第679話 個人面接を含みつつ9月の青空市が幕を閉じる件



 それからチーム代表の面々は、詳しい日時や集合場所などをり合わせを行って。1時間程度の合同会議は、これにて無事に終了した。

 県北レイドで疲れ切った広島勢は、この後の時間は青空市で癒される予定だとの事。岩国チームも、家族へのお土産やら買い物の時間が欲しいと早々に立ち去って行った。


 途端に寂しくなるキャンピングカー内に、ムームーちゃんを抱っこした護人だけが残される。とは言え、表で荒事が無い限りは護人も出番はないので別に良いのだけれど。

 一応表を確認すると、丁度お昼休憩を交替した紗良や姫香が再び店番につく所だった。手の空いた土屋と柊木は、MP回復ポーション全部売れたぞと嬉しそう。


 どうやら護人の知らぬ間に、探索者チームが何組か買い物に来てくれたようだ。ついでに水耐性のイヤリングとネックレスも売れたっスと、柊木も万札を見せびらかしている。

 まぁ、効果は低くても人気商品なので、それなりの値段で売れてくれたみたい。ついでに“ともの浦ダンジョン”で入手した、釣り道具やクーラーボックスも売れたとの報告が飛び交っている。

 やっぱり、自分が売り子の時に大物が売れると嬉しい模様。


「店番ご苦労様、2人ともっ……お昼はもう食べたんだっけ、私達も食べ終わったから交替出来るよっ。あっ、でも陽菜やみっちゃんは青空市を見て回りたいよね?」

「そうっスね、でもまぁ午後の店番は、2人もいれば充分じゃないっスか? 適当に時間を見て、ちょろっと見て回れば私はそれでいいっスよ」

「私もだ、先に紗良姉と姫香が買い物に出て来てくれて大丈夫だぞ。私とみっちゃんで、店番をしてるから」


 少女達は話し合って、売り子に慣れている来栖家の姉妹は1人はブースにいた方が良いと結論付ける。そんな訳で、先に紗良と怜央奈とみっちゃんが買い物に出掛ける事に。姫香と陽菜は店番に残る事となって、土屋と柊木はお役御免となるそうな。

 そこに護人が声を掛けて、ちょっと中で話をしないかとのお誘い。ビックリした視線が各所から注がれるが、護人は今後の展望を踏まえての面談だよと口にする。


 柊木さんも結婚したからねと続けると、なるほどその話かとその場にいた全員が納得してくれた。大人しく車内に入る2人は、ギルマスも大変だなぁって表情。

 この場合、どちらかと言えば山の上の敷地主としての役割だろうか。護人からすれば、急な山の上の者同士の結婚騒ぎは、それだけ寝耳に水の騒ぎだったのだ。


 今後はそんな事が無いように、個々に面談をして行くのが重要との判断である。何を話せばいいんだと、土屋などは要領を得ない感じだけど。

 護人からすれば、むしろ土屋女史や星羅から話を聞きたいのだ。星羅は今回も山の上でお留守番だが、そろそろ変装すれば身バレせずに来客の多い場所にも出れるかも知れない。

 そんな話を含めて、今回は少し話を進めるつもり。




 来栖家のブースでは、買い物に出掛けて行った紗良達を姫香と陽菜が見送った所。その背後では、土屋と柊木が、面談を行うと車内に入って行った。

 面談って何だと不審そうな陽菜だが、姫香には護人の気持ちは良く分かる。急な柊木の結婚話に、一番面食らっていたのは誰あろう護人なのだから。


 どうやら山の上の敷地主として、住民たちの現状を把握しておきたいようだ。それは確かに、やっておいた方がいいかなと姫香も思う。

 何だかんだで、護人も仕事や自治会の会合で忙しい身である。細かいところが抜けるのは仕方が無いし、その辺のフォローは姫香とか子供達がすれば良い話。


 陽菜に対してそんな言い訳をしながら、山の上の生活も大変だなと友達から同情を貰ってみたり。そんな間にも、前回の売れ残りの目覚まし時計や枕が1個ずつ売れて行った。

 お昼にはチーム『ジャミラ』の佐久間たちが訪れて、毎度のエーテル薬やゲームのカセットやCDを買って行ってくれた。ついでにアラレ帽子やウンチ棒も、しきりに懐かしがって購入してくれたそうな。


 それからそっち関連のフィギュアも幾つか、本当に良いお客さんだったと売り子の土屋が言っていた。それから宮島の若い常連さんの探索者チームも、お昼に訪れて水耐性の装備を熟考の末に購入してくれたそう。

 10万円台とお高い設定だったけど、狙って探索で取れるモノではないのだ。ある時に購入しないと、後悔するのは目に見えていると。

 そんな訳で、宮島の『慈しマーズ』はチームで2個買い取りを決定。


 聞くところによると、宮島から行ける“太古のダンジョン”にも水エリアは存在するそうだ。うっかりそんなエリアに迷い込むと、洒落にならない事態に陥ってしまう。

 それを数十万で回避出来るなら、確かに命の価値に換算すると安いモノだ。


 それを売った柊木が、万札を手に大騒ぎしていたのがさっきの事。今は姫香と陽菜に売り子が代わって、品物を補充しながら雑談をしている所。

 さっきの『反逆同盟』と岩国チームの会合内容も気になるが、姫香は県北レイドの件かなと当たりは付けている。協会からも、依頼があるかもと夏の間に散々言われていたのだ。


 A級チームはやっぱり大変だなと、そう口にする陽菜は県北事情はあまり知らない模様。尾道はモロに海側なので、山側を知らないのは仕方が無い。

 それよりも、午後の客はそれぞれ昼食を終えて再び買い物モードになって来たよう。ぼちぼちブース前に寄って来る人達も増えて来て、2人とも商品説明に忙しくなってしまった。


 客層は、相変わらず中年女性が多いけど、金払いの良い男性や若い人も時々混じっている。男性はハンチング帽や毛染め剤や、作業用ズボンや長靴などをメインに買って行ってくれるよう。

 そして女性の方は、化粧品やリップクリーム、口紅やマニキュアを買う者が多い印象だ。幸いにも化粧品やハンドクリームの数は、割と多いので売り上げは順調に伸びている。


 若い人達は、反対にスノボー板やスキー板に興味を示す者が結構多いみたい。今の時代だとスキー場はやってないけど、滑れる場所は山の中にも多いのだ。

 紗良や怜央奈が戻って来るまでに、姫香は見事にスノボー板を売りつける事に成功した。それから初見の新人探索者に、ナックルガードとアームガードのセットを購入させて。

 オマケにと、余りまくっているヘルメットを1つ付けて商談成立。


 何だかんだと、頭の保護は大事だよと説き伏せて、締めて3万円は相手にとっても安い方だろう。新人さんには、是非とも頑張って生き延びて常連さんになって欲しいと思う。

 そんな感じで商談に熱くなってると、早くも紗良が戻って来た。まだ遊びに出て30分程度しか経ってないけど、ブースが気になってしまった模様。


 それなら私と交代しようかと、姫香の誘いに笑顔で頷く長女である。午後の売り子は来客もポツポツで、それ程に気張る必要もない状況である。

 そんな訳で、姫香は姉に席を譲って気になっていたキャンピングカーの中を覗いて見る事に。室内ではなおも面談と言う名の世間話が続いており、姫香はお茶の用意をする事に。


「そんな訳で、私も星羅もお付き合いしている人などいないし、結婚の予定も全くないぞ、護人ギルマス。

 次に結婚するとしたら、凛香と隼人じゃないのか、分からないけど」

「分からない情報を聞かされても、護人ギルマスだって困りますよ、土屋先輩。でも、星羅も恋人いないのは本当ですよ……ってか、『ダン団』関係で散々だまされた傷が、ようやくえて来た感じじゃないっすかねぇ?

 今じゃ家やご近所との付き合いでも、良く笑うようになってくれましたよ」

「そうなのか、それは良かった……青空市に誘ってもなかなか来ないから、やっぱり顔見知りに発見されるのが怖いのかなって思ってたんだが。

 少なくとも、山の上の生活は苦ではないようで安心したよ」


 柊木は、土屋先輩ほどにはフィットしてないっスけどねと、冗談交じりの発言。野生児と言うか、毎日がサバイバル女子の土屋は、ポツンと山の上生活が物凄く性に合っているみたい。

 護人としても、取り敢えず安心の隣家の現状である。ただまぁ、凛香と隼人に関しては、後でまた面談を行うのが良いのかも知れない。


 先輩を揶揄からかって楽しんでる柊木だが、お茶を出してくれた姫香に礼を述べ。改めて新居及びキャンピングカーの贈呈ありがとうございましたと感謝の言葉。

 それよりも、新婚さんの生活が心配な護人は旦那の稼ぎはどうなのと突っ込んだ質問を飛ばす。三杉は確かに真面目な好青年で、勉強を見てくれる子供達からは高評価ではある。


 ただし、生活能力に関しては護人どころか姫香も心配するレベル。一応は講師代として毎月現金は渡しているし、家賃や電気代は一切取ってはいないのだが。

 家族を養うとなると、かなり心許こころもとない賃金ではある。


 ところが柊木は、その辺の生活費に関してはそこまで心配していない様子。小島博士の研究の手伝いで、どうやらゼミ生達もお給金が発生しているそうで。

 あの教授、来栖家の知らない所で意外と稼いでいるらしい……例えば、出版した本や動画の収益だとか、企業と提携してのダンジョン産の新技術開発だとか。


 そのサポートは、確かに教授のお弟子さん達でないと無理である。具体的には、現在広島の企業と提携して『スライム式清浄器』の開発を計画中との事。

 しかも提携相手は、天下製薬会社『不磨キラー薬品』である。その話し合いで、現在小島博士は大野町へと出掛けていると柊木の言葉に。


 凄いアクティブだねと、姫香も何となく呆れた表情でさり気なく護人の隣に座る。それから近くにいたムームーちゃんを膝に抱えて、話し合いに混じる気満々の様子。

 護人も土屋女史も、それには全く気にする素振りは無し。柊木だけ、ちょっと面白そうに笑みをこぼしただけである。ただし、そんな柊木からは別の報告が。


「探索でお世話になってる企業や、それから協会本部からも結婚のお祝いは頂きましたからね。新婚生活に関しては、当分は困らないと思いますよ。

 私も探索業は止めるつもりは無いですし、そっちの儲けや貯えもありますから」

「それならまぁ、多少は安心かな……探索の方は、あまり無理して欲しくはないけど。異世界チームと今後も活動して行くなら、ランクの高い場所も出て来るだろうからね」

「でもまぁ、星羅もいるから安全は保障されてるよね。仮にも元“聖女”なんだから、ハッキリ言って異世界+星羅の合同チームはウチらより強いでしょ?」


 それはそうだなと、忌憚きたんのない意見に真っ先に頷く土屋女史はとっても正直者。コミュ障気味の彼女らしい率直さだが、そんな彼女からまさかの爆弾発言が。

 つまりは、今使っている家屋が元は柊木も含めて女子3名で使っていたのだが。彼女が結婚して、1人減った事で寂しくなったねと同居人の星羅と話し合ったそうな。

 それで、知り合いを新たに同居人として招こうかって話が。


「だかまぁ、山の敷地の主は護人リーダーだからな。まずは先に、相談した方が良いかなって星羅も言ってたので。

 このタイミングの話し合いは、丁度良かったな」




 その頃、来栖家のブースでは丁度『ガッちゃんの触手付きカチューシャ』が売れて行った。さっきは自治会長の峰岸も訪れて、軍手と長靴を大量に買って行ってくれたし。

 この町の自治会では、とっくに魔素を帯びてるダンジョン産の品物は解禁となっているようだ。とは言え、しばらく納屋などに仕舞い込んで養生させる程度は皆やっているだろう。


 それでも、ブースの売れ行きが良い方向に向かっているのは、素直に嬉しい紗良である。今月も2面を確保しただけはあって、少なくとも先月よりは売り上げは上々だ。

 来栖家ブースでは、みっちゃんと怜央奈がようやく買い物から戻って来て、陽菜が自由行動の権利を得た所。そんな彼女は、姫香を誘って市場を見学しようかと口にしている。


 戻って来た少女2人は、さっきそこで吉和の若い探索者チームとすれ違ったと報告してくれた。この青空市も、探索者の常連さんも少しずつ増えて来て、その辺も嬉しい点には違いないのだが。

 出来ればもう少し、武器や防具の売り上げが伸びれば最高である。


 駆け出し新人に限っては、お金も無いのは心情として分かるのだけど。そう言う者たちこそ、装備に少しでもお金を回して欲しいと紗良は切に思う。

 そうしないと、生き残る確率が上がってくれないではないか。だからと言って、こちらで値引きが過ぎると、協会の能見さんに怒られてしまうし。

 つまりは、親切も過ぎると毒になるって説教が待っているのだ。





 ――商売って難しい、売り子をしながらそんな事を思う紗良であった。






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