第676話 協会の用事を済ませて買い物に出掛ける件



 9月に入ってから、山の上の生活も様変わりを見せて来た。それは小学生組の新学期が始まった事も関係あるし、陽菜やみっちゃんや怜央奈が宿泊中も関与している。

 陽菜は既に“鼠ダンジョン”のゲート前に案内されて、ワープ装置の認証作業は終わらせてある。なので、いつでも地元の“千光寺公園ダンジョン”との行き来は可能だ。


 今回の来栖家へのお泊まりは、9月の青空市の参加までと一応は決めてある。次にこちらへ訓練(遊び)に来るのも、10月の青空市前後となる予定。

 そんな感じで月に1度は来訪して、訓練に参加したり探索に同行したりと活動を行うつもり。これでギルドの体制が、ちょっとは確保出来たのではなかろうか。


 そう考えている面々は、キャンピングカーの掃除の後に来栖邸で昼食を食べ終わって。それから午後はどうしようと、呑気に相談などしてみたり。

 護人の方は、どうやら午後から自治会長に呼び出しを受けてるそう。


「それじゃあ、一緒に麓に降りて私達で換金作業を終わらせておこうか。紗良姉も確か、協会に用事があるって言ってなかったかな?」

「ええ、青空市の売り物の値段表作りを能見さんと一緒にやっておかないと。あんまり安い値段で品物を売っちゃうと、ようやく活気づいて来た製造業がダメージ受けるから駄目だって。

 もちろん魔法アイテムにも、一応は適正価格あるからね」

「な、なるほどぉ……そう言えば、来栖家チームの今回の魔法アイテムは凄いのが揃ってましたね! 誰が使うか、もう決まったんスか?」


 大盾以外はまだ決まって無いねと、姫香は呑気にみっちゃんの質問に答えている。確かに兜と手甲とブーツでは、物凄く良品をゲットしてしまった。

 それらは前衛の誰が装備しようと、護人と姫香で話し合ったのだけど。2人ともセット装備を愛用しているので、それを崩すのはちょっと思い切りが必要なのだ。

 ちなみに、前回の魔法アイテムの鑑定結果はこちら。



軋轢あつれきのグローブ】装備効果:筋力&理力up・大

【魔導アーム】装備効果:魔導ゴーレムの左腕・永続

【魔人の手甲】装備効果:魔壊&耐性up&能力値up&着脱・特大

【勝利の兜】装備効果:衝突緩和&魔力回復&能力値up・大

【魔界の兜】装備効果:衝突緩和&麻痺光線&体力回復&着脱・特大

軋轢あつれきのブーツ】装備効果:筋力&理力up・大

【神足のブーツ】装備効果:吸着&衝突緩和&瞬間移動&着脱・特大

【知恵者の頭輪】装備効果:魔力&精神&MP回復up・特大

【魔人のフレイル】装備効果:不壊&物理破壊&筋力up&衝撃・特大

【神封の大盾】装備効果:不壊&打撃半減&耐性up&能力値up・特大


その他:『強化の巻物』 (攻撃)×2、『強化の巻物』 (防御)×2、『強化の巻物』 (耐性)×2、『巨人のリング』 (《巨大化》付与)×1、『ダイヤの指輪』 (防御&魔法防御up) ×1、『金の腕輪』(筋力&耐性up) ×1、『巻貝の通信機』 (通信効果)×2、『幸運の蹄』 (幸運度up) ×1、『魔法の鞄』(空間収納)×1




 『神封の大盾』は護人の新装備として、その件については簡単に決定したのだが。他の良装備品については、次の探索まで前衛で話し合って決定する事に。

 これらを倉庫行きにするのは、確かに勿体無いし考え物ではある。それより『巨人のリング』の2個目が出たので、これは萌が持つ事で話は付いてしまった。


 これによって、茶々丸と萌はそれぞれ『巨大化』と『変化』を好きな時に使える事に。まぁ、それなりにMPを使うので、ずっとと言うのは大変ではあるのだけど。

 今では両者ともレベルが30台へ突入して、MP量も随分と増えている模様。休憩さえ適度に取れば、1度の探索でへたり込む事はまず無いタフネス振りである。


 『巻貝の通信機』と『魔法の鞄』も予備がゲット出来たし、本当に回収品に関しては良い探索だった。それから唯一使えそうな『魔導アーム』(左手のみ)は、無事にルルンバちゃんに渡される事に。

 とは言え、華奢な女性の左腕を貰っても使い道は無さそうだけど。



 そんな話をしながら、山の上の一行は来栖家のキャンピングカーに乗って協会へと赴く。今回はザジや星羅も行きたいと言ったので、車内はいつもに増して賑やかだ。

 護人は協会前で、用事があるからと別行動に。後で迎えに行くねと、レイジーを伴って去って行く護人に姫香が元気に声を掛ける。


 何故かムームーちゃんまでついて行ってるのは、この際ご愛敬と言う事で。それより今回は、魔石の数が両チームとも馬鹿みたいに多いので換金作業も大変かも。

 ザジを含んだ女性チームも、やたら敵の多いダンジョンを13層分踏破したのだ。魔石(微小)の数だけでも、5百個以上あるんじゃないかっ話は凄いかも。


 来栖家にしても、魔結晶の小と中が両方40個以上と言う。過去最高値が出るかもと、常識派の紗良は少し申し訳なさげな表情な気も。

 それでも、換金を護人に任された手前、手加減など出来ない真面目な性格の紗良である。ほかの娘さん達は、幾ら儲かったかなぁと呑気なテンション。


「あら、いらっしゃい……華やかだなって思ったら、今日は女の子ばっかりなのね。ええっと、確か訓練で敷地内のダンジョン探索に潜ったんだっけ?」

「あっ、はいっ……それでかなり魔石を回収しちゃったんで、済みませんが換金額が高額になる可能性が」

「頑張ったんだから、しっかり報酬を貰う権利はみんなあるニャ! お金を貰って、さっさと隣町にみんなで買い物に行くニャ!」


 ご褒美の買い物タイムに釣られてついて来たザジは、星羅が上手くテンションを抑える役目をこなしているよう。まずは動画を観るんだっけと、昨日の来栖家の動画チェックは一緒にこなすようだ。

 それから2チーム分の魔石が江川の手に、彼はその重さに思い切り怯んだ表情。仁志支部長も同じく、今日は護人リーダーいないんですねと呟いている。


 姫香が隣の集会所で、自治会長と話をしてるよとその独り言に返事をして。いつもの調子で、能見さんを誘って自分のチームの視聴会を開始。

 今回はザジも見ているので、一際騒がしいけどそこは仕方が無い。ベテラン冒険者から見れば、来栖家チームの面々は皆が素人っぽい動きなのだろう。


 それでも褒められる戦闘場面も何度かあって、友達3人も真面目に動画を観てコメントを発している。普段観る動画は編集後の奴なので、全編チェックはまた別の刺激のようだ。

 そんな間にも、換金作業は無事に終わって顔色の優れない江川が奥の部屋から戻って来た。それによると、まず来栖家の魔石&ポーション換金額が、5百万ちょっとで久々の大台に。

 そしてザジチームも、3百万円を軽く突破したとの事。


 それから仁志支部長による、金庫に現金がありませんとの久々の台詞。後の振り込みで結構ですと、紗良もその辺は心得た返答振り。

 明らかにホッとした表情の仁志支部長と江川はともかく、紗良はこの後も大忙しである。能見さんには悪いけど、一緒に大量に回収した品物の値段表をつけて行かないと。


 他の面々は、隣町への買い物へとおもむく気満々である。昨日あれだけ探索を頑張ったのだから、当然目いっぱい遊ぶ権利はある訳だ。

 その点、護人や紗良は勤勉過ぎる気もするけれど。香多奈も学校だし、何だか自分達だけ楽しんで申し訳ない気分の姫香である。


 ザジや怜央奈は、そんな事全く関係無いって感じで買い物行こうと盛り上がっている。一応は香多奈やお隣さんへのお土産に、アイスを買ってあげようなどと話し合っており。

 罪悪感など微塵も無いようで、そんな彼女達を見ていると躊躇ためらってるのも馬鹿らしくなって来る。結局はそのノリに釣られて、姫香も楽しもうと決意した。

 そんな訳で、みっちゃんの運転で一向は隣町へ。




 集会所に呼ばれた護人は、自治会長の峰岸と自警団の細見団長と顔を合わせていた。普通の役員会は、夜にやったり休みの日の午後が多いが今日はそれとは違うよう。

 と言うか、この夏に秘かに行われた2度の居住申込者の、面接結果についての話し合いだった模様。その2度とも護人は面接官を言い渡されて、その面接で不合格を言い渡したのだ。


 それは真面目にやった結果なので、何も後ろ指を指される事も無いのだが。面接ともなると《心眼》が勝手に発動して、申し込んだ探索者達の性根を垣間見てしまうのだ。

 その本心が、田舎を馬鹿にしたり衣食住をタダで貰って俺らは働かねぇみたいな連中だと、それは不合格を言い渡すしかない。実際、この夏に訪れた居住申し込み者はそんな連中ばかりだったのだ。

 ランクも低くて食い詰め者の荒くれ者ばかり、それは恐らく細見団長も感じ取ったに違いない。林田兄妹や神崎姉妹みたいな当たりは、なかなかまれだった模様である。


「とは言え、ようやく3軒リフォームが終わったんじゃし、その手間を考えるとそろそろ居住探索者を決めんとなぁ。家も住む者がおらんと、傷んで行くって言うし。

 なんなら、熊爺みたいにストリートチルドレンを受け入れるのもアリじゃないか?」

「協会の話じゃ、市内に残ってる連中はもう荒くれ者しかいないって話でしたね。探索者にも流行があって、今は宮島に新しく出来た“太古のダンジョン”がブームのようです。こんな田舎に引っ込む探索者も、少ないのも仕方無いかと。

 皆が比較的安全で、楽に稼げる場所に集まるのはどの時代も一緒ですよ」

「まぁ、細見団長の言う通りで、そんな流行にもあぶれた連中しか今の所は申し込みに来てない印象でしたね。日馬桜町にチンピラを入れる訳にも行かないし、その為に面接をしてるんでしょう?

 だったら、面接結果に文句を言われてもね」


 そうは言ってもと、峰岸自治会長は渋い顔を崩さない。せっかくお金と時間を掛けて、3軒の廃屋をリフォームしたのに居住者がゼロなのは計算外だったようで。

 だからと言って、護人の言ったようにチンピラを招いて良い事など1つもない。その点は、細見団長もしっかり後輩を擁護してくれている。


 まぁ、実際に受け入れて一緒に仕事をするのは自警団なのだ。そう思えば、身元はともかく性格の真面目な探索者に来て欲しいのは当然。

 現在の自警団と居住探索者による町中の間引き活動は、何とか軌道に乗っていると言っても良いかも。林田兄妹や神崎姉妹、それから熊爺家の双子の協力は当然不可欠だけど。


 何より大きいのは、来栖家の寄贈によってスキル持ちの数が『白桜』内に爆発的に増えた事。これによって、自警団チームのレベルもこの1年で順調に上がって行き。

 現在は、平均レベル15と全員ルーキーを卒業である。


 探索者ランクも、平均はD級で細見団長はC級となっている。装備もかなり充実していて、最初の頃のアマチュア振りとは比較にはならない程。

 だからぶっちゃけて言えば、居住者の募集は今となってはそれ程急務では無い訳だ。ただし、お金を掛けた空き家を有効活用したいと思うのが人のさがである。

 かくして、自治会長と護人と細見団長の意見は平行線に。





 ――ただまぁ、どちらも町の発展を願っているのは一緒なのかも。






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