第687話 実は浅層にいる2組も合流しようと頑張っている件



 さて、しっかり者だけど現在はミケと2人きりで、心細い思い真っただ中の紗良である。今は嫌々ながらも、死体の懐を漁って証拠の品々を確保した所。

 ミケは知らん顔、後ろ脚で耳の後ろを掻きながら好きにしてくれと言わんばかり。紗良はついでに、事の顛末をダンジョン外に控えている舞戻まいもどにも連絡する。


 向こうは慌てている様子だが、まだこちらも現状の把握が出来ていない。とにかくチームの合流に尽力するねと、そんな言葉しか紗良の口からは出て来ない有り様。

 でもまぁ、他の家族はそれなりに頼りになるし、心配なのは末妹の香多奈くらいのモノだろう。自分とミケみたいに、誰かが側にいてくれると良いけどと切に願う。


 もう1つの通信機は、しっかり別働隊チームと繋がってくれていてその点は心強い。それからザジが、何とか香多奈と通信が繋がったぞと報告してくれた。

 心底ホッとした紗良は、残りの護人と姫香に通信を別働隊にお願いする。それからこちらはどうしようと、改めてリリアラとザジにお伺い。

 その答えは、迎えに行くから何層か知らせてとの無茶振りだった。


「えっと、遺跡エリアなのは間違いないんだけど、何層なのかはちょっと……幸い、結界装置を襲って来た人達が作動させてくれてたお陰で、この場所は安全みたい。

 でも、ゲートの場所位は確定させてたほうがいいかなぁ?」


 向こうの返事は、紗良とミケの戦力でそれが可能ならお願いとの事。ザジを筆頭にスパルタな面々が揃っているので、甘やかしが無いのがいさぎよい気がする。

 紗良も他人の遺体と、ずっと一緒にいるのも心苦しいので。移動しようかと頼もしい相棒に相談すると、ミケは素直に肩に乗っかって来てくれた。


 結界装置はすぐ近くの部屋の出入り口にあって、カバーしているのは2部屋のみみたい。つまりは獲物が転送される部屋と、連中の控室に使っていた場所と。

 その向こうは、左右に通路がまっすぐ伸びていかにも遺跡っぽい。死体から離れたいと言う後ろ向きな理由で、紗良とミケのペアは遺跡エリアの探索にゴー。


 そして、歩き始めて割とすぐにインプとガーゴイルのペアに遭遇した。こちらを見付けてすぐに突進して来るガーゴイルと、魔法の準備を始めるインプ。

 向こうは前衛後衛と理想的なペアだが、こちらは後衛のみ2人とのアンバランスさである。それでも強引に突破するのが、ミケの強みと言うかやり方である。


 突進して来たガーゴイルも、飛翔しているインプもまとめて『雷槌』で撃破して行く。残ったのは魔石(微小)などのドロップ品のみ、さすが来栖家のエースである。

 紗良も一応は、いつでも魔法を撃てる準備をしてはいたのだが。遺跡エリアのルート探しも大変だし、1歩進むごとに罠が無いかと気を張り詰めるのも疲労の元になって来る。

 本当に、ハスキー達は探索において優秀過ぎる能力持ちである。


 それから何度か、インプとガーゴイルのペア、またはトロールなんて巨体の獣人までこの遺跡エリアで遭遇する事に。それらを紗良とミケの魔法で、交互に倒しての探索は続く。

 10分後には、かなり大きな広間と言うか柱の立ち並ぶ大通路に出る事が出来た。見た限り、反対側の壁にも小通路が3本くらいは存在するみたいだ。


 恐らくは、こちらの壁も似たような造りなりだろう。この大通路で合流する仕組みで、左右対称な形状のエリアなのかなと紗良は推測しながら観察する。

 その大通路には、巨体を誇るトロール集団と翼を有するインプたちが割とたくさん。それぞれ固まっていて絶好の範囲攻撃の良い的だが、さすがに前衛のいないこの場で放つわけには行かない。


 などと常識派の紗良の考えとは反対に、敵を見付けて張り切り始めるミケであった。数が多いなと、今度使用するのは《昇龍》の召喚スキルみたい。

 それは無茶でしょと慌てる紗良だけど、ミケはヤル気満々で遭遇した敵は全て倒すつもりっぽい。召喚された雷龍も、当然の如くその血脈を受け継いでおり。


 これは止めようがないと自棄ヤケになった紗良は、出入り口から飛び出して近くのトロール集団に《氷雪》魔法をブッ放してのサポートを行う。

 驚いた様子の敵の集団だが、続けて雷龍が突っ込んで来るとは想像もしていなかっただろう。暴虐を振り撒きつつ、召喚された雷龍は大通路を飛翔する。


 紗良の魔法によって大ダメージを受けた巨漢のトロールたちは、雷龍の振り撒く雷撃に呆気なく倒されて行った。その奥に固まっていたインプ集団は、それを見てただ逃げまどうのみ。

 それも結局は無駄な努力で、前衛いらずの暴虐シーンは約5分間で完了の運びに。これで大通路の階段奥のゲート周辺は、綺麗に掃除が行き届いていつでも使用可能になった。

 ただし、そのゲートが上なのか下層行きなのかは判然とせず。


「うわぁ、ミケちゃんは相変わらず大雑把だねぇ……でもこの辺の安全は確保出来たし、結果的には良かったのかなぁ?

 それじゃ、休憩してドロップ品を拾ったらゲートの確認をしよっか?」


 それとも、別にもう1つある筈のゲートの場所も確認するべきか。ここが何層なのかは、残念ながら周囲を彷徨さまよってみても分からないのが辛い所。

 いずれにしろ、通信手段を用いて混成チームと早い所の合流を目指したい紗良&ミケである。その安全は、ミケの無双で確保出来ているのが大きいけれど。

 それでも他の家族も心配だし、誰かに会いたくてたまらない紗良であった。





「しっかしインプも、飛ばすだけ飛ばしてその後の仕事しねぇな。まぁ、定岡が『催眠』スキル持ってくれてるお陰で……ぐあっ、何だっ!?」

「バカ野郎、くっちゃべってないで捕獲に専念しろっ! 連中の探索動画を観てないのか、仮にもA級ランクのスキル所有ペットが3匹だぞっ。

 客人っ、時間稼ぎをお願いするっ!」


 客人と呼ばれた人物のみは、仮面をつけておらず大振りの鉈を手にして奇抜だった。浅黒い肌に奇妙な衣装は、コイツも異世界からの傭兵団の一員なのかも。

 『牙突』で奇襲に成功したコロ助だったけど、こちらも茶々丸が眠らされてピンチ。萌は敵の術者の『催眠』スキルに抵抗したらしく、黒槍を手に敵の鉈使いと斬り結び始める。


 その動きは、《経験値up》と言う特殊スキルを得てから更に洗練されて来たよう。いや、或いはムッターシャやザジから、毎日訓練を受けての才能開花なのかも。

 これは安心して任せられるなと、コロ助は寝ている茶々丸を踏んづけて仮面の術者2人へと向かって行く。その片割れが奇妙な動きから、何と空中に突然インプを召喚して来た。


 驚いて回避行動を取りつつ、コイツ等も雑魚じゃ無いなと改めて気を引き締め直すコロ助。こちらも《咬竜》を召喚しつつ、バックステップでもう一度茶々丸を踏んづける。

 それからダメ押しでの、『咆哮』スキルでの目覚めの催促など。ついでに敵2人も、一瞬怯んだ様子を見せてくれて目論見は諸々成功を見せた。

 ついでに茶々丸も目覚めてくれて、兄貴分としての面目躍如である。


 『咆哮』スキルのタゲ取りのせいで、5匹ほど生まれたインプ集団が一斉にコロ助へと向かって来た。それらを『牙突』で撃ち落としながら、その奥で次の術の準備をする仮面の男達の動向チェック。

 どう考えても向こうは2人+召喚インプでこちらの手数が足りない。《咬竜》も敵の召喚士に解除されたし、目覚めた茶々丸にそろそろシャキッとして欲しいのだけれど。


 などと思っていたら、ようやくいつもの勢いが戻ったヤン茶々丸の『突進』が発動。それには当然『角の英知』と《刺殺術》もついていて、喰らった仮面の男は吹っ飛んで行った。

 それが茶々丸を眠らせた術者だったのは、恐らくただの偶然だろう。その一撃で、呆気無く仮面の男の片割れは壁まで吹っ飛んで戦闘不能に。


 召喚術者は大慌てで、すぐ側に出現した仔ヤギに火の玉をぶつけている。被弾した茶々丸には悪いけど、その隙にインプを全部始末したコロ助が助けに向かう時間が稼げた。

 そんな訳で、コロ助渾身の『牙突』で2人目の仮面の男も没。召喚した《咬竜》をキャンセルされた時は焦ったが、最後は数がモノを言った感じ。


 いや、茶々丸の暴れっぷりに向こうが焦った結果なのかもだが、とにかく良かったって事に。そして萌と鉈使いの戦いも、いよいよ終盤戦に突入していた。

 萌の鎧には、所々に傷がつけられ熾烈な戦いの様相が丸分かり。相手の異世界の傭兵も、かなりの使い手だった様でさすがにタイマンはきつかったようだ。


 手を貸すべきかなと考えるコロ助だったけど、萌の装備する『全能のチェーンベルト』がサポートに素晴らしい活躍をしてくれていた。まるで護人の装備する、薔薇のマントみたいなオート機能で敵をイラつかせている。

 それが体格的に不利な萌が、異界の傭兵団の猛者と斬り結べている主な理由だろうか。敵の客人は、異界の戦場で揉まれただけあってかなりの使い手だ。


 それでも萌の『黒雷の長槍』は、子供体型のリーチの差を埋めつつ黒い雷撃で相手の体力を奪って行く。戦いを続けて行くうちに、明らかに怯み始めた傭兵団の刺客である。

 その相手の逃げ腰は、仲間2人がペット達に倒されたのを確認してから更に加速する事に。要するにこんな所で倒されても、ただの無駄死にだと気付いたのだろう。

 明らかに攻めの手が鈍り始め、何とか逃げ出そうとし始める刺客である。


 もちろんコロ助は、そんな敵の我が儘に付き合うつもりは無い。萌は気性が優しいのでアレだけど、仲間と引き離された現在は明らかに苛立っている模様。

 その原因が目の前のコイツ等だとも分かっているようで、容赦するなんて考えられない槍さばき。結局は、その勢いの差がモノを言って逃げ腰の傭兵は黒槍の餌食に。


 その結末に、満足そうな兄貴分のコロ助である。よく戦った萌と茶々丸をいたわりながら、休憩するからポーション頂戴と唯一人間体型の萌を急かしている。

 萌は戦いの余韻に浸りながら、コロ助が空間収納から取り出した水飲み皿にMP回復ポーションを注いで行く。それを確認して、茶々丸も同じ皿からMP回復ポーションを飲み始める。


 仲の良いのは本当だけど、さてこの後の行動を決めるとなるとなかなかに大変だ。特に末妹の香多奈を護る使命は、コロ助や萌にとっては一番の任務なのだ。

 それをこなすためには、まず末妹と合流をしないと話にならない。こんな場所で3匹でくすぶっている訳には、間違っても行かないのだ。


 ちょっと休んだら主たちを捜しに行くよと、兄貴分の号令に茶々丸と萌は否も無い。そして何とかMPが回復してから、3匹によるペット珍道中が幕を開ける。

 コロ助はツグミみたいな探索能力がある訳ではないけど、臭いで何となく危険は判別出来る。それから半人型形態の萌は、この中で唯一扉や開封系の対応が可能。


 茶々丸にしても、変化のペンダントを使えば人型になれるし、何より3人寄れば文殊の知恵である。コロ助がまとめ役なのは変わりないけど、茶々萌コンビも立派なサポート要員だ。

 そんな気概で、一行はコロ助を先頭に隣の部屋を通過して遺跡の通路に出て来た。そしてインプとガーゴイルのペアに遭遇、戦闘に突入してこれらを撃破。


 そしてドロップ品は、萌が丁寧に拾って回っている。この辺は末妹に叩き込まれており、取り損なったら後で叱責が待っているとの脅迫概念が。

 この勿体無い精神は、実は来栖家チーム全員が意外と共有していたりして。そんな訳で、ペット達も間違っても餌を残したりしてはならないと言う不文律が。

 いやまぁ、餌云々うんぬんは皆が食いしん坊で残さないだけだけど。


 そんな一行だが、敵の小集団と戦う事3回程度の果てに。10分も経たない内に、例の広い大通路へと出る事に。立派な柱が等間隔に立っていて、奥には上り階段とゲートが窺える。

 そして、そこにいるのは1匹のドラゴンだった。いや、腐敗していて肉が酷い悪臭を放っているので、アレはドラゴンゾンビに違いなさそう。

 30メートル級の巨体で、奥のゲートの番人なのは確定的。





 ――つまり、あのゲートを潜るには奴を倒す必要があるって事だ。






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