第689話 段々と離れていたチーム員が合流して行く件



 『哭翼』チームの強者との戦いを制し、気の抜けた状態になっていた姫香だったけれど。遺跡エリアをツグミと共に探索し始める頃には、きっちり気持ちを切り替えていた。

 何しろ明確な目標があって、それを早々に解決しなければならないのだ。具体的に言えば、家族と合流してお互いの安否を確認すると言う。


 あの転移トラップは、恐らく家族全員を別々の場所に飛ばしたに違いない。一番心配なのは、当然ながら末妹の香多奈だけど、果たしてどこにいるのやら?

 ツグミの能力でも、それをピンポイントに捜し当てるのは難しいだろうけれど。とにかく1か所に留まっていても、救助は出来ないのでゲートを捜し当てる事に。


「とにかく動き回って、なるべく早く家族と合流するよ、ツグミっ! 護人さんはともかく、香多奈や紗良姉さんは心細い思いをしている筈だからねっ。

 何とか素早く、場所を割り出してあげ……あっ、そう言えば私って巻貝の通信機を持ってたよっ! ああっ、いつの間にかピコピコ通信入った知らせがあるっ!」


 かくして、ようやく星羅から届いた通信に応える事が出来た姫香であった。そして一応は安心して貰えたモノの、自分の居場所が良く分からない状況は変わらず。

 『哭翼』のメンバーを倒す事が出来たのは良かったけれど、この後の行動は更に慎重に行かなければ。A級ランクのダンジョンを、たった1人と1匹で攻略はまず不可能である。


 向こうからの通信で、取り敢えず紗良と香多奈は無事に最初の窮地を切り抜けた事を聞く事が出来た。その知らせに安堵しながら、さてこの次はどうするべきだろう。

 異世界&星羅チームは、今は巨大空洞エリアから遺跡エリアに到達して階層を降りて行くところらしい。香多奈はともかくとして、出来るだけゲートに近い場所にいれば見付けやすくなるかもとの助言を星羅から貰って。


 なるほどと納得して、姫香は相棒のツグミにそう伝えて一旦通信を切る。残念ながら、家族と繋がる巻貝の通信機は紗良も香多奈も持っていない筈だ。

 それでも、混成チームと繋がって安否を確認出来るのはとっても心強い。星羅とも定期連絡を約束して、姫香は相棒を伴って遺跡エリアの探索へ。


 明確な目的は出来たけど、道中の安全は確保出来た訳ではない。案の定、遺跡の通路でインプとガーゴイルのペアと何度か遭遇して戦闘になった。

 それらを倒しながら、ツグミの案内で通路を進む事10分ちょっと。扉の無い通路の出入り口の向こうに、姫香は大通路を発見する。

 そして大通路の端っこには、捜していたワープゲートが。


 おおっと盛り上がる姫香だが、大通路には見た事のない獣人とインプの大群が待ち構えていた。コイツ等を始末して、ゲートを使用するのはかなり骨が折れそう。

 それでもその先の家族の存在を信じて、姫香は敵の群れを見据えてヤル気満々。その隣では相棒のツグミも、静かに闘志を燃やしている。

 何だかんだでイケイケなコンビは、勇んで討伐を開始するのであった。





 護人が飛ばされたのは、実は11層で家族の中でも一番の最深層だった。激闘の後に何とか持ち直した一行は、そのチーム最深層フロアを敵を倒しつつ探索して行く。

 “魔獄まごくダンジョン”の深さは、恐らくもっとあるのだろう。深く潜るにつれて、敵もどんどん強力になって行く事も当然あるだろうし。


 それでも巻貝の通信機の存在を思い出し、混成チームと連絡を取れたのは良かった。やっぱり護人も慌てていたようで、通信が入ってるのに気付いたのは探索を始めて15分以上経ってから。

 そして子供たち全員の安否確認が叶って、ホッと安堵の吐息を漏らす事に。どうやら通信が繋がったのは、護人が一番最後で他の皆に随分と心配を掛けていたようだ。


 それは悪かったと平謝りのギルマスだったが、対戦した相手が相手だったのでそこは仕方が無いとも。レイジーとムームーちゃんも一緒だよと言うと、通信相手の柊木は行方不明者の名前を教えてくれた。

 それによると、姫香はツグミと一緒で何層か分からず探索中との事。香多奈も妖精ちゃんと一緒で、これまた何層にいるかは不明だとの事。

 今の所、一番不安なペアなので向こうも早く確保したい様子。


「それから、紗良ちゃんとミケとはついさっき2層で合流出来ました。2人ともしっかり無事でしたんで、これから一緒に3層へと向かいますね。

 つまり、通信手段が無くて安否不明なのはコロ助と茶々丸と萌と、それからルルンバちゃんですか」

「そうか、こっちも自分の階層が分からないから、とにかく動き回るしか手が無いな。ゲートを見付けて何度か移動してみて、分かった事があったらまた通信するよ。

 おっと、そう言えば……ワープ装置は誰が持ってたんだっけ?」


 護人の言葉に、通信機の向こうでアッと言う誰か女性の声が聞こえて来た。そう言えば、来栖家のワープ装置を持っていたのは、誰あろう紗良だった筈。

 ついでに『帰還の魔方陣』を持ってたのは誰だったかなとの護人の問いに、それも紗良だったと言う事実が判明。つまりは、姫香や香多奈に、それを使ってダンジョン退去を指示する方法は適わないって事みたい。


 それは残念だけど、混成チームが1層を約2~30分で階層を上って行けば、1時間で何名かとは合流出来そうと報告して来た。護人の方も、それを念頭になるべくゲート付近にいて欲しいとの事。

 こちらはレイジーもいるし、エリア近辺の間引きも可能である。今も大通路へと出るまでに、何回も戦闘をこなして徘徊するモンスターを倒している。


 敵の種類としては、やっぱりインプやガーゴイルに加えて、ゴーレムや死霊系のワイトなども混じっていた。倒した感触から察するに、相当深い場所では無いかとの護人の推測に。

 向こうもそれなら、下層へと下って来た方がチーム合流の可能性は高いかもとの助言が。了解したと、さっそく発見したゲートを見据えながら護人は大通路の清掃を言い渡す。

 ヤル気満々のレイジーは、手下の召喚から討伐まで素早く動き始める。


「エーテルのストックはそれ程無いけど、家族が心配だから速度は落としたくないな。そんな訳だから、敵の討伐は全力で行こうか、レイジー」


 心得たと心強い相棒は、トロール集団を相手にほむらの魔剣で斬り掛かって行く。護人もゲート近くの巨大ゴーレム相手に、シャベル片手に近付いての『掘削』スキルをプレゼント。

 どうやらゲートの番人のゴーレムは、それなりの強敵でさすが深層である。問題は、確保したゲートが更に深い層に向かうモノっぽいって事。


 護人としては入り口のある層に戻りたいのだが、そのゲートは細い通路のどれかを探索して見付ける必要がありそう。ムームーちゃんも張り切って討伐を手伝ってくれたお陰で、柱が等間隔に並ぶ大通路の安全確保は成功した。

 レイジーもムームーちゃんも、敵がいなくなったのを確認してやり遂げた表情。特にムームーちゃんは、仲間とはぐれたにしては悲壮感は無いみたい。


 それだけ、群れのリーダーである護人への信頼が厚いのだろう。取り敢えずペット達を褒めながら、エーテルを取り出してそれぞれに与えて休憩の準備。

 そして自身は《心眼》を発動して、近場に下層に向かう用のゲートが無いかのチェックなど。疲れる作業だけど、下手に時間を費やすよりはマシだろう。


 その結果、来た側の壁の真ん中の通路を進めば、もう1つのゲートに辿り着けることが判明した。本当に便利な《心眼》スキル、思えばこのダンジョン依頼が罠だと確信したのもこの能力のお陰だった。

 それなのに、転移トラップに掛かってしまったのは大いに反省すべき点である。それは今は置いといて、取り敢えずチームの合流に全力を注ぐのみ。


 ここを進むよと相棒に告げると、レイジーは炎狼を3匹召喚して万全の探索態勢に。それから通路を進み始めて、15分余りでゲートを確保してしまった。

 この辺は、さすがと言うか敵を倒す速度はピカ一な一行である。体力もMPも温存しながら、敵を見極めて討伐して行くのは探索者として身についたスタイル。

 そして見詰めるゲートは、恐らく目的層へと通じている筈。


「うん、ゲートを出た先に強敵モンスターが配置されているかも知れないな。2人とも、それに備えて気合い入れて行くぞっ」


 そんなリーダーの言葉に、任せるでしとノリノリなムームーちゃんの返答である。妙なスイッチが入っているのか、ヤル気は充分なのは心強いかも。

 レイジーの方も、任せておけと召喚した炎狼はそのままを維持している。そんな訳で、護人を先頭に遺跡エリアの中部屋に配置されていたゲートを潜って別の層へ。


 そしてすぐさま、敵の気配を探るのだがどうやら周辺には存在していないよう。と言うより、ここは例の柱の存在する大通路のゲートみたい。

 前の層には、ここには大量の敵がたむろっていた筈なのだけど。などと思いつつなおも周囲を窺うと、何故か奥の方に転がっている魔石(大)が2つ。


 その奥の壁際には、見慣れた魔導ゴーレムのボディが半壊して転がっていた。レイジーが駆け寄って、これは大丈夫なのかと鼻面を突っ込んで確認している。

 護人も同じく、ルルンバちゃんと声を掛けて応答してくれと願いながら接近を果たす。その声に何の反応も無い、スクラップ状の物体は確かにルルンバちゃんだった。


 自慢の魔導ボディは、無残に穴だらけで見る影もない状態である。そしてコアを包んでいる筈の分離が可能なドローン部分も、無残にへしゃげてしまっていた。

 恐らく上から、強烈な敵の攻撃を浴びたのだろう。前衛としての経験不足が、まさかこんな形で祟るとは。いや、さすがに魔石(大)ランクの敵2体相手を、ソロでこなすのは護人でも辛いかも。


 それでも生存を信じて、護人は何とかドローン部分を剥ぎ取りに掛かる。本体さえ無事ならば、彼は何度でも蘇るのだ……その想いは、見事に通じてくれた。

 埋め込まれていた形のAIお掃除ロボは、何とか奇跡的に無事だった様で。ウィーンと稼働音を発して、仲間達に無事を知らせてくれたのだった。


 その音を耳にして、明らかに脱力する護人と尻尾を勢い良く降るレイジーである。とにかくこれで、まず最初のチーム合流を果たせた形となった訳だ。

 後はこの勢いに乗って、他のメンバーを探し出すのみ。





 “魔獄まごくダンジョン”の外で見張り役の荒里は、大慌てで現状の理解の把握に努めていた。どう見ても緊急事態なのに、『シャドウ』チームが冷静なのも不可解だ。

 来栖家チームと異世界+星羅チームの突入から、既に1時間が経過している。荒里は同僚の宮藤に、救援に向かおうと提言するのだが聞き入れて貰えず。


 荒里としては、ドロケイを一緒に遊んだ少女のピンチである。すぐさま駆けつけて、救ってあげたい気持ちは誰よりも強いのだが他の者は違うみたい。

 反対側の森の中に隠れている『シャドウ』からは、取り敢えず来栖家チームは無事みたいだとの報告が。家族の全員から巻貝の通信機で報告があったので、その点は信頼出来ると。


 しかも、実は中で待ち構えていた『哭翼』チームの目的は、ペット達の確保である。つまりは、通信が不可能のペット達も恐らく殺されている事は無い筈との推測みたい。

 中のメンバーからは、いきなり1層でワイバーンが飛んでたぞとか物騒な報告も上がっているのだ。実力の足りない自分達が入っても、二次災害を引き起こすだけだ。

 そう冷静に状況を口にする、『シャドウ』チームの三笠であった。





 ――もどかしさの募る荒里は、ただ来栖家の安否を気遣うのみ。






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