第672話 姉妹のダンス対決に思わず熱が入る件



 苦労してクリアした7層の宝箱だが、薬品や魔結晶(中)などなかなかの報酬が入っていた。それから鶏肉っぽい肉の塊や、鳥の羽毛らしき素材も少々。

 そんなボス関係の素材の他にも、やっぱり靴やスリッパや長靴やブーツなど足関係の品物が色々。バッシュなどの運動靴も結構あって、買えば高いのも混じってそう。


 それらを物色しながら鞄に入れて行く子供達は、割と複雑な表情を浮かべている。何しろボス級の敵がやたらと強くて、ここは“報酬ダンジョン”なのになって心理的な引っ掛かりが。

 ただまぁ、報酬がやたらと多いのは本当で、そこは文句を並べ立てるいわれも無い。事実、来栖家の魔法の鞄はもう半分がパンパンである。


 この調子では、今回も護人の薔薇のマントやツグミの《空間倉庫》にお世話になりそうな気配。それはともかく、無事に7層突破で一向はゲートを潜って8層へ。

 怪我から回復したコロ助は、何事も無かったかのように先行してのモンスター退治に熱中している。今回はムカデやゲジゲジに混ざって、大鶏も出現しているようだ。


 コイツも強敵かなと思ったのだが、どうやら“鶏兎ダンジョン”の奴と似たような強さみたい。つまりは雑魚で、ハスキー達もサクサク倒して魔石に変えている。

 この8層も、定番のゆったりと湾曲した石造りの遺跡通路からスタートだ。いい加減慣れた一行は、ハスキー達を先頭に探索を進めて行く。


 そして何の波乱も無く、左へと曲がる地点に到達する来栖家チーム。今回も同じ造りかなと、子供達は相変わらず先読みが好きみたいだ。

 そして当然の如く、砂漠のような砂地に幾つかの小塔が建つ風景が。ドームの中央には例の石造りの建物があって、その扉はキッチリと閉まっている。


 今回も強敵がいたら嫌だなと、そんな護人の心配より子供達は別の興味に夢中のよう。つまりは、お姉ちゃんもダンスの仕掛けをやろうよと香多奈からの挑戦状が。

 景品に靴とか貰えるよと、何とも曖昧あいまいな誘い文句に姉の姫香はイマイチ乗り気では無いモノの。挑戦されたら引き下がれない彼女は、やってやるよと後衛陣に同行する構え。

 そんな訳で、掃討戦には替わりにルルンバちゃんが参加する流れに。


「頼んだよ、ルルンバちゃん……ハスキー達、みんなで仲良く敵を倒しておいで。茶々丸の面倒をしっかり見て、のけ者にしたら駄目だよっ!」

「足場が柔らかいから気を付けるんだよ、ルルンバちゃん。地面にでっかいムカデとか、隠れている場合もあるからね。

 まぁ、ツグミとルルンバちゃんがいればそれは安心かな?」


 両者とも、潜んでいる敵を発見する能力はチームのトップである。それを含めて、この殲滅チームは活躍する事間違いなさそうなメンツばかり。

 リーダー役はもちろんレイジーで、許可を貰った彼女は嬉々として掃討戦に出掛けて行った。頑張ってねと最後に『応援』を送る香多奈は、それじゃあこっちも頑張ろうと一行を小塔へといざなって行く。


 まぁ、さすがに先頭は危ないので護人が隣に並んで歩いているけど。そうして到着したゲーム部屋、もとい小塔を物珍しそうに見遣る姫香である。

 そこに入って、まずは手本を見せるねと得意満面な末妹。中央のパネルをえいやっと踏んづけて、鳴り出した音楽に合わせて軽快にステップを踏み始める。


 そして数分後にはグレート評価を貰って、やったねって感じで振り返る。モニターの下からは例の如く宝箱が転がり出て、姫香も面白そうねとようやく乗り気に。

 推測通り、今回の宝箱も香多奈のサイズのシューズや靴下がばかりの品揃え。それを確認した姫香が、納得した感じで私もやってみようと口にする。


 そして次の小塔へと揃って移動、ハスキー達の様子を窺うも順調そうなので引き続き放置で。ルルンバちゃんも、上手い事ハスキー達に混じって大型ムカデを撃退しているよう。

 そんな砂地に配置されているモンスターは、この層も変わらずカンガルーやダチョウ型がメインのよう。どいつもハスキー達より確実に大きいけど、全く苦にした様子もない。


 カンガルーやダチョウの蹴り技は、かなり強烈で接近戦は大変そうなのだけど。ハスキーたちの機動力は砂上でも低下する事は無く、咥えた武器やスキルを使っての狩りに遅滞は無い。

 茶々丸もさすがにレイジーには従順で、上手く役割をこなしている。香多奈の言いつけ通りに、ルルンバちゃんも仲間に入れて貰って何だか楽しそう。

 気付けば、既に半分のエリアは掃討済みと言う。


「うわっ、ハスキー達ってば張り切ってるね……さっきより殲滅ペースが速いみたい、ルルンバちゃん効果かな? そう言えば、ルルンバちゃんが覚えた新スキルは相変わらず発動しないねぇ。

 本人も良く分かってないみたいだしさ」

「茶々丸の『突進』みたいに、分かりやすいスキルだったら良かったのにね。そう言えば、ムームーちゃんが無理やり覚えさせられたスキルの威力も、後で確認しておかなくちゃ。

 確か闇系の、おっかなそうな名前だったっけ?」


 妖精ちゃんが、姫香の言葉に無理やりとは失敬なといきどおっての抗議をしている。紗良は逆に、ルルンバちゃんが覚えた《魔力炉心》の『炉心』の意味からスキルの効能を紐解いているようで。

 『炉』とは囲炉裏とか何かを燃やす装置の事で、溶鉱炉や電子炉とかエネルギーを発生させる装置の事でもある。つまりは《魔力炉心》は、魔力エネルギーを発生させるスキルなんじゃないかとの推測なのだけど。


 肝心のルルンバちゃんが、それによって魔法を使えるようになる気配はまるで無いみたい。護人もAIロボに魔法は無理だろうと、スキルもさすがに万能じゃ無い説を唱えている。

 そうは言っても、そもそも最初の相性チェックで獲得出来たスキルなのだ。つまり相性は良かったって事で、何らかの効果はそのうち出て来る筈である。


 こんな事態は何度も経験している来栖家は、そんな訳でこれも気長に発現を待つ事に。新しいスキルに頼らなくても、ルルンバちゃんの強さには変わりはないし。

 しばらく足を止めて、そんなペット達の活躍を家族で見守った後。一行は再び歩き出して、次の目的地の紗中にそびえる小塔へと辿り着いた。


 その中身も同じく、パネルとモニターが設置されていてウエルカムと画面に表示が。姫香も完全にスイッチが入っており、末妹には負けないよと早くも臨戦態勢だ。

 そして中央のパネルを踏んづけての、ダンスゲームの始まりに。軽快な音楽が頭上から鳴り響き始めて、画面の指示に集中して足を動かす少女。

 結果、香多奈と同じくグレートを貰って満足そうな姫香である。


 細かい点数が出なくて本当に良かったと、護人も拍手をしながら内心で安堵のため息。香多奈もやるじゃんとか言いながら、さっそく宝箱の中身をチェックしている。

 予想通りに、その箱からは姫香のサイズの靴や靴下が。中にはハイヒールやルーズソックスなんて、まず姫香が使わないモノまで紛れ込んでいたり。


 それを手にして、ダンジョンの趣向にケチをつける姉妹である。ただまぁ、高そうなスキー板や女性用の革靴も出て来て、その点は嬉しいかも。

 そんな回収品を見て、次は叔父さんの番ねと楽しそうな末妹の発言に。自分はもういいよと、さっきの水虫薬の冗談に懲り懲りな護人の棄権宣言である。


 このドーム内には、まだ小塔は4つ以上あるのは分かっている。勿体無いよと長女を見るも、紗良も同じく視線を逸らして私はそもそもクリア出来ないかなとの逃げ口上。

 そんな訳で、ハスキー達のお掃除が終わるまであと2つ姫香と香多奈で回る事に決定。今回のリズム取りは、最初の層よりやや複雑でグッパーだけの動きでは無理なのだけど。

 所詮は3つのパネルを、リズムに乗って踏めば済む話である。


 こうして残り2つを無事にクリアして、追加で長靴やスノボー板や安全靴をゲット。ただし一番欲しい魔法アイテムは、1つも入っておらずガッカリな末妹である。

 妖精ちゃんがドンマイと慰めていて、このコンビは何と言うか見ていてほのぼのする。たまに突飛な事をして、保護者の護人が大慌てをするのはご愛敬。


「ふうっ、魔法のアイテムは出なかったけど、これだけ靴が出て来たら10年くらいは困らないかも。運動靴とか靴下は、幾らあってもいいもんね」

「本当におバカね、ウチの妹は……アンタってば、一生成長しないでずっとそのままのサイズのつもり?」


 姫香の痛烈な返しに、あっそうかと自身の成長をスッポリ忘れていた香多奈である。それなら勿体無いから、ほぼ売りだねぇと残念そうな口調に。

 友達にあげてもいいしねと、紗良も慰めながら大量に溜まったシューズ類の使い道を一緒に考える素振り。何しろ運動靴だけで、既に2層で10足以上集まっているのだ。


 これを青空市の1日だけで、売り切る自信はさすがの紗良にも無いとみえる。そんな話をしながら、家族はドーム内のモンスター退治を終えたペット達と合流を果たして行った。

 それから皆で、その成果を褒めたたえながらの怪我チェックを行う。そして休憩をしながらの回復作業、MP回復ポーションも飲ませてあげてハスキー達を存分にモフる子供達である。


 それを尻尾をブンブン振り回して喜ぶハスキー達、茶々丸も自分も構ってと護人に突進して行く。いや、スキルは使っていないのだが、仔ヤギと言えど腰への頭突きは結構な衝撃が。

 その衝撃を上手くかわしながら、頭を撫でてやってご機嫌取りをする家長である。それから、何気なくすり寄って来たルルンバちゃんも、同じくよしよしと撫でてやる。


 それだけの活躍をしたので、その点に関しては文句の言い様も無いのだけれど。撫でられて喜ぶAIロボって何なんだろうなと、護人はちょっと遠い目だったり。

 とにかくこれで、8層に残されたのは石造りのゲート部屋のみとなった。休憩を終えた来栖家一行は、勇んでそこへと歩み寄って行く。


「今回も、部屋の中にいる敵って強いかな……もし弱そうな敵だったら、ムームーちゃんの新しいスキルを試してみてよ、叔父さんっ。

 実戦で試してみないと、本人も使い勝手が分からないかもだし」

「そうだな、確か《闇腐敗》って名前のスキルだったっけ。俺が前に出たタイミングで試してみようか、ムームーちゃん」

「私もサポートするよ、敵が複数だったらハスキー達もお願いねっ。でもまぁ、今回はドーム内の掃除で頑張ったから、みんなは休んでていいからね」


 そう言われたハスキー達は、ちょっとだけ悲しそうな素振り。でもまぁ、獲物を総取りするのは良くないよねと、充分わかっているようで。

 姫香に言われた通り、ボス戦には手出しをしない約束に納得した表情。それを確認して、姫香は石造りの扉をえいやっと元気に開け放つ。


 そして素早く中の様子を確認して、アレッと言う驚き顔に。さっきは室内も砂浜仕様だったので、今回もそうだと思い込んでいたのだけれど。

 今回は普通に石畳で、奥に控えるのはケンタウロス型のパペット軍だった。全部で6体もいて、入って来た不埒者をき殺そうと前脚が勇ましく床を蹴上げている。


 それに挑発されたのか、茶々丸もやったるでぇと前に出る仕草。呆れる姫香だが、向こうも人数が多いのでハスキー達にもゴーサインを出す流れに。

 それに嬉々として従うペット達、護人を中心に団体が部屋の中央で壮絶にぶつかり合う。香多奈はそれを見て、呑気にアレも“足”の枠内なのかと納得顔。


 それより衝突した両チームだが、護人とコロ助が《堅牢の陣》と《防御の陣》でこちらに被害はナシの結果に。姫香も上手く『圧縮』ガードを展開して、逆に向こうがダメージを負っている始末。

 このまま押し切ろうと圧を強める来栖家だが、護人は末妹との約束を忘れてはいなかった。ムームーちゃんに目の前の敵を狙ってごらんと催促して、スキルの効果を確認する。


 そして使われた《闇腐敗》だが、一瞬何が起きたか分からないグロテスクさだった。うごめく闇が敵のパペット兵に取り付いて、よく見たらそれは黴菌ばいきんのような闇生物だった。

 それがケンタウロスの上半身に取り付いて、じわじわと侵食して行く様と来たら。実際に喰っているのかと錯覚する程で、かなりグロい魔法には違いなさそう。


 逆に、人形型の敵で良かったのかも……例えば獣人や生物相手だと、ギャーと泣き叫んで暴れ回っていたかも。その侵食威力は凄まじく、敵は1分も経たずに活動を止めてしまった。

 魔石に変わっていないので、完全には倒されてはいないのだろうけど。何と言うか、やっぱり封印したままの方が良かったスキルかも知れない。

 使った当人も、何となく顔面蒼白な心情みたいだし。





 ――強力なスキルだけに、使い所も難しく封印案件かも?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る