第673話 中ボスを退治して大ボス討伐に挑戦する件



 結局、8層のゲート部屋のケンタウロス型パペットは、突進を止めてしまえば苦労する敵ではなかった。ハスキー達共々、足の止まった連中をボコって数分で戦闘は終了。

 魔石も小だったし、スキル書もドロップせずで何とも残念な結果ではあったけど。ムームーちゃんの新スキルの威力は把握出来たし、それなりの収穫はあったと思う。


 今後、そのスキルを使うかはまた別の話になってしまうけど。グロい効果のスキルだけに、肝心の遣い手が拒絶反応を示す可能性も。

 それはともかく、宝箱の中からは普通の杖や松葉杖に混じって、魔法効果付きのひづめも出て来てくれた。他にも薬品類やら魔玉や木の実も入っていて、まずまずの充実振り。


 このダンジョンではすっかり見慣れた宝箱だが、この感覚が身についたら逆に怖いかも。他のダンジョンでは、良い所で5層潜って1~2個が普通なのだ。

 贅沢に慣れると後が怖いからねと、紗良など口を酸っぱくして末妹に忠告している。それでも、また魔結晶(中)が入ってたよと、その笑顔は極上である。


 そのため、やっぱり強くはたしなめられない来栖家の長女だったり。護人も同じくそうなので、末妹を叱る役目は自然と姫香が担う流れに。

 その姫香だが、今は護人とさっきのムームーちゃんのスキルについての話し合い中。要するに、しばらく封印するべきかとか、当人への変な反動は無いかとか。


 幸いにも、本人には心理的なダメージが少々あっただけでそこは良かった。呪われたスキルとかだったら、また浄化を求めて異界に旅立たねばならない所だった。


「まぁ、威力は凄かったみたいだし、強敵への奥の手みたいな感じでいいんじゃないかな? ムームーちゃんもまだ幼いし、無理強いしてスキルを使わせるのも可哀想だもん。

 それより今は、ルルンバちゃんの強化を先にしてあげたいなっ」

「魔法も使えるようになったら、ルルンバちゃんは確かに最強になるかもねっ! でもどうやって教えたらいいか、私達も分からないからなぁ。

 やっぱり、魔法と言えば紗良お姉ちゃんじゃない?」


 そんな香多奈の言葉に、家族に注目された紗良は大慌てでそれを否定する。自分にも良く分からないし、ルルンバちゃんは今のままでも充分に強いし役に立ってるよと。

 どの道、もう少し時間が掛かりそうな“ルルンバちゃん魔法使い計画”は、そんな訳で一時棚上げとなる事に。休憩と宝箱の中身回収を終えたチームは、次の9層へ。



 そして例の回廊を進む事10分ちょっと、ハスキー達は相変わらず先頭を譲らず、絶好調で敵をほふって行く。それを追いかける後衛陣は、割とのんびりムード。

 姫香だけは相変わらず中衛で、何かあった時に駆けつけようと位置取りを頑張っている。とは言え、そんな時は来ずに来栖家チームは無事に塔のドーム内へ。


 そこは相変わらず広いスペースで、地面は柔らかい砂で覆われていた。ここにも砂中に敵が潜んでいそう、まぁ既にこっちには存在がバレているけど。

 このドーム内にも、しっかりと小塔が幾つか建っていて挑戦者を待ち構えていた。調子に乗った姫香と香多奈が、再度のバトルを行おうと対戦順を決めている。


 結果、先行を引き当てた姫香だが、さっきより複雑になったモニターの指示出しに大慌て。文句を言いながらも、しかし致命的な失敗をしないのはさすがの運動神経である。

 そして4分後には、何とか“グッド”を貰って満足そうな表情。出て来た宝箱の中身はやや少なかったけど、入っている品はさっきと同じ種類ばかり。


 レギンスやハーフパンツも入っていて、靴より上の部位も解禁されたのは嬉しいかも。香多奈もそれを見て、自分もゲットしようと張り切って次の小塔を目指している。

 その間、ハスキー達は例の如くドーム内の敵の殲滅せんめつに張り切って取り組んでいる。お手伝いの茶々萌コンビとルルンバちゃんも、役割を貰えて嬉しそう。

 砂地を爆走して、敵の相手を買って出ている。


「ようっし、それじゃあグッド以上を取っちゃうよっ! ズボンも新しいの欲しいし、姫香お姉ちゃんに完全勝利するからねっ!

 行くよっ、ミュージックスタート!」

「足で踏むパネルが4枚に増えてるから、思ったよりはずっと難しいわよ、香多奈。なるべく踏むパネルは見ないで、足の感覚で覚えてないと高得点は難しいかも?」

「昔に流行ったゲームも、確か前後左右の4つじゃ無かったかな。家庭用もあった気がするけど、やっぱりゲーセンの方が盛り上がってたなぁ」


 そうなんだと、護人のウンチクに興味津々の姫香である。それに気付いて、ちゃんと見ててよと注目を集めたいお年頃の香多奈の注意が背後に飛んで行く。

 ちゃんと撮影してるよと、紗良は本当にお母さんのよう……と言うか、この場は子供の運動会を見に来た家族みたいな、妙な空間になっている気が。


 その甲斐あって、香多奈の評価は何とか“グレート”を貰えたよう。大喜びの末妹に、これは姫香も黙っていられないと再挑戦を行う流れに。

 そして3つ目の小塔で、姫香も見事に“グレート”を取り返しての派手なガッツポーズ。それならパーフェクトを目指すもんねと、香多奈も2度目に挑むけど残念ながら“グレート”止まりでさすがにパーフェクトは難しいよう。


 或いは最初の簡単モードなら出来たかもだが、時既に遅しである。ドーム内の敵の掃討も、ちょっと前に終わっているし後は中ボス退治のみだ。

 そんな訳で、閉じた扉前に集合する来栖家チームである。香多奈の方も子供用のズボンやスパッツをたくさん回収出来て、かなりご満悦な表情。


 和香ちゃんとかキヨちゃんにも分けてあげようと、友達思いなのはとっても良いと思う。姫香も同じ年頃や同じ体型の、凛香や柊木あたりに分けてあげるつもり。

 美登利や星羅はサイズは上だし、土屋女史は小柄なので小鳩の方がサイズが合いそう。面と向かってそんな事を言うと、ねてしまうので間違っても言えないけど。

 少なくとも、妙齢の女性にサイズ問題はデリケートな話題に間違い無し。


 それはともかく、やっぱり小塔では魔法アイテムの類いは1つもゲット出来なかった。子供達は、中ボス倒して盛り返すよと意気も高く盛り上がっている。

 今回も中ボスだし、強い相手に間違いは無いだろうと。護人は皆の気を引き締めて、さっきと同じく自分と姫香メインで行くよとチームに伝令を言い渡して行く。


 仕方無いよねとのハスキー達の表情はともかく、扉を開け放っての中ボス戦はスタート。そして石造りの建物の中を確認して、再び騒然となる一行だった。

 今度は水浸しの室内に、いるのは何と大ダコ1匹……室内が窮屈に見えるその巨大さは、かなり厄介な相手かも。それでも護人は、姫香を従えて突っ込んで行く。


 これだけ大きい敵だと、触手も太いけど護人には関係ない。薔薇のマントで飛翔して、巨大ダコの顔面目掛けて一直線に進んで行く。

 姫香も『圧縮』スキルの足場と『身体強化』を利用して、先頭の護人にピッタリと追随。その身体をブラインドにして、『天使の執行杖』を大槍モードに変形させている。


 露払い役の護人は、捕まえようと伸ばされて来る触手を『ヴィブラニウムの神剣』で細切れにしている所。ついでに《奥の手》の手刀モードで、近寄る触手は全て斬り払って行く。

 そんな護人をブラインドに、距離を詰めた姫香は弾丸のように巨大タコに襲い掛かる。そして大槍モードの『天使の執行杖』は、見事に敵の眉間を貫いた。

 その一撃で、巨体は一瞬にして喪失して行く。


 残されたのは、魔石(中)が1個とスキル書が1枚のみ。巨大ダコが倒されたと同時に、足元を浸していた水まで一緒に消失してしまって何よりだ。

 やったねと、喜びながら駆け寄って来る香多奈はドロップ品を拾って嬉しそう。それから宝箱の中身を確認しようと、姉達を大声で誘って来る。


 そんな宝箱だけど、中身は鑑定の書や薬品類や魔石(中)が5個とまずまず。それらに混じって、高級靴やバッシュやローラーシューズなどが入っており。

 靴下やズボン系もそこそこ出て来て、サイズも柄も色々で選び放題。それから肝心の魔法アイテムも、1つだけ凄いのがあったぞと大威張りな妖精ちゃん。


 小さな淑女にお墨付きを貰ったそのブーツは、確かに一風変わったオーラを醸し出していた。鑑定が楽しみだねと、子供達もこの宝箱の中身には満足した模様である。

 そして一息ついた後、ゲートを潜って三度みたびゼロ層フロアへと舞い戻る来栖家チーム。それから少々の休憩後、中ボス撃破×3回で手に入れた鍵を使用する。


 使用と言っても、香多奈が3つ一緒にフロア内で掲げただけである。それによって、新たなゲートが壁の一角に出現してくれた。

 最後の大ボス戦の前に、来栖家チームは簡単な作戦を練る。


「それじゃあ、今回の大ボスはさっきと同じで俺と姫香で対応するって事で良いかな? 大ボス以外に敵がいたら、みんなでやっつけるって事で」

「了解っ、最後の戦闘みんなで頑張るよっ!」


 姉妹の元気な号令に、新たに出現したゲート前で意気の上がるペット勢である。その辺はいつもの事だが、最後の大物との対戦なのだしテンションは大事かも。

 全員で飛び込んだゲートの向こうは、何度も見たドーム内の風景だった。かなり広い空間に、芝生と茂みが点在していてその中央には石造りの舞台がある。


 その上にいる大ボスは、何と阿修羅風のケンタウロスだった。三面六臂さんめんろっぴで半裸だが、かなり強そうで武器も大盾とフレイルとチャクラムなどを持っている。

 そしてお付きには、半人半蜘蛛クモのアラクネが6匹と大量に控えていた。そいつ等は舞台に近付いた来栖家に反応して、突然の戦闘スタート。


 護人と姫香も一直線に距離を詰めて、大ボス認定したケンタ阿修羅を隔離しに掛かる。相手は下半身が馬なので、移動速度は半端無くて好きにさせたら大変だ。

 ハスキー達も6匹も獲物がいて、大満足でそれぞれ狩りを始めている。とは言え、アラクネは1匹でも強敵なのでその処理はやっぱり大変そう。


 ルルンバちゃんや後衛陣も、あの数は大変そうだとお手伝いを始めている。前衛の数が足りないので、レイジーは炎召喚で咄嗟に3体ほど炎狼を増やしている。

 アラクネも武器は長剣や弓矢など、多彩に揃えていて後衛陣も気は抜けない。巨大化したコロ助がことの外頼り甲斐があるように見えて、香多奈の応援にも熱が入っている。


 そしてアラクネ集団との戦いも、そのコロ助が突破口となった。避けにくい矢弾を喰らいながらも、巨大化したコロ助は2体のアラクネと戦いを繰り広げており。

 『牙突』と《咬竜》を織り交ぜて敵を翻弄しながら、最後は意表をついて相手の喉に咬み付いての止め刺し。アラクネの断末魔に、しかしレイジーとツグミも負けるモノかと更に張り切り始める。

 かくして、これを機にアラクネの数は段々と減って行く事に。



 それからこちらは、大ボスのケンタ阿修羅を2人で囲い込んだ護人と姫香である。大ボスは6本の腕の攻撃と防御もる事ながら、馬の脚の蹴り攻撃もかなり強烈。

 チャクラムも独特な動きで、姫香が妙な角度の攻撃を受けて序盤で負傷してしまった。それでも攻撃の手を緩めない少女に、保護者の護人も気が気ではない。


 さっさと倒して治療を受けさせてやりたいのだが、敵も大ボスだけあって圧力が半端ではない。護人も“四腕”を発動させて猛攻を繰り広げるも、相手の盾にそれを阻まれている。

 何しろ相手は三面六臂さんめんろっぴである、3つある顔で死角を捜すのも難しいと来ている。馬の蹴り脚も正確無比で、とうとう姫香が胸元を蹴られて吹き飛ばされてしまった。


 これには大慌ての護人だが、自分までいなくなれば敵に後衛を狙われるかも知れない。幸いにも、根性ですぐ膝立ちになった姫香、そして俄然ヤル気になったのは何故かムームーちゃんだった。

 仲間が酷い目に遭ったのを、護人の肩の上で見ていた幼子は酷くショックを受けた模様で。コイツは家族をいじめる悪い奴だと、《水柱》スキルを相手の顔目掛けて連射する。


 仕舞いには禁断の《闇腐敗》まで使って、まるで駄々っ子状態のやり様である。まさかこれが素通りするとは、護人も全く予測はしていなかった。

 更には、何故か幼子ムームーちゃんに対抗意識を燃やした薔薇のマントが、収納していた砲弾を近距離でブッ放すと言う暴挙に出た。その爆破にあおられて、吹き飛んで行く護人と大ボス。


 ただし、この攻撃がケンタ阿修羅の体力を、大きく削ったのは本当だった。相手の盾もどこかに吹き飛んでしまっていて、それを見た姫香が立ち上がってお返しの斬撃を見舞う。

 その胸元は、蹴られた衝撃で吐血した血で赤く染まっていると言うのに。気持ちと根性で動いた姫香は、大ボスが完全停止したのを確認して仰向けに倒れ込んでしまった。

 そして大ボスの部屋には、動く敵影は全ていなくなると言う結果に。





 ――後は大慌ての紗良が、姫香とコロ助の治療に駆け回る姿が。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る