当だ……割と大きいね、これは炎の蛇か何かかなっ? ツグミ、ついでにやっつけちゃっていいよっ!」
「なるほど、手すりとか付いてて安心だって思わせといてのこのギャップは酷いかも。ひょっとして、この手すりも……キャッ!?」
紗良のその悲鳴は、手を置いた手すりがポロッと外れて池に落ちて行った為のモノ。驚くのも当然だが、幸いにも用心しながらの接触だったので一緒に落下はしなかった。
驚いたのは周囲の後衛組も同じくで、うわっと紗良に手を指し伸ばす護人と香多奈である。ルルンバちゃんも同じく、ドローン形態で長女を必死のガードに走っている。
この辺は、長年一緒に探索して来た後衛陣で
それでも寄って来る敵の群れは、順調に茶々萌コンビが倒して行ってくれている様子。この層も火炎トビウオの特攻や、ひらひらと舞う火炎コウモリの攻撃は厄介。
逆に、魔導ゴーレム系の敵はその体積を段々と増やして行っている気も。宙に浮いている形の通路やパネル床を、自重で踏み外さないか心配なレベル。
そちらはコロ助が請け負って、分業での敵の殲滅はこの層でも順調みたい。ツグミも手すりの罠まで見抜けなくて、悔しそうに尻尾を垂らしている。
それは仕方ないよと、姫香が優しくツグミを慰めてのフォローなど。実際、ハスキー達には手すりの有用性は全く無いのだから本当に仕方が無い。
紗良も大丈夫だよと、自分の軽はずみな行動を恥じる素振り。
そんな感じでわちゃわちゃしていると、熱湯池から立ち上る煙を割って大物が出現して来た。レア種では無さそうだが、結構強そうなその敵は3本首のヒドラにみえる。
それぞれ巨大な鎌首をうねらせて、そいつ等は美味しそうな獲物を上目線で見定めている。慌てて子供達の前に出る護人と、その首を狩りに飛び出す姫香。
そのヒドラは、各々の頭のてっぺんまで5メートル以上ある巨体の持ち主だった。それも見える範囲なので、本体はもっと長い筈である。
池からフロアの高さを差し引いて、鎌首が獲物を見定めるのに丁度良い高さかも。後衛の娘さん達をロックオンした3本頭のヒドラは、ゆらゆらと頭を揺らせて襲い掛かって来る。
それを《堅牢の陣》でブロックする護人、2つの頭の攻撃は弾き返す事に成功する。そして『天使の執行杖』で、敵の頭を斬り飛ばしに掛かる姫香は初撃を盛大に空振ってしまった。
3匹目の頭がフォローに入った為だが、それを差し引いてもこの炎属性の敵の動きは素早いかも。さっきの中ボスより強いみたいと、末妹の忠告は当たっている気も。
この香多奈の叫びを受けて、魔法スキルを唱え始める紗良とフォローを始めるペット勢。いや、ハスキー達は団体でやって来た魔導ゴーレムをせき止める戦いで精一杯。
細い通路が逆に邪魔になって、こちらも数を掛けれないのが響いている。それでもハスキー達が慌てる風も無いのは、もちろん護人たちを信頼しているから。
後衛陣のルルンバちゃんとムームーちゃんから、熾烈な水系の魔法が飛んで行く。それに対抗するように、ヒドラの2つの口から火炎のブレスが飛んで来る。
派手な魔法合戦は、紗良の《氷雪》魔法の加入でとんでもない事に。下の熱湯池まで凍らせる勢いだけど、相手も3本目の鎌首が参戦して延命に必死。
紗良の必殺攻撃を逃れるとは、熱湯池のヒドラ恐るべしである。
「うわっ、紗良お姉ちゃんの必殺魔法も耐えたよっ、この3本首っ! 本気で中ボスより強いよっ、みんな頑張って倒しちゃって!」
「足場がこっち悪いから、戦う時は気を付けて! 火炎のブレスの射線には、みんな絶対に入らないようにな!」
「私が踏み込むねっ、奴の首を全部
攻撃を避けられて頭に来ている姫香が、『圧縮』足場で踏み台を使って敵の懐へと入り込む。高熱を放つ蛇の鱗を物ともせず、大鎌モードの横薙ぎの一撃!
見事に首の1本を切り取った姫香は、素早く離脱して一息つく。続けて残りも撥ねてやるぞと気合を入れていたら、敵の傷口から大きな炎が舞い上がり始めた。
そうしていつの間にか、新たに生える3本目の新鮮な蛇の鎌首である。再生能力付きのモンスターは聞いた事あるけど、こんな素早い奴は反則に近い気が。
腹を立てると言うより呆気に取られている姫香に、攻撃が来るぞとリーダーからの警告が。3本首でなおも暴れ回るヒドラは、紗良の魔法でダメージを受けても勢いは止まず。
と言うより、身体を
反撃の炎のブレスを《堅牢の陣》や炎耐性のアイテムでブロックしつつ、次の攻撃機会を窺うメンバーたち。その時、紗良の提案で次の作戦が素早く決まる事に。
それに合わせて、左右から挟み込むように動き始める護人と姫香。とは言え、護人の方は後衛陣の防御もあるので、大きくは位置を変えれない。
それをフォローするような勇ましい姫香の再度の突進に、警戒したヒドラの首たちは一斉にそちらを向く。その隙を突いて、いつの間にかゴーレムを倒したレイジーとツグミが敵に接近中。
ついでに “四腕”からの『投擲』スキルで、シャベルを投げつけた護人の攻撃は見事にヒット。ヒドラの中央の首を撥ね飛ばし、その間隙を突いてレイジーとツグミも残った2本を始末する。
それを確認した紗良が、1歩前に出ての再度の《氷雪》魔法を敢行!
「やった、傷口ごと凍っ……うわっ、砕け散っちゃった! やったね、魔石も大きいのが転がって行ったよ。それから何か、歯車みたいなのが3個落ちたかもっ!?
ツグミ、池に落ちた奴も拾えるっ?」
「えっ、魔石は中サイズなの? それは確かに、中ボスより強かったかも……ところで、ドロップした歯車はどこで使うのかなっ?」
「どこだろう、一応は壁際の歯車仕掛けは全部チェックして回ってるけど。今の所は、歯車の足りてない場所は無かったかなぁ?」
紗良の言葉に、絶対の信頼を置いている家族はそれじゃあ来たルートには無いねと断言。この先にきっと出て来るよと、末妹のいつもの根拠のない自信である。
ヒドラは他にもオーブ珠をドロップしていて、苦労して討伐した甲斐はあったと言うモノ。ハスキー達の活躍もあって、この周囲のモンスターは全て倒し終えた模様である。
時間との兼ね合いで、もう少し進むかこの位で戻るか考え所ではあるのだけれど。使い所の不明な歯車を3つゲットしたのもあって、チーム方針は先に進む1択となってしまった。
そんな訳で、時間ギリギリまで仕掛けを捜すための探索の再開である。7層エリアはじきに終わって、その間の戦いはたった1度のみ。
そして発見した階段を降りて、第8層へと到達する来栖家チームである。ここも下が熱湯池で、その上のパネル床を伝って奥へと移動する形みたい。
そして両サイドには、1層から見掛ける歯車の仕掛けが所々存在していた。紗良と香多奈は、目を皿にして歯車をチェックしている。
ハスキー達は我関せずと、先行しての毎度の戦闘行為に及んでいる。この層の魔導ゴーレムは、肩幅も広くて大柄でとっても強そう。
コロ助と萌がハンマーを振り回して、とっても楽しそうに破壊工作に及んでいる。途中、熱湯池から邪魔をするように、火炎コウモリや火炎トビウオが飛び込んで来るのがウザいかも。
熱湯池から生まれた連中は、後衛にもまんべんなく襲い掛かって来る。その対応を護人と姫香が担う感じだが、ルルンバちゃんやムームーちゃんも水魔法で対応してくれる。
それはそれで練習になって良い感じかも、特にルルンバちゃんの魔法は家族にとっては新鮮である。ムームーちゃんにしても、積極性を身につけるのに良い機会ではある。
たまに護人が“四腕”を発動すると、ムームーちゃんも軟体ボディを変形させて、5本目の腕の真似事をしている。本人はそれを面白がっているので、別にそれは良いのだけれど。
攻撃力が増す訳でも何でもなくて、ただのパフォーマンスに成り下がっているのは悲しいかも。まぁ、幼子に無理やり接近戦をさせる気は、護人にも無かったりする。
今の所は、術者ベースでの成長が正解だと思いたい。
そんな8層の探索はまずまず順調で、ハスキー達はどんどん安全エリアを広げて行ってくれる。熱湯池からの不意打ちも、すっかり慣れた一行は生まれる端から撃ち落として行く。
それでも落とし穴や手すりの罠は要注意と、情報共有はしっかり成されて引っ掛かる者もいない。ただし末妹は順調とは思っておらず、隠し部屋を捜し出すのに必死である。
その執念の捜索が実ったのは、エリアを半分以上過ぎた壁際だった。動いていない歯車の仕掛けをようやく発見したよと、飛び上がって喜ぶ香多奈である。
ただし、そこに向かうには細いキャットウォークみたいなパネル通路を通るしかない模様。これは近付くのも危ないねとの護人の言葉に、それじゃ私が先行するねと姫香の返事。
ツグミもお供するようで、それなら万全かなと過保護なリーダーからもオッケーが出た。そんな訳で、皆が見守る中での遠隔の謎解き開始である。
3つの歯車を持つ姫香が、姉妹の指示出しに細い通路で右往左往する。動いていない歯車の仕掛けには、確かに抜け落ちたパーツが幾つか存在するようだ。
そして3つ目の歯車を、適切だと思われる個所に
やったと飛び跳ねながら、
そこを覗き込もうとした姫香を、ツグミが制したのは何かの存在を感じ取ったからだろう。慌てて距離を取る姫香とツグミの、主従コンビの目の前に出現したのは魔導ゴーレムだった。
恐らくは隠し部屋のガーディアンだろうか、肩幅も広くて強そうな敵にみえる。その従者なのか、甲虫型の魔導ゴーレムが半ダースほど先制して襲い掛かって来た。
「うわっ、隠し部屋だやっほ~いって思ったら、待ち伏せしてる敵がいたパターンだっ……ハスキー達、こんな奴らさっさとやっつけちゃって!
この奥に、きっとお宝がいっぱいあるよ!」
「もうっ、おバカ香多奈が必要以上に喜ぶから、こっちも油断しちゃったじゃないのっ! ツグミっ、このメインの魔導ゴーレムは私達でやっつけるよっ!」
威勢のいい姫香の言葉と共に、隠し部屋の権利を巡っての戦いの火ぶたは切って落とされる格好に。飛行タイプの甲虫型の魔導ゴーレムも、バランスボールほどには大きくて結構強そう。
姉に理不尽に怒られた末妹は、すぐに『応援』を飛ばしてチームをフォローの構え。
――ただしその後のゴーレムへの『叱責』は、八つ当たりの可能性も?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます