第700話 便利な魔法アイテムを集めて回る件
そんな感じで、2層の制圧も滞りなく終了の運びに。来栖家チームの面々は、いつもの配列で部屋の連なった単純な造りのエリアを進んで行く。
1時間もかからず3層へと到着したチームは、この層も順調に攻略を進めて行く。ハスキー達も、暑さにも負けずに元気に戦闘をこなしている。
炎属性のレイジーは、一見同属性の敵には不利に思えるのだけれど。お前らとは違うんだよってな力技で、火炎リザードやタールマンを踏み潰して蹂躙している。
そして3層から出現した、マグマの塊みたいな敵も同じく割と簡単に粉砕している。こいつも漏れなく『温保石』を落とすので、末妹からご機嫌な抹殺命令が飛び交っている。
研究棟を模したエリアの連なりは、ロフトのような高台があったり研究施設の台や棚が配置されていたり。そんな感じでなかなか賑やかで、その中で稼働する壁の歯車は何だかお洒落。
ところが3部屋目に入って、そんな壁の歯車に異変が生じた。左側の歯車は、10秒動いて10秒止まるを繰り返しているのに対し、右側のは全く動いていないのだ。
これを発見した子供達は、興味津々で確認に向かっている。
「あれっ、こっちの歯車って全部が繋がって無いよねっ……ほら、ここってパーツが足りなくない? そのせいで、右側の歯車で回ってない箇所があるよっ」
「あっ、本当だ……良く気付いたね、香多奈ちゃん。えっと、軸は壁から生えてるから、どこかから同じサイズの歯車を調達して来たらいいのかな?」
「なるほど、じゃあ反対の壁から取っちゃえば、紗良姉さん? あっち側は、元々動いてないから取っても平気だと思うよ」
姫香のそんな助言に、おおっと感心した素振りの紗良と香多奈はさっそくそちらへと移動する。それからどのサイズかなぁと、多彩な歯車の品評会。
姫香も一緒になって、ああだこうだと品定めする事数分。ようやくそれらしい奴を決めた子供達は、それを思いっ切り引っこ抜きに掛かる。
もちろん力仕事は姫香の役目で、うりゃあと少々女の子らしくない叫び声など発しつつ。見事引き抜いたその途端に、何故か止まっていた右の壁の歯車が一斉に動き始める事態に。
何事と警戒する一行だったけど、歯車の仕掛けは割と単純だった。歯車の連動によって、壁の一部がせり上がって隠されていた部屋が完全オープン。
そこから飛び出して来たのは、ゼリー状の燃える物体だった。一体何が燃えているのか、とにかく火炎スライムの群れがわさわさと這い出て来るのを見るのは、なかなかに壮観かも。
1体が大人が抱える程の大きさのスライムは、割と大柄で数は20体以上はいるだろうか。炎の継続ダメージは、確かに近付かれるだけで喰らうと大変かも。
それでも、炎耐性の魔法アイテムで防御している前衛陣は、平気な顔でそいつ等を駆逐して行っている。護人とルルンバちゃんも、一応は遠隔攻撃でそのお手伝い。
何しろ数が多いので、その辺の物に炎が燃え移らないか心配なのだ。ダンジョンの物は不壊なので、まぁその心配も
やっぱり脳内の常識は、それを
「ふうっ、ビックリしたなぁ……私はてっきり、向こうの仕掛けに歯車を
なのにいきなり、こっち側の隠し部屋が開くのはズルいよねっ!」
「別にルールがある訳じゃないし、単純にアンタが
「あっ、確かにそれは姫ちゃんの言う通りかも……色んな事象に対応出来るように、脳を柔らかくして何が起きても良い様にしてなきゃねっ!
嵌め込む時に気を付けてね、姫ちゃん」
了解と、どうやら嵌め込み役も担う気満々の姫香は男前な気も。家族が見守る中、反対側の壁に場所を移しての仕掛けの作動を続けて行う少女である。
歯車が稼働から停止した瞬間を狙って、姫香は飛び出た軸に歯車を押し込んで行く。子供達の鑑定は見事に正解だった様で、見事に選択した歯車はその間隙を埋めてくれた。
そして10秒後に、ぴったり10秒だけ稼働する歯車の仕掛けである。その動力で、予想通りに反対側の壁と同じく下から徐々にせり上がってくれる。
ただし、最初の10秒ではハスキー達すら潜れない隙間で、更に10秒待つ破目に。次の10秒で、何とかしゃがめば入れる隙間が目の前に出現した。
ハスキー達は、鼻を突っ込んで中に敵はいないよと早くも索敵は完了したと報告してくれている。それを褒めてあげながら、待ちきれない末妹は次の稼働を待たずに潜り込む素振り。
それを足を引っ張って止める姫香は、別に意地悪をしている訳では決してない。護人も危ないからもう少し待ちなさいと言ってるし、リーダー命令は絶対である。
それでも、先行して安全確認に赴いたハスキー達に後れを取った香多奈は不満そう。姉と恒例の姉妹喧嘩を始めながら、もう行って良いでしょと叔父にせっついている。
その頃には、遅ればせながら茶々萌コンビも潜り込んで安全は確保済みに。ようやくゴーサインを貰った末妹は、隠し部屋へと這い込んでおおっと歓声を漏らす。
隠し部屋は割と広くて、色んな素材が棚に置かれていたのだ。
末妹に続いて、心配した姫香も這って中へと侵入を果たす。それに数十秒遅れて、護人と紗良も隠し部屋とやっとの事でご対面に。
姫香と香多奈は、既に目ぼしいアイテムを見て回っていた模様。素材の大半は炎属性の魔物の物だったり、魔導ゴーレムのパーツも少々紛れていたり。
他にも魔石(中)やら魔玉(炎)やら、炎属性のインゴットもそれなりに揃えてあるよう。ポーションやエーテルもガラス瓶に入って置かれてあるし、この隠し部屋はまずまずの当たりかも。
例の『温保石』と『涼保石』も、箱に10個ずつ入っていてそちらも回収済み。他にも炎の属性石やら強化の巻物やらあったけど、残念ながら魔導パーツの類いは無し。
ついでに武器や防具系の魔法アイテムも無くて、辛うじてネックレスが1つのみ。これは魔法の品らしく、まぁ1個だけでも当たりがあって良かった。
素材系に関しても、末妹は良さそうな物は全部持って帰るつもりみたい。まぁ、ドワーフの親方へのお土産にしても良いし、そこには口を出さない護人である。
「う~ん、宝物庫じゃなくて残念だったけど、まずまずの収穫だったね。この調子で、ルルンバちゃんの魔導パーツをゲットしようっ!」
「こんな仕掛けがあるんだったら、この後も注意して周りを見ながら進まなくちゃね。魔導パーツはなかなか貴重なのかな、何とか1個は回収して戻りたいけど」
「一応は、親方が元のパーツを修理してくれてるみたいだけどね。時間はどうしても掛かるらしいから、予備のパーツは欲しいかな」
護人の言葉に、欲しいよねぇと賛同する子供達の視線の先にはドローン形態のルルンバちゃんが。その姿は、普段見慣れている勇姿からしたら何と弱々しい事か。
一応は魔銃を装備しているけど、必殺技のレーザー砲は焼き付いてしまって修理中である。予備のバルカン砲もあるけど、今回は空間収納も置いて来たのでパーツ交換自体が出来ないと言う。
その当人は、今回は特にガッツリ活躍しようなどとは思っていない風である。と言うか、家族と一緒に探索出来るだけでご機嫌なAIロボである。
そんなルルンバちゃんの、一撃必殺の攻撃力を覚えている香多奈などは、かなり物足りない思いなのだが。そもそも、このダンジョン内にどんなパーツがあるかも不明である。
護人や紗良からすれば、次回に役立ちそうな『温保石』を回収出来ただけで有り難かったり。それより遥かに強欲な末妹は、この位では納得していない様子。
隠し部屋の目ぼしいアイテムを、全て魔法の鞄に手分けして回収して行くように指示を飛ばして。この後の宝箱も、全部見付けるよとハッスルしている。
それを見る家族の視線は、ほお袋にドングリを詰め込み過ぎたリスを見る生温かいモノ。ハスキー達に限っては、新たな指令を貰って張り切りスイッチが入っている。
今の所は出番のない後衛組は、あまり張り切り過ぎないようにと前衛に釘を刺す。それから先に進もうかと、護人リーダーの再出発の合図。
そしてその後は、何事もなく第3層はクリアの運びに。
4層もエリアに大きな変化は無し、研究棟の大部屋が通路状に連続して連なってダンジョンを構成している。その室内にも研究施設の机や棚が置かれていて、通路を構成している。
そんなちょっとした迷路を進みながら、このエリアの敵を確認する前衛陣。今回も壁の端っこに熱々の池が煙を吹いていて、そこからは炎属性の敵が次々と這い出て来ている。
今回も火炎リザードやタールマンがメインだが、この層から3メートル級の大物トカゲも混じって来た。そいつも炎属性のようで、近付くだけでとっても熱そう。
それらを狩るハスキー達は、元気いっぱいで明らかに戦闘に楽しみを見い出している感じ。半ダース以上出て来た火炎軍団は、あっという間に制圧されてしまった。
その奥からは、これも3メートルサイズの魔導ゴーレムがのしのしと近付いて来ている。お供にパペット兵士を数体連れて、何だか強さをアピールしている感じ。
それをハッタリと決めつけて、猛攻を掛けるハスキー達はさすが歴戦の勇者である。それに混じっているヤン茶々丸は、やっぱり浮いている気も。
それでもコロ助と萌のハンマー攻撃で、完膚なきまでに破壊されるゴーレムは哀れ。雑魚のパペットも、レイジーとツグミが剣とスキルで殲滅している。
姫香の出番もほぼ無いと言う、いつも通りの来栖家チームの探索風景である。それでも和やかなムードなのは、いつもの家族チームならではなのかも。
次の大部屋も似たような敵の配置で、ここでも前衛陣は大張り切りで敵と対峙している。賑やかな雰囲気の中、4層の攻略も順調に進んで行く。
後衛陣の末妹は、前の層みたいな仕掛けが無いかなと壁を中心にあちこちをガン見している。紗良もそれを手伝っているけど、続けてそんな旨い仕掛けは無いみたい。
それを不満に思ったのか、香多奈が歯車にちょっかいを掛けようと近付いて行く。それを制して、挟まれて手が潰れるぞと護人が慌てまくるのもいつもの事。
姉の姫香も末妹の軽率さを批難して、やっぱり騒がしい来栖家チームである。その間にも、前衛陣はサクサクと出て来た敵を倒して安全確保に余念がない。
気付けばすぐ次の部屋に、3メートルサイズの下り階段が。
「あっ、これでようやく4層も終わりだね……香多奈、いい加減大人しくして、護人さんに迷惑かけるんじゃないわよっ!
隠し部屋なんて、そんな連続で設置されてる訳ないでしょ」
「分かったよっ、お姉ちゃんの怒りんぼっ! あっ、あそこにいる敵の魔導ゴーレム……なかなか格好良いと思わない、ルルンバちゃん?
次のボディは、人間タイプでもいいかもね?」
「ズブガジの変形した時の感じなら、確かに格好良いかも知れないな。まぁ、緊急時に子供達を運べるオプションが、実は一番欲しいんだけどね。
どっちみち、本体の魔導ゴーレムパーツは、1週間位で修理が終わるみたいだから。それまでの繋ぎのボディとか、後は本体がより強力になるパーツが欲しいのが本音かな。
もちろん、ルルンバちゃん本人の意見は尊重するけどね」
巧みに会話をすり替えた末妹に、乗っかる護人は姉妹喧嘩の回避にはすっかり慣れっこである。そしてルルンバちゃんのパーツに関しては、回収出来なければそれは仕方が無いと諦めるつもり。
ダンジョンだって万能ではない、目的の物をゲット出来ない事だって当然ある。それでも探索のリスクと儲けとを天秤にかけて、ダンジョンに潜るのが探索者の本能である。
護人も段々と、そんな探索者の色に染まって来た感が。
――そんな“魔術師の塔ダンジョン”も、もうすぐ中ボスの間である。
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