第677話 久々にブースに詰める売り子が満杯な件
9月の青空市は、まだまだ暑い第一日曜日に通常通りに行われた。自治会では、盆踊り大会とかお祭りも交えて行おうかとの、そんな話も持ち上がったのだけれど。
最近は買い物客の往来も順調に増えており、下手にイベントを企画する事もないとの結論に。そもそも人が増えて騒ぎが起きても、対応出来るほどスタッフの数は足りてもいないし。
その分、夏野菜を農家の皆さんに多く出荷して貰おうと言う事で話は
それを受けて、頑張ろうねと紗良や少女達は物凄いヤル気を
マイペースなのは姫香やみっちゃんのみ、まぁ彼女達も朝から野菜の収穫は頑張ってくれたけど。それらを車に詰め込んで、売り子は紗良や怜央奈にお任せって感じだろうか。
いや、今回はブースが2面に増えたので、陽菜やみっちゃんにも頑張ってもらわねば。そんな打ち合わせをしながら、熊爺家からのサポートの子供達もちょっとだけ緊張の面持ちである。
何度かお手伝いしてる筈なのに、あのおばさん達の襲撃にはまだ慣れない模様。
「頑張ってね、みんなっ……今回から袋詰めの時間を短縮する為と、それから値段を計算するのが面倒だからやり方を変えたからね。あらかじめ袋詰めした野菜のセットを、1袋300円で売る事にしたから。
組み合わせは適当に、大きい野菜と小さい野菜を一緒にしてね」
「こっちが大根で、それからモロコシにレタスにきゅうりにゴーヤのセットだな。トマトは潰れやすいから、ピーマンやナスとセットが望ましいと……なるほど、だいたい覚えたぞ、紗良姉」
「1袋で一律300円っスか、それは計算がしやすいっスね。えっと、こっちの袋はまた別料金になるんスか?」
端っこの袋は100円コーナーで、形が悪かったりちょっと虫が食ってたりの規格外の商品らしい。これも紗良の思いつきで、試しに売ってみようとの事に。
この食糧難の時代、客は見た目よりも入手のしやすさを喜ぶ傾向がある。“大変動”前は『お客様は神様』なんて言葉があったらしいが、今は生産者の方が圧倒的に力を持っている。
嫌なら買うなと言える素晴らしさ、買い手は他にも幾らでもいるのだ。と言うか、今日も恐らく午前中どころか1時間で全て売り切れる予感。
そうして青空市の開催時間が来て、ブースに詰める売り子たちも気合充分で臨む気満々である。具体的なメンバーは、紗良や姫香に陽菜やみっちゃんでまずはスタート。怜央奈や熊爺家の子供達は、最初はサポートに入って貰う感じで始める事に。
もちろん香多奈や双子も、同じくサポートでブースの管理を任されている。つまりは机の上の商品が手薄にならないよう、どんどん野菜の袋セットを作って置いて行く係である。
今回はブースの面積がいつもの倍なので、売り子の数も増やしてバンバン売る予定。熊爺家にも手伝って貰って、売りに出す野菜もいつもの倍以上用意している。
こんなに用意して売れるのかなと、熊爺家の子供達の心配は
その勢いはいつもと変らず、いやいつも以上な感じも受ける。どうやら夏の最後の大売り出しとか、青空市の宣伝が功を奏したのかも知れない。
そんな訳で、助っ人の少女達も大忙しで殺到するおばちゃん達を
陽菜とみっちゃんは、さすがに前衛職だけあってその辺の度胸はあるようだ。姫香に負けず、どっしりと構えて売り子の動きにそつは無さげ。
それでも満面の笑顔での対応の、紗良の動きには負けている気も。とにかくブースが増えた恩恵もあって、初っ端からかなりの殺到具合の来栖家の持ち場である。
それでも、売り子の数もバッチリ準備していたお陰か、いつになく順調に対応出来ている気が。熊爺家の子供達も、今回の前もって袋詰め作戦が功を奏したようでいつもより混乱はない模様。
お客さんからのクレームも無く、向こうも安く野菜が買えれば何でもいいって感情なのかも。規格品外の野菜の袋詰めも、あっという間に無くなって嬉しい限りである。
そしてそんな苦行が続く事1時間とちょっと、ようやく客の波がゆっくりと引いて行く気配。正しくは、もうブースに置く野菜が無くなったせいではあるモノの。
無事に商品を捌いた面々は、総じてやり遂げた表情に。
「はあっ、もうお野菜が無くなっちゃったねぇ……途中での商品補充も、今回はスムーズに出来たし良かったんじゃないかな?
みんな、本当にお疲れ様でしたっ!」
「うむっ、毎度ながらここも立派に戦場だな……紗良姉は本当に凄いな、心から尊敬するぞ」
「さあっ、野菜は無くなったけど売り子の仕事はまだ終わってないよ。今月はブースが2倍になってんだから、売り上げもいつもの2倍を目指すからねっ!
3人も、ちゃんとバイト代出すんだからしっかり頑張ってよ!」
は~いと女子チームからの返事が上がる中、末妹の香多奈は既に遊びに出掛ける準備を終えていた。護人からしっかりお小遣いを貰って、双子を誘って市場へと駆けて行くその速さと来たら。
ついて行くコロ助や萌は大変そう、ちなみにルルンバちゃんは市場の外に待機している。つまりは今月も、外敵への備えはそれなりに強化しているのは当然の事。
恐らくだが、岩国の『シャドウ』や協会の宮藤たちもこの町に入り込んでいる筈である。いつも通りに賑やかな青空市、不埒な連中が紛れ込んでいないとは限らないのだ。
警戒するのは当然だが、それで子供達の行動を制限するのも気の毒ではある。そんな訳で、今回も香多奈は自由に遊びに出掛けても良い事に。
もちろん護衛はバッチリついて、ルルンバちゃんに加えて今回はミケにもついて行って貰う事に。気紛れなニャンコだが、子供への愛情は本物である。
騒がしいのは嫌うミケだが、そこは我慢して貰うしか。
そしてブースの並べ替えを行う紗良や姫香は、続けて売り上げを伸ばすぞと張り切っている。最近は、薬品やダンジョン産の品物でも、嫌悪感なく買って行く人が多くなっている。
魔素を怖がらなくなったとか、安い商品に魅了されたとか理由は色々あるのだろうけれど。今回も、陽菜やみっちゃんが手伝ってる最中に、早くも薬品類が売れて行ってくれた。
解毒ポーションや解熱ポーションは、今や真っ先に客が買って行く売れ筋商品である。協会の方にも、これを青空市で売るのを容認して貰っているので一応は安心。
さすがにポーションは無理だったけど、お客さんの中には売って欲しいと言う声も多い。来栖家的には別に構わないのだが、権利問題で協会から駄目と言われているのだ。
その辺の客あしらいの上手な紗良は、軽やかな会話を交えて客を説得している。相変わらず凄いなと、それを横目に接客を頑張る陽菜と怜央奈である。
姫香とみっちゃんは、ブースの後ろで並べる商品を吟味中。さすがに2面となったからって、回収した全ての商品を机の上に並べるスペースは無い。
なので、寄って来る客層を眺めて、売れそうな商品を魔法の鞄から取り出す役割はとっても大事。今はスタンダードに、“鬼の報酬ダンジョン”で入手した靴や帽子が多く並んでいる。
最初は年配の女性が多いかなと、姫香は売れ残りの高級バックや化粧品をさり気なく商品に混入して行く。値段表を書くみっちゃんは大忙し、ちなみに値段は別に価格表を前もって作ってある。
これは能見さんを交えて、あまり安く設定し過ぎないような適正価格の取り決めによるモノ。今回も、相当に前準備は時間も掛かったし苦労したのだ。
だから、なるべくたくさん売れて欲しいってのは姉妹の偽らざる本音。そんな中、早速売れて行くのはやっぱり薬品類と、それから靴下などの安い日用品雑貨だった。
それから、ハンドクリームや乳液もそこそこの人気振り。シャンプーやリンスも、数が多かったので売りに出したけど買い手は多いみたいで一安心。
そうなると、人が人を呼ぶのはいつもの良サイクル……何を売ってるのか気になる人たちが、段々と寄って来て商品を物色し始める。
その機を逃すまいと、商品を売り
ここでも売れるのは靴下やスリッパ、サンダルや軍手など安いモノがほとんど。
たまに高級バックや化粧品が売れて行くけど、大抵はクロスワード雑誌や帽子などの安物がメイン。それでも嬉しそうな売り子たちと、商品補充に忙しい後衛陣。
「いい調子だねっ、お客さんの群れが多い間になるべく売り上げ伸ばそうっ! 紗良姉さんっ、帽子と靴はまだまだ在庫あるよっ!
それから冬用の手袋や帽子とか、スノボー板とかもっ」
「了解っ、でも今日もまだ暑いから冬用商品は難しいかな……日用品メインで、商品補充してみようか、姫香ちゃん」
「探索者用のアイテムは、まだ全然用意しなくていいっスか? 今回の目玉の、水耐性付きのアイテムとか絶対に売れると思うんスけど」
「効果は小さいけど、確かに海側のダンジョン探索に欲しい探索者は多いだろうな。おっと、毎度あり……このイルカの縫いぐるみは幾らだったっけ、紗良姉?」
少女たちの打ち合わせ中にも、順調に商品は売れて行ってくれて今月も売り上げは好調みたい。歯ブラシやゴム手袋、爪切りやヘアバンドも中年女性の団体さんは購入してくれて。
お陰で靴下やサンダル類は、もうほぼ無くなったよと嬉しい悲鳴の姫香である。反対に、手袋や冬用の帽子やマフラーは、残念ながらほとんど売れていない有り様である。
紗良の言う通り、まだ9月で日差しも強いし冬の準備には少し早いかも。それでも紗良の舵取りで軌道修正したブース商品は、まだまだ勢いも衰えず売れて行く。
護人は相変わらず口出しは一切せず、そんな頑張る少女達を後ろから見守っている。キャンピング道具の椅子とターフを持ち出して、何かあった時用に控えている。
同じくその側に
護人もそうなのだが、最近は妙な輩もめっきり減って平和な青空市が続いて嬉しい限り。協会と自治会の両者での運営が、功を奏している結果なのかも知れない。
そんな事を思っていたら、交替要員のお願いをしていた土屋と柊木がブースを訪れて来た。そろそろお昼だぞと言いながら、先に食事をするべきかなとのお伺いに。
紗良は売り上げからお金を渡して、みんなの分も買って来てとのいつものお願い。姫香とみっちゃんも荷物持ちにと、その辺の役割分担は既に慣れててバッチリだ。
それより今日は、いつもの探索仲間がお話に来ないねとの姫香の言葉に。お昼過ぎじゃないかなと、呑気な護人は今日も来客があるのを信じて疑っていないよう。
そんな言葉を残して、姫香たちはお昼の買い物に出掛けてしまった。残された陽菜や怜央奈は、もうすぐお昼だと慣れない接客のラストスパート。
随分と気張って続けていたので、かなり精神も削がれている事だろう。まぁ、怜央奈に限って言えば、接客能力は充分に備えている感じだけれど。
それでもお世話になった友達のためにと頑張る姿は、見る人が見れば光り輝いている事だろう。護人ももちろん、良い友達が出来たなと彼女たちの讃辞は内心では惜しまない。
そんな来栖家のブースに、久し振りのお客が訪れたのは姫香たち買い出し部隊が戻ってすぐの事。そして毎回タイミングが悪いわねと、姫香に叱られるのも毎度の見世物となっていたり。
“巫女姫”八神は、そんな少女にしきりに謝りながらもようやく休みが取れたのよと弁解口調。仕方ないわねと、追加で甲斐谷たちの昼食も買って来てあげるよと意外と優しい少女である。
甲斐谷も、この後県北レイドを頼み込む手前、へそを曲げられたら
さすがに来栖家とは長い付き合いなので、本当の権力者は護人より子供達にあると内情は筒抜けだ。そんなチーム『反逆同盟』のいつもの3名と、ついでに翔馬と淳二は総じて疲れ切った顔付きである。
対応した護人も、ちょっと心配そうな顔付き。
――ただまぁ、彼らの疲労の原因は何となく察している護人だったり。
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