第671話 “足”の縛りのエリアを堪能する件



 小塔の中は6畳くらいの大きさしかなく、全員が入ると幾分か狭く感じてしまう。その中央には淡く光るパネルが3枚、正面のモニターには上から下に落ちて行く3筋の光が。

 それが下のラインに触れると、床のパネルがピカッと光っている。左右の光は同じリズムのようで、中央の光の流れは真ん中の床パネルと完全にリンクしている。


 これはナニとの、不思議そうな香多奈の質問には護人も紗良も答えられず。良く分からないが、何かの行動を求められているのは確かである。

 足を使う仕掛けだよねと、香多奈は臆することなく室内に入り込んで中央パネルを踏んづける。その途端に、鳴り響き始める軽快な音楽。


「わっ、コレって何の音っ? 変なスイッチ触っちゃったのかな、どうすればいいの、叔父さんっ?」

「あっ、モニターが用意は良いか訊いて来てるね……何かのゲームかな、モニターを見て操作する感じの」

「ああ、そんな感じのゲームが昔あったかな……リズムゲームと言うか踊りってか、ステップを音とモニターの光を頼りに上手に踏んで行くんだよ。

 香多奈が踏んじゃったから、もう始まってるな」


 それは『けんけんぱっ』みたいな遊びなのと、モニターと足元のパネルを見比べながら呑気な末妹である。お金を入れてないのに、ゲームが始まっちゃったみたいな感覚なのかも。

 そして、GOの合図と共に唐突に始まるダンス系のゲームであった。うひょうとか叫んで、それに挑戦し始める香多奈は案外と大物なのかも知れない。


 そして始めて1分で、これって本当にぐっばー(グーとパー)しか無いねと、ゲームの難易度に文句を言い始める末妹だったり。簡単過ぎて欠伸あくびが出ちゃうと、割と辛辣な評価だが最初はそんなモノだと思われる。

 護人が段々と難しくなって行くんだよと返すけど、結局4分間の演奏で変則のリズムは来ず終い。見事踊り切った香多奈は、妖精ちゃんとハイタッチを交わしている。


 良く分からないが、ノリか何かが小さな淑女の琴線きんせんに触れたのだろう。気がつけば、正面のモニター下から割と大きなサイズの宝箱が出現していた。

 今度のエリアも、仕掛けのクリアにはちゃんと報酬が支払われるみたい。それを喜んで回収する子供たち、中身は何だろうねと予測しながら蓋を開けると。


 案の定、中からはシューズやサンダルやスリッパ、それから靴下などがわんさか出て来た。子供用のが多いみたいで、その理由は良く分からない。

 自分がクリアした事が作用しているなら、次は紗良お姉ちゃんが挑戦すればいいよと無茶振りをする香多奈に。紗良は自信が無いから止めておくねと、運動神経の無さを控え目にアピールしている。


 周囲を見回すと、同じような塔が幾つかドーム内に生えているみたいだ。深読みすると、サイズ違いが欲しければ本人が挑戦しろって意味なのかも知れない。

 とは言え、靴やスリッパを欲しいからとここで時間を掛けるのも間が抜けているような気も。魔法アイテムならともかく、今回は鑑定の書や薬品類は一切入っていなかったのだ。

 純粋に靴やサンダルのみで、かえっていさぎよい感じさえする。


 それでも香多奈は不満なようで、2つ目の小塔も覗いて見ようよと護人に相談している。姫香と前衛ペット勢は、モンスターの群れを追いかけて順調に数減らしをしている模様。

 時折、砂中から馬鹿みたいに大きなムカデが出現して、巨大なあぎとで獲物をかみ砕こうとして来ている。それを楽々と避けて反撃に転じているハスキー軍団。


 彼女達も、或いはゲーム感覚で巨大な敵の討伐を楽しんでいるのかも。そんな妄想を抱きながら、後衛陣はもう少し時間があるねと話し合っている。

 確かに、ドーム内ではまだ元気なモンスターの群れが散見しているようだ。幾ら姫香たちでも、この数分で全ての敵を倒し切るのは無茶な相談である。


 そんな訳で、反時計回りで次の小塔を目指す事になった後衛陣。そして覗き込んだ塔内の小部屋は、やっぱり同じ仕掛けで次の挑戦者を誘っている。

 尻込みする紗良を何とかなだめすかして、次の挑戦者は決定した。ミケも肩から降りて、高みの見物を決め込んでいる。まぁ、失敗しても恐らくは宝箱が貰えないだけだと思われるし。


 そこまで硬くなる必要はないのだが、紗良は緊張からか上手くタイミングを取る事が出来ずに途中敗退の憂き目に。どうやら失敗がある程度重なると、強制ゲームオーバーとなるようだ。

 それが分かっただけでも良かった、前の画面からは思い切り“負け犬”とあおられたけど。ペナルティに関しても、宝箱が貰えないだけと言う推測はあっていた模様。

 それでも悔しがる末妹は、次は叔父さんの番ねと3度目の挑戦に向かうよう。


「えっ、そろそろ姫香の方のエリア掃討も終わってるだろうし、合流した方が良くないかい? 次の塔はどこにあるんだ、向こうを待たせるのも悪いからね」

「安心して、叔父さんっ……次の塔は割と近いし、ゲームの時間もほんの4~5分で終わるから問題無いよ。

 サイズの推測が当たってるか、確認しておかないと!」


 香多奈の中では、それは重要な問題らしい。確かにこの先も子供用品ばかり増えても、売る時にお客さんが限定されてしまう。

 それならばと、護人は装備を降ろして中央のパネルへと歩いて行く。実際、香多奈の言うようにグーとパーの踊りは簡単過ぎて間違える方が難しい感じ。


 これを途中リタイアした紗良は、ある意味何かの才能を持っているのかも。とにかく一発クリアしての『GREAT!』のモニター表示に、安堵のため息の護人である。

 末妹もお疲れ様と、一言ねぎらってすぐに宝箱のチェックに向かってしまった。それは良いのだが、確かに出てきた品々は護人の靴のサイズに似たモノばかり。


 靴下もそうで、紺やグレーのシックなモノばかりと言う徹底振りである。おまけに、大人用の靴やサンダルに混じって水虫薬まで出て来る始末。

 これは果たして、ダンジョンの優しさなのかはさて置いて。疑惑の視線を子供達に向けられて、俺は水虫じゃ無いぞと必死の否定を口にする保護者の護人である。


 そんな騒ぎをしている内に、姫香たちの方もドーム内の掃討を終えた様子。軽く20匹以上はいたモンスター達を、15分少々で片付けるとはさすがである。

 それからチームは合流して、お互いの成果を発表し合う事数分。姫香はリズムゲームに興味を示したけど、改めて挑戦しようとは思わなかったようだ。


 それより先に、ゲートを確定しようとドーム中央の石造りの部屋を指し示す。今回も強敵が潜んでいるかもなので、気合充分で戦闘に臨むつもりっぽい。

 どうやら姫香は、小さな仕掛けを遊ぶより強い敵と斬り結ぶ方にロマンを感じている様子。そんな連続で強敵に出て来て欲しくない護人は、扉を開きながら祈るような思い。


 そんな室内も、今回は砂地でアレっと言う表情の来栖家の面々である。そんなゲート部屋にいるのは、ダチョウより大柄の色鮮やかな鳥だった。

 飛べない鳥なのは間違いないけど、ダチョウと同じく足の力は強そうな印象だ。アレはヒクイドリかなぁと、知識の豊富な紗良が推測を口にする。

 それによると、蹴爪の威力は下手をすると死人が出る程なのだそう。


「鉄の檻とかも平気で曲げる位、強い脚力持ってるから気を付けて。鉤爪も相当に鋭くて、盾に穴が開いちゃうって聞いた気がするよっ。

 本物はもう少し小柄な筈だけど、この子はモンスターサイズだから要注意ね!」

「それなら俺が前に出ようか、相手はデカいけどすばしっこそうだしな。ハスキー達も、蹴とばされないように注意してくれ」


 そう言って護人が前に出て行く間にも、向こうは荒ぶって突進して来ていた。どうやら縄張りに侵入して来たこちらが気に入らないようで、毛を逆立てて奇声を発している。

 喧嘩っ早いハスキー達も、やるかコラァと牙を見せて集団で狩る構え。しかし、牽制のレイジーの火炎ブレスはヒクイドリの羽ばたきで一瞬で消えてしまった。


 ええっと驚く子供たち、香多奈はさすが火を喰う鳥だねと感心している。そして何かを感じた姫香も、茶々萌コンビを引き連れて室内の中央へ。

 そして護人とヒクイドリが、部屋の入り口近くで派手に激突。護人の盾は、現在は予備の劣化番だが一応『不壊』のスキルは付いてる良品である。


 更に護人も全身に『硬化』を掛けていたのだが、呆気無く敵の蹴爪攻撃を受けた盾は穴だらけに。最近は強い敵が出て来ても、そうだよなぁとしか思わない護人である。

 幾らA級と持ち上げられても、来栖家の探索活動期間は精々が1年半である。自分達より強い敵や、探索者連中は星の数ほどいるのは当然だと割り切っている。


 それにしても、盾の『不壊』はともかく頼みの『硬化』も抜かれるとは。恐るべしヒクイドリのパワーだが、そんなゲート部屋にも次なる異変が。

 何とここにも砂中に巨大ムカデが潜んでいたようで、突然姿を現して後衛陣に襲い掛かろうとして来た。それを待ち構えていたように、姫香が突進をインターセプト。


 一緒について来ていた茶々萌コンビも、胴体に風穴を開けてやると特攻をかましている。ハスキー達は、軽トラサイズのヒクイドリを好きにさせまいと牽制中。

 コイツはツグミの『土蜘蛛』も、コロ助の『牙突』もほとんど効果が無いようだ。スキルが飛んで来たのを視認して、蹴爪で撃ち落とす様はちょっと信じられない。


 こっちも負けてられないと、応援を飛ばしながら末妹も参戦の構え。とは言えルルンバちゃんは、巨大なムカデの討伐の方に駆り出されているようだけど。

 ボス級のヒクイドリに関しては、ツグミの『毒蕾』は通ったようで少し弱って来たかも。そこにレイジーのほむらの魔剣での斬り掛かりには、何とくちばしの防御で抵抗する猛禽類モドキである。


 かなりしぶとい相手ではあるが、巨大化したコロ助が強引に体力で体勢を崩しに掛かる。反撃の蹴爪を喰らいつつも、根性でとうとう敵を押し倒す事に成功した。

 そこに護人の『ヴィブラニウムの神剣』での一撃、見事に片方の脚を斬り落として、これで相手は立ち上がれなくなった。最後は止めとばかりに、レイジーの魔剣がヒクイドリの青い首を撥ね飛ばした。

 激戦を何とか勝利した一行は、ホッと安堵のため息。


「コロ助、アンタ血だらけじゃないっ……紗良お姉ちゃんっ、治療してあげて!」

「うわっ、巨大化してるとは言え傷口は結構深いかも……待っててね、コロ助ちゃん。香多奈ちゃん、念の為にポーションも飲ませてあげて」


 分かったと大急ぎで魔法の鞄を漁る末妹、自分の相棒だけに必死である。それから姫香の方の戦闘だけど、負傷者も出さずに勝利にぎつけたようだ。

 護人もレイジーとツグミの怪我チェックをして、ついでに落ちていた魔石(中)とスキル書を拾って行く。それから戻って来た姫香に声を掛けて、一応安否確認など。


 見た目は何とも無さそうに見えるが、モンスターは毒や魔法を使って来る奴もいるのだ。護人の質問に、姫香はガッツポーズで全然平気とのアピール。

 ついでに茶々萌コンビも平気だよと、報告を行ってフォローしてくれたルルンバちゃんにお礼を言う姫香であった。そっちは強いボスだったねと、護人側の戦闘も気にかけていた様子。


 それから末妹と一緒に、頑張って負傷したコロ助をいたわっている。数分間の治療で、取り敢えず傷口は完全に塞がってくれたようで何よりだ。

 その報告には、家族全員がホッとした表情に。それにしても強い敵だったねと、姫香は改めてボロボロになった護人の盾を見てしかめっ面を作っている。


 最近はこんなのばっかりだなと、思わず愚痴をこぼす護人に姫香も同意している。香多奈に言わせると、だからこの“報酬ダンジョン”でチームのパワーアップを図るんでしょって話である。

 確かにそうだったねと、当初の目的を思い出して頬を赤らめる姫香に。上手い事盾とか出てくれたらいいなと、一番欲しい装備品を口にする護人だったり。

 その物欲は大事だよと、香多奈は知ったような口振り。





 ――とは言え、欲しいモノがその通りに出て来るかはまた別の話。






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