第668話 “手”エリアの次の仕掛けが判明した件
「あれっ、この敵は何だろう……見た目は頭を振り回して来る小鬼かな? それにしては、頭身がちょっと妙だよね?」
「本当だ、頭がやけに大きいねぇ? これってあれかな、髪を振り乱してのヘッドバンキングみたいな?」
「えっ、それって普通は敵を威嚇するためにするの?」
違うんじゃないかなと、自分の仮説にいまいち信憑性を持てない紗良はやっぱりハテナ顔。香多奈も同じく、リズムに乗って頭を振り乱す小鬼の群れを不思議そうに眺めている。
最初は少し不気味がっていたハスキー達も、敵だと認識して倒しに掛かって行った。そして喰らいそうになる頭突きを華麗に
2つ目の扉の奥は、やっぱり石壁の緩いカーブのエリアだった。つまりはこの通路も、巨大な塔の外周に位置するのではとの推測が立つ。
そしてその塔の中央を目指せば、次の層のゲートへと辿り着く算段だ。ある意味同じルート設定なのは、楽が出来るので良いかも知れない。
もっとも、ハスキー達は楽をしようなんて微塵も思っていないだろうけど。常に全力で探索に挑んで、チームの安全を確保するのが彼女たちのやり方である。
茶々丸に関しては、恐らくは何も考えていないに違いない。萌もちょっと怪しい、探索自体は楽しんでいるっぽいけど。
このコンビは、ただ単に家族と一緒にいるのが楽しいのだろう。
そんな前衛陣は、簡単に3頭身の小鬼を倒して前進を再開する。そして巨大カタツムリの群れに遭遇して、同じく戦いへと突入して行く。
その敵のラインナップに、再び話し合う子供たち。何のキーワードがこの2つの敵に合致するのかと、頭をフル回転させて推測に勤しんでいる。
そして最後に出て来た転がる石モンスターは、顔がくっ付いていて手も足も無いのにジャンプして来る猛者だった。それをひらりと
そして子供達も、この3体目の敵を見て解答を導き出せた模様。これは完全に頭だねと、手に続くエリアのこだわりを導き出せてご満悦な表情に。
「頭かぁ、それじゃあ頭に
「何でカツラを真っ先に思い浮かべるのよ、香多奈。良く分かんない子だね、アンタって。でもまぁ、多分この推測は当たりかな?
だとしたら、後はどんな敵が出て来るんだろうね?」
「う~ん、ちょっと思いつかないねぇ……さっきも石頭がゴロゴロ転がって来た時は、ハスキー達もビックリしてたもんね」
紗良の言葉に、しかも頭が飛び跳ねたもんねと同意の香多奈である。妙な動きのモンスターが多いけど、特段に強い奴は今の所は混じって無さそう。
用心しつつも進む一行の前に、更に2度ほど小鬼と転がる石顔の群れが出現した。さすが手付かずのダンジョンだけあって、出現する敵の数がかなり多い。
そんな敵の群れを倒して進む事10分程度、ようやく左に曲がる通路を発見。どうやら予想通りに、このエリアも巨大な塔の造りとなっているようだ。
今度はどんな仕掛けがあるかなと、半ば期待しながらドーム内へと向かう子供たち。保護者の護人は、さっきみたいな強敵も出て来るかもだからねと注意喚起を行っている。
先ほどの“手”のエリアでも、良く分からない触手モンスターとか脈絡もなく配置されていたし。そんな手強い敵が、このエリアにも出現しないとも限らない。
そんな心配をする護人だが、
それを挑戦と受け取った、茶々丸が角を振り上げて迎え撃つ構え。向こうの角の方が明らかに長いので、代わりに騎乗している萌が槍を振りかざしてフォロー中だ。
ハスキー達は、スキルで飛んで来る虫型モンスターを無難に撃ち落として始末している。その辺は危なげのない戦い方を、蓄積されたデータから導き出してこなしている感じ。
末妹は、これも確かにカブト虫だねぇと、このエリアの統一性に満足そうな呟き。ドーム内の庭園エリアは、奥に池や例の石造りの小部屋が窺える。
目指すべき場所はすぐ見つかったけど、お宝の仕掛けがあるなら回収しないとねと張り切る子供たち。そんな訳で、カブトムシを倒した一行は周囲の壁際のチェックに向かう。
パッと見た所、今回のエリアにも怪しい仕掛けがちゃんとあるようだ。入って右手の壁際に巨大パネルが設えてあって、そこには良く分からない数字の羅列が貼られていた。
全員が見えるような大きな画面には、9×9の区分けされた真四角のパネルが。その中には数字があらかじめ書かれている箇所もあるし、真っ白のパネルもある。
これはナニと不思議そうな末妹だけど、長女の紗良はすぐにピンと来たようだ。これは数字のパズルじゃないかなと口にすると、姫香もなるほどと頷いてそれに同意する。
つまりはこれは、“頭”を使った仕掛けだと。
「ああっ、なるほど……頭のエリアの仕掛けは頭を使って解けって事なのかぁ!」
「これは割と有名な、スタンダードな数字のパズルだね。1から9の数字が、縦と横とこの3×3の小区分けされたマス内で重なったら駄目なの。
消去法で、確実に入る数字のマスから埋めて行く感じだね」
「ここに数字の書かれたパネルが置かれてるよ、紗良姉さん……うん、ちゃんと1から9まであるみたい。多分だけど、これの正解の数字を空欄に
何だ、こっちは紗良姉さんいるんだから簡単な仕掛けじゃん」
自分では解くつもりのない姫香の強気の発言に、末妹の香多奈はシラケた視線を姉に向けている。とは言え、マスの空欄の場所はそんなに多くなくてこの問題は初心者用みたい。
パズルの法則をきちんと理解していれば、恐らく小学生でも解けるよとの紗良の言葉に。それならと香多奈も参加して、ワイワイと騒がしい空欄埋め作業が始まる。
それはほんの5分で終わって、教師役の紗良も満足そうな笑み。最後の1枚をパネルに嵌め込むと、ガタッと音がしてパネルの下の部分が崩壊して行った。
そして出て来た宝箱に、子供達は大喜びで盛り上がっている。香多奈が姉に向かって、ちっとも手伝わなかった癖にといちゃもんをつけているけど。
それはペット達も同じでしょと、全く悪びれない姫香は大物かも。それでも悪いと思ったのか、ハスキー達を連れて池の下見へと向かって行った。
チームの2分化はいつもの事なので、敢えて
そして宝箱を確認する末妹だけど、鑑定の書や薬品に混じって帽子やヘルメットなどの案の定のアイテムも多数。それからクロスワード雑誌も、新品の物が多数出て来た。
頭の体操にはいいかもねと、紗良はちょっと嬉しそう。昔はこれを解いて懸賞とか応募する文化があったんだよと、長女はその道には詳しそうである。
一方の姫香たちは、池に潜んでいた大亀やカタツムリを狩りまくっている。まるで向こうは頭脳担当で、こっちは体力担当だと言わんばかりのその暴れっぷり。
茶々萌コンビもその通りと言わんばかりに、張り切って姫香に追随してとっても楽しそう。保護者の護人としては、こっちの身にもなってくれと思わないでも無いけれど。
まぁ、どちらも健康に育ってくれれば文句を言う程ではない。
「全部回収終わったよ、叔父さんっ……このエリアも、捜せば宝箱がたくさんありそうっ。青空市の売り物も、バッチリ回収出来ちゃうかもっ!」
「それは良かった、来週の9月と来月の10月の青空市だけど、ウチはブース面積が倍に増えるみたいなんだよ。実行委員会から、夏野菜をたくさん出してくれってお願いされてね。
熊爺も協力してくれるそうだから、2ヶ月は忙しくなるかもな」
「あぁ、そんな事を言ってましたね……来週は、頑張って売り上げ伸ばさないとねっ。陽菜ちゃん達も手伝ってくれるって言ってたし、楽しみだねぇ」
紗良はかなりノリ気らしい、売り子さんになると人が変わるし何かが性に合っているのだろう。それが、儲ける事なのか販売業全般なのかは護人には分からないけど。
そんな事を話していると、姫香がこっちの掃討は終わったよと声を掛けて来た。ペット達の大半は姫香と合流して、池の周りにいたモンスター退治を手伝っていた模様。
いつの間にやらルルンバちゃんも向こうに合流しており、どうやらひと暴れしたかったらしい。前回の“アビス”では、斥候役ばかりやらせてしまったのでストレスが溜まっていたのかも。
それはともかく、壁際に用は無くなった一行は姫香たちと合流を果たす。カメもカタツムリも、硬くて水魔法を使う位で大した事は無かったよと姫香の報告。
それからざっと見た感じ、ドーム内にもう仕掛けとかモンスターの影は見当たらないとの話である。その点、本業のツグミの『探知』スキルは優秀には違いない。
つまりは残されたのは、ドームの中央に位置する石造りの建物だけである。今回も門番いるのかなと、末妹の疑問に開けてみたら分かるよと姫香の軽い返し。
そんな訳で、さほど感慨も無く姫香は閉じていた石造りの建物の扉を開け放った。後衛陣も控えているので、支援に関してはさっきよりは行き届いている。
その途端、何かが待ち構えているとの予想は大当たり、突然巨大な髭モジャの丸い物体が飛び出て来た。そいつ等は3体いて、直径2メートルの球形で長い髭に覆われていて不気味な見た目だ。
待ち伏せていた敵の群れは、さっきの石顔みたいに跳ねながら移動するみたい。巨大な口がバカッと開いて、先頭の姫香を呑み込もうとして来る。
口の中にはギザギザした歯が並んでいて、これに噛み付かれたら大ゴトだ。姫香はそれを素早く避けて、横から攻撃を加えていなしている。
ハスキー達も咬み合いなど仕掛ける筈もなく、スキル技での遠隔攻撃。敵の丸くて髭に覆われたボディは、それらの攻撃によく耐えているよう。
全く動きは鈍くならず、どうやら見た目に反して防御力は高い模様だ。姫香の斬撃も少々傷付いただけで、執拗に反撃して来る元気なヒゲ顔モンスターである。
しつこいのよと姫香は怒りモード、そんな敵の動きがツグミのフォローでピタッと止まる。どうやら影のバインド効果が発動したようで、さすが万能犬である。
そんなヒゲ顔モンスター、よく見ればちゃんと目と鼻も小さいながらあるようだ。だからと言って全く可愛げは無く、噛み付きと体当たりくらいしか攻撃能力を持っていないよう。
そんな敵の特性をしっかり考慮するハスキー軍団、まずはレイジーがむさ苦しいんじゃと炎のブレスを喰らわせてやる。見事に3体の髭は燃え出して、苦しみ跳ねまわる敵の群れ。
弓矢で援護していた護人は、それを見てルルンバちゃんに攻撃を命じてみる。何と先ほどは、得意のレーザー砲もモジャ毛のせいで防がれていたのだが。
今度の攻撃は、しっかり敵を射抜いてまずは1体撃破に成功。
「やった、さすがレイジーだねっ! 敵のお髭を焼いちゃえば、攻撃が通る事をお見通しだったなんて……ルルンバちゃんも凄いよ、頑張ったね!」
「本当に、唐突に強い敵が配置されてるエリアだな……よしっ、残りの2体も始末し終えたか。しかしまぁ、今回も癖の強いダンジョンみたいだ。
この後も、気を引き締めて進まなくちゃな」
そうだねと同意する香多奈だが、あまり気は引き締まっていない様子である。何故なら、ゲートのすぐ側に大きな宝箱を発見していたから。
ツグミのオッケーを貰って、姫香が開け放つと子供達で一斉に中身のチェック。今回は木の実や薬品類に加えて、歯ブラシや歯磨き粉や口紅などが一緒に大量に出て来た。
他にも
そもそも、今の時代だとなかなかに入手は困難でもある。お化粧してどこかに出掛けるなど、この田舎町ではそんな場所もないのは確かではあるけど。
売りに出せば、欲しがる人は多いかもとの長女の言葉。
――かくして、青空市への期待はどんどん高まって行くのであった。
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