第665話 “鬼の報酬ダンジョン”の2つ目に挑む件



 遺跡エリアの通路を彷徨さまよう事15分、一行はようやく内側へと入る通路を発見した。そこまでの戦闘に関しては、追加でもう1度発生して確かに敵の出現率はやや高い気がする。

 今度の敵はまたもやサル獣人で、コイツ等もムキムキの腕を強調しての襲撃だった。それが何を意味するか、今の所は良く分かっていない来栖家チームの面々である。


 それより内側へと真っ直ぐ続く通路は、予想通りに塔の内部に続いていたようだ。高い石の壁に囲まれた円形の広場に、来栖家チームはようやく到達する事に。

 そこは中庭のような空間で、樹木や芝生で綺麗に整地されていた。小路まで作られていて、一応は至れり尽くせりって感じではある。


「わっ、変な所に出ちゃった……ここは塔の内側空間なのかな、ドームみたいになってるや。多分だけど、そこの真ん中付近が怪しいよね。

 ゲートがあるのは、多分そこだよっ!」

「アンタの当てにならない推測はともかく、取り敢えずは中央に進もうか、ハスキー達。あっでも、気になるポイントがあったら寄り道してもいいからね」

「そうだな……と言うか、早速右手の壁際に妙なロープが垂れ下がってるな。何だろう、あれを伝って壁の上へ登って来いって意味かな?」


 護人の言うように、確かに入り口の右手の壁際に太いロープが、意味ありげに3本垂れ下がっていた。皆が興味を示したので、ハスキー達も中央を後回しにしてそちらへと向かって行く。

 それらのロープは10メートル近くの長さで、3本が等間隔で並んで壁際に垂れていた。先端には輪っかが結びつけてあって、いかにも引いて下さいってな感じ。


 香多奈が仕切りに紐の上側を確認しようとするが、伸びをしたくらいでは確認は出来そうもない。姫香もこの仕掛けは、引っ張るべきなのかなと首を傾げている。

 何かが紐の先にくっ付いてたら、落っこちて来ちゃうよと紗良が忠告を発しているけど。それじゃあ離れているから、お姉ちゃん引っ張ってよと恐れを知らない末妹。


 と言うより、その役目は姫香で決定らしい……別に良いけどと、こちらも恐れ知らずの姫香はまずは右のロープに手を掛ける。それからペット達に、下がってなさいと注意喚起。

 何が起こるのと興味津々な面々は、それを見届けるために姫香と距離を置く事に。そして壁に下がったロープ引きの仕掛けを、端から順に試し始める少女である。


 結果を言うと、どれも壁の上に設置された品物が結び付けられていた模様だ。最初に落ちて来たのは重り代わりの四角い石で、それは大きな音を立てて地面に落ちて来た。

 中央のロープも似たようなモノで、10メートル先の上空から落ちて来たのは大振りな宝箱だった。当たりだとの末妹の絶叫に、思わずそれをキャッチに向かう姫香である。


 結果的にそれは上手く行って、ナイスキャッチとの香多奈の声が。意外と大きな宝箱だったけど、地面に落ちて壊れずに済んで何よりだった。

 その中身を、早速仲良く確かめ始める子供達である。中からは魔結晶(中)が4個に、ポーション系の薬品瓶が数本ほど。本当に、地面に落とさなくて良かったと喜ぶ姫香は満面の笑顔である。

 他にもゴム手袋が数種類に、簡素な指輪や腕輪が幾つか。手や腕に関係する品が多いねと、香多奈は思った事を口にしている。


 ちなみに、最後の左端のロープも重りの石が落ちて来ただけの結果に。当たりは1つだけだったけど、まぁ頑張った甲斐はあったよとサッパリした表情の姫香である。

 『身体強化』持ちの彼女からすれば、そんなに大変な作業でもなかったようだ。ただし、壁際に長くいたせいで妙なモンスターを引き寄せてしまった。


 そいつは壁にベタっと張り付いた、ヒトデのような生き物だった。座布団より大きくて壁の色に擬態していたので、気付くのが少々遅れてしまったけれど。

 レイジーやツグミが、遠慮なくスキル技でバンバン攻撃したせいでボトボトと地面に落ちて来た。その裏側の口の部分は、棘のような牙がギッシリで頭に落ちて来たら怖かったかも。


 今回は発見が速かったので、全て魔石へと変わって行ってくれたこの陸ヒトデ。これも手に関係あるモンスターだねと、何気ない末妹の一言に。

 言葉遊びが好きなエリアだねぇと、紗良も思わず妹の言葉に追随する。ひょっとして、今回のダンジョンのこだわりがその辺に詰まっているのかも。


 そんな推測をしながら、一行はハスキー達の先導で円形エリアの中央を目指す。樹木もまばらに生えた庭園タイプの塔内は、至って平和で敵の数も少なそう。

 とか思ってたら、妙な羽根をした蝶のような生物が木立ちの隙間から飛んで来た。そいつ等は、まるで手の平を羽ばたかせているかのような奇妙な生物。


 いや、ダンジョン内に出て来たのだから、恐らくはモンスターなのだろう。なかなかカラフルで、大きさも畳サイズなので接近戦は少し怖いかも。

 ただし、そいつ等は遠隔攻撃の類いは一切持っていない様子。ハスキー達のスキルに次々撃ち落とされつつも、頑張って茶々萌コンビに接近を果たした1匹が放った張り手はそれなりに強烈だった模様。

 何しろ、喰らった萌が茶々丸から転げ落ちそうになっていた程。


「うわっ、萌ったら油断しちゃダメだよっ! ヒラヒラ力なく飛んでても、怖いスキル持ってる敵なのかも知れないんだからね。

 大丈夫だった、萌っ!? お姉ちゃんの張り手より強烈かもっ?」

「何ですって、香多奈のアンポンタンっ! そんなに言うなら、較べっこしてみなさいよっ!」


 それは危ないよと、本気で心配する紗良は本当に優しい気質の持ち主である。とにかく纏めて10匹ほど出て来た蝶々型モンスターは、ハスキー達に綺麗に掃討されて行った。

 その魔石を拾いながら、石造りの建物はやっぱりドームの中心にあるねと抜け目なく行き先を観察している末妹の一言。やっぱりあの中に次の層へのゲートがあるのかなと、護人も推測を口にする。


 ハスキー達はさっさとそちらに進みたそう、早く号令を頂戴と魔石を拾う香多奈と治療中の萌を見遣っている。そして、リーダーからオッケーが出ると同時に怪しい建物目掛けて駆けて行った。

 張り切り過ぎな気がしなくもないけど、まぁ“来栖家チーム”としての探索は久し振りだし仕方無いのかも。そして建物の入り口を発見したハスキー達は、ゴリラ型のモンスターと戦い始めていた。


 そいつはかなりの迫力の敵で、ドラミングや張り手の攻撃が定期的にやって来る。初めの内は呑気に観戦していた一行だっだが、建物の中から4本腕パペットがゾロゾロと増援に出て来た。

 それを見て、慌てて応援に駆け付ける姫香だったり。


 そんな前衛では、敵の増援に腹を立てたレイジーが炎のブレスでパペットを一網打尽にして行く。燃えやすい木製の相手だけに、この攻撃に右往左往するパペット勢。

 そして、味方のブレスに驚いて思わずさお立ちになる茶々丸と、そのせいで落馬(?)してしまう萌と言う構図。今日はとことんツキのない萌は、慌てて這いながら戦線離脱する。


 そこに駆けつけた姫香だが、大半の敵は既に青色吐息で攻撃を仕掛ける元気もない有り様。仕方が無いなと、姫香は稲を刈る勢いで弱ったパペットを魔石へと変えて行く。

 そんな戦闘、恐らくはゲートの護り手を一掃する戦いは5分も掛からなかった。後衛陣が手助けする隙も無く、建物内にいた敵は綺麗に消滅する事に。


 そして覗き込んだ先には、石造りの室内の中央に存在するゲートと宝箱のセット。やったねと素直に喜ぶ香多奈は、早速中身のチェックにと走り寄って行く。

 ツグミの罠チェックを経て、その中身の確認作業を行う子供たち。鑑定の書や魔玉(風)や魔石(中)が5個ずつと、なかなかの品が出て来てくれた。


 それから薬品類も数種類、上級ポーションもあるねと《鑑定》持ちの紗良は嬉しそう。それからやっぱり、軍手が数セットと金の腕輪や宝石付きの指輪が幾つか出て来た。

 装備品としての手甲も入っていて、どうやらミスリル製のも混じっているよう。妖精ちゃんも良い品をチョイスしてくれて、鑑定ごっこは盛り上がりを見せている。


「それにしても、この宝箱もやっぱり手袋系ばっかりなんだね。やっぱりダンジョンのこだわりがあるのかな、腕装備が報酬とか?

 指輪系でも、良いの出てくれるかもね、叔父さんっ」

「そうだな、指輪よりペンダント系ならペット達も装備出来るから嬉しいんだが。まぁ、指輪も幾つも装備が可能だし、出て来てくれたら嬉しいかな?」

「この手甲は魔法の装備品じゃないんだね、残念っ。今回の指輪の中にも、魔法のアイテムは無しなのかぁ……まぁ、まだ1層目だからこの先に期待かな?」


 姫香の呟きに、そうだねと前向きな香多奈である。何しろここは“鬼の報酬ダンジョン”なのだ、報酬品がきっとわんさか出て来る筈である。

 そんな期待を込めて、ガンガン稼ぐよとハイテンションな末妹だったり。それを受けてハスキー達もヤル気が漲っている。

 唯一、萌だけが今日は厄日だなって表情で悲しそう。




 それでも2層目の探索が始まると、茶々丸に騎乗してキッチリ前衛に出張ってくれる真面目な萌である。無理はしなくていいよと、姫香や香多奈は声を掛けるのだけれど。

 敵が多いこのダンジョンの仕様上、前衛は多いに越した事は無い。姫香も中衛の位置取りを担っているけど、やはりハスキー達の速度にはついて行くのは大変そう。


 私も茶々丸みたいな乗り物が欲しいよと、冗談交じりに呟く姫香だけど。それを聞いた末妹が、萌と交替で乗れば良いじゃんと混ぜっ返して来る。

 茶々丸は全く気にしないかもだが、せっかくパートナー関係を築いた萌がそれでは気の毒だ。そんな訳でその案は却下しつつも、新しい戦闘スタイルを模索する姫香である。


 そんな2層エリアだけど、やっぱりスタートは幅広い楕円を描く通路からだった。今回も内側へと続く通路を見付ければ良いねと、ハスキー達は張り切って進み始める。

 ところが前の層と違って、ここは床石がガタガタで歩き辛い。石がめくれ上がって、地面が剥き出しになってる箇所も散見している始末。


 先行するハスキー達も、そこを気にしつつも出て来たサル獣人の群れにアタックを敢行する。途端に騒がしい戦闘が始まって、後衛陣もフォローにと近付いて行く。

 それを見透かしたように、後衛陣を狙い撃ちする待ち伏せモンスター。床石のめくれた地面から、亡霊の青白い手が一行を掴みかかろうと伸びて来る。

 その手に触られたルルンバちゃんは、アレっと言う表情。


「あっ、何かヘンだと思ったらやっぱり仕掛けがあったね、叔父さんっ。ルルンバちゃんで良かったよ、あんなのに掴み掛かられたらちょっと怖いモン」

「これも香多奈が言ってたように、手に関係するモンスターだな。2人とも、地面が剥き出しの場所には近付かないようにな。

 どれ……うん、そんなには強くない敵だな」


 『掘削』を使うまでもなく、手持ちの武器で処理出来てしまったマドハンド的なモンスターは全部で5匹。全てルルンバちゃんが近付いて湧かし、護人が斬り殺す手順で片付けて行く。

 そして香多奈が嬉しそうに、ドロップ品を拾って回っている。それを肩の上からお手伝いするムームーちゃんも、とっても楽しそうでほのぼのする雰囲気。


 前衛陣の戦闘も、姫香が加勢する事も無く終焉に至ったようだ。そして向こうでも、追加のマドハンドに急襲されて、再び騒ぎが巻き起こっていた。

 ただし、怪我を負うような威力も無く、本当に脅かし役って感じでこの騒ぎもすぐに収まった様子。そしてドロップで手袋が出たよと、姫香がツグミが拾った回収品を見て驚いている。


 まぁ、泥の魔手もお洒落とかしたいお年頃なのかも。そんな台詞を言う末妹は、自身のコメントを欠片も信じていない感じではあるけど。

 とにかく、この先も“手”に関する仕掛けが待っている気が。





 ――癖のある鬼が造ったダンジョンだ、奇天烈な構造なのは織り込み済み。





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