第690話 肝心の末妹の救助が遅々として進まない件
「ねえ、妖精ちゃん……何か、兎の縫いぐるみの外見が
確かこの子、元は呪われてて異界に呪い解除しに行ったんだよね?」
「ウムッ、カルマを溜めすぎルトまた不味イ事態になるかもナ……仕方なイ、血の契約ヲして私たちハ襲わないようにシておクカ」
何それと驚く香多奈だが、妖精ちゃんの説明はとってもアバウト。姉妹の
それって安全なのと、モロに相棒を疑いの目で見る末娘はとっても素直。何しろ、この小さな淑女の暴走で、過去に何度も痛い目に遭っているのだ。
叔父の護人に叱られるくらいなら、まだ良い方で本当に大目玉を喰らった事も何度か。例えば探索で回収した魔法アイテムの、使い方を教えてやるとの甘言を受けて。
使ってみたら、その装置が暴走したり子供の手には負えなかったりとか。今思えば、叔父や姉に怒られる程度で済んで本当に良かった。
ところが妖精ちゃんどころか、光の精霊の光ちゃんもとっても乗り気で準備はあっという間に終了。そして妖精ちゃんは、完成した青白い魔方陣の中央に白兎の戦闘ドールを配置して。
それから香多奈に、指先を切って血を流すようにと指示を出す。
その位の怪我なら、ポーションであっという間に治るから良いのだけれど。それより、家族に黙って契約なんてして良いモノか、その辺りが少し悩ましい香多奈である。
とは言え、妖精ちゃんの執行する魔法の契約は、青白い光の発光と共に既に完了してしまっていた。どさくさに紛れて、どうやら光ちゃんも“血の契約”を少女と遂行し終えたよう。
これでMP消費が楽になるぞと、随分と恩着せがましいその態度と来たら。何と言うか、妖精も精霊もそんな感じの性格はどうにかならないモノだろうか。
とにかくこれで、戦闘ドールの暴走の心配は無くなったっぽい。それにしても、最初の愛らしい縫いぐるみの姿と較べて、今の
妖精ちゃんに言わせれば、あの凶悪な
現在の戦力では、さっきの大通路の敵兵を一掃するのは難しそう。この通路に面した部屋は、全て探索済みでもう行くところがないと言うのに。
そんな事を相談してたら、光ちゃんが姿を消して別の通路に飛び込んだらどうだと助言をくれた。それってどうやるのと興味津々の末妹に、光の精霊の自分には朝飯前だと胸を張る光ちゃんである。
かくして、もう一度例の柱が等間隔に並ぶ大通路まで戻って来た一行。それから光ちゃんが、香多奈に対して“透明化”の呪文を掛けてくれた。
それを信じて、そろりと大通路に足を踏み出す少女……光ちゃんのスキルは素晴らしく、幸い大通路のどの敵も反応せず。臭いとか鼻の利く奴が近くにいなくて、本当に良かった。
兎の戦闘ドールもさり気なくついて来てくれて、一行は無事に通路渡りをクリア出来た。ホッとしたのも束の間、通路には別のモンスターがひしめいており。
それを見付けて、速攻で戦闘に突入する兎の戦闘ドールである。敵が複数でも、素早い動きで攻撃を避ける能力はなかなか凄いかも。
その攻撃能力だが、縫いぐるみの腕から生えた鋭い爪で斬り刻むスタイル。脚の力も強いみたいで、今は香多奈のサイズまで成長した体型からキックも多用している。
通路にいたインプとガーゴイルの群れを、ぴょんぴょん飛び跳ねながら駆逐して行く能力はなかなかのモノ。香多奈も『応援』を飛ばして、光ちゃんと共に必死のサポートを行う。
戦闘は5分程度続いて、半ダース以上いた敵は全て魔石へと変わってくれた。時間は掛かったけれど、こちらの人数を考えれば上々である。
何より、後衛が襲われたら一発でアウトと言うこのスリル。
「さっきもちょっと危なかったよね、兎ちゃんが上手く立ち回ってくれたから助かったけど。何匹か、こっちに来ようとしたらすぐ兎ちゃんがケリ入れてタゲ取ってくれたよね。
縫いぐるみなのに、凄く気が利くよねぇ!」
「当然ダ、我が部下はとっテモ優秀だからナ! しかモ成長型だからナ……もう1匹くらイ、ゼリー型の敵が見付かレばもっト成長できルンだがナ。
ちょッくラ、各部屋ヲ探して回ろウか」
大威張りでそう口にする妖精ちゃんの、目的は何だかすり替わっている気がしなくも無いけど。取り敢えずは間引きは順調、こうやって安全地帯を広げていくのも戦法としてはアリなのかも知れない。
そう良い方に考える末妹は、とってもポジティブな性格には違いない。どちらにしろ、救出隊のみんなは刻々とこちらに近付いて来ている筈なのだ。
それから、同時にどこかに飛ばされた家族とも、ひょっこり出逢う可能性も否定出来ない。超ポジティブシンキングな香多奈は、そんな思いで探索を頑張るのみ。
まぁ、相棒の妖精ちゃんは少々頼りない気はするけれど。
――その再会の時までに、ガッポリ宝物を回収しておかなければ!
大通路の戦いに臨もうとする姫香&ツグミのペアだけど、さすがに数においては向こうに分があるのは分かり切っている。そこで一計を案じて、手前の通路での待ち伏せ戦法を行う事に。
これなら少なくとも、敵の集団に囲まれる事は無くて安全ではある。ただし計算違いだったのは、敵の“変質”獣人の死体が一向に消えてくれないって事。
そいつ等が通路の出入り口を塞いでくれて、残った獣人達は明らかに怯んでいた。結果、後半はインプやガーゴイルの飛行軍団しか相手をせずに済んでしまった。
それは良いのだが、獣人の死体の山を眺めるのは気持ちが悪すぎる。それを築いたのが自分達だと思うと、思わず気力が萎えてしまいそうに。
それを察したツグミは、わざわざMPを使ってその死体を闇の穴へと処分してくれた。さすが長年連れ添った相棒である、心が行き届いてこちらの感情まで把握してくれているとは。
疲れた表情の姫香は、思わずツグミにお礼を呟く。
「ありがとう、ツグミ……ここって確かに、普通のダンジョンとは違うみたいだね。異界の地から紛れ込んで来た獣人なのかな、それとも護人さんの言ってた闇企業の仕業?
どっちにしろ、一筋縄じゃ行かない場所だね、ここ」
ツグミは姫香の手に頬を押し付け、同意とも取れるコミュニケーション。家族以外には気を許さないツグミだが、姫香にはこうやって良く甘えて来る。
戦闘でかなり消耗してしまったが、何とか大通路の敵は追い払えたみたいだ。それを相棒と確認して、何とか大通路のワープゲートの確保が出来た事を知る。
逃げ去った“変質”獣人の群れは、どこか別の通路の奥へ避難した模様だ。それを追いかけてまで始末しようって気力は、今の姫香には無い。
それよりも階段を上がった先のワープゲートだが、果たして使ってみて良いモノかどうか。次の層がここより上か下か、判然としないのが悩みどころである。
遺跡エリアは独立しているので、ゲートは上下の2つある筈だ。もう1つを探し出すのが建設的だが、さっきの戦闘でかなり気力を消失してしまった姫香である。
『天使の執行杖』はとても強力な武器だけど、刃の部分を生み出すのに必ずSPを消費するのだ。戦闘時間が長引いたり、こんな感じでほぼソロ状態だと実はかなりキツい。
もちろんツグミもサポートしてくれるけど、気力の回復は時間を掛けるしかない。特に今は、家族と強制的に離されたストレスも思い切り圧し掛かって来ている。
壁際に座り込みながら、姫香はゆっくりと目を閉じる。
――戦士の休息は、もうしばらく時間が必要な様子。
一方の異世界+星羅チームだけど、紗良を救出して現在は3層に上って来た所。次は誰が救助出来るかなと、斥候役のザジは気合充分で周囲に気を配っている。
救助された紗良としては、仲間の存在はとっても心強いには違いないのだけれど。せめて末妹の香多奈だけは、速攻で発見に至って欲しい所。
恐らくは、飛ばされた場所で心細い思いをしているだろう。それを思うと、とてもザジみたいにノリノリで探索に向き合えない紗良である。
混成チームからは、取り敢えず護人と姫香と香多奈の全員と通信は繋がったと報告は受けて安心はしたモノの。やっぱり全員が、違う階層に飛ばされたみたい。
これは全員集合が大変そう、一体どの程度時間が掛かるのか分かりやしない。そして通信の繋がらないペット勢が、どうなっているのかも分からないと来ている。
混成チームのリーダーのムッターシャは、焦りは無いけど探索を急いでくれているよう。この層も最短で大通路のゲートを確保すべく、今はゴーレムとトロール集団と戦闘中だ。
その手際は素晴らしく、前衛のズブガジも絶好調で硬いゴーレムを破壊している。ムッターシャもトロール相手に、体格差を感じさせない戦い振り。
パターン的に大通路には、かなりたくさんの敵が溜まっている感じを受ける。さっきの層にも、インプやガーゴイルが20体以上たむろしていたのだ。
ミケも良く、この集団をたった1匹で殲滅出来たモノである。
「この層には、どうやら来栖家チームは誰もいなさそうだな……しかし厄介な仕掛けに
ザジ、休憩が終わったら次の層に向かうでいいかな?」
「いいと思うニャ、次の層での合流に期待だニャ! この調子だと、多分上は10層とかまで飛ばされてる可能性があるニャ。
全員を救出するのは、割と一苦労な気がするニャ」
「かなり大掛かりな仕掛けだわね……恐らくは、この遺跡エリアのインプを使った人的な罠なんでしょうね。
こっちの世界の術者だか科学者も、なかなかやるわね」
変な感心をするリリアラだけど、確かに手の込んだ仕掛けには違いない。そのせいで、現在こんな苦労をしょい込んでいる混成チーム一同だったり。
通信に関しては、土屋と柊木が手分けして定期的に取っているので問題はない。その通信相手が、どの層にいるかが分からないのが悩みの種である。
そんな一行も、4層へと突入して最短ルートで大通路へと向かい始める。この遺跡ルートは、どうやら同じパターン構造で階層が連なっているようだ。
お陰で迷う事は無いし、段々と階層攻略も慣れて来た一行ではある。そして斥候役のザジは、敵の気配と迷子のチーム員の気配を素早く確認する。
そして仲間に素早く、隣の部屋に5体ほど敵がいるから殲滅してのサイン。今ではその手信号は、星羅チームも全員が把握済みでチームとしても出来上がっている。
その後の室内掃討は、何とも素早く終わって何より。
戦う数は多いけど、少し進めばすぐに大通路へと出る事が可能なこの遺跡エリア。取り敢えず殲滅しながらチームで進んで、迷子の捜索に励むのみ。
願わくば、次に遭遇するのが末妹でありますように。
――紗良の願いは、果たしてダンジョンの神様に届くのやら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます