第692話 ようやく深層でめぐり逢いを果たす件



 10層で残骸と化したルルンバちゃんを回収した護人とレイジーは、何とか破壊された魔導パーツを回収し終えた所。あんな大きなパーツも、収納出来る空間収納は大したモノだ。

 ちなみに、収納に使ったのはルルンバちゃんの収納ではなく、薔薇のマントの方だった。かなりの体積だったのに、すんなり収納出来たのは凄いかも。


 薔薇のマントも、主人と共に成長しているのかも知れない。そしてお掃除ロボ形態のルルンバちゃんを脇に抱えて、現在護人は途方に暮れている所。

 まさかルルンバちゃんが、中ボスと戦って相打ちになっているとは思ってもいなかった。いや、レイジーが転がっていた魔石(大)と魔石(中)を拾って来て、敵の強さは何となく判明した。


 ついでにオーブ珠や、レア素材の蜘蛛の糸なども拾って来てくれて、確実に強敵と戦った痕跡が見えて来る。出て来たゲートの近くには、宝箱も置かれてあったし何と退去用の魔方陣もあった。

 ここが5層か10層か、はたまた15層かは分からないけど、魔方陣でいったん1層に戻る手はアリだ。ただし、すぐ下の層にチームの誰かがいたら救出を優先したい。


 それがチームのリーダーの役割なのは、護人からすれば言わずもがな所ではある。ただし、お掃除ロボ形態のルルンバちゃんは、現在は当然ながら攻撃能力はほぼ無い有り様。

 各スキルは使えるので、《合体》を使って魔銃の使用は可能かなって程度である。そもそも自走モードが敵に踏み潰されないか心配なレベルで、護人が抱えて行くしかないと言う。


「ふうっ、思いがけない再会となっちゃったな……しかしまぁ、中ボス相手にたった1人で戦いを挑むなんて。いつもは慎重なルルンバちゃんなのに、一体どうしたモノかな?

 取り敢えず、合流が出来てよかったけど」


 そんな護人の言葉に、モーター音で返事を示すAIロボはとっても嬉しそう。取り敢えず、ゲートの側の宝物の回収はやっておくべき事ではある。

 その後に混成チームと通信を繋げて、チームの合流情報を聞き出さないと。仮に、既に全員が救出されていたのなら、護人達は退出用のゲートを使用して戻れば良いのだ。


 それに気付いて、少しだけ肩の力が抜ける来栖家チームのリーダーである。隣のレイジーは、まだ戦えるよと現在も隣で警戒を怠っていない。

 その頼もしさは、本当に尊敬に値する……ただし、通信の結果は残念ながら、姫香と香多奈とは未だに合流出来ていないって報告だった。

 それを受けて、こちらも報告を返す護人である。


「こちらは今は中ボスの部屋で、ルルンバちゃんと合流して回収済みだ。帰還のゲートも近くにあるが、子供達がまだ見付からないなら入り口へと進む予定でいる。

 後残ったのは、姫香と香多奈とツグミと妖精ちゃんだね?」

「ええ、こっちも5層の中ボス部屋なので、護人さんたちはひょっとしたら10層にいるのかも知れないですね。

 姫ちゃんと香多奈ちゃんは、その間にいる可能性が高いかも?」

「護人リーダー、そっちは少人数なんだから無理して進まずに待っていた方が良いぞ? 1層でワイバンが出るようなダンジョンなんだ、深層を少人数で歩くのは自殺行為だ」


 珍しく土屋女史が通信に割り込んで来て、そんな助言を飛ばして来てくれた。彼女は子供達とも仲が良かったので、まだ合流出来ていない姫香や香多奈が気になるだろうに。

 それを案じて、護人が無茶をするのではと心配をしてくれているよう。


 自分の身体より、家族の安否の方の心配が勝る護人は土屋の助言を聞き流す構え。そして通信後に、ルルンバちゃんを抱えたまま次のゲートを捜しに掛かる。

 ここを恐らく10層の中ボス部屋と仮定すると、姫香と香多奈は5層と10層の間にいる筈。護人が下って行けば、サンドイッチで素早い救助が見込めそう。


 そんな訳で、再び《心眼》スキルで推定10層⇒9層へのゲートを捜しに掛かる護人である。戦闘とスキル使用過多での疲労は激しいが、そんな弱音は吐いていられない。

このスキルは、脳を焦がす疲労がついて回って、過度の仕様は辛いのだけれど。そんな事を言っていられる状態ではないと、ひたすら我慢のスキル行使。


 心配そうに見上げるレイジーは、それでもリーダーの重責も良く理解している。チームが危機にひんしている状況で、痛いや辛いは子供の言い訳だ。

 そんな心意気で、ルートが判明したエリアを進んで行く一行である。戦闘はレイジーが積極的にこなして、少しでも主の負担を軽減する気満々である。


 そして3回の戦闘をこなして、凶悪な双頭リザードやそれに騎乗した獣人を始末して行く。“変質”した獣人は死体が消えないようで、護人とレイジーは神妙な顔付きに。

 彼らも何らかの事情で、こんな辺鄙へんぴなダンジョンに流れ着いたのだろう。或いは闇企業の研究目的で、閉じ込められた哀れな犠牲者なのかも。


 良く分からないけど、出来るなら彼らの生活には関わらずスルーして行きたい。こんな場所でも、彼らが平穏に暮らして行けてるのなら邪魔をするべきではないとも思う。

 そんなふうに気を回すのも、自分達が明らかに余所者の立場だからに他ならない。出来るならさっさと家族と合流を果たして、こんな場所とはおさらばしたい所。

 それだけを願いながら、護人はひたすら脱出を願うのだった。





 7層を彷徨っている香多奈と妖精ちゃんコンビは、今は2つ目の通路を探索し終えた所。お供の兎の戦闘ドールと光ちゃんは、まだまだ健在で戦闘サポートに徹してくれている。

 いや、実を言うとサポートどころか両者ともメインで、出て来るインプや亡霊系の敵をほふってくれていたりして。どちらも光属性を苦手としており、光ちゃんの手際が光り輝いている。


 ただし、相手がゴーレムやトロールとなると、チビッ子コンビには荷が重過ぎて大変。兎の戦闘ドールは、そんな難敵にも文句1つ言わずに対処してくれる。

 さすがに倒すのに時間が掛かるけど、素早い動きで被弾しないのは素晴らしい。もっとも彼は、痛みを感じないボディの持ち主なのだけど。


 それでも一応、HPの概念は持っているので攻撃を受けると傷付いてしまう。兎の素早さ侮りがたしで、戦闘ドールとしての性能はピカ一かも。

 妖精ちゃんも満足していて、更なる成長を目指して現在はダンジョン内をうろついている所。何だか目的が変わってしまっているけど、肝心の大通路を制圧出来てないので仕方が無い。


 前衛が兎の戦闘ドールしかいないので、そっち系の巨体に複数詰め寄られたら終わってしまう。その辺はさすがに、冷静に事を進める参謀役の妖精ちゃんであった。

 2つ目の通路の先では、残念ながら宝箱もスライムも発見出来ずの結果に。それでも諦めないチビッ子コンビは、次は3つ目に挑もうねと元気は衰えていない。


「あっ、ついでに2つ目のゲートも見付けなきゃダメなんだよね? どっちかが上りで、どっちかが下りの筈だからね。

 多分もうすぐ、どっちかから救援部隊が来てくれると思うんだけどなぁ」

「それまデニ、もう1つ位ハ宝箱をゲットしたいナ。兎の戦闘ドールももウ少し経験を積めバ、大通路の制圧モ可能になるかモ知れン」


 大通路の制圧はポイント高いねぇと、それを聞いた香多奈は呑気な返答。さっきは光ちゃんに透明化をお願いして、スルーするしか手は無かったのだけれど。

 あそこの敵を全部倒して制圧すれば、少なくともこのエリアで1つはゲートを確保した事になる。そうすれば、救急隊の負担も大きく減るだろう。


 まぁ、かなり難しいには違いないけど……そもそも兎の戦闘ドールが、そこまで強くなってくれるかも不明である。現チームで唯一の前衛なので、手荒い扱いは決して出来ない。

 そんな訳で2人で話し合った結果、やっぱり大通路はスルーして別の通路の探索を行う事に。光ちゃんに透明化をお願いすると、ガッテン承知と魔法を掛けてくれた。


 2人の順調な階層攻略に、イレギュラーが起きたのは実はここから。透明になったのを確認して、香多奈と妖精ちゃんは兎の戦闘ドールを抱えてすぐ隣の通路に入ろうとしたのだが。

 今回は、ルートの側に“変質”した獣人が多くてより慎重に進んだにも関わらず。音に反応したのか、はたまた血か何かの臭いが漂ってしまったのか。

 そいつらの数匹が、そろりと進む香多奈をガン見して来る気配。


 気のせいだよねとゆっくり進む少女から、やっぱり連中の視線は外れてくれそうにない。それでも急いだらヤバいと、ゆっくりと通路に辿り着こうとする香多奈。

 それを制するように、獣人たちの咆哮染みた騒ぎが巻き起こる。


 これはヤバいなと、耳元で妖精ちゃんが告げるのと、少女が通路目掛けてダッシュを決め込むのはほぼ同時だった。その背後からは、複数の騒がしい足音と獣人の喚き声が。

 戦闘ドールを放てと、妖精ちゃんの指示に1も2も無く従う香多奈。自由を取り戻した兎の縫いぐるみは、獣人たちの足止めに獅子奮迅の活躍を始める。


 光ちゃんもそのお手伝いを始めて、通路の入り口は期せずしてチームの命運を握るライフスポットに。末妹もようやく反転して、戦闘ドールに『応援』を飛ばして行く。

 小柄な前衛の兎の縫いぐるみは、回避力は高いけど敵のブロックにはまるで向いていない。興奮模様の“変質”した獣人軍団も、その小柄な体を活かし始めて。

 とうとう戦闘ドールの脇を、突破して行くやからが数匹出現し始めた。


「うわっ、蜘蛛に乗ってる奴らが、何匹か壁を伝って突破して来たっ! 妖精ちゃん、どうしようっ!?」

「逃げルゾっ!!」


 何とも素早い指示出しの妖精ちゃんは、末妹の肩に乗っかって行く先をちっちゃな指で指し示す。とは言え、この先のエリアも全くの未探索で、間引きなど行えていない。

 最悪、前の敵との挟み撃ちもあるので、この策は最上では決して無いのだが。慌てている香多奈は、何とか後ろの敵を引き離そうと必死に逃げを決め込んでいる。


 光ちゃんは本気モードで、サイズを戻しての魔法の乱打。消費するMPは他人カタナの物なので、遠慮せずに敵の足止め要員をこなしてくれている。

 大蜘蛛に騎乗した“変質”獣人達は、逃亡しながら見舞われる光線に四苦八苦中。そんな数分間の逃亡劇は、突如とつじょ目の前に出現したトロールとインプに見事に阻まれる結果に。


 大声で耳元で叫ばれた香多奈は、妖精ちゃんと同様に大騒ぎで急停止。『飛翔の箒』を使えとの指示に、少女は手に持っていたのは逃亡用のアイテムじゃんと今更ながらに思い出す。

 その時、目の前のトロールの巨体が急に爆ぜて魔石に変わって行った。その背後にそびえ立つのは、メタリックな魔導ボディのズブガジの勇姿だった。

 空中で驚くインプ達を、ザジの短刀が八つ裂きにする。そのまま華麗に着地を決めた猫娘は、何で通信に出ないんニャと少女に対して怒り心頭。

 その背後からムッターシャと土屋がすり抜けて、追っ手に対応してくれる模様。


 ほうきを手にした香多奈は、ここに来て救援部隊と合流出来たのだと悟る事に。心底安堵しながら、少女と妖精ちゃんはザジのお叱りの言葉を右から左に聞き流す。

 その間にも、周囲では追っ手と戦う味方の戦闘音が鳴り響いている。妖精ちゃんは、使命を果たしてくれた兎の戦闘ドールを回収しに行くぞと、早くも吞気モードに。


 安堵からへたり込みそうになっていた香多奈は、そんな訳で通路入り口に戻りたいんだけどとザジにお伺い。怒った表情のネコ娘は、拳骨1つで許してくれた。

 この痛みも、ある意味では心配してたぞの裏返しである。長い時間通信を取れなかったのは事実なので、その叱責は敢えて受け取る構えの香多奈である。

 ただまぁ、その後の紗良の無言の抱擁には本気に泣き出しそうに。





 ――叱られ慣れている少女には、そっちの方がより効果的なのかも?






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