第691話 萌がようやくドラゴンとしての自覚に目覚める件
30メートル級のドラゴンゾンビを相手に、この現在の戦力で戦いになるのかと問われたら。コロ助はちょっと無理っしょと、早くも尻尾を
その辺は、幾ら喧嘩っ早いコロ助や茶々丸にだって良く分かる摂理である。例えば倍くらいのサイズの敵になら、挑んでみて何とかなる可能性はあるだろう。
ただし、10倍以上のサイズ差となると、突っ込んで行っても敵はそれをダメージとも思わない可能性が。しかもゾンビである、痛覚が無い敵はとっても厄介。
噛みついても、腐肉の感覚は嫌だなぁって思うコロ助である。しかもお供に大熊ゾンビが2体、こちらも5メートル級で決して雑魚では無いサイズ感。
幸い、あの敵のサイズ感ならば目の前に見えている別の通路に飛び込めば追っては来れないだろう。そうやって厄介事は後回しで、別の通路を探索して回るのはなかなか良い案にも思える。
コロ助の自己巨大化は、末妹の『応援』を受けている内に自然と覚えた能力である。それでも現状、あの大熊ゾンビならともかくドラゴンゾンビとタイマンは張れそうもない。
弟達にそう言うと、萌はともかく茶々丸はとっても残念そうな素振り。コロ助としても、ゲートの向こうにひょっとして主がいるかもと思うと、冷静ではいられない。
それでも弟たちの命にも責任を負う立場、安易に強敵に突撃命令など出せない。そんな訳で、敵の視線を気にしつつ大通路をこそっと横断して目の前の通路へ。
そこへ入ろうとした途端、透明な壁に思い切りぶつかるお茶目トリオである。
その驚きと来たら、自分のオヤツだと思って食い付いた骨っ子を、香多奈に無情にもお預けを喰らった気分。あまりにビックリしたので、嘘だと思ってもう一度挑戦してみるも。
やっぱりすり抜けは失敗して、どうやら奥にいたドラゴンゾンビも思い切り反応している模様。コロ助は知らなかったけど、実はここ5層の中ボス部屋だったのだ。
入ったら勝敗がつくまで抜け出せない仕掛けは、割と凶悪な部類に入るかも。それより、近付いて来るドラゴンゾンビと大熊ゾンビ2匹は、凶悪の一言で片づけられない気も。
ここに至って、戦うしかないと気付いたコロ助は覚悟を決めて気合いの巨大化を披露する。それを見た茶々丸も、真似をして巨人のリングでのサイズ補正を行う。
相性のせいか、それはコロ助ほど上手には出来なかったモノの。大熊ゾンビに特攻かますには、充分な大きさになれた気がしないでもない。
それを見た萌は、自分もするべきかなと流れで初めて『巨人のリング』を使用する。大きくなり過ぎたら、アンタ家の外に追い出すよと言われてる萌にとって、それは禁断のスキルなのだが。
どうやら相性は抜群だったようで、何と10メートル以上の巨大化に至ってしまった。ただし変化との併用は無理だったみたいで、半人半竜化は解除されてしまった。
つまり今の萌は、完全に竜形態のスタイルをお披露目中。
それを見たコロ助は、これなら行けるじゃろうと弟分にメインの強敵を丸投げする事に。いや、もちろん敵とのサイズは2回りは違うのでサポートはするつもりだけど。
萌も自身の姿に驚きつつも、メインを任されて悪い気はしないみたい。サイズの違いは敢えて目を
ゾンビ系の最強種は、パワーもかなりあるようで萌は早くも劣勢に。頑張れと応援を飛ばしながら、コロ助と茶々丸はお供の大熊ゾンビの討伐に取り掛かる。
ゾンビ軍団は、体力はありそうだけど動きは素早くなくて直撃を避けるのは難しくない。とは言え、どいつも相当な巨体なのでパワーは侮れないレベルだ。
特にドラゴンゾンビなど、茶々丸やコロ助は踏み潰されたらそこで終わってしまう。そうはさせまいと健気に頑張る萌は、とってもお兄ちゃん想いには違いない。
今も腐敗した肉との取っ組み合いと言う、あまりやりたくない汚れ仕事を買って出ての奮闘振り。ところが敵から、振り向きざまの
その頃には、コロ助の前の大熊ゾンビは瀕死の重傷……と言うか、流れ弾に当たって無残に潰れてしまった。コロ助は引っくり返った萌を踏んづけて、もっと気張れやと
そして次の攻撃を《防御の陣》で完璧にブロックして、弟分の起き上がる時間を作ってやっている。この辺のフォローはさすが、そして復帰した萌は恥をかかされ怒り心頭に。
或いはそれが、眠っていた《竜の波動》や《竜翼》スキルを呼び起こしたのかも。『巨大化』のついでに竜としての目覚めを果たす萌は、背中から立派な翼を生やして飛び上がる。
その態勢から、お返しの尻尾撃はかなりの威力だった模様。ドラゴンゾンビの首が跳ね上がり、今度は相手が転がる番となった。
その隙を突いて、派手な萌のドラゴンブレスは高熱の炎で相手の弱点属性。コロ助も《咬竜》を2匹飛ばして、相手が逃れられないように咬み付いてのフォローを行う。
この辺の敵が嫌がる攻撃への嗅覚は、さすが兄貴分のコロ助である。ついでに茶々丸も、見事に2匹目の大熊ゾンビを倒し終えてこれで残るは中ボスのみ。
この時点でそんな事を知らない萌は、2回りも巨大なドラゴンゾンビを相手にやりたい放題である。開花した2つのスキルのお陰で、竜としての誇りが目覚めたせいかも。
そして数分後には、見事難敵ドラゴンゾンビの討伐に成功したヤンチャトリオであった。転がる魔石(大)をコロ助が回収して、これで中ボスの部屋の大通路は確保完了。
それを素直に喜ぶコロ助と茶々萌は、その後の事を何も考えいなかったり。
救助隊と化した異世界+星羅チームは、4層をもうすぐ突破する勢い。同伴する紗良は、そのパワーに安心を得るも未だに他のチーム員とは巡り合えず。
自分とミケは、幸いにも1層⇒2層とショートジャンプだった模様である。そして3層には誰もおらず、この4層にもいないとザジは判断をさっき下していた。
その斥候能力は素晴らしく、その判断はもちろん信じているのだけれど。2層続けて外れと言われて、紗良はちょっとパニック模様に。
ミケもそれを感じているのか、毛を逆立たせて不機嫌な感じ。
「そんな心配しなくても大丈夫だよ、紗良さん……このペースで進んで行けば、多分5層も10層もあっという間に到着するから。
でも香多奈ちゃんだけは、早めに救出したいよね」
「そうだね、星羅さん……きっと心細い思いをしている筈だから、早く出会いたいんだけど。次は5層だっけ、中ボスの部屋にはいて欲しくはないよね。
ミケちゃん、きっと大丈夫だからあんまり興奮しないで?」
何しろミケが興奮すると、近くがビリビリして紗良の髪の毛は逆立ちっぱなしである。それだけ彼女も、無理やり離れ離れにされた家族の心配をしているって事なのだろう。
それにしても、4層の敵も騎士スケルトンの群れやらトロール集団やら、既に強敵もボチボチ混ざり始めて対処も大変そうだ。難関ダンジョンには間違いなく、5層以降も道のりは険しそうな気配。
そして5層へと到着した一行は、いつもの隊列で中ボスの部屋を目指して進み始める。前衛陣の他に、空き部屋チェックで土屋と柊木もアグレッシブに動き始めての捜索開始。
メイン斥候のザジは、あっちが大通路に繋がる通路だニャとズブガジに教えていた。寡黙な彼は、そこまでのルートを命じられるままに掃討し始める。
それをサポートするムッターシャとリリアラは、やや敵の多さに
ムッターシャは強い敵は歓迎のタイプだけど、しなくて良い戦闘は避ける傾向も持ち合わせている。お宝を優先して、効率よく探索に挑むのがチームの方針には間違いなさそう。
現在はしっかり救助と言う目的にシフトして、紗良からすれば頼もしい限りである。そして斥候役のザジが、いの一番に中ボスの部屋の異変に気付いてくれた。
5層に突入して10分後、通路にいた敵はほぼ間引き終わった頃に紗良は先頭へと呼び出され。何事と向かうと、そこは大通路への入り口だった。
どうやらこの遺跡エリアは、この大通路が中ボス部屋の役割を果たしているようだ。そこはすっかりボスの掃討が終わっており、何事かと身構えていたペット達の姿が3頭ほど。
仲間の存在に気付いて駆け寄って来た、コロ助や茶々丸の喜びようと言ったらそれは凄まじかった。ぴょんぴょんと紗良の周囲を飛び跳ねて、いつも以上に甘えて来ている。
紗良もコロ助と茶々萌コンビの無事には、思わず涙が
呆れた事に、彼らはたった3匹でここの中ボスを撃退してしまったようだ。萌が得意気に差し出した魔石(大)を見るに、かなりの強敵が配置されていたと思われる。
ただし、それを良しとしない存在が長女の肩の上に。
「えっと……ところで、香多奈ちゃんは一緒じゃないの?」
「いないみたいだな、周囲のエリアを確認しても良いけど、恐らくは別の層の可能性が高いかな。サラは本当に運が良かったんだな、たった1層分の転移で済んで。
恐らくは、ミケが猛烈に転移トラップに逆らったんだろう」
「ああっ、ミケ師匠ならあり得るニャ! ウチも見習いたいニャ、多分だけど原始なるお猫様の能力だニャ!
人間と生活を始めたご先祖様が、連綿と編み出した技術だニャ!」
良く分からない能力に興奮しているザジは置いといて、ミケに
まぁ、それは運や最初にいた位置も関係あるので仕方が無いとも言えるので。紗良も深くは追及しないし、怒る気持ちは全く無いのだけれど。
香多奈のボディガードを普段から行っているコロ助や萌は、とっても反省する事案らしい。それを追求するミケの圧力は、お前ら何やっとんじゃと激しさを増すばかり。
そんな家族内の事情はとにかく、ようやく2組目の救助に成功した混成チームはホッと肩の荷を一旦降ろす素振り。この調子で、次は絶対に香多奈ちゃんを助けようねと盛り上がっている。
そして各々が、巻貝の通信機で護人や姫香へとコロ助たちを救助したと報告を行って。最後にザジが、思い出したように末妹へと通信を繋げての報告を行う。
その内容は相変わらず騒がしく、用件に到達するまで紆余曲折を経る事数分間。向こうはどうやら、相方の妖精ちゃんの操る兎の戦闘ドールが進化を果たしたようで。
それで無双しながら、順々に部屋を確認して回っているとの事。大人しくしてなさいとの、その場の大人たちの助言などどこ吹く風のチビっ子コンビである。
そしてようやく、こちらの報告でコロ助たちと合流したよと紗良が横から告げると。少女はとってもおカンムリ、ちゃんと私を護衛しなさいとの真っ当なクレームが。
「コロ助っ、アンタどこをほっつき歩いてたのっ! でも5層の中ボスを倒したのは褒めてあげるよっ、ちゃんとボスの間の宝箱は回収して行くんだよっ?
その宝箱の権利は来栖家チームのだからねっ、ザジんとこに取られたらダメだからねっ! その辺はちゃんとしとかなきゃだよ、紗良お姉ちゃんっ!」
「……さすが、ガメついね、香多奈ちゃん」
その言葉は、果たして女性陣の誰が漏らした言葉だったか。まぁ、
それより、5層の中ボスを倒す時間を省けたのは大いに助かった。ペット達の怪我や体力は、どうやら萌が持っていたポーションで回復していたようだ。
彼らがこの場に留まっていたのは、ワープゲートが2つあってどちらに入れば良いか分からなかったかららしい。大通路の中ボス部屋のゲートは、1つは6層でもう1つは退出用みたいだ。
救出班からすれば、下手に通信手段を持たない彼らに動き回られずに済んで良かったなとの思い。ルルンバちゃんも護人が回収したそうだし、ある意味ひと段落ついた気分。
とは言え、まだまだ6層以降の探索は気が抜けないのも確かだ。
――この難関ダンジョン、他に罠が無いとも限らないのだし。
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