第655話 各チームともコイン集めに熱狂する件



 上空(水中)を悠然と泳ぎ去って行くウミガメだが、確かにその甲羅の上には宝箱のフォルムが見えている。それに気付いた末妹が、必死にアレ止めてとの呼びかけ。

 ウミガメは1匹のみで、それがモンスターかどうかは分からない。とは言え、こっちを気に掛けずに逃げて行く奴を、止めるのはかなり難しい気が。


 恐らくそんな、こちらを惑わし悔しがらせるダンジョンの仕掛けなのだろう。現に香多奈は、行っちゃダメと地団駄踏んで悔しがっている。

 さすがのハスキー達も、上空(水中)を泳いで逃げる敵に追いつくのは不可能みたい。少女の命令を遂行しようにも、手段を持たずにあたふたするだけ。


 その時、急に優雅なウミガメの動きがピタッと止まった。それから自重の為せる業か、ゆっくりと海底へと落ちて行く。それを見て、今がチャンスと俄然がぜん張り切る末妹。

 護人も自分1人で追い掛けて、チームと孤立するのは悪手だなと思って自重していたのだが。相手が動かなくなったとなると、話は別でサッと飛んで確保して戻れば良いだけ。

 そんな訳で、子供達の声援を背にそれを遂行する。


「やった、ありがとうミケさんっ! やっぱり家族想いだよね、私はミケさんの事ずっと信じてたからね!」

「あぁ、さっきのはミケの《魔眼》の効果だったのか……てっきりあのスキルは、敵と目が合わないと発動しないと思ってたけど。

 凄いな、逃げて行く敵の動きも封じられるんだ」

「その子が敵かどうかも分かんないですよ、護人さん……宝箱の中身を回収したら、野に放ってあげた方が良いんじゃないですか?」


 優しい紗良はそう言って、確保されたウミガメを見遣っている。《魔眼》から解放された彼は、運命を悟ったのか今は大人しく為すがままの状態である。

 つまりは、甲羅に背負った宝箱の中身を奪われている間も達観した顔付き。まるで砂浜で卵を産んでる時みたいに、悟った表情で時間が過ぎるのを待っている風だ。


 そんな宝箱の中からは、念願のリングとメダルが8個ずつと大量入手に成功した。喜ぶ香多奈だが、他にも薬品類や虹色の果実や真珠の飾りなどが入っていてお宝は大量だ。

 最後に珊瑚の飾りや見事な飾りの短剣を回収して、お役目を果たした格好のウミガメは相談した結果リリースする事に。ヤレヤレと言った表情の彼は、やっぱり優雅に泳ぎ去って行くのだった。


 そんな22層目を何とかクリアして、お次は23層目への挑戦である。ゲートを見付けるのも、この広いフィールド型エリアでは苦労しているのだけれど。

 変わった景色の方向を見付けて、そちらに向かうと大抵は何かが見付かる感じ。そんな法則に頼りつつ、次の層も何とか30分以内にクリアしたい所である。


 ハスキー達は相変わらず鼻が利かず、この階層にはうんざりした表情。それでも戦闘に手抜きは無く、今も半ダースのフグの群れを仕留めて見せてくれた。

 コイツ等は、下手に刺激すると大きく膨らんで、最後には自爆する厄介な敵だった。一度それを喰らったコロ助は、かなりのダメージを受けて紗良に治療を受ける破目に。


 難敵は他にもいて、例えば3メートル級のクラゲの群れとかは酷かった。動きは鈍いのだが、ソイツの触手には毒とか麻痺とか色んな効果があるようで。

 今回それに掴まったのは茶々丸で、何とかルルンバちゃんが割って入って口の中に取り込まれるのを防いだ次第。こちらも紗良の『回復』スキルで、無事元通りに。


「やっぱり、水エリアの相手のホームグラウンド感は半端じゃ無いな……とは言え、もうすぐゲートも見付かるだろうし、折り返し地点は過ぎた筈だよ。

 みんな、大変かもだがもう少し頑張ってくれ」

「は~い、叔父さんっ……それにしても、さっきの大きなクラゲは綺麗だったねぇ。ブヨブヨの奴もいたけど、発光してる奴とか凄くなかった、紗良お姉ちゃん?

 あれの小型の奴だったら、ペットに欲しいかもっ!」

「観賞用のクラゲって、確かにいるよねぇ……愛好家も多いのかな、見てたら癒されるって理由で。クラゲには脳が無いって言われてるから、相手は何も思わないのかもね?

 泳ぐ能力もほとんど無くて、水に浮いてるだけの変な生き物だしねぇ」


 そうなんだと、姉のウンチクに驚く素直な香多奈である。今はそのクラゲを退治した後の小休憩中で、魔石などの回収品は全て拾い済み。

 砂中に落ちた魔石も、ルルンバちゃんは完璧に拾い集めてくれてその点は助かっている。彼も得意のレーザー砲を封じられ、大変なのにこの献身振りはさすがである。


 大クラゲの中には、魔石(小)を落とす奴も混じっていてドロップも良好だった。他にも瓶入りのクラゲも2つドロップして、これが噂の観賞用のアイテムなのかも。

 素直に喜ぶ末妹は、良いお土産が出来たと満足そう。お友達にあげるのに、もう少し欲しいかなぁとか贅沢を口にしている。クラゲの触手に痺れた茶々丸は、もう懲り懲りって顔付き。


 そして休憩も終わって、護人の先導で再び探索を開始する一行である。ゲートの位置を《心眼》で把握して、後は辿り着けばこの層も無事にクリアだ。

 休憩中に姫香チームの様子も通信で尋ねてみた所、向こうも遺跡エリアを苦労しつつも何とか攻略して行ってる様子だ。それを聞いて安心する一行、こっちも頑張ろうと香多奈もヤル気を再燃させている。

 後はお互い、無事にクリアして“アビス”の回廊で合流するだけ。




 こちらも22層はその後何も無くクリア、ツグミの見付けた階段を下って23層へ。姫香のチームは、大きな事故もなく順調に階層を降りて行くのに成功している。

 そして肝心のコイン回収も、先ほどの宝箱ゲットで大きく前進している次第。この層でも宝箱を見付けようと、一行は盛り上がりを見せている。


 その熱気を、一歩退いた位置から眺めるツグミと萌は平常運転のいつもの調子。正直、ペットのリーダー役のレイジーがいないせいで、負担が多くて大変なのだが。

 そんな言い訳で、主人やその友達を危険にさらす訳には行かないと。ツグミと萌も、それなりに気合いを入れ直して探索に付き従う構えを見せている。


 ツグミの苦労はもう1つあって、ご主人の友達が斥候の真似事をして張り合って来るのだ。そんな事をせず、自分に全部任せてくれたらもっと早く探索が進むのにと。

 何度も思うのだが、ご主人は友達に大甘で注意してくれないと言う。どうやらダンジョン内で訓練しているようなのだが、そんなの自分のいない時にして欲しいと切に願うツグミである。

 彼女の願いは、さっさと探索を終わらせて本隊に合流する事。


「あっ、ツグミが不機嫌だね……自分の領分を陽菜に邪魔されて、ちょっと怒ってるみたい。萌はそんなでもないけど、やっぱりリーダー役がいないから不安がってるのかな。

 普段は護人さんと、レイジーがいる不動のチーム運営だからね」

「ああ、そう考えると悪い事をしてる気分になって来るな……こっちも一応、探査役を真剣にやってるんだが伝わらないのは悲しいな。

 姫香もリーダー役、ちゃんとこなしてるぞ」

「そうだねぇ……役割がかぶると、どうしても比較したりするのが人間の悲しいさがだもんねぇ。でもまぁ、即席チームにしては破綻せずに頑張ってるよ、ウチら。

 酷い時は、ウチのチームとかでも喧嘩が始まっちゃうんだから!」


 怜央奈のチームだと、そんな事が頻繁にあるらしい。陽菜やみっちゃんも、チーム内での揉め事は割と経験して、あの状況は悲惨でスと沈痛な顔をしている。

 自分の妹としか喧嘩した事のない姫香は、そうなんだと驚いた表情。ウチは家族チームで、ペットも従順で平和なんだねぇと改めて気付く事実である。


 そんな事を話している内に、休憩も終わってツグミの先導で探索は再スタート。陽菜も後半は自重して、大事な仲間のご機嫌を窺いつつ内側からのチームの形造り。

 それも探索において、とっても大切な技術には違いない。ある意味、戦闘スキルより重要だと、チームの亀裂を経験した事のある面々は思っているかも。


 そんな戦闘も、前衛陣が交替でになって今の所は順調である。後半から出現し始めた、カサゴ獣人はヒレに毒持ちでその攻撃が少々厄介ではあるモノの。

 インプや待ち伏せの大ウニの処理も慣れて来て、時間を掛けずに処理して行ける。


 そんな23層でも、前と同じく狭くていかにも罠がありそうな通路を発見。さすが遺跡タイプのエリアだねぇと、一行はどんな罠かなと慎重に見定めている。

 みっちゃんは今度も何か無いかなと、通路の上方をひたすら眺めているようだ。今回は上部に隙間の類いは見られず、どちらの横壁にもスリット穴は無い。


 それを見たお気楽なみっちゃんは、大丈夫そうっスよと率先して歩き始めた。宝箱が置いてあるなら、この狭い通路の奥側でショとかのたまいながら。

 その途端に音を立てて動き出す、左右の重厚な石壁である。恐らくは粗忽そこつな彼女が、仕掛けを踏んづけてしまって罠を作動させたのだろう。


 他の面々は慌てながら、みっちゃん逃げてと連呼しているけど間に合うかどうか。何しろ元から通路の幅は1人が通り抜けるのがやっとのサイズなのだ。

 それが左右から閉じ始めるスピードは、たとえ遅くても割とあっと言う間だ。姫香が慌てて相棒にお願いすると、ヤレヤレと言った表情のツグミが闇を操り始める。

 結果、何とか闇の通路でみっちゃんは無事に潰されずに戻って来れた模様。


「良かった、今回の仕掛けはさすがに肝が冷えたっ! みっちゃん、アンタ粗忽そこつ過ぎだよっ!?」

「め、面目ないっス……いや、自分ももう駄目かもって走馬灯が見えたっス」

「そんなの悠長に見る暇があったら、そのおっちょこちょいの性格直しなよっ、みっちゃん!」


 友達から散々に言われて、ションボリしているみっちゃんはもう18歳。陽菜よりは1歳ほど年下だが、姫香や怜央奈よりは年上である。

 しっかりしてよねと、年下の怜央奈にまで叱られ慣れてるみっちゃんは少し不憫ふびんかも。ツグミも可哀想に思ったのか、動いた壁の後ろに何かあるよとご主人に話題転換。


 それってナニと、驚いて確認に向かう面々は動いた壁の奥に隙間を発見して大興奮。ここにもあったよと、隠し金庫みたいな宝物庫を発見して盛り上がっている。

 見付けた隙間は子供の両手の幅位しかなくて、中身も大物は入っておらず。とは言え、リングとコインを仕込むには充分な大きさで、実際それらはしっかり7枚ずつ入っていた。


 それを確認して大喜びの女子チームの面々、怒られていたみっちゃんもそんな事は忘却の彼方である。一緒に万歳しながら、率先して小躍りしている。

 そして怜央奈に撮影されて、弱みを握られると言う毎度のサイクル。それはともかく、この23層ももうすぐ階段が見えて来る筈である。


 一応、突き当りまでツグミに確認して貰って、そっちの方向へと移動して行くと。例の磯風味のゴーレムが、今度は2体揃ってお出迎えしてくれた。

 それを確認して、姫香が前衛へと躍り出る。それから『天使の執行杖』をハンマーモードへと変換して、強烈な一撃をお見舞いしてやる。


 もう1体は、陽菜と萌が抑え込んでくれての時間稼ぎ。姫香がこちらに来るまで、無理せず敵の気を逸らせている。こんなフォーメーションも、既にすっかり慣れたモノ。

 そうして、2体のゴーレムから魔石(小)とリングを2個ずつゲット。


「よっし、リングも追加でゲットしたし、23層もクリアしたし順調だねっ。この調子で後2層頑張ろう、ヘマしちゃ駄目だよっ、みっちゃん」

「何で私が名指しなんっス……いや、反論出来ないので黙ってマス、はいっ」

「それがいい、結果は言葉でなく行動で示すんだ」


 男前な事を口にする陽菜は、ようやく乾いた服を着てしたり顔である。なんだかなぁと思う姫香だが、コインの回収率も良いのでここはスルーする事に。

 チームも上手く回転してるし、変に注文を付けてる場合でもない。





 ――とにかくこのチームで、残りの2層を無事にクリアに励むのみ。






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