第688話 単独行動を苦ともせず遺跡エリアを歩き回る件
「コレは恐らく、起動しテない魔方陣ダナ……魔力を流せバ動くけド、サテどノ層に飛ばされるカ。かえっテ妙な場所に出たラ、コノ現状の戦力ダと不味いかもナ」
「えっ、そうなんだぁ……でも、ほかの層に飛ばされたかも知れない家族と、出会える可能性もあるんだよねっ?
それを信じて飛び込むのもアリなんじゃ、妖精ちゃん?」
そんな事を話し合う2人は、隣の部屋で起動していない魔方陣を発見した所。他にも、あの悪漢連中が寛いでいた痕跡も見付けたが、敢えて触れずにスルーする事に。
妖精ちゃんがなおも魔方陣の情報を読もうと悪戦苦闘している最中に、不意に誰か別の人の声が響いて来た。ビックリして荷物を漁る末妹は、ボッケから無事に巻貝の通信機を取り出す。
そして騒ぎ立てているザジ相手に、こっちは無事だよと返事をして。妖精ちゃんと光の精霊のお陰で、悪漢を退治して起動していない魔方陣を捜し当てたと報告する。
ただし、自分達がどの層に飛ばされたかは相変わらず不明と来ている。妖精ちゃんの見立てでは、5層から10層の間だろうとの話なのだが。
遺跡エリアなのは間違いなく、発光する石のお陰で灯りに不便はない。何ならこっちでも探索して待ってるよと、お調子者の血を発揮させてそんな言葉を発する末妹なのだが。
当然の如く、向こうからは大人しく待ってるニャとの強い
妖精ちゃんに関しては、悪友のようにこの奥を探索しようぜと一言。
末妹の好奇心を刺激するのは、その言葉だけで充分である。
もちろん、魔石で動く巻貝の通信機には通信料なんて概念は存在しない。ただの言い訳なのだが、この場にいないザジにはこの暴走ペアを止める手段は無いと言う。
そんな訳で、装備も新たに妖精ちゃんにコーディネートして貰って香多奈の探索はスタート。右手には『召喚士の杖』を持ち、左手には『飛翔の箒』とややバランスは悪いけど。
要するに、ヤバい敵が出て来たら
A級ランクの5層以上となれば、どんな強敵が出現してもおかしくは無い。ただ幸いにも、最初に遭遇したのはガーゴイルとインプのペアだった。
コイツ等には勝てると、兎の戦闘ドールを勇んで突っ込ませる妖精ちゃん。それと同時に、一気に距離を詰めた光の精霊がインプを一瞬で焼き払ってくれる。
インプは闇属性なので、光の淑女からすれば相性の良い雑魚である。そして外皮の硬いガーゴイルも、兎の戦闘ドールは苦も無く斬り刻んでしまった。
何気に強い戦闘ドール、後衛ばかりのチームには頼もしい限りだ。
「うほっ、全然イケそうだね、私達ってば! 光ちゃんが私のMP吸い過ぎなければ、この遺跡エリアを全部見て回れるかもだよっ?
この調子で、階層ゲートの位置だけはチェックしておこうか。あと、出来たら宝箱も見付けて回収しておきたいかなっ!」
「フムッ、良い案ダナ……たダし、出て来ル敵は強イ筈だかラ気ヲつけロ?」
ノリノリの相棒に背中を押され、ウキウキ模様で探索を続ける香多奈である。そして2度のインプとの遭遇、そのペアはオーク兵だったりガーゴイルだったり。
その様子は、まるでインプがこの遺跡の主の様でちょっと風変わりかも。どちらも最初の戦法、つまりは兎の戦闘ドールと光ちゃんの魔法で切り抜ける事に成功。
幸いにも、今の所は『飛翔の箒』で逃げる事態には至って無くて何よりである。MP回復ポーションも充分な量があって、その点は紗良お姉さんに感謝な末妹。
15分も探索すれば、この遺跡エリアの大体の構造は分かって来た。要するに、小部屋と中部屋が通路で繋がっていて、その通路を進むと大通路に合流する感じ。
大通路は柱が並んでいて、その先は10メートル幅の階段が約20段ほど。そこを上がった先に、どうやらワープゲートがあるみたいだ。
こっそりそれを確認した一行は、大通路を行き来する敵の群れに見付からないよう必死。相変わらずインプが多くて、それから見慣れない獣人も10匹以上。
そいつ等はここで生活してますって感じの生活臭が半端なく、何故か“変質”している個体も多く見掛けられた。肌の色が変わっていたり、
本当にヘンなダンジョンだなと思わなくもない香多奈だが、問題はそいつ等を殲滅するのがとっても困難だと言う事。さすがに数が多過ぎて、今の戦力では戦いを挑むのは無謀である。
取り敢えず、ゲートの位置は分かったので収穫はあった。それが上の階層行きなのか、下の階層行きなのかは分からないけど。元のエリアに戻りつつ、他の確認していない小部屋の確認作業を始める一行。
その間にも、ザジから頻繁に通信が入って来るのは愛情だと思いたい。
安全マージンは充分に取ってあるので、心配ないよと毎回言ってあるのだけれど。などと言いつつ、遺跡内をほっつき歩く悪ガキペアである。
そして中サイズの室内で、置いてあった宝箱を発見して盛り上がってみたり。ただし、さすがに1層での出来事もあって、警戒しながらの中身チェックである。
「あっ、やっぱり罠あったかもっ……うわっ、天井にスライムいたっ!」
「宝箱もミミックだっタな……力を合わせテ倒すゾ、小娘っ!」
小娘扱いの香多奈だったけど、ノリに乗っての魔玉投げから華麗に戦いの先手を取る事に成功。ダメージを受けた血の色の巨大スライムは、飛沫を周囲に撒き散らしている。
それを吸収する兎の戦闘ドールは、いつもと違う動きでちょっと不気味かも。まさかそれを血肉にして、サイズを
そして姿を暴かれたミミックは、
そのミミックの口の中に、光ちゃんは容赦なく光線を撃ち込んで行く。即席ペアなのに、この息の合いようは素晴らしいかも。
香多奈は調子に乗って、再度の魔玉投げで巨大スライムの体力削り。最近覚えた『命中率up』スキルのお陰で、投擲が外れる事はほぼ無いと言っても良い。
気付けば血の色スライムは虫の息、ミミックも内側の内布を食い千切られてHPは半減以下に。布地を吸収した兎の戦闘ドールは、明らかに体積が増えている有り様。
その両者に止めを刺して、室内の戦いはこれにて終了。スライムはともかく、ミミックのドロップは大量で香多奈と妖精ちゃんは大喜びで手を叩き合う。
ドロップの中身は古い金貨やインゴット系が大半だけど、魔結晶(小)や強化の巻物なども混じっていた。他にも宝石や豪華な短剣や王冠も入っていて、妖精ちゃんも満足そう。
その隣では、子供の背丈に育った兎の戦闘ドールが静かに
静かになった大通路だけど、ドロップ品を拾い終わったら尚の事殺風景に感じてしまう。そう思わずにいられない紗良は、MP回復休憩中のミケをじっと一瞥する。
本当にブレーキの壊れたなんとやら、それがこの相棒を表す一番ピッタリの言葉かも。ポーションも有限なのだし、あまり無茶はして欲しくないと切に願う。
幸い、6つある分岐の奥には敵の姿は今のところ見当たらない。騒ぎを聞きつけてやって来る敵もおらず、何とか安全地帯は確保する事が出来た。
本当に暴虐の化身のようなニャンコである、来栖家のエースと動画では評価されているけど。紗良からしてみれば、その恩恵も迷惑も
まぁ、向こうはこちらを被保護者と認定して、かなり下に見ている可能性もあるけど。それは言わぬが華と言うか、明らかにしなくて良いコトである。
それより階段を上がった先のゲートだけど、何となく次の層へと飛んでしまう気が。まずは戻って、救助隊チームと合流したい紗良はこのゲートはスルーする事に。
だとすると、残ったのは来た通路を省いて5つの通路である。試しに全部覗き込んで見たけど、どれも似たような通路と部屋の組み合わせみたいだ。
モンスターもいるのだろうけど、覗き込んだ位置からは確認出来なかった。取り敢えずは安心だけど、移動すればいつかは鉢合わせするだろう。
「ウチの家族チームは、前衛がたくさんいるのが売りだったのにねぇ。今は私とミケちゃんだけで、後衛だけだから心細いよねぇ。
ミケちゃんも、ずっと雷龍を召喚しておくMPは無いだろうし」
そんな紗良の呟きに、ミケは知らん顔でMP回復に努めている。その姿はとっても可愛くて、何だかあざと過ぎる気がしないでもない。
そんな事を考えながらも、相変わらず前衛いない問題は変わっていないこの現状。ミケに相談したいけど、紗良は末妹のようにニャンコと会話など出来ない。
ただまぁ、この大通路みたいに紗良とミケでも制圧が可能なのが分かったのは収穫だ。この調子で、残りの5本の通路を1本ずつ見て回るしか無さそう。
時間は掛かってしまうけど、ここには便利なスキル持ちがいないので仕方が無い。取り敢えずはMPが持つまでは2人で探索と敵の間引きを頑張ろう。
そうミケに言うと、ニャーと何とも可愛らしい返答が。ただし紗良には、それは立ちはだかる敵は皆殺しだとの発言に聞こえてしまう不思議。
とにかく、早急な救出部隊との合流に向けて、後衛のみの編成で探索を始める1人と1匹。最初に選んだのは、紗良が出た通路の斜め向かいの通路だった。何となくの勘だったけど、そこにいたのはインプとガーゴイルとスケルトンの群れのみ。
スケルトンに関しては、紗良の《浄化》がとっても良く効いてウエルカムな気分。ミケもその辺は良く分かっていて、コイツは任せたと完全に手出しを控えている。
その代わり、インプとガーゴイルに関しては暴虐を振り
紗良にとっても頼りになる用心棒だけど、探索結果に関しては完全に外れであった。結局はドン詰まりの通路と部屋だけだと確認し終わって、軽い疲労感を覚えるのは仕方が無い。
ため息をつきながらドロップ品を拾っていると、救出部隊からの定期連絡が。そして待望のゲートを発見したとのお知らせと、今2層を探索中だとの通達が来た。
ザジからも、この遺跡エリアの癖を早くも見抜いたとの頼もしいお言葉。
「だからサラは、ゲートの近くにべったり張り付いてて大丈夫だニャ。ミケ姉と一緒に、私達が到着するのをご飯を用意して待ってるニャ!」
「えっ、お昼にはまだちょっと早いと思うけど……軽食位なら用意出来るから、それじゃあお湯を沸かしながら待ってるよ」
そんなやり取りをして、良かったねぇとミケと話し合って元来た道を戻って行く紗良。5分も掛からず例の大通路に辿り着いて、さぁお湯を沸かす準備を始めようと思っていたら。
何と紗良達が探索していた、すぐ隣の通路から救出部隊が飛び出して来てビックリ。会いたかったニャとザジに抱きつかれ、紗良がまず思ったのは。
お湯がまだ沸いて無いよと、軽食準備の心配だったり。
「とにかく良かったな、急いだ甲斐はあった……確かにこの遺跡エリア、造りは1層も2層もそんなに変わらないな。ただし、下層から上がった先の排出地点は、6つの通路のどれかランダムなのかも知れない。
普通に上って行くのは良いけど、下ろうと思ったら一苦労かもな」
「まぁ、香多奈ちゃんと姫ちゃんとは無事に通信は繋がったし。それからさっき、護人リーダーとも会話が出来たから、多分みんな無事にいると思うよっ!
後は順次、階層ごとに合流して行くだけかな?」
「そうなんだ、良かった……!」
心底ホッとした紗良の呟きと、その肩の上でニャーニャーと騒がしいミケ。どうやらこんだけいるんだから、さっさと家族を見付けに行けと催促しているみたいだ。
まるでチームのリーダーだけど、皆を助けたい思いはみんな一緒である。かくして、来栖家チームの救出活動は、紗良とミケの確保が取り敢えず確定した。
――救出隊は現在2層、さて他のメンバーは一体何層に?
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