第701話 中ボスの間を過ぎても目的の品が集まらない件



 来栖家チームは4層も無事にクリアして、いよいよ中ボスの間のある5層へと到達した。子供達の間からは、そろそろお腹が空いて来たねとの本音が。

 5層をクリアしたらお昼にしようねと、紗良の提案には~いと元気に返事する香多奈。それを聞いたハスキー達は、ラストスパートだと殲滅戦を張り切り始める。


 5層エリアも、研究施設の部屋が連なって中には物珍しい物も存在するのだけれど。紗良も妖精ちゃんも、どうやって使うか用途が分からないモノばかり。

 持って帰るのも手間なので、施設の用具には手を出さない事に。危ない品が混じってるかもだし、意地汚く手を出して痛い目をみるのも馬鹿らしい。


 もっとも、そんな内心の言葉を末妹には報告しないけど。家族内ではガメつさナンバー1の香多奈は、相変わらず隠し部屋の発見に躍起になっている。

 その熱意が通ったのか、ツグミが通路に置かれた棚の中にポーション瓶を数本発見。一緒に『温保石』も5個と、それから魔結晶(小)も5個拾う事が出来た。


 やったねとツグミを褒める香多奈は上機嫌で、このまま中ボスも撃破するよと勇ましい限り。そんな意気上がる一行は、15分後には閉じられた部屋の前へと辿り着いた。

 雰囲気から察するに、ここが中ボスの部屋に間違いは無さそう。それじゃあそろそろ仕事をしようかと、姫香が中ボスの相手を名乗り出る。

 ハスキー達も、そこは仕方無いねと譲る素振りなのは偉いかも。


「炎属性の敵だったら、ルルンバちゃんとムームーちゃんも手伝ってあげなさい。魔導ゴーレムだった場合は、俺がシャベル投擲でフォローしようか。

 まぁ、姫香の前衛を邪魔しない程度には活躍させて貰うよ」

「分かった、私の出番なんだから全部取っちゃ駄目だよっ! ハスキー達も、手下がいたらそいつらの処理位は譲ってあげるけど。

 それじゃあ扉を開けるよっ、みんなっ!」


 ゴーゴーと騒がしい末妹の『声援』を受けて、姫香は自ら開けた中ボスの部屋へと真っ先に踏み込んで行く。そして目にしたのは、例の“血の池地獄”の白煙を上げる池エリアと言う顛末。

 それが部屋の中央に配置されており、そこから続々と火炎リザードが這い出て来ている。人間サイズが平均の大きさで、中には3~4メートル級も混ざっている感じ。


 そいつ等が雑魚だと判断したハスキー達は、嬉々として2手に別れて左右から挟撃態勢を取っている。茶々萌コンビも、コロ助と一緒に右手の池から這い出る敵の殲滅に忙しそう。

 そして中央を担う姫香は、中ボス出て来いと目の前の火炎リザードを斬り伏せて挑発の掛け声。それに応じた訳では無いだろうが、赤く熱した水面が一度大きく揺れた。

 そして出現したのは、何と巨大な茹でタコだった。


「うわっ、これは意外なモンスターだねっ! 巨大なタコが、熱い池に入って茹でダコになってるよっ。がんばれっ、姫香お姉ちゃん!」

「任せておいて、大タコは手出し無用だからねっ! ここまでほとんど戦ってないんだから、私の見せ場だよっ!」


 ノリノリで中ボスに近付く姫香は、太い触手が数本近付いて来ても慌てる事無く対処している。『天使の執行杖』の大鎌モードで、触手を斬り飛ばして本体に接近。

 大タコは表面のテカりも含めて、茹で上がっている癖に割とグロテスク。しかも接近した姫香に対して、黒い墨を吐くと言う暴挙に及んで大パニックに。


 それをモロに受けた姫香だが、素早いツグミのフォローが入った模様。真っ黒な墨は闇の空間へと消えて行き、少女の視界は塞がれずに済んだ模様。

 それが功を奏して、反撃も儘ならず真っ二つにされた哀れな中ボスの大ダコであった。ハスキー達の雑魚掃除も程無く終わり、中ボスの間はようやく平穏に。


 それと同時に、熱を放っていた赤い池も綺麗に消え去って、奥にある階段への通路が出現した。紗良はそれを見て、これでここでお昼休憩出来るねと嬉しそう。

 それ以上にご機嫌な香多奈が、設置されていた宝箱へ向けてダッシュで向かう。ルルンバちゃんは、転がっている魔石やスキル書の回収を手伝い始めている。


 いつもの家族の行動を見守りながら、護人は真っ黒になった姫香を眺めて思案顔。ツグミの咄嗟のフォローも、どうやら万全では無かった模様。

 長女の紗良もそれに気付いて、タオルや着替えを鞄から取り出す仕草。ペット達の怪我チェックもあるし、戦闘後に一番忙しいのはこの長女には間違いない。


 そんな訳で、姫香は部屋の隅で着替えやら墨落とし作業をしに向かって行く事に。護人はそちらを見ないように、紗良のお昼ご飯の作業のお手伝い。

 末妹の宝箱の中身回収作業は、コロ助や茶々萌コンビに見守られて順調に終わったようだ。鑑定の書や魔玉(炎)やら、薬品が3種類に素材系もボチボチ。


 それから『温保石』と『涼保石』も10個ずつ、タコの干物なんかも結構な数入っていた。他にも魔結晶(中)が5個に、恐らく炎耐性付きの指輪が1個。

 ただし、肝心の魔導ゴーレムのパーツが1個も入っておらず、そこは残念な所だった。ルルンバちゃんは特に何の反応もなく、拾い集めたアイテムを紗良に差し出している。

 それを紗良に褒められて、有頂天なAIロボは可愛いかも。




 そこからは、異界のダンジョンの中ボスの間での昼食タイム。念の為にとお弁当を用意して来て良かったねと、子供達は相変わらず無邪気である。

 もっとも、万一の為のお弁当なので内容は至って質素でお握りとおかずの卵焼きや唐揚げが少々と言った所。それでもワイワイと騒ぎながら、食事を進める家族は楽しそう。


 炎耐性のアイテムはボチボチ集まったけど、魔導パーツは全然だねと。5層までの成果を報告する姫香は、今は着替えも終わってサッパリした姿。

 それでも汚れは完全に落ちておらず、戻って露天風呂に入りたいよと愚痴をこぼす少女である。それを聞いた末妹が、まだルルンバちゃんのパーツが回収出来てないでしょとお叱りの言葉。

 いつもと違う役割分担に、紗良などは笑いながら姉妹を眺めている。ハイハイと負けを認めるいさぎよい姫香だが、拳固のお返しだけは忘れない。


 そんな賑やかな食事を終えて、食後に紗良は山の上のメンバーに定期報告など。巻貝の通信機で、どうやら報告のお相手は土屋女史らしい。

 異界の工房訪問が、図らずもダンジョン探索になってしまったと簡潔に告げて。帰りは夕方過ぎになっちゃうかもと、読めない帰宅時間を素直に口にしている。


「確かに帰りの時間は読めないねぇ、歩いて出口に戻んなきゃダメなダンジョンだし。ゲートタイプだったら、ワープ魔方陣も使えて楽が出来たのに」

「贅沢言ってるんじゃないわよ、香多奈。どっちにしろ、10層は無理かもねぇ……目的のアイテムが回収出来なくても、8層くらいで引き返した方が無難かもね、護人さん」

「そうだな……ここまで難易度は高くないけど、この先がどうなってるか分からないし。その位を目安に、アイテムを獲得ならなくても戻る事にしようか。

 幸い、炎耐性のアイテムは幾つかゲット出来たしな」


 それを紗良が鑑定して、取り敢えずは後衛の2人が装備しようかとリーダーの言葉。思い切り甘いけど、無いと大変な目に遭う可能性も無くはないので。

 そんな訳で、紗良と香多奈がネックレスと指輪を装着して、再開する“魔術師の塔ダンジョン”の攻略である。頑張ってアイテム回収するよと、末妹の喝入れは至極しごくもっとも。


 今回は珍しく、間引き目的とは関係ないので香多奈の言葉はその通り合っている。ハスキー達は敵も倒して良いんだよねと、ヤル気のベクトルは間違っていない。

 ところがどっこい、階段を下った先の6層エリアは随分と様変わりを果たしていた。何と室内エリアには変わりないけど、今回は上と下で完全に仕掛けが別れていたのだ。


 上は板張りの通路や小部屋の床が連なった造りで、下は色とりどりの熱湯池が煙を噴き上げていた。その高低差は2メートル程度で、熱さは充分に伝わって来ている。

 そして両壁には、相変わらず歯車が嵌め込まれた場所が幾つか窺えて回転音をきしませている。それが仕掛けに関わって来るのか、今回は壁ばかりは観察してはいられないけど。


 何しろ、フロアを踏み外したら、熱々の池に真っ逆さまなのだ。一応通路には手すりがしつらえてあるけど、それが親切心からかはトンと分からない状況である。

 とにかくこのエリアのマイナーチェンジに、最初戸惑っていたハスキー達も今は慎重に進み始めていた。敵もガーディアン型の魔導ゴーレムが、小部屋風のパネルエリアに配置されている。


 更に下部で煮え立つ池からは、火炎コウモリや火炎トビウオが生まれては侵入者を察知して飛び寄って来る。その数もなかなか多くて、さばく側としても大変だ。

 今回は後衛陣も下から狙われるので、護人やルルンバちゃんも大忙し。紗良の《氷雪》魔法なら恐らく一撃だろうけど、何しろ範囲技なのでコストが悪くて使いづらい状況である。

 それでも、ムームーちゃんも手伝ってくれて火炎系の敵は全て撃破完了。


「おっ、上手いなムームーちゃん……いいぞ、その調子だ。ルルンバちゃんもお兄ちゃんらしく、上手にサポート出来てたね。

 魔導パーツの左腕も、使い方が上達して来たかも?」

「ちょっと、叔父さんっ……あんまり甘やかしてちゃダメだよっ! ドロップした魔石、全部池の中に落ちちゃってるじゃん。

 しっかり回収まで教えなきゃ、甘えん坊さんになっちゃうよ?」

「そうだね、ここに良い例があいるからね……保護者に甘やかされ過ぎて、我がまま放題なお転婆娘が生まれちゃってるもんね」


 どういう意味よと憤慨する末妹だけど、その通りだねぇって視線が各所から。ハスキー達は、その論争を見ぬ振りで、先行してのゴーレム対応に忙しい。

 さすがに6層まで降りて来ると、立ち塞がる敵は段々と強くなって来る。エリアの仕掛けもそれに準じて、複雑になって来て進むのも少し怖い。


 何しろ足を踏み外せば、熱々の熱闘風呂にドボンである。押すなよとフリを貰っても、決してその誘惑に乗ってはいけないレベルの温度なのだ。

 実際、進むごとに炎耐性のアイテムを持っていない護人は、額に大粒の汗を掻いている。このレベルなら、ハスキー達と同様に『涼保石』を使用しても良いかも。


 まぁ、今回も護人はそんなに働いてないので、少々汗を掻いた程度で楽をしようとは思わないけど。そう言う所は、真面目な保護者らしい護人である。

 真面目なルルンバちゃんは、末妹に魔石もしっかり回収しなさいと言われて反省模様。ムームーちゃんは、そんな無茶なと池に落ちた魔石をただ眺めるのみ。


 そんな中、マジックハンドの《念動》を使って、魔石を回収に向かう素直なAIロボ。それを見たムームーちゃんは、すごいデシと盛り上がっている。

 お兄ちゃんの株を上げたルルンバちゃんは、ちょっと誇らしそうな態度。前衛陣はルートを確保しつつ、パネル部屋と通路を順調に進んで行く。


 この6層エリアは、前のエリアと長さに関しては同じ程度みたい。次の階段に辿り着くまでに、おおよそ20分程度だっただろうか。

 壁に仕掛けが無いかじっくり見ていた末妹は、この層には無かったよと残念そう。隣を歩いていた長女は、末妹がフロアから落ちないよう心配が尽きない様子。


 池の上に浮いてる研究室フロアは、1つが15畳程度で一応は手すりも付いている。それでもそこで戦闘をこなしたりすると、落下の危険も付きまとって来る。

 ハスキー達は天性の運動神経で平気そうだけど、それもケースバイケースかも。例えば、巨体の魔導ゴーレムを相手取る時はさすがにしんどそう。

 それでも、この6層は何事もなく踏破は出来たようで何より。





 ――そして6層を進んで、目的の魔導パーツはいまだ1つも見付からず。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る