第698話 ルルンバちゃんの修理にお遣いを頼まれる件



 さて、色々あって大反省の“魔獄ダンジョン”探索関連の出来事は、取り敢えずは一息ついたと言う事にしておいて。残った問題は、ルルンバちゃんの魔導ボディの修繕だろうか。

 いや、山の上は新人の子供達の加入もあって、何やかやとゴタついているのだが。しかも香多奈が無償で提供したスキル書の相性チェックで、話は数段階ややこしい方向へ。


 《勇者》だとか《闇の君主》だなんて妙なスキルについては、当分は山の上の住民の間に留めておく事に。せっかく闇企業の案件が落ち着いたのだ、新たな波風は立てたくないのが本音である。

 それにしても、月末には県北レイドが迫っていると言うのに、ルルンバちゃんはようやくドローン形態を取り戻した所。このままでは、次のA級ランクのダンジョン探索に支障が出てしまう。

 ここまで大破したのは、“喰らうモノ”での小型ショベルの時以来かも……無茶が利くのも考え物である、まぁそれも《合体》スキルあってのモノだろうけど。


 修理に行くなら、やっぱり隠れ里だよねと張り切る末妹は来週末には出掛ける気満々である。それまでは、新しく購入したドローンでルルンバちゃんの移動に不便は無い。

 昔の草刈り機パーツもあるし、畑のお手伝いも万全である。トラウマは増えてしまったかも知れないが、再び温かい家族に囲まれて幸せを満喫しているAIロボだったり。


「紗良お姉ちゃんの『回復』スキルじゃ、このボディの穴ぼこ治せないの? 前には家屋の修繕も、スキルでやってたし行けるんじゃないかなぁ?」

「う~ん、家の修繕は私にも知識があったから、それが大きかった気がするんだよね。体に出来た傷を治す時にも、一応は人体の基礎知識は頭に入ってたからねぇ。

 でも、魔導ゴーレムの知識は私には無いからなぁ」

「ああ、紗良姉さんのスキルじゃ流れ出た血とかは戻せないもんね? 穴ぼこをふさぐくらいは出来ても、中の主要な回路とかパーツとかが壊れたままじゃ意味ないもんね。

 やっぱりそこは、専門家に見て貰わないと駄目なんじゃない?」


 そんな感じで、子供達はルルンバちゃんのために魔導ゴーレムボディの修理を行おうと計画を立てる。具体的には、末妹の言う通りに週末の隠れ里のドワーフ親方もうでである。

 他のメンバーに関しては、この数日であの激動の探索の疲れは癒えて問題は無し。確かにハードではあったけど、心情的にはスッキリしたと言えなくもない。


 護人も同様で、これで福山市の闇企業との悪縁もキッパリ切れたと断言出来そう。そしてルルンバちゃんも立派な家族の一員である、彼の復活に手間を惜しむなどもってのほかである。

 もっとも、ルルンバちゃんは新しく支給されたドローンでご機嫌にあちこち飛び回っているけど。戦闘に関しても、右手の『念動』付きマジックハンドと、それから左には女性の魔導ゴーレムの腕を取り付けて不便は無さそう。


 しかも先日の探索で、魔玉を媒体に魔法まで使う事まで覚えてしまったAIロボである。この知らせに、香多奈などは大喜びでこれでもっと強くなったねとのはしゃぎよう。

 ただし、焼き付いて使い物にならなくなった砲塔必殺技に関しては、次の探索までには使えるようにしておきたい。具体的には、下旬に控えている県北レイドには間に合わせたい所。

 そんな訳で、次の週末は隠れ里の工房へと行く計画が決定した。




 9月も段々と深まって行って、そろそろ秋植えの白菜や葉物や玉ねぎの苗を作り始める来栖家は割と忙しい。そんな中、大事な要件として組み込まれたルルンバちゃんの魔導ボディの修繕依頼を家族で出かける事に。

 畑仕事は収穫も増えて来るので、忙しいには違いないのだが。家族や辻堂夫婦や山の上のメンバーのお陰で、以前よりずっと気は楽ではある。


 秋の一大行事としては、もちろん稲刈りもあるし今年は牛の青草も育てている。果物の収穫もあるし、家族総出の作業が続いて忙しくなること請け合いである。

 そんな中で、月末には県北レイドも待ってるし来栖家のスケジュールは割とハードかも。それでもお昼ご飯まで用意して、異界の隠れ里へと向かう一行は割とノリノリ。


 ハスキー達も家族でのお出掛けを、全身で喜びを表現してさっさと行こうと催促する素振り。末妹が行き先を告げると、しっかり理解して“鼠ダンジョン”へと一斉に駆けて行く。

 それを追いかけるいつもの面々、いつもと違うのはルルンバちゃんがドローン形態って事だろうか。実際、前回の探索では苦労した割には実入りはほとんどなかった。


 そんな探索も珍しいけど、悪縁が切れた事を思えば良かったと護人などは本気で思っている。これでようやく、元の平和な生活へと戻って来れたのだ。

 まぁ、難易度の高いレイド依頼はこの先も待っているだろうけれど。それに備えるためにも、ルルンバちゃんの火力回復は早急に必要な事案である。


「ハスキー達も張り切ってるね、今日は工房に依頼しに出掛けるだけなのに。念の為にって探索着を着てるから、ダンジョン探索だって思っているのかもね、護人さん」

「まぁ、戦闘が移動の途中であるかもだしねぇ。ドワーフの親方さんに依頼を受けるかもだし、気持ちだけは備えておいて損はないよっ!」

「ま、まぁそうだな……香多奈はあまり、妙な事を口にしないように」


 未来を言い当てると言う厄介なスキルを持つ末妹は、こんな感じで家族から事ある度に注意を受けてしまう。それでも全く懲りた風もなく、先頭に立ってダンジョンに入って行く元気な少女である。

 その隣には、騎士のように凛々しく茶々丸に騎乗した萌の姿が。前回の探索では、まんまと転移トラップにはまって酷い目に遭ってしまった教訓を糧にしているのか。


 一番チームの弱点である香多奈は、なるべくフリーにしない姿勢はとても立派である。萌もそう言う点では、前回の探索でちょっとだけ成長した気もする。

 子供の成長は早いと言うけど、その点では萌もそうなのかも知れない。賑やかな家族の色んな関わりから、刺激を受けてこの後もたくましく育って欲しいモノである。


 護人がそんな事を考えている間にも、先頭集団は早くも“鼠ダンジョン”に入って通路を進み始めている。3層からの異界の隠れ里ルートは、既に何度も通っているのでハスキー達にも遅滞は無い。

 途中に湧いている雑魚達を一掃して、後衛の安全を確保してくれる動きも同じく物凄くスムーズだ。そうして来栖家チームは、ものの15分でゲートを潜って異界へと辿り着く。

 騒がしい子供たちは、さあ着いたぞと集落でもお祭り騒ぎ。


 それをたしなめながら、隠れ里を工房へと進んで行く護人とその一行である。この土地の四季は向こうとは全く違うようで、小麦などの栽培と収穫からは季節は分かりにくい。

 気候的にも、1年を通じてあまり変化は無い気もする。それはともかく、目的のドワーフ親方はちゃんと工房にいて一行を出迎えてくれた。


 そして空間収納から取り出された、魔導ボディの惨状を見てコリャ参った敵な表情に。砲塔も同じく、両方とも使えるように修繕するにはそれなりの機材と時間が必要との事である。

 ドワーフ親方の工房は、錬金術や魔導パーツを専門に取り扱っている訳では決してない。この隠れ里にはそんな工房が無いので、簡易的に引き受けているだけなのだとか。


 そう言われると申し訳ない護人だが、他に頼れる人もいないので無理を押してお願いするしか。子供達にも愛嬌たっぷりにお願いされて、やらないとは言って無いだろうとツンデレ対応の親方である。

 ただし、言った通りに時間と素材が必要なのは確かだそう。


「そうじゃな……この前この里に泊まった冒険者から、魔術師の塔がダンジョン化した場所を聞き出せたんじゃ。そこは塔のガーディアンに、魔導ゴーレムと炎系の召喚獣をメインで配置していたらしくってな。

 浅い塔型のダンジョンじゃったが、魔導ゴーレムとダンジョンの仕掛けが面倒で途中で引き返したそうじゃ。

 そこなら魔導ゴーレムのパーツ関係も、多く集められるんじゃないか?」

「おおっ、それはナイス情報だねっ! 叔父さんっ、ここはルルンバちゃんのためにお出掛けしようよっ。親方さんっ、それってここから近いのっ?」

「魔導ゴーレムと炎系の敵かぁ……ウチのチームは耐水装備は揃ってるけど、耐炎装備は意外と少ないんだよねぇ。

 備えが無くても大丈夫かな、護人さん?」


 そんな心配をする姫香は、レイジーは大丈夫そうだよねと相性の問題を考えているよう。紗良は鞄から、家の工房で作った炎耐性効果の『恐竜の深藍鱗』の装備を前衛陣に配り始める。

 この辺は、さすが錬金術を妖精ちゃんから習っているだけある。ドワーフ親方も、それが手製だと聞いて出来合いを確認して感心した素振り。


 レイジーと萌は取り敢えず大丈夫だろうと、そのうろこのペンダントはツグミとコロ助、それから姫香と茶々丸に配られる事に。今回は数が足りないので、護人やルルンバちゃんは前衛には出ない約束に。

 何しろ異界のダンジョン、しかも初見での探索である。ルルンバちゃんの修理の為にも、行かないと言う選択肢は既に存在しなくなっている。


 弟子たちも集まって来て、魔導ゴーレムのボディを調べ回っている。親方はその中の弟子の1人に、集落のワープゲートに連れて行ってやれと言いつけてくれた。

 どうやら隠れ里のワープゲートは、ある程度座標が調節出来るようである。近場まで飛ばしてくれるので、帰りは用意してある転移石を踏めば良いとの親切設計。


 異界の常識は、何と言うか現世のそれとはかけ離れていて面白い。そんな事を口にする子供達は、考え方が柔らかくてそんな常識も簡単に受け入れてしまう。

 護人も便利ならいいかと、敢えて深くは考えない事に。魔法やスキルに関しては、まだ分かっていない事の方が圧倒的に多いのだ。

 その辺の解析は、小島博士や頭の良い人達に任せておく事に。


「それじゃあ、今から異界のダンジョンに魔導パーツを回収しに行くとして。みんな充分に気を付けて、異界にいるって事を忘れないようにな。

 向こうのダンジョンとは、勝手が違う部分もあるだろうからね」

「了解、叔父さんっ……ねえ親方っ、そのダンジョンの名前は何て言うの?」

「好きに呼ぶがええよ、噂じゃそこまで深くは無さそうって話じゃったかな。それから魔術師の研究塔の雰囲気が強かったから、不届き者を撃退する仕掛けは強烈じゃったって言っておったかな。

 確かに気を付けた方が良いかもな、年取った魔術師は大抵が偏屈じゃから」


 そうなんだと、ビックリ顔の香多奈は多分山の上のリリアラを思い浮かべているのだろう。彼女は幸いにも、年を取っていても現役バリバリで良かった。

 或いはそれがエルフの特性なのかも、いや分からないけど。何にしろ、偏屈な職人気質かたぎのドワーフにそんな事を言われる魔術師の塔はひょっとしなくても手強そう。



 来栖家チームはその後多少なりとも情報を入手した後、お弟子さんの案内で隠れ里のゲート前へ。用意周到な紗良はお弁当も用意しているし、みんな探索着も着込んでいる。

 この辺に抜かりが無いのは良いが、やっぱり少し心配な保護者の護人である。ハスキー達は全くいつもの通りで、さあ探索だと意気揚々と先頭を進んでいる。


 そしてチームでゲートを潜って、これを帰りに起動してくれと丸い石を見せられる護人。この場所で魔力を流せば、再び石に込められた魔方陣が隠れ里とゲートを繋ぐそうな。

 肝心な“魔術師の塔ダンジョン”だけど、お弟子さんはこの場所の近くだとしか分からないそう。要するにポイントだけ聞いて、その近くにゲートを繋げたとの事。


 この後は自力でお願いしますと、親方のお弟子さんはゲートを潜って戻って行ってしまった。途方に暮れる護人だけど、ハスキー達は行き先を既に定めている様子。

 その辺は何とも高スペック、子供達はこの場所にちゃんと帰って来れるよう目印の確保に忙しい。それぞれがなすべき事をして、その結果目指すべき方向が定められたみたい。

 末妹が、呑気にあっちの方向だねと丘の向こうを指差している。


「う~ん、何か見付けたのかな、ハスキー達? 出来れは真っ直ぐ進みたいよね、この場所からしかゲート繋がらないなら、帰り道を見失いたくないし」

「この前の異世界のダンジョン探索も、確かそんな感じだっけ? あの時は呪い装備の浄化の出来るダンジョンを紹介されて、その入り口でムームーちゃんを見つけたんだよね。

 今回も、何かいいモノ拾えないかなっ?」


 思い切り拾い物扱いの軟体生物はともかくとして、確かに前回も場所の特定は苦労したかも。ハスキー達は、関係ないぜと山の斜面を真っ直ぐ下って谷を目指しているっぽい。

 周りの景色は、異界と言うよりどこかの山道の途中に放り出された感じ。木々が密集して生えた斜面や、起伏の多い稜線が目の前に広がっている。

 つまりは、森に入り込んだら方向感覚はあっという間に狂ってしまいそう。





 ――こんな異界の山の中で、迷子になりたくない来栖家は慎重にならざるを得ず。







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