第667話 “手”の掛かる仕掛けを取り敢えず突破する件
向こうの女子チームも頑張ってるし、こっちも頑張るよと姫香の声出しに。オーッと元気に答えるのは、香多奈だけだけど勢いはそれなりについてくれた。
その勢いに乗って、3層の最初の回廊を10分少々で踏破する。出て来たサル獣人や4本腕パペットは、ハスキー達&茶々萌コンビが綺麗に片付けて行った。
さすが3層目ともなると、既に慣れた道のりとなっている前衛陣である。敵の処理時間もスムーズになって、後衛陣の安全確保も余念がない。
そして例の左折地点へと到着して、後は塔の中心部へと向かうだけ。中ボスの間があるとの推測の下、来栖家チームは用心しながら進んで行く。
円形の塔の中心部は、やっぱりドーム型で芝生の地面に背の低い樹木と居心地は良さそう。光源もしっかりあるし、活動するには不自由のないエリアである。
探索者としては、その至れり尽くせりな点が逆に不気味だけれど。今回も壁際の仕掛けはあるかなと、そんな考えでまずは右回りで壁のチェックなど。
1層にはロープの仕掛けが、そして2層には石像の巨顔の仕掛けがあった訳だけど。みんなで探した結果、この3層もロープの仕掛けがある事が判明。
見事に壁際に、3本のロープが垂れていて塔の内側の壁に繋がっている。ただし塔の中央はドーム型なので、円形の壁の途中から垂れているロープは壁際とは言えない場所だ。
ロープの繋ぎ目の上の部分には、やっぱりロフトのような開いた隙間があるようだ。つまりは1層と一緒かなと、そんな推測を話し合う子供たち。
護人が飛んで確認しても良いが、ダンジョンのルールに違反してペナルティを喰らう可能性も。そんな訳で、さっきと同じく姫香が体当たりでこの仕掛けに挑む流れに。
こんな時は、素直に姉を応援する香多奈である。張り切る姫香は、まずは右端の輪っか付きロープを思いっ切り引っ張りに掛かる。
その途端、編み籠と一緒に落ちて来る丸い球体の数々。
「わっ、不味いっ……爆発石だっ、みんなガードしてっ!」
「うわっ、これって罠じゃんっ! 酷いっ、うきゃっ!」
至る所で起きる爆破は、なかなか派手で慌てまくる一行である。ほとんどは、姫香の咄嗟の『圧縮』ガードやコロ助の《防御の陣》でダメージを封じる事が出来たけど。
護人も近くの紗良と香多奈を
結果、茶々丸に少々の火傷が確認された程度で、他は特に何事も無かった様子。ただし、残りの2本のロープへの挑戦が、やり難くなったのは確かである。
それでも用心すれば平気でしょと、備えをみんなに言い渡しての再挑戦に。次は真ん中のロープを選択した姫香は、度胸に関しては間違いなくピカ一である。
「あれっ、何か引っかかってるのかな……全然落ちて来ないや、何でだろう?」
「固定されているのかも知れないな、逆に自分が上って行くんじゃないかな? いや、危ないからその役を交代しようか、姫香」
平気だよと能天気な少女は、叔父の言葉を信じて両腕の力だけでスルスルとロープを上って行く。10メートル程の綱登りは、少女のステータス的にも余裕でこなせるレベル。
そしてロープを登り切った姫香は、お宝あったよと大きな声て報告して来た。ちなみに左のロープにも、魔玉がぎっしり入った編み籠がセットされていた模様。
酷いと叫ぶ末妹だが、それを破裂させずに回収出来た事は嬉しそう。そして隙間の奥の宝箱と一緒に、魔法の鞄に入れて降りて来た姫香も同じく満足そうな笑み。
それからさっきも、放り投げずに収納して来れば良かったと一言。そんな言葉と共に取り出した宝箱からは、薬品類や鑑定の書(上級)やら木の実が回収出来た。
当たりは中級エリクサー700mlと、虹色の果実2個だろうか。例の手の周り用品に関しては、爪切りやハンドクリームが割とたくさん出て来てくれた。
それから軍手や掃除用ゴム手袋も幾つか、指輪も2つあったけど残念ながら魔法アイテムではないそうだ。それらを改めて鞄に詰め込みながら、相変わらず報酬が多いねと子供たち。
さて、残るは中ボスの間だが、いかにもそれっぽい建物がドームの中央に鎮座している。入り口もドーム内に入った通路から、真っ直ぐ進んだポイントにあって親切設計ではある。
まぁ、中がそうとは限らないけど……むしろ強敵を配置して、こちらを殺しに掛かって来るのだろう。この1年半で、その手の常識は学び取っている来栖家チームである。
そんな訳で、油断せずにその入り口へと向かう一行。途中のハンド型蝶々を軽く撃破して、それほど時間も掛けずに石造りの建物へと辿り着く。
さっきのゲートのあった建物より、明らかに大きくて立派な造りに。さぁボス戦だと、張り切って仕切り始める姫香はヤル気が充分に漲っている。
そして、今回は私がメインに戦うからとハスキー達に釘刺し。
「全部は駄目だからね、ハスキー達っ! 獲物はみんなで分け合わなきゃ、出番は公平に作らなきゃなんだよっ。
護人さんも、ちょっとは戦いたいでしょ?」
「うん、あぁ……そうだな、じゃあ一緒に中ボス戦に参加しようか。ルルンバちゃんは、悪いがこのまま後衛の護りにいてくれるかい?」
気の良いAIロボは、護人の頼みを快諾してこれで中ボス戦の布陣は決定の運びに。そして姫香が石の扉に手を掛けると、重そうな扉は呆気なく開いてくれた。
建物の中には、石造りの舞台のような広間がしっかり設えてあった。そこに待ち構えていたのは、6本腕のゴーレムと4本腕の魔人のペアらしい。
ついでに4本腕のパペット兵も半ダースいて、これでハスキー達も退屈せずに済みそう。まずは姫香が進み出て、こっちの魔人を貰うねと宣言する。
その魔人は赤黒い肌に3メートル近い体格の、かなり強そうな強面戦士だった。4本の腕はどれも筋肉質で、丸太のような太さを誇っている。
一方の6本腕のゴーレムは、更に巨体で4メートル以上はありそう。舞台の一番後ろに控えていて、歩くだけで舞台の石床を破壊しそうなウエイトである。
素材は石なのか金属なのか、滑らかなテカりのある紫色の素材で出来ている。体型からして強そうだが、『掘削』スキル持ちの護人には相性が良さそう。
そんな中ボス戦は、姫香が飛び込んだせいでなし崩し的にスタートとなった。護人も遅れまいと、舞台に飛び乗って巨体ゴーレムを通せんぼに掛かる。
その両サイドでは、ハスキー達がお付きの4本腕パペットを完全に格下扱いでブッ倒しに掛かっている。姫香も強面魔人とサシでの勝負中、魔人の武器は斧やフレイルらしい。
それを4本の腕で操っており、攻撃力に関してはピカ一の中ボスである。ただし、上半身裸の魔人は防御を完全に放棄しているとも。
ゴーレムの方は、腕の数は6本と多いけど携帯する武器は全く無し。掴みかかったり拳で殴り付けたり、攻撃のパターンは単調である。
とは言え、その巨体で踏まれたり倒れ掛かられたりしたら一巻の終わりなのは確か。護人もそれに気をつけながら、無表情なゴーレムを舞台の端に誘導する。
他の者の邪魔にならないよう、気遣いさんなのは護人の美徳の1つである。それからこちらも“四腕”を発動して、愛用シャベルでの『掘削』スキルの発動に。
哀れなゴーレムは、ごっそりその自重を失う事に。
続け様の突き技で、ゴーレムの体重はどんどん軽くなってダイエットは大成功。ある時点でコア破壊認定されたのか、呆気無く魔石へと変換されてこの戦いはジエンドとなった。
実はずっと肩の上にいたムームーちゃんが、お疲れ様でつと
その隣では、姫香と4本腕魔人の戦いが佳境を迎えていた。とにかく素早い動きで、相手の武器を避ける姫香は《舞姫》を自然と発動させている模様。
それから回転しながら、相手の太ももに薙ぎの一撃が見舞われる。大鎌モードの『天使の執行杖』は、見事に中ボス魔人に深い傷を与えた。
末妹の声援を受けながら、なおも姫香のターンは続く。ちなみにハスキー達は、既にパペット達を始末し終えての観戦モード。ツグミはご主人をサポートしたそうだけど、グッと我慢している感じ。
まぁ、手助けする程でも無いと思ったってのもあるのかも。その後も姫香の攻撃は、とどまるところを知らずに繰り出されて相手を完封してしまった。
そして魔石に変わった相手を見終えて、舞台上で派手なガッツポーズ。パチパチと、姉妹から惜しみない称賛の拍手が見舞われて、ハスキー達もようやく舞台上へと上がって行く。
それから恒例の、ドロップ品の確保と怪我チェックのお時間に。今回はハスキー達も姫香も、安定した戦いで怪我や無駄なMP消費はナシと言う。
「それでも休憩は……そうか、この帰還用の魔方陣を出た後でもいいのか。それじゃあ宝箱を確認して、一旦みんなでゼロ層へと戻ろうか」
「了解、叔父さんっ……ちぇっ、中ボス2体いたのにドロップはスキル書1枚だって。シケてるなぁ、これは宝箱の中身に期待するしかないよっ」
「でもまぁ、魔石(中)が2個落ちたし良いじゃん、香多奈。あれっ、護人さん……ひょっとして、ムームーちゃんを肩に乗せたまま戦ってたの?
それが出来るんなら、ミケを乗せても戦えるんじゃない?」
姫香の言い分は、それが出来たら無敵じゃんって事らしいのだけれど。さすがに、リーサルウェポンのミケを前衛に引っ張って来るのは反則な気もする護人である。
当のムームーちゃんは、ひたすらご機嫌で怖くなかったでつと褒めて貰いたそう。今度は戦闘のお手伝いをしたらいいよと、香多奈もおだてるのが少し上手くなってる気も。
そんな会話をしながらの、中ボス部屋の宝箱のチェックだけれど。まずはオーブ珠が1個出て来て、香多奈の機嫌もあっという間に持ち直す結果に。
他にも鑑定の書や薬品類が割とたくさん、魔石(中)が4個に強化の巻物が2枚。後はミスリルの投げナイフに、またもや高級手袋や野球のグローブまで入っていた。
ついでにマニキュアや、良く分からない化粧品や高級そうなハンドクリームが色々出て来て。紗良が冬は手荒れするのよねぇと、ちょっと興味深そうに眺めている。
それから当然の如く、指輪も幾つか入っていて魔法アイテムも混じっているなと妖精ちゃんの呟き。後は腕輪とか、魔法アイテムの手甲もあるなと最後の方も当たりっぽい。
たった3層で、随分と色んな品物を入手してしまってさすが“鬼の報酬ダンジョン”である。そんな事を話し合いながら、一行は帰還用ゲートを潜ってゼロ層へと帰還して行く。
それから休憩しながら、午前中にもう1つの扉を攻略するかどうかの話し合い。今はまだ11時前だし、お昼にするにも1時間以上の待ちが出来る形だ。
「それならついでに、もう1つの扉も攻略しちゃおうか? どうしてもお腹が空いたら、途中で休憩ついでに食べてもいい訳だしさ」
「そうだね、ここのダンジョンは報酬も良いから、次のエリアも早く見たいかなっ。楽しみだね、次はどんな仕掛けだろうっ?」
最初は手だから、次は足じゃないかなと姫香の推測は果たして当たっているのか。そんな呑気な話をしながら、結局来栖家チームは2つ目の扉を攻略する流れに。
ペット達も、まだまだ元気いっぱいで疲れた様子は
かくして、その勢いのまま末妹の選んだ真ん中の扉に突入する一行である。
――絶対足だと思うなと、姫香の推測の答え合わせは
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