第696話 激動のダンジョン探索から無事に戻って来れた件
昨日は家族チームで思い切り肝を冷やした来栖家だが、一晩過ぎた今では何とか落ち着いて来た感じ。朝起きていつもの家畜の世話をこなした子供達は、何事もなく日常へと戻って行く。
日曜日の今日は、末妹も学校は休みでいつも以上に騒がしい。そう言う意味では、昨日のダメージは全く引き
とは言え、あれだけダンジョン内を駆け回っていた割には、収入はほんの少しと言う残念な結果に。ガメつい末妹は、戻った後に散々文句を言う元気の良さを発揮していた。
それに対して、生きて戻れただけでもめっけものだよと、怒り顔の姫香の反論である。こんな姉妹喧嘩の風景も、日常が戻って来たからに他ならない。
そんな難関ダンジョン明けの今日の予定だが、協会に向かって報告をしないと不義理になってしまう。取り敢えず午後から、そちらには家族で向かう予定。
そして家の中だけど、放りっぱなしにしていた事柄が幾つか。例えば来栖家の鶏舎で発見された、間違っても鶏の卵の大きさではないナニかの卵の件とか。
妖精ちゃんによると、それは恐らく“精霊樹”からついて来た気紛れな精霊の
そんな巨大な卵を温める、妖精ちゃんは何と言うか献身的な気がして来る。そんな感じで、夏休みが終わっても騒がしい来栖家の周辺である。
「それじゃあ、例の闇企業が用意した“魔獄ダンジョン”絡みの一件は、一応は全部終わったと思って良いのかな、護人さん?
大変な目に遭ったけど、終わったのなら苦労した甲斐もあったよね」
「そうだな、こっちに被害があったら洒落にならなかったけどな。取り敢えず『
その辺は、市内から派遣された協会の2人に確認しておこうか」
「ちょっと、叔父さんっ……ウチのメンバーには、しっかり被害者が出てるよっ! ルルンバちゃんのボディが、全部ボロボロにされちゃってるじゃん。
これを早急に治さないと、月末には遠征のお仕事があるんでしょ!?」
そう言って荒ぶる末妹だが、口にしている事は確かにその通りである。お掃除ロボ形態で台所の掃除をしているAIロボは、今は戦う術は全く持っていない状態。
それは確かに失言だったと、護人は前言撤回してルルンバちゃんのご機嫌取りなど。AIロボは気にした風もなく、ご機嫌に床を走り回っている。
それはともかく、週末には隠れ里のドワーフ親方に修理を頼みに行かないと。他に魔導ボディを仕入れる当てなど無いし、砲塔パーツも焦げ付いて使えない状態なのだ。
そんな訳で、来週末の予定は埋まってしまったけど、それまでの繋ぎと言うかドローンの購入もしたい所。何しろドローン部分も、戦闘で完膚なきまでに破壊されてしまっていたのだ。
修理と購入と、お金が掛かって大変だねぇと渋い顔の末妹だけれど。企業の移動販売社に来て貰っての、売り払う品は家にまだたくさん貯め込んである。
なので、間違っても赤字にはならないだろうと護人は予測している次第。ドローンも一番高い物を、予備も含めて2~3台購入しちゃっても良いかも知れない。
「それより、土屋女史の紹介の新住人は、受け入れオッケーしたの、護人さん? 確か若い姉弟だっけ、チームを追い出された可哀想な子達ってのは聞いたけど。
私としては、どっちでもいいかなって感じかなぁ?」
「えっ、身寄りも無くて可愛そうな姉弟なんでしょ? 土屋さんの優しさを
護人さん、ウチからも最大限の援助をしてあげましょう」
「それって、山の上の新しいお友達が増えるって話なんでしょ? 全然迷う案件じゃないんじゃない、叔父さんっ?」
子供達は、
それを受けて、土屋女史は今日の午前中に広島市方面に迎えに行くそう。元居たチームは宮島で再活動しているそうだけど、この姉弟の居場所はそこには無いそうな。
確かに可愛そうな話だし、出来れば山の上で受け入れても良いと思う。向こうが望めば、日馬桜町で修繕した民家に移住だって悪くはない話かも。
職業だって、別に探索者を続けなくても良いとも護人は思っている。熊爺家の元ストリートチルドレン達みたいに、農家の仕事で今は充分食べていける時代なのだ。
この町の大きな問題としての“魔境”と名付けられた風評被害も、今では随分と落ち付いている。自警団の活躍と移住探索者が増えた事、この2つが解決に大きく起因している。
他にも毎月の青空市の開催で、訪れる人たちが直に安全を確認している点も大きいかも。そんな地道な取り組みで、町の評判を回復して行っているのだ。
そんなネタを仕入れた末妹は、和香と穂積と一緒にどんな子が来るのかなぁと外遊びしながら待ち受ける構え。姫香が友達と作りかけの、精霊樹のツリーハウスは未だ未完成だけど。
床の部分だけは何とか吊り上げて設置は完了していて見栄えはまずまず。そこに乗り込んだ子供達は、拠点の1つとして大いに活用していたり。
その中途半端なツリーハウスは、来栖邸のベランダともまあまあ近い位置にある。お姉ちゃん達は、こことベランダをつり橋で繋ぐ予定なんだよと大威張りな香多奈の言葉に。
それは面白いねと感心する和香は、萌を抱きかかえながら即席床の上をひょこひょこ歩き回る。それからお前向こうまで飛んでご覧と、チビ竜に対して無茶振りをかます。
「えっ、和香ちゃん……萌には翼が無いから無理だよ。何で萌が飛べると思ったの、そっちの方が不思議だよっ」
「だって大抵のドラゴンは、空を自由に飛んでるイメージが無い、穂積? 萌はまだ子供だけど、そう言う本能は親が崖下に落っことして教えるんじゃないかなぁ?」
「あっ、和香ちゃんスルドイっ! 獅子の子育ての話だねっ、ウチらもスパルタしなきゃ確かにダメなのかもっ! 昨日もウチらは探索に行ったんだけどさ、コロ助と茶々萌のたった3匹で魔石(大)の敵を倒したって話だよっ。
コロ助だけじゃちょっと無理だし、アンタも何かしたんでしょ!?」
以外に鋭い少女たちの追及に、子竜の萌はタジタジである。そんな精霊樹の下では、コロ助が頑張れ的な視線を弟分に送っていたり。
そしてついに観念した萌は、《竜翼》を発動させて可愛い翼を発生させる。それを見て、おおッと驚くチビッ子トリオの面々である。
精霊樹のツリーハウスから飛び立った萌は、意外にも人生初の飛翔を無事にこなす。そして自身も驚く、これってなかなか楽しい体験かも知れないって感覚。
地上と言うか、精霊樹のツリー上から子供達の声援の声が響いて来る。それを耳にしながら、萌は風の音と樹々のざわめきを体感して良い気分。
こうして萌の初飛行は、大成功で終わったのだった。
午後のお出掛けは、家族全員でキャンプカーに乗って協会へ。今回の“魔獄ダンジョン”は、魔石や回収品はほぼ無いと言って良い感じで換金も無い。
それでも報告義務はあるかなと、昨日の探索結果を仁志支部長へと報告する流れに。末妹の香多奈は、動画編集も一応はやって貰うつもりらしい。
とは言え、末妹の録画した動画の内容は、殺伐とし過ぎていてほぼ使えないだろう。ルルンバちゃんの録画機器に至っては、魔導ボディと一緒に破壊されている始末。
ザジの録画した素材を何とか流用して、取り敢えず香多奈は動画アップを行うつもりみたい。その辺は執念と言うか、来栖家チームのファンに対する礼儀だと熱弁する少女である。
そうして辿り着いた、いつもの日馬桜町の協会支部は至って平和そう。ペット達は先行して車を降りるも、特に緊張した素振りは見せて来ない。
子供達も同じく、さっそく建物に入って能見さんを掴まえてのお喋りタイムに突入。護人も仁志支部長と示し合わせて、秘密の会話の出来る室内の端っこへと移動する。
「諸々含めてお疲れさまでした、護人さん……ええっと、先日の“魔獄ダンジョン”の報告ですよね? 聞いた話では、ダンジョン内部で壮絶な遣り合いをしたとか。
実際に、罠だったのは確かなんですよね?」
「そうですね、例の闇企業の管理していたダンジョンなのは確かだったかと。『
ギルド仲間に助けられて、何とか無事に戻って来れた感じですかね。その後に異世界チームと話し合って、彼らのアイテムで入り口を封じたんですけど。
これは尾道の協会にも報告して、後の管理は任せたと伝えています」
それを聞いた仁志は驚いた様子、他にもダンジョンを封鎖する手段を持っていたのかと。確かに来栖家チームは、以前“駅前ダンジョン”封鎖の成功例も持っている。
今回はそれとは別の手段で、異世界チームの秘蔵アイテムを使った結果である。以前に“喰らうモノ”ダンジョンに使おうとしていた、アイテム封鎖の奥の手が残っていたのだ。
あの時は、来栖家チームが鬼から貰ったアイテムを使用して“喰らうモノ”騒動は終結したのだが。そのお陰で、ムッターシャの所持していた『メビウスの牢獄』と言うアイテムは使わずに保留していたのだ。
その効果は、ゲート型のダンジョンの入り口情報を誤魔化してしまうと言うモノらしく。例えばオーバーフロー騒動が起きて、1層ゲートを飛び出そうと魔物たちが画策しても、そいつらは別の階層に放出されるらしい。
入り口から入ろうとする連中も入れなくなるので、まさに『メビウスの牢獄』である。異世界で造られたこのアイテムは、素材が高過ぎて量産は不可能らしい。
それだけ“喰らうモノ”の被害は、異世界でも甚大で何かしら手を打つ必要があったみたいだ。そこで異世界の魔術師が思い付いたのは、奴をダンジョンに追い込んで封じてしまう手だった。
その途中の段階で、まさか“喰らうモノ”がダンジョンまで吸収するとは思ってもいなかったみたいだけれど。とにかくその目論見は、こちらの世界で解決を見る事に。
向こうの世界でも、ダンジョン問題は厄介な案件の模様。
それはともかく、現在の協会支所は能見さんがどんな風に動画を作ろうかと頭を悩ませている。そんな彼女に、香多奈は呑気にリュックに詰めて持って来た卵を見せびらかす。
タオルに包まれたそれは、子供達も交替で温めて何が
そんな事を話している日馬桜町の協会支部に、突如とした乱入者が出現した。全員の視線を集めたのは誰あろう土屋女史で、その隣には見知らぬ姉弟が。
どちらも痩せこけていて、一時期の熊爺家に保護された子供達を見るよう。確かに土屋女史でなくても、保護欲をかき立てる存在かも知れない。
「うわっ、その子たちが土屋女史が言ってた姉弟の人達かな……初めまして、ウチの鶏舎で回収した大きな卵を見る?
お昼はもう食べた、ジャーキーならポッケにあるけど」
「だから犬のおやつを人にあげるんじゃないわよ、香多奈のアンポンタン! えっと、日馬桜町にようこそ……ここにいるのは、全員が来栖家のメンバーだよっ」
護人と紗良も、続いて初対面の姉弟と挨拶を交わす。思い切り人見知り中の姉弟は、
初対面の人間には、さぞかし風変わりに映るかも……それぞれ子竜を抱えていたり、スライムを肩に乗せていたりするのだ。駐車場にはハスキー達が待機してるし、ある意味カオスかも。
こんな小動物じみた小鹿みたいな姉弟が、近い将来に山の上であんな事件を起こすなんて。その時の一行は、誰も全く想像すらしていなかった。
ある意味チームを追い出された姉弟の、下剋上が始まるなんて。
――そして、人の好い来栖家がその後押しをする事になるなんて。
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