第670話 “頭”のエリアをクリアして次の部位へと進む件



 紗良と香多奈の数字パズルの謎解きは、前の層に較べて相当に苦労したようだ。それだけ問題のレベルが上がっていて、解答を導き出すのに時間が掛かってしまった。

 ただし、それだけの甲斐はあって宝箱の中身も割と豪華だった。鑑定の書(上級)や薬品には中級エリクサーも入っていたし、魔結晶(中)も6個も出て来る始末。


 しかも、頭装備の魔法アイテムも紛れ込んでるナと妖精ちゃんの呟きに。やったねと上機嫌な末妹は、その他のくしや髪飾りにはあまり興味はない様子。

 かんざしなどもそれなりに綺麗なのだが、どうやら魔法アイテムではないようだ。他にもマフラーやマスクなど、雑多な物が宝箱には詰め込まれていた。


 それらを魔法の鞄に詰め込みながら、このダンジョンは楽しいねぇと笑い合っている。向こうでは討伐終わったよと、姫香がブンブンと手を振っており。

 後は今日2度目の中ボス戦を待つのみ、どんな敵かなぁと闘志満々な末妹だけど。戦うのは姉とハスキー達なので、その闘志は空回りとも。


「またでっかい髭面の顔だったら、燃やしてからぶった斬る……人魂だったら、紗良姉さんの出番ねっ。取り敢えず予習が通じる敵だったら、その作戦で行こうっ!

 別の敵だったら、まぁゴリ押しで何とかなるでしょ」

「そうだな、まず敵を見てから作戦を決めるのはいいんだが……強敵が潜んでいたら、俺とルルンバちゃんが迷わず前に出るからね。

 その辺の切り替えは、素早く出来るように位置取りはしておこうか」


 了解っと、明るい返事の姫香はそれじゃあ行くよと、勢いよく中ボス部屋の扉を開け放つ。薄暗い石壁の室内には、確かに濃厚なモンスターの気配が。

 それが巨大な目玉型モンスターだと分かった途端、言葉通りに護人は室内に飛び込んで姫香をガード。間を置かず発射された、触手の先の目玉の光線は麻痺系だったみたい。


 末妹が放ったルルンバちゃんへの号令は、或いは悲鳴に近かったかも。言ったら招いたではないけど、強敵の出現である。ルルンバちゃんも、小型ショベル時代に半壊の憂き目に遭った相手の出現だし怖くない筈はないのだが。

 果敢に前に出て、レーザー砲での狙い撃ち。


 それと同時に、リーダーのピンチに反応したミケの『雷槌』が室内に炸裂。だがそれら両者の必殺技は、見えない防御壁に弾かれてえ無くノーダメージ。

 護人は前衛で麻痺したまま、そして巨大目玉の触手の1本から反撃のビームが飛んで来た。あの時とは違うぞと、コロ助がそれを《防御の陣》で跳ね返す。


 そんな事をしている間に、浮遊球体の中央の巨大な目玉が段々と開いて行く。それと同時に、周囲に赤い魔方陣が幾つも浮かんで何だか不気味な演出が。

 ネタ晴らしをすると、どうやらその魔方陣は召喚用だった模様。そこから例の髭顔モンスターが次々と出現し、大口を開けて来栖家チームに迫って来る。


 それをレイジーの火炎ブレスが呑み込んで、こちらも迎撃態勢は負けてはいない。一気に半ダース以上出て来たヒゲ顔モンスターだが、自慢の髭を燃やされてその勢いも尻すぼみに。

 逆にこっちも、壁役にと前に出たルルンバちゃんが氷漬けにされピンチに。接近戦を挑みたい姫香だが、現状では何が飛んで来るか分からず二の足を踏む状態。


 この目玉お化けの特性は、ランダムに怪奇光線を定期的に放って来る難敵のようだ。魔法防御も高いし、倒すなら近付いてブッた斬るしか手は無いだろう。

 とは言え、光線にさらされながら近付くのがどれだけ怖いかって話である。そして、そんな事を微塵も感じないのが茶々丸だったりする。


 今も召喚されたヒゲ顔の群れを、ハスキー達が上手い事処理してくれて。そのお陰で通った道筋を、全く躊躇ちゅうちょせずに『突進』して行く。

 騎乗していた萌は、おそらくコリャ不味いと思ったのだろう。茶々丸とイビルアイが衝突する直前に、高くジャンプしてそのまま敵の上からの奇襲に成功する。

 そして肝心の茶々丸だが、見事に角が巨大な目玉に突き刺さっていた。


「でかしたよっ、茶々丸っ……そのままやっつけちゃって!」

「無理ならこっちに転がして来て、萌も調子に乗り過ぎないでっ!」


 姉妹の激励に押されて、ヤンチャコンビはそのまま目玉に攻撃を続行する。敵のイビルアイも、まさか真正面から仔ヤギが突進して来るとは毛ほども思っていなかったのだろう。

 完全に不意を突かれて、しかも頭上からも槍での突きが容赦なく降り注いで来ている。と言うか、目玉は敵の最大の弱点なのでこのまま倒し切れそうな雰囲気も。


 香多奈の応援に熱が入って、護人も何とか麻痺から解けての戦場復帰に成功した頃。逆に茶々萌コンビは、イビルアイの反撃の火球に吹き飛ばされてピンチに。

 だから先に触手を潰しておけばと、そんな香多奈のお説教は完全に後の祭りだ。とは言え、接近に成功した護人と姫香が最後の止め差しに成功してして10分近くの熱戦にようやく終焉しゅうえんが訪れた。


 敵の中ボスは、巨大な目を潰されながらも、その後追加で更に半ダースのモンスターを召喚してのけて。お陰でハスキー達も、その討伐に追われててんやわんやの状態だった。

 凍らされたルルンバちゃんは、何とかムームーちゃんの火炎で溶かして貰って現状復帰をする事が出来た。吹き飛ばされた茶々萌コンビは、現在は紗良に治療を受けている。

 まぁ、それにしてもやっぱり強敵の浮遊目玉だった。


「強かったよね、今回の奴は召喚技まで使って来てたし。こっちも隠れる場所が無くて、視線が素通りだったのが苦戦した最大の要因かなぁ?」

「そうだな、まさか茶々萌コンビが突破口になるとは思わなかったけど。相変わらず無茶な突進は、いさめるべきなのかちょっと悩むな」

「あれは茶々丸と萌の、立派な戦法の1つだと思うの。個性って大事だもんね、しっかり伸ばしてあげないと」


 確かに個性ではあるが、博打みたいな戦法で大怪我をする事だってあるのだ。どちらかと言えば無茶には反対の姫香は、そう口にして香多奈を軽く小突く素振り。

 それより、ようやくルルンバちゃんが動けるようになってくれて一安心だ。茶々萌コンビも治療が終わって、後はドロップ品と宝箱の中身チェックである。


 ちなみにドロップ品は、中ボスのイビルアイが魔石(中)とオーブ珠を落としてくれていた。召喚したヒゲ顔大口もそれぞれ魔石(小)を落としてくれていて大儲けである。

 宝箱からも、鑑定の書や薬品類やスキル書がゲット出来てホクホク顔の子供達である。他にもヘルメットやカツラや帽子に混じって、目薬やアイマスクや眼鏡が出て来た。


 それから当たりっぽいのが、巻貝の通信機1セットと魔法アイテムの立派な兜だった。それは立派な装飾で、確かに他とは違って強そうな装備品である。

 それにしても、本当に今回も回収品がとっても多い。前回の食料品ガッポリの報酬ダンジョンもそうだが、鞄に溜まった品々に満面の笑みの子供達である。

 そしてチームは、ゲートを潜って0層フロアへと戻るのだった。




「ふうっ、これで2つ目の扉も攻略完了だねっ……もう怪我しちゃ駄目だよ、茶々丸に萌っ。そもそもアンタ達は、ろくに防御スキルも持ってないじゃないの」

「まぁ、その通りよね……どっちも性格的に、防御を大切にって感じじゃないもんね。レイジーや私達で、しっかりフォローしてあげるしかないよね、護人さん」

「そうだな、茶々丸がヤンチャから卒業する時が来るってのは、ちょっと思い浮かばないけど。萌まで感化されるのは考え物だな、その辺は何か考えた方が良いかも」


 自分の話題だと言うのに、茶々丸は知らん顔でハスキー達とたむろって幸せそう。香多奈の小言をスルーする機能付きとは、なかなか侮れない仔ヤギである。

 それから一行は、残った扉を前に小休憩……今回も中ボスを倒した宝箱からは、鍵っぽいアイテムを無事に獲得している。流れとしては、既に2つあるそれを後1つ回収すれば良い筈。


 そうすれば、恐らく大ボスの間への扉が開いてくれる仕様に違いない。その辺は何度もこなしているので、妙な信頼と言うかお約束だよねと分かっている面々である。

 紗良がお茶を用意してくれて、簡素な扉フロアで座り込んでの暫しの癒しタイム。ミケが護人の膝の上のムームーちゃんを追い払って、自分がそこに居座って香多奈に怒られている。


 可哀想にねぇと、追い払われた軟体生物を抱っこする香多奈は割とイケメンなのかも。懐かれている護人も、正直言うとスライムの可愛さと言うのはイマイチ理解出来ていない。

 姫香も同じようで、来栖家で積極的にムームーちゃんを可愛いと思っているのは末妹と博愛主義の紗良くらいのモノだろうか。ペット達も、何か変わった弟分だなぁって程度の認識な気も。


 こんな軟体生物に一番期待しているのは、恐らくは妖精ちゃんだけだろう。宝珠を無理やり使用しちゃった事件など、その最たる証拠である。

 今もミケの所業を見て、我らは等しく暴君の被害者だと香多奈の肩の上でまくし立てている。どうでも良いけど、騒ぐなら別の場所でして欲しいなと思う末妹だったり。


 そんな賑やかな休憩を終えて、さて残りの扉へと挑戦するよと護人の掛け声に。頑張ろうと子供達の応じる声が、広くない0層フロアにこだまする。

 それが乗り移ったかのように、ハスキー達も一気にヤル気度がアップした模様。さっそく潜った先の通路を先行して、出て来たモンスターの群れを狩り始めている。


 ちなみに、出た先の雰囲気は前の2つの扉とほぼ変わらない感じだった。つまりは、ここも恐らく巨大な塔の外郭がいかくの通路なのだろう。

 出現した敵だけど、大ゲジゲジや大ムカデなどの多足類ばかり。それらをレイジーは、スキルも使わずほむらの魔剣でブッた斬りにして燃やして始末している。


 他の子達も、敵を雑魚と認定してMP節約して倒しているみたい。その辺は抜かりのないペット陣、あっという間に敵を駆逐して先の通路のチェックに向かっている。

 後衛陣も遅れまいと、それに従って急いで前進をする。湾曲した石壁の通路は、どの扉も変わらず寒々として素気の無い感じに見える。

 そして案の定、10分後には左へ向かう通路を発見。


「やっぱりここのエリアは足なのかなぁ、牛とか出て来たら胸だってパッと分かったのに。ムカデとゲジゲジだと、いまいち想像がつかないよねぇ?」

「いや、素直に足関係の縛りでしょ、胸ってナニよっ? ブラとかサイズ違いの貰っても、嬉しくも何ともないわよねぇ、紗良姉さん?」

「えっ、まぁそうかな……ええっと、私もこのエリアは足関係の仕掛けだと思うなぁ」


 男性の護人もいるので、歯切れの悪い長女の返答に香多奈もそうかぁと納得顔。そして覗き見たドーム内は、さっきとはずいぶん変わった配置となっていた。

 木立ちはヤシの木に取って代わられ、芝生の地面は砂漠のような砂地になっている。或いは海岸の柔らかな砂なのか、どちらにしろ歩き辛そうな場所である。


 そんな砂漠地帯の中央には、しっかりと石造りの小部屋が建っていた。他にもニョキニョキと、良く分からない小さな石造りの塔が幾つか砂地から生えている。

 そんな砂地には、ダチョウ型モンスターが我が物顔で走り回っていた。ついでにカンガルーもいるようで、アレは足のくくりで良いのかなぁと悩む姫香。


 良いんじゃないかなと呑気な返事の香多奈は、右手にある小さな塔に興味がある様子。今度はどんな仕掛けかなと、解けば宝箱が貰えるものとすっかり信じ込んでいるみたい。

 それじゃあ私は敵を倒しているねと、姫香は今回もハスキーを従えて別行動をするっぽい。時間の短縮は確かに大事、ここの扉も最低でも3層はある筈なので。


 そんな訳で、駆け回るダチョウとカンガルーに突進して行く姫香&ハスキー軍団。茶々萌コンビも当然のように、それに付き従ってイケイケ状態である。

 対する後衛陣も、右手に見える細長い塔に当たりをつけてそこを目指して歩いて行く。香多奈が飛び出そうとしたのを制止して、護人が先頭に立っての塔内の物色に。

 目に入ったのは、何だか良く分からない床のパネルと壁に掛かったモニター画面。





 ――さて、この仕掛けはどうやって作動する?






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