第686話 相談もなく深層に放り込まれて苦戦する件



 色々と可能性を思い巡らせ、結局ルルンバちゃんが選んだのはみんなを助けに行こうって事だった。その動機の半分以上は、1人ボッチでいるのは寂しいからに他ならない。

 こんな寒々とした遺跡の一室で、じっと待っているのは精神衛生上よろしくない。何よりこの遺跡は、物凄く綺麗でホコリ1つ落ちてないのだ。


 これでは気分を紛らわすために、お掃除し甲斐も無いと言うモノ。いや、自ら汚した『哭翼』メンバーの死体は、この際無視する事に決め込むとして。

 発光する石造りの遺跡は、簡素な造りながら意外と奥行きは広い模様だ。それでもメインの通路を見付ければ、外に出るのは割とすぐだった。


 そしてビックリ、敵に遭遇しないと思ったら、この1画のみ悪漢連中が結界を張っていたみたい。それを過ぎると、突然にガーゴイル2体の襲撃に見舞われた。

 それを近接兵器で粉々にしていくルルンバちゃんは、無事にそいつ等を倒し切って満足そう。魔銃の使用を保留したのは、紗良や香多奈がいないと弾丸の補充が出来ないため。


 彼の『念動』は、魔法アイテムの付属のスキルだけに、制御が複雑になると難しいのだ。そこが完璧に見えるルルンバちゃんの、唯一の弱点かも知れない。

 実は他にも積極性とか、色々と彼にも苦手な事はあるのだが。今回ばかりは、この遺跡エリアの探索を積極的に行うルルンバちゃんであった。


 そしてそれが裏目に出るのも、この“魔獄まごくダンジョン”の怖い所……ルルンバちゃんが通路を飛び出してしばらく進んだ先は、更に大きな通りとなっていた。

 大きな柱が等間隔に並んで、彼が出て来た通路も大通りの両端の壁に等間隔に並んでいる。その大通りの右手は、どうやら行き止まりとなっているようだ。


 いや、それは何となくそんな感じがしただけで、彼には確証は全くないのだが。ただし、左手を窺うと10メートル幅の階段を登り切った踊り場にゲートが2つ。

 それが次の層に繋がっているのか、それとも入り口に戻る通路なのかは判然としない。それよりも、ゲート側に佇む巨人の威圧感と来たら。


 よく見れば、反対側の右手の天井側にも巨大蜘蛛が張り付いてるし、ここを戦闘抜きで切り抜けるのはまず無理。それならばと、先制で天井に居座る巨大蜘蛛を排除する事に。

 レーザー砲は見事に命中するも、どっこい敵は物凄い生命力を有していた。体に大穴を開けながらも、意外と素早い動きでルルンバちゃんの真上を位置取って。

 鋭い前脚を使って、槍のような突きをお見舞いして来た。


 レーザー砲の再射には時間が掛かるので、魔銃で応戦するルルンバちゃんだったけど。この直撃を受けても、10メートル以上の巨体を誇る敵は微動だにせず。

 それもその筈、この広間は実は10層の中ボスの間だったりしたのだ。中ボスの巨大スパイダーと巨人のセットは、来栖家チーム全員で何とかって感じの強敵である。


 それをソロで討伐は、さすがのルルンバちゃんでも辛過ぎる。そんな事を知らない彼は、この敵強いなぁと焦りつつも魔導ゴーレムのボディに傷を作って行く。

 そこにとうとう10メートル級の巨人も参戦、その蹴りをモロに喰らって反対の壁まで吹き飛ばされるルルンバちゃん。これはさすがにこたえて、自慢のボディにも不具合が生じる破目に。


 具体的には、《合体》でくっ付いていた華奢なドローン機体が完全に破壊されてしまった。腹を立てたルルンバちゃんは、反撃のレーザー砲を巨人にぶっ放す。

 これも巨人の右肩口に命中はしたけど、残念ながら敵を倒すには至らず。距離を詰めて来る2体の巨体に、初めて彼は人生最大のピンチを意識する。

 それを言語化すると、このまま機能停止したら家族に二度と会えないのではと言う恐怖。


 それが或いは、覚醒のトリガーだったのかも……いや、《限界突破》はどちらかと言えば自爆に近いスキルで多用は間違っても無理。ただし、そのお陰で彼は先ほどより5倍以上の出力のレーザービームを撃つ事に成功した。

 これにより、不用意に近付いて来た巨人は上半身を消失して完全消滅する破目に。後には魔石(大)とオーブ珠1個ずつを残し、いさぎよく退場の憂き目に。


 残った巨大蜘蛛は、この攻撃を間近で見て大慌てで天井付近へ避難して行った。そして、大回りしながら先ほどと同じくAIロボの真上を取ろうと動き始める。

 実はさっきの攻撃で、魔導砲塔を焼き焦がしてしまったルルンバちゃんは反撃の手段がない。何か手は無いかと、慌てて空間収納の中を探ってみると。


 本当に手が出て来て、そのがあったかとひらめきに震えるAIロボである。見付けたのは最近の探索で回収して、ルルンバちゃんが使いなよと貰った『魔導アーム』(左腕)である。

 これを《合体》でくっ付けて操作して、魔玉を魔銃に詰めれば良いのだ。その作業は簡単には進まず、蜘蛛の前脚の槍突き攻撃は段々と熾烈に。


 結果、自慢の魔導ボディは穴だらけで、反撃の余地も無いかと思われたのだが。弾込めの途中でプッツン来たルルンバちゃんが、魔玉(炎)を持ったまま魔導アームを暴走させる破目に。

 それもひょっとして、複雑なピースの組み合わせの結果なのかも知れない。《限界突破》スキルの余韻が、まだ魔導ボディに残っていたのも1つの要因かも。


 ともかくこの土壇場で発動したのは、ずっと謎の《魔力炉心》と言うスキルだった。魔玉(炎)をトリガーに、ルルンバちゃんは魔導アームで魔炎の玉を手の平に作り出すのに成功してしまった。

 それはどんどん大きくなって、最終的には人を軽く呑み込むサイズに。10メートル級の巨大蜘蛛から見れば小さいが、初の魔法にしては威力は甚大だった模様。

 この一撃で、天井に張り付いていた巨大蜘蛛は丸焦げに。


 ――かくして、10層の中ボス2体はルルンバちゃん1機で討伐完了。





 護人の心情にあったのは、してやられたと言う後悔のみだった。1層の宝箱に釣られて、まんまと敵の策略にチーム全員で掛かってしまったのだ。

 ワープ先は、恐らく敵が手ぐすね引いて待ち構えているだろう。素早く視力を回復して、その襲撃に備えないと。ただし、向こうの思惑外のハプニングも少々。


 例えば、分散転移の罠の筈が護人と一緒にムームーちゃんがいるとか。それから咄嗟にレイジーも、転移の際について来てくれた模様である。

 逆に、子供達の飛んだ先の顛末は物凄く気掛かりではあるけれど。今は心配するより、自分の足場を固めて迎えに行く準備を進めて行かないと。

 そう言う意味では、一緒に飛んで来たインプは邪魔者でしかない。


 こんな時、勝手に発動してくれる《心眼》スキルは物凄く便利だ。出来るなら子供達の居場所も把握したいけど、そこまで万能ではないのが残念な限り。

 と言うか、雰囲気の変化からしてどうやら階層を超えて転移させられたようだ。続けて何か悪さを企んでいたインプを斬り伏せて、《心眼》で得た情報を確認して行く護人。


 それによると、レイジーは間違いなく護人の足元で周囲に気を配ってくれている。ムームーちゃんは逆に慌てた様子で、何でシカと起きた事象について行けてない様子。

 嫌な事に、隣の部屋にいた待ち伏せ組もこちらの来訪に気付いた模様である。しかもこの強大なオーラは、出来ればムッターシャにお相手をと願っていた獅子獣人のモノか。


「また会ったな、異国の獣使い……剣技もそこそこ使えるようだし、早速だがお相手願おうか。こんな地に迷い込んで途方に暮れていたが、退屈しのぎには困らぬようで嬉しい限りだ。

 前回は小手調べと言う約束だったが、今度は邪魔者は始末して良いそうなのでな」

「せっかくの腕前なのに、仕える相手を間違ったな……アンタ、破滅に片足を突っ込んでるよ。乗る船を間違えると、地面の踏ん張りは途端に効かなくなるんだ」


 世の中、なかなか思ったように上手くは行かないようで残念な限り。護人は試しに、虚勢混じりの挑発をぶつけてみるも相手は動じた風もない。その大将に、お付きもどうやら2人はいるようで苦戦は必至である。

 そして唯一の出入り口から出現した獅子獣人は、相変わらず立派な衣装と巨大な大剣を携えていた。お付きの仮面チームも、そこそこ強そうなオーラを纏っている。


 対するレイジーも、既に炎の狼軍勢を召喚済みで対策は充分である。その数の多さにビビっているお付きの仮面の男達だが、次の瞬間には片割れが悪霊を召喚する。

 その数もなかなかで、途端に周囲で始まる召喚モンスター同士の激しい潰し合い。もう片方の術者も、レイジー相手に『糸電』を飛ばして攻撃して来る。


 それをかわしながら、レイジーも『針衝撃』でのお返しなど。その中心で、派手に斬り結ぶ敵の大将と護人との一騎打ち……今回は、はりの上など小細工は無し。

 それでも護人が持ちこたえられたのは、新しく新調した『神封の大盾』のお陰だろう。獅子獣人の大剣の一撃を、事もなくいなして次の反撃へと繋げてくれている。


 ただし、今回の反撃は何故かムームーちゃんが買って出てくれた。前回の対戦で、コイツは皆をいじめる嫌な奴だと覚えていたせいなのかも知れない。

 とにかく突然の《闇腐敗》スキルの執行は、護人の5本目の腕の役割としても申し分なし。かなり強烈なこのスキルを受けた相手は、何とマントの一振りでそれをスルー。

 さすがにその防御っ振りには、護人もムームーちゃんも驚きを隠せない。


 それなら自分がと、薔薇のマントは自分の有能さを示そうと熾烈な攻撃を仕掛けて行く。それらも華麗に避けながら、大剣での薙ぎ払いを仕掛けて来る“緋のたてがみ”のダンバーである。

 ガッツリ受けたら、さすがの護人も腕ごと持って行かれそうで辛い威力。“四腕”を展開しても、全く有利な気になった感じはしない相手は化け物級である。



 その周辺での戦いだが、2人の術者相手にレイジーは冷静に対処出来ていた。悪霊の群れは炎狼に任せて、敵の『糸電』や『飛影ベン』スキルでの攻撃を華麗に避けている。

 それを嫌がってると判断した術者達は、魔法を当てようと躍起やっきになって行く。所詮は犬ころ1匹である、過酷な訓練を受けてレベルを上げて来た自分達の方が上だとの自負も当然ある。


 それがフェイクだと相手が気付いた時には、既に手遅れでレイジーの術中にはまっていたと言う。レイジーの『魔喰』スキルが発動し、放出された魔法は全て彼女の魔力に変換された。

 驚く仮面の術者達、その時にはレイジーは両者の目の前に。そこからの炎のブレスは、炎と言うより暴虐の嵐を叩きつけられたような感覚だっただろう。

 哀れな両者は、炎に呑まれて逃げる間もなく焼かれて行く破目に。


 同時に敵の召喚した悪霊も、全て消え去りこの室内に残った敵は獅子獣人の“緋のたてがみ”のダンバーのみ。残った炎狼は、敵と見定めた獅子獣人へと突っ込んで行く。

 それもマントをかざして、全てブロックに成功するダンバーである。攻撃も一級品だけど、防御に関しても装備を含めて侮れない傭兵団長。


 とは言え、レイジーの活躍で数的優位が確立されたのはかなり大きい。それでも慌てる素振りの無い、敵の大将の胆力は立派ではあるけど。

 護人からすれば、かなり心の余裕が出来たのは確か。ムームーちゃんも、時折思い出したようにこのいじめっ子メと魔法の乱打を行ってくれており。


 その対処に、“緋のたてがみ”のダンバーも明らかに攻撃の手数が減って来た。しかも薔薇のマントも、この新入りに負けるもんかといつも以上に手数を増やしている。

 結果的に、この護人以外の攻撃が強敵のスペックを大いに削ってくれた感は否めない。こちらはムッターシャに頼むしかないと思っていた、敵の大将を良い感じに追い込めている。


 最後にはレイジーまで攻撃に加わって、数の暴力はここに極まれり。攻撃力に較べて防御装備はそれ程でも無かったダンバーは、最後に獅子の咆哮での反撃を試みる。

 その威力は物理ダメージかと思う程で、ムームーちゃんなど半泣きになったほど。それを小癪こしゃくな奴とすぐさま反撃したのは、強心臓を持つレイジーだった。

 それがまさかの、致命傷になるとは飼い主の護人も驚き。


 それはある意味、手品のような所業だった。炎のブレスの中から槍のように飛び出したほむらの魔剣が、ガードしようとした獅子獣人の腕をまんまとすり抜けて行き。

 まるでアッパーのように、あごの下から自慢のたてがみを焼きながら頭頂まで突き抜けて行ったのだ。どちらかと言えば防御一辺倒だった護人は、呆気に取られて息絶えて行こうとしている相手を見遣る。


 敵の大将の“緋のたてがみ”のダンバーは、そのまま仰向けに倒れて活動を停止した。自慢のたてがみが燃える焦げ臭い香りが、室内に漂って行く。

 こうして一番の難敵は、来栖家のエースのレイジーが倒す事に成功した。





 ――闇企業のペット捕獲の目論見は、この時点で完全に頓挫とんざする事に。







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