第639話 2チームとも無事にダンジョン攻略を終える件



 護人チームの探索隊は、無事に8層を過ぎて9層へと到着を果たした。そこも湿原が拡がっていて、移動がとっても大変なエリア仕様のようだ。

 相変わらず出現する、太古の水棲モンスター類は割と種類が豊富で見応え満載である。ついでに戦う相手としても、大型のワニや太古のカバ型モンスターは強烈。


 最終的には、アンモナイト型の貝類モンスターも出現して、その甲殻の硬さに苦しめられる一行であった。柔らかい場所は攻撃を仕掛ける時以外は、姿を現さない狡猾さはとっても厄介。

 そんな連中が数匹と、ワニ型のモンスターの湿原からの奇襲に見舞われて。これにはレイジーもプッツン来て、召喚の手綱を手放しての戦闘参加。


 さすがに水の中に潜んでいた敵の感知は、炎の召喚獣では無理だったみたい。それでもプライドを傷つけられた彼女は、そんなワニモドキ達に怒りの矛先を向けての猛アタック!

 気の毒なワニモドキは、『可変ソード』に粉みじんに斬られてあっという間に昇天の憂き目に。やっぱりレイジーは、探査役よりアタッカーの方が10倍向いている気がする。


 硬い甲殻のアンモナイトは、直径が3メートル以上とタフな相手ではあった。触手もそれなりの太さで、しかも素早く出し入れしてぶった切るのも大変と言う。

 ルルンバちゃんのレーザー砲も、何と敵の甲殻は跳ね返す硬度で護人もビックリ。コロ助の新スキル《咬竜》も、残念ながらその牙は全く通じずの結果に。


 それならと、護人は理力の攻撃に切り替えての接近戦に。薔薇のマントのサポートは、今ではすっかり信頼して意思の疎通もほぼ完璧に出来ている。

 こんな足場の悪い場所での戦闘でも、飛行と言うか浮遊の能力で不便はない。接近戦でも、最近覚えた《堅牢の陣》がオートガードしてくれるし。

 そう言う意味では、前衛能力も随分伸びて来ている護人である。


 それから《奥の手》による、必殺理力アタックの流れでまず1体目を撃破。そこで何故か、まさかの末妹から待ったが掛かろうとは護人は思ってもいなかった。

 その制止は時既に遅しで、横薙ぎの一撃で残りの2体も一気に倒してしまって後の祭り。いや、まだまだ敵が周囲にいるこの状況で、戦いを止めるってのは割と致命的なのだけど。


 怒れるレイジーと、それに感化されたのかハンマーを振り回すコロ助の暴れっぷりは、まるで戦場に放たれた鬼神である。そんな殲滅戦に、ようやく区切りがついたのがそれから5分後の事。

 ようやく事態が落ち着いて、ルルンバちゃんが湿地帯に落ちた魔石を拾い集め始めてくれる。そんな中、さっきの制止は何だったのと護人の質問に、末妹の答えは至って簡潔だった。


「だって、コロ助が自分が倒してやるって物凄く息巻いてたからさ。叔父さんが全部倒したら、拗ねちゃうと思って……うん、やっぱりちょっと拗ねてるかも?」

「ああっ、それは悪かったな……ルルンバちゃんの大砲も弾かれて、コロ助のスキルも効かなかったから。さっさと倒さないと、こちらに被害が出ると焦っちゃったかな?

 でもまぁ、全部取っちゃって悪かったね、コロ助」


 ペット達とも会話が可能な香多奈の通訳は、とっても的を射ているようでコロ助は確かに拗ねた表情。普段は好きに暴れさせているので、こんな事はあまり無いのだが。

 その代わりとして、末妹から10層の中ボスを譲ってあげたらとの提案に。それでいいかいと護人が尋ねると、嬉しそうに尻尾を振り回すコロ助である。


 ただし、コロ助だけでは不安なのでルルンバちゃんも加えてあげたい。恐らく10層の中ボスも、大型恐竜が出て来る確率が高いだろう。

 召喚した炎の軍団を使い切ったレイジーだが、中ボスの間はすぐ先に見えていた。湿地帯に浮き島のように存在するそこは、丸太の柵に囲まれてまるで砦のよう。


 5層の奴とそっくりなので、やっぱり中ボスも似た感じだろうとの護人の推測は大当たり。中に突入した面々は、狂暴そうなティラノサウルスとご対面。

 お供にも中型の肉食竜が5体いて、これはコロ助とルルンバちゃんだけではハードかも。それでも見せ場を作って貰った1匹と1機は、大張り切りで前線に飛び出して行く。


 そしてルルンバちゃんのレーザー砲で、早速手下の恐竜が弾き飛ばされて行った。コロ助も愛用のハンマーを咥えて、その上覚え立ての《咬竜》を発動させての大暴れっ振りである。

 実際に、ティラノサウルスを引っ繰り返したのはコロ助の一撃だった。巻き込まれた手下の恐竜は気の毒だけど、この様子なら安心して見ていられそう。


 そんな感じで、狂暴な暴君との呼び声も高かった肉食恐竜も、コロ助に掛かっては遊び相手でしか無かった模様。ルルンバちゃんも近接戦を頑張ってくれて、モノの数分で中ボスの間の掃除は完了の運びに。

 そして子供達からねぎらいの言葉を貰って、コロ助の機嫌も完全に直ってくれたようだ。香多奈もルルンバちゃんを従えて、早速宝箱のチェックに向かっている。


 この前の9層でも、鳥の巣型の宝箱をゲットしていたので、今回の探索での回収品はまずまずだろうか。香多奈と妖精ちゃんの出番も、結局回って来なかったしその点は良かった。

 これから来た道を戻って行く作業もあるけど、まぁ何とかなるだろう。取り敢えずは変なイレギュラーが無くて良かった、姫香のチームも何事も無ければ良いけど。

 そう思う護人の願いは、まぁ見事に裏切られるのだが――。




 狐の嫁入りの行列だが、戦力の大半は武者姿の狐獣人と狐火が占めていた。その数は20体以上と、レア種にしてはかなりの大戦力集団である。

 その中心にいるのが、輿こしに乗った花嫁姿の狐の花嫁。輿を担いでいたのは、実はじれた樹木のゴーレムだったようで、体格は3メートルに近いのが4体いる。


 それらが鈴を鳴らしながらの行進をしていて、それを見てしまった女子チームを物理的に排除しようと戦闘態勢に。簡単にやられてなるかと、当然姫香たちも迎え撃つ構え。

 それにしても嫁入り行列は、なかなか神秘的で見応えがあった。とは言え花嫁姿の狐は、今は銀髪を振り乱した女狐へと変貌を遂げて見る影もない有り様。


 衣装が綺麗なだけあって、その怒りの形相はギャップが物凄い事になっている。あれの相手は私がするねと、姫香が名乗りを上げてはくれたけど。

 みっちゃんや怜央奈は、かなりビビッて尻込みしそうな勢い。茶々丸は何も考えず、背に萌を乗せて迎え撃つ構えを取っていて頼もしい限りだ。


 陽菜も同じく、そして唐突に始まる狐獣人との命を懸けたチャンバラごっこ。ツグミが敵の中心に、新スキルの『毒蕾』をぶっ放しての先制打を見舞っている。

 それを無視して近付く狐火の大きさは、戦いの興奮に膨れ上がってバランスボール位に。それ目掛けて怜央奈が『光弾』を見舞うが、代わりに火炎玉が複数飛んで来た。

 それを慌てて避ける面々、さすがレア種は伊達ではない。


「油断するな、敵はどいつも強いぞっ……取り敢えず狐火は私が引き付けておく、ツグミが弱らせた奴をみっちゃんと怜央奈で数減らしして行ってくれっ!」

「りょ、了解っ……茶々萌コンビが、作戦に関係なく突っ込んで行ってるけど。まぁ、そのお陰で敵も混乱してるから、私達で何とか倒して行くよっ!」

「そっ、そうだね……こっちを片付けて、姫ちゃんの応援に行かないと!」


 怜央奈の言う通り、大ボスをツグミと一緒に抑え込んでる姫香はとっても大変そう。何しろ付随の、ゴーレム4体もそれなりの強さを備えているのだ。

 こちらをさっさと片付けたいけど、どうやら狐火モンスターは通常攻撃が効かないようだ。しかも火炎玉を周囲に吐き続けており、その存在はとっても厄介。


 引き受けると言った陽菜も、この数相手はかなり大変には違いなく。何も考えずに暴れ回っている、茶々萌コンビがとっても羨ましい。

 それでも現状を打破すべく、少女たちは武器を振るうのだった。



 相棒のツグミは、早くも捻じれた木製ゴーレムを1体撃破してくれていた。姫香の方は、怒り狂う女狐の花嫁の相手で手一杯と言った所。

 そんなに嫁入り行列を見られた事が、腹にえかねたのだろうか。姫香には分からないけど、まぁ既に謝って済む問題では無いのだろう。


 女狐大ボスの攻撃は、獣人特有の体術からの爪の切り裂き攻撃がメインみたいだ。ついでに狐火も飛ばして来るし、噛み付き技も普通に使って来る。

 それが途切れなく、近付いても距離を置いてもやって来るので対応は超大変。こちらも『圧縮』防御と《舞姫》を発動させて、何とかいなしている感じ。


 場所取りに失敗すると、護衛のゴーレムも参戦して来るから厄介ではある。それから一応、茶々丸の心配などもしてるので案外と心に余裕はあるのかも。

 いや、攻撃大好きな姫香が防御一辺倒なので、それなりにストレスは抱えているのだけれど。とか思っていると、ツグミが2体目のゴーレムを『土蜘蛛』で破壊してくれた。


 それから反転して、意外と近場で戦ってる茶々萌コンビのフォローなどもしてくれつつ。本当にその献身振りと能力は、縁の下の力持ちとして申し分なし。

 お陰で陽菜やみっちゃんにも余裕が出来て、毒攻撃で弱った狐獣人を2体ほど撃破出来た模様。玲於奈も魔法の《影刃》で、狐火の1体を始末してガッツポーズ。


 茶々萌コンビも突進と離脱を繰り返して、場を混乱に陥れている。そう言う点では、トリッキーなその戦法は敵に的を絞らせない要因になっているのかも。

 その隙を突いて、陽菜が更に狐火を1体撃破に至った。


 負けてはいられない姫香は、敵の大将の女狐との接近戦を挑みに掛かる。相手の鉤爪は強烈だが、大半は《舞姫》の華麗な防御で避けられている。

 それでも被弾するのは仕方が無い、向こうの陽菜やみっちゃんも結構な火傷を負いながら頑張っているのだ。姫香も『天使の執行杖』を大鎌モードにして敵の胴体を薙ぎに掛かる。


 それを敢え無く避けられ、飛び上がった空中でステップを踏む信じらない運動能力の女狐である。お返しの狐火アタックを『圧縮』防御で咄嗟とっさに防ぎ、姫香も飛翔からの一瞬で距離を詰めに掛かっての反撃を見舞う。

 戦いの境地に、姫香の思考はいつの間にか止まっているような錯覚を起こしていた。実際にはスロー再生なのだが、相手の細部まで観察するには申し分ない状況だ。


 そして気付くのは、自分の分身がいつの間にか敵の大将の背後を取りに動いている事実。どうやら知らずに《剣姫召喚》を発動していたらしく、女狐はその気配に気付いてもいない。

 ツグミのナイスフォローで、その分身は影で出来た階段を最短距離で駆け上がっていた。不意の空中戦に、相手も割って入る邪魔者はいないと油断している模様だ。


 お得意の空中ステップからの斬撃を、勝利を確信した女狐は目の前の姫香へと繰り出しに来る。そして当の姫香の勝ち誇った笑みに、相手はハッと気付いて背後を振り返った。

 時既に遅しの、分身の斬撃は本人も惚れ惚れする軌道を描いて敵の大将に叩き込まれた。熾烈な削り合いのレア種との戦いは、こうして幕を降ろす事に。


 地上でも、戦いの趨勢すうせいは既に決まりかけていた。残った狐獣人と狐火の数は、合計3体で茶々萌コンビが鬼火を追いかけ回している。

 茶々丸も無茶をしたのか、身体は切り傷と火傷が結構目立っている。その代わりと言ってはアレだが、敵の大将が乗っていた輿こしは宝箱へと変わっていた。


 ツグミが姫香の大将戦を見終わって、すぐさま陽菜たちのフォローへと向かって行った。そして姫香がポーションを飲み終わった頃には、全ての戦闘は終了の運びに。

 そしてみっちゃんの雄叫びと、宝箱を発見してはしゃぎ声をあげる怜央奈と言う構図。姫香の分身はいつの間にか消えていて、後に残ったのは強烈な倦怠感と言う。

 どうやら理力だか精神力も、ポーションで回復する必要がありそう。





 ――ただまぁ、全員で生き残れたのをまずは喜ぶべきか。






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