第699話 “魔術師の塔ダンジョン”で魔導パーツを探し求める件



 幸いと言うか、場所の確定をハスキー軍団に任せた結果。20分も経たずに、恐らく目的のダンジョンの入り口を発見に至った来栖家チームである。

 そこまでの道順に、紗良はヘンゼルとグレーテルのように布切れで木の枝に目印を設置して行く。童話ではその行為は無駄になってしまうけど、そうでない事を家族で祈りつつ。


 ゲートの排出場所は、その点で言うととっても正確だったようだ。直線距離で200メートルも離れておらず、これなら目印を見失っても迷子の確率は低そう。

 そんな話をしながら、一行はいざ“魔術師の塔ダンジョン”前へと集合を果たす。先行して場所の確定をしたハスキー達を褒めながら、子供達は周囲を見渡してやや不安そう。


 そこはすっかり、塔の面影はなく崩れ去った石垣が窺えるだけの悲惨な場所だった。その割にはダンジョン入り口の階段は、とっても立派で3メートルサイズである。

 さすが魔導ゴーレムを護衛に配置している塔跡地だよねと、姫香はそれを高評価。確かにそうかもと、感心した素振りの末妹は姉の評価が低過ぎる気も。


「今回は、大型の魔導ゴーレムが出て来るかもだけど、耐炎装備の無い護人さんはなるべく前へ出ないでよねっ。私とハスキー達で何とかするし、ルルンバちゃんだって本調子じゃないんだから。

 あっ、でも紗良姉さんの《氷雪》スキルは当てにしてるからね!」

「そうだね、今日は頑張るよっ……萌ちゃんも炎耐性装備を持ってないんだから、前衛で無理しちゃ駄目だよっ?」

「これからは、色んなタイプのダンジョンに探索に行く事になるもんね。全部をしっかり攻略出来るように、それぞれの耐性装備とか揃えなくちゃだね、叔父さんっ!

 そしたら次は、活躍出来るはずだから元気出してっ?」


 別に落ち込んではいないけど、末妹にそう慰められた護人はそうだねと取り敢えずは肯定の返事。確かに来栖家チームは、水耐性装備は万全だけど他は割とおざなりなのだ。

 そのせいで後々に苦労するのは、確かによろしくは無いかも知れない。そうならないように、香多奈の言う通りに色んな耐性装備を揃えるのは理に適っている。


 ハスキー達は、準備が出来たら入ろうよと仕切りに家族を促して、探索準備オッケーを知らせて来る。そんな訳で、予定外の異世界探索の開始と相成ってしまった。

 来栖家チーム的には、何度目かの異世界ダンジョン攻略である。




「おおっ、何だか凄いかも……いかにも気難しい魔術師さんが、ここで研究してたって感じがするよね。リリアラちゃんも、もう100年くらいしたらそんな感じになるのかなぁ?」

「リリアラはエルフだもんね、そう言う点じゃ山の上の未来は安泰だよねっ! 塔も出来たみたいだし、植物学や錬金学もこれからどんどん進んで行きそうだねっ。

 紗良姉さんも、最近はすっかりお弟子さんだもんね」

「そうだね、妖精ちゃんも含めて良いチームが出来上がってるよ! この深藍鱗のペンダントも、3人の共作で出来たモノだからねぇ」


 どうやら山の上の錬金師団は、いい感じにチームを結成して日々鍛錬に励んでいるようだ。『錬金術』スキルを持つ妖精ちゃんだけでなく、紗良もかなり勉強に励んでいるみたい。

 来栖家長女のサポートは、探索中以外でもそんな感じで及んでいるのは凄いかも。今回も家族チームに安心と信頼をお届けする、錬金術師の長女であった。


 取り敢えずは第1層に入っての、子供達の感想は研究所みたいだねって感じで一致しているよう。つまりは室内エリアで、壁なんか物凄く派手である。

 何と言うか、壁の一部が時計塔の歯車仕掛けみたいな感じで稼働中と言う。なかなかに派手なエリアの中は、大部屋が幾つか連なってフロアが構成されている様子。


 床は石造りで、室内なのに高低差があったり一部が池みたいになっていたりとちょっと妙な感じ。池の中は温泉と言うか、北九州の“血の池地獄”みたいに湯気が立ち込めてちょっと怖いかも。

 なるほど、親方の説明にもあった火属性のダンジョンの仕掛けは確かみたい。もう1つの魔導ゴーレム情報も、さっそくぜんまい仕掛けのパペット兵士がお出迎え。


 そいつは炎耐性を持っているようで、このエリアには適性はピッタリかも。何にしろ、レイジーの炎のブレスに耐えた性能は称賛に値する。

 そして別府の“血の池地獄”のマグマ溜まりのような池からも、次々とモンスターが這い出て来ていた。炎耐性持ちのパペットは、コロ助と萌が受け持って退治を始めており。

 火炎リザードは、レイジーとツグミが武器やスキルで蹴散らしている。


「おっと、どっちもそこまで苦労はしていないかな? まだ1層目だしな、もう少し様子を見て後衛との距離は近めで行こうか。

 紗良と姫香も、すぐフォローに入れるようにな」

「了解っ、護人さん……それにしてもフロア内は暑いね、さすが炎のモンスターの棲息するエリアだよ。ハスキー達が、熱でダウンしちゃわないと良いけど」

「そうだね、水分補給をマメにしてあげなきゃ。それにしても、壁の仕掛けも豪華だねぇ……あんな大きな歯車、初めて見たかもっ?」


 そう言って感心する紗良は、そう言う仕掛けが大好きな模様でキラキラした瞳で周囲を眺めている。末妹の香多奈も、サービスにと長女と巨大歯車の2ショットを撮影してみたり。

 ただし姫香も言っていたように、このエリアは高熱の池のせいで居心地は決して良くはない。それを池と形容して良いモノか、マグマ溜まりと言われても納得する熱量かも。


 そこから定期的に出現する敵は、さっきの火炎リザードや蒸気の無形型モンスターがメインのよう。どちらも触るだけで火傷しそうだが、炎耐性の装備は本当に優秀である。

 紗良も敵の接近には充分注意しており、いつでも魔法を撃てるように警戒はマックス。幸いにも、1層目ではその出番も無く20分少々で踏破は完了出来てしまった。


 部屋の数としては、半ダースと少しくらいだっただろうか。1部屋に必ず数匹の待ち伏せがあり、倒した敵の数は2~30匹と言った所。

 そして宝箱の形跡だが、こんな浅層では当然無しと言う結果に。


 この“魔術師の塔ダンジョン”に寄ったメイン目的は、宝物の回収なのでその点では残念な限り。もっとも、1層目で簡単にお目に掛かれるとは、さすがに誰も思ってなかったけど。

 子供達は呑気に、発見した階段を目にしてここはゲートじゃないんだと文句を言っている。ゲート魔方陣の場合は、区切りの5層や10層で帰還用のゲートがある場合も多いのだ。


 要するに、クリアしても地上に戻るのが面倒だと言いたいみたいで、その点は確かに不便ではある。いつもは疲れても、ルルンバちゃんが乗せてくれてたのに今日はそれも無理と来ている。

 一応は、ドローン形態で魔銃を装備してついて来てくれている健気なAIロボではあるけど。魔法と言う新技を前回覚えて、何だか火力に関しては1ランク上がった気がしないでもない。


 それを試してみようと、末妹の提案が通ったのはチームが2層へと到達した後の事。ここも前の層と似たようなエリア構成で、室内に配置された血の池がいやらしいアクセント。

 もうもうと煙を上げている真っ赤な池からは、今回火炎リザードの他にも1メートルサイズのタール人形が。いかにも泥人形の造形のそいつは、やっぱり近付かれるととっても熱そう。


「よっし、新しい技でやっちゃえルルンバちゃんっ! あっ、ついでにムームーちゃんも手伝っていいからねっ!」

「どうでも良いけど、ルルンバちゃんの魔導パーツの左腕……本物の人の手みたいで、ちょっとアレだよね、護人さん?」

「んっ、まぁ……でもそれは、本人には直接言っちゃダメな奴だからね、姫香」


 心優しくて傷付きやすいAIロボを気遣って、リアル過ぎる左手が気持ち悪いとは間違っても言えない来栖家である。そんな裏事情など知らないルルンバちゃんの、新スキルが派手に炸裂する。

 まだ彼は未熟なので、媒体に魔玉を使用しないと発動は無理。今は魔玉(水)を使用しての、ムームーちゃんと一緒の水魔法の詠唱(?)である。


 その威力は、末妹も満足の行くレベルでタール人形は次々と爆発して吹っ飛んで行ってしまった。さすがに熱々のモノに水をぶっ掛けると、洒落にならない事態になってしまう。

 その辺は、幾らダンジョンでも常識が作用して何だか面白い。そしてその奥から、初見のドール族がのしのし歩いて来ているのが窺えた。


 そいつは3メートル級の巨体だが、動きは緩慢でそれほど強くは無さそう。香多奈などは、アレはルルンバちゃんの新ボディには相応しくないねと評価を下している。

 確かにそうだねと、姫香も同意して女性陣の評価はイマイチなそのドール族。ただし、炎耐性はバッチリあるようで装甲も割と硬そうな外見かも。


 子供達がそんな品定めをしている間に、コロ助と茶々丸が特攻をかけてスクラップへと変えて行った。やっぱり見掛け倒しのドール族、中身はスカスカだった模様。

 2層まで探索して、姫香はこの“魔術師の塔ダンジョン”のランクは、それほど高くは無いかなって評価みたい。護人も同じく、ただし炎耐性の備えが無かったら厄介だったかも。

 それを聞いて、確かにそうだねと賛同する香多奈である。


 そして今回、魔石(微小)と一緒に変わった石がドール族からドロップした。水色で平たいそれは、紗良の『鑑定』によると『涼保石』と言う名のアイテムらしい。

 これは体にくっ付けておけば、良い感じに涼しく体温調節してくれる魔法アイテムのよう。冷え〇タみたいなモノらしく、これはハスキー達は嬉しいかも。


 とは言え、最初の1個目は末妹が面白いかもと勝手に使ってしまった。そしてかなり涼しくなったよと、探索が快適になったと報告して来る。

 呆れた表情の姫香だが、次が出たらハスキー達に使わせてあげなさいと批難はしないよう。次が出るかも不明だが、どうやらその品はここの所有者の研究品だと彼女は推測しているようだ。


 つまりは、探索を続けていたらこの後も出て来るだろうと。それが確定したのは、案外早くて次のパペット兵士を倒しての事。どうやらドロップ品としても、高確率で回収出来そう。

 それどころか、血の池地獄から這い出た火炎リザードやタールマンも、高確率で『温保石』と言う魔法アイテムをドロップする事が判明した。こちらはさっきのと真逆で、いわゆるほっカ〇ロの機能がある模様。


「ああっ、これいいかも……今度の県北レイドで行く予定の“比婆山ひばやまダンジョン”は、雪山エリアが多いそうなんだよね。これがあれば、厚着せずに探索が可能かも。

 出来れば人数分、可能なら他のチームのも揃えたいかなぁ?」

「あっ、なるほど……それは良い案だね、紗良姉さんっ! それじゃあ、出て来る敵をガンガン倒して行こうか、ハスキー達」

「体を冷やすのが出て来たら、次はコロ助に付けてあげるからね。そんで、次は茶々丸かなぁ……いいでしょ、叔父さん?」


 大甘な護人は、末妹の提案に仕方無いなと言う表情。頑張って全員分の石を揃えれば、どこからも文句は出ないだろうと姫香に目で諭す素振り。

 それには姫香も、仕方無いなぁって表情で返すしかない。幸いにも、2層に出て来る敵も結構な数がいるようだ。ルルンバちゃん案件で寄ったダンジョンだが、思わぬ収穫がありそう。


 ここの魔術師は、よほどそっち系の研究に熱心だったのかも知れない。魔導ゴーレムに関して、どの程度の造詣があるのかはまだ不明だけれど。

 そちらの回収もバッチリなら、はるばる異世界まで来た甲斐もあったと言うモノだ。どの程度の深さなのかはまだ分からないけど、アイテム回収の楽しみが出来て、子供達の探索意欲も上がるかも。


 敵の強さもそれ程では無いようなので、10層程度なら軽く突破出来そう。ただまぁ、地上に戻るのが大変になるので、そこそこで引き返した方が良い気も。

 その辺の塩梅を間違えないように、チームの舵取りを行って行かないと。ダンジョン帰りも歩きなので、子供達の体力もしっかり管理しておかないと。

 ダンジョンの敵は、物理的なモノだけとは限らないし。





 ――何しろここは異世界なのだ、普段と同じと考えると痛い目をみるかも。





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