第638話 ダンジョン後半も2チーム気合入りまくりで探索する件



 “水軍城ダンジョン”も6層になると、若干エリアの雰囲気も変わって来た。フィールド型には変わりないけど、先程のお城周辺の行き来ルートとは様相がガラリと変わっており。

 代わりにその麓に広がる、お寺とお墓周辺のエリアの切り抜きになるみたい。お城は一応見上げる事は出来るけど、そちらへはどうやっても行けなくなっている。


 時間もずっと夕方と言うか、薄暗闇に固定のエリアらしい。何故ならここから出現する敵は、スケルトンやゾンビなど死霊系に固定されるから。

 先ほどの活劇エリアから転じて、6層からはホラー調へとシフトするみたい。妖怪系も出るそうで、侮れないエリアへと変貌を遂げるとの情報が上がっている。


 とは言え、そこはやはりC級ランク……ゾンビや骸骨の強さは大した事は無いし、前衛に関しては2人いれば充分事足りる程度でしかない。

 そんな訳で、薄暗いお寺の山門を潜って境内へと侵入を果たす姫香チームの面々。お墓へと続く道からは、さっそくゾンビと骸骨の混成軍がお出迎えして来た。


 数は半ダースと、まだまだ1人でも何とでもなる勢力でしかない。ここは陽菜が、新武器の『王者の剣』の光属性の威力を試させてくれと前へと出て行く。

 もちろん茶々萌コンビも前へと出張って、これにて前衛の席は全部埋まった感じ。そんな感じで、女子チームは余力を残しながら6層目を突破する。


 薄暗闇の中の墓地は、通り抜けるだけで雰囲気があってかなり怖い。しかもそこに出没するのは、ホラー要素たっぷりのゾンビ&スケルトンである。

 幸いにも、ほとんど武器や防具の類いは装備していない雑兵なので、やっつけるのも簡単だった。茶々萌コンビも雑魚だなと、余力を残して貫禄を示す程。


 残ったメンツは、ドロップした魔石を拾いながらわざと明るい空気を発している。チームの雰囲気まで暗くなったら、これは地獄だなと考えての行動なのだけど。

 そのお陰かはともかく、続く7層も順調に突破出来てまずは良い調子。この層のゾンビは武者鎧など着込んで日本刀を構えていたけど、そこまで強くは無かった。


「あらら、簡単に8層まで到達しちゃったね、薄暗いエリアだから手古摺てこずるかなって思ったけど、出て来る敵はそんな強くはない奴等ばっかだね。

 この調子なら、10層の中ボス倒して戻っても大丈夫かも?」

「そうだね、お昼休憩が長過ぎたかなって思ってたけど……このペースなら、充分に巻き返せるし良かったね。怜央奈の『光弾』もこのエリアの敵と相性良いし、この先も問題は無さそうだねっ。

 そんで、引き続きこの層も陽菜が前衛をやるの?」

「当然だ、姫香は後ろでドンと構えていればいい。茶々萌コンビとも何とか意思疎通が出来るようになって来たし、まだまだ行けるぞ」


 陽菜ちゃんは元気だねぇと、呑気な怜央奈の呟きはともかくとして。一緒に後衛にいたみっちゃんは、このエリア変じゃないっスかと突然の疑問形。

 確かに8層に到着して、既に5分以上は歩き回っている女子チームの面々である。その間、未だに1匹のモンスターとも遭遇せず、とうとう墓地の端っこまで来てしまった。


 7層ではシャドー族やらのっぺらぼうやら、ゾンビや骸骨以外の敵もそれなりに出没して来た。今回もそれを警戒していた先頭のツグミは、肩透かしを喰らった表情。

 今回のツグミは、戦闘には余り参加せず斥候役に重きを置いている。もちろん前衛のフォローは頑張っているけど、それも派手にならない程度のスマートさ。


 そんな彼女も、主の姫香を振り返ってこのエリアは変の合図を送って来た。さすがの姫香も、ここのエリアの急な敵の不在には思う所がある様子。

 過去の記憶をかんがみて、これは大物のレア種が出現する前振りな気がして仕方が無い。姫香がチームの皆にそう警告を発する前に、その鈴の音は山の斜面から響いて来た。


 同時にフィールド型のこのエリアに小雨がぱらつき始めて驚く一同。咄嗟に空を見上げるけど、薄闇の上空には雲などかかっていない。

 天気雨かなぁと呑気な怜央奈の言葉に、狐の嫁入りっスねと古い言葉で応じるみっちゃん。田舎では良く使われる、晴れの天気でのにわか雨を指す言葉なのだけど。

 ここに至っては、何だか不吉な予言でしか無いような。


 実際、鈴の音色は一定間隔でお寺の背後の斜面から鳴り響き続けている。一行が見守る中、やがてその斜面を下って来る狐火の行列が。

 それらは一定距離に近付くと、不意に時代物の着物を着た行列へと変わって行った。全員が狐の面を被っており、中央には立派な駕籠かごを大男が前後4人で担いで歩いている。


 駕籠かごの中には綺麗な花嫁衣裳を着た女性がいて、なるほどこれは狐の嫁入りである。これは人間が見ちゃ駄目な奴っスと、慌ててチームに注意を飛ばすみっちゃんだったけど。

 時既に遅し、そもそも狐火の行列は向こうから近付いて来たので遭遇は避けられない。そしてこれは怪異と言うより、恐らくはレア種認定で間違い無い筈。


 そんな言葉を返す姫香は、既に武器を構えて戦う気満々である。相棒のツグミも、これは全力で戦わないと不味い敵だと確実に気付いている様子。

 さっきまで光属性の武器で無双していた陽菜は、レア種出現と聞いて顔色を無くしている。みっちゃんや怜央奈も同じく、そんな存在と遭遇するなんて完全に予想外。


 そんなチームメイトを鼓舞して、大物は自分が受け持つからと姫香の強い言葉。末妹の香多奈のようなバフ効果は無い筈だけど、それは確実にチームの意気を持ち直した。

 駕籠かごからゆっくり降りて来る花嫁衣裳の狐が、どうやら敵の大将らしい。そいつは任せてとの姫香の言葉が、どうやら戦いのゴングとなった模様だ。

 狐火の仮面兵団は20体以上、かなりハードな戦いになりそう――。




 5層の中ボス部屋で昼食中の護人チームは、姫香が不在でも寛いだ雰囲気である。或いはいない方が、姉妹喧嘩が起きないので平穏とも。

 中ボスのドロップや宝箱の中身も、無事に回収に至って香多奈は上機嫌。宝箱の中には、定番の鑑定の書や薬品類や木の実に混じって、魔結晶(小)も6個入っていた。


 それだけで15万円の価値があるし、恐竜の骨素材の装備品も幾つか窺えた。紗良と妖精ちゃんの話では、魔法アイテムも幾つかあるとの話だし。

 順調だねとお握りを頬張る末妹と、その隣でおこぼれをがっつくハスキー達である。おにぎりの具は、海の幸の貝類やらが入っていてとっても豪華。


 おかずも同じく豪華で、持たせてくれた旅館にはとっても感謝である。それらを食べ終えた一行は、休憩後に更に深層を目指す事に。

 無理はしない方針だけど、リミットの夕方までまだ時間はたっぷりある。今日の間引きを充分にこなしておけば、当然地元の人も安心するって寸法だ。


「お昼のお弁当、確かに凄く美味しかったんだけどさ……何だか豪華過ぎて、胃がビックリしちゃってるかも。

 やっぱり紗良お姉ちゃんのお握りの方が、食べ慣れてて胃が落ち着くよねっ」

「あらら、お世辞でも嬉しいなぁ……それじゃあお弁当が出ないときの探索は、頑張ってみんなの分を作らなきゃね」


 そんな事を話している2人は、まるで本物の姉妹のよう。姫香相手だとあんなに生意気な香多奈なのに、本当に不思議な話である。

 それはともかく、探索開始だと知って再び火の鳥を召喚し始めるレイジー。今回も4羽ほどの火の鳥と、3匹の炎の狼を召喚して手足&探索の目鼻にするつもりらしい。


 スキル持ちのツグミに較べれば、確かに燃費は悪いけどこれはこれで戦力にもなるし便利ではある。何しろその気になれば、20匹程度の手下を揃えられるレイジーである。

 巨大なタイプも、前回萌やムームーちゃんに協力して貰って作っていたけど。そうなると、本当に炎の精霊級の強さの味方を召喚してしまえる計算になってしまう。


 さすが来栖家のダブルエース、その片割れはお昼ご飯を食べて紗良の肩の上でとっても眠そう。まぁ、ミケがそんな性格なのは、家族の皆が既に知っている事なので問題は無し。

 いざと言う時の切り札になってくれれば、それで良いのだから。



 そして侵入を果たした第6層だけど、フィールド型には変わりは無し。密林エリアで、そこかしこに恐竜だか古代生物の気配が漂っている。

 そんな古代のジャングルだが、湿地帯も近くにあるのか湿気が酷い。先行するレイジーとコロ助も、ぬかるみを避けるのに苦労しているみたい。


 そんな中、容赦なく襲い掛かって来るラプトルや大トカゲの群れである。それから大トンボに、三葉虫っぽい甲殻類も割とたくさん。

 護人は空からの敵に対応して、前衛はハスキー達とルルンバちゃんに丸投げである。今回もコロ助の首にくっ付いているムームーちゃんも、《水柱》スキルでお手伝いに励んでいる。


 そして何気に、キル数を稼いでいるのは水属性の強いエリアのせいかも。レイジーの召喚した炎属性の召喚獣たちも、何となく勢いが無いように見えてしまう。

 それでも階段までのルートを、相変わらず最短で案内してくれる優秀なレイジーに従って。一行は危なげなく、6層を突破して7層へと侵入を果たす。


 懸念された人数減少での戦力不足は、今の所は無いようで一安心と言った所。香多奈や妖精ちゃんなどは、いざとなれば自分の必殺技の番かななどと思っているみたいだけど。

 そんな場面が無い事を、ひたすら祈っている護人だったり。


 各々の思惑を含みつつ、“しまなみビーチダンジョン”の探索は続いて行く。そして7層の途中からは、湿地帯が多くなって来て止む無く陣形を交代する事に。

 前衛はともかくとして、後衛が湿地帯を進むのはとっても大変で考えた末の案はルルンバちゃんの活用だった。つまりは、紗良と香多奈はルルンバちゃんに騎乗して運んで貰う事に決定。


 その代わり、またもや護人が前衛に出て敵の討伐に当たる流れに。レイジーは『歩脚術』があるので、水の上でも楽々歩く事が出来る。

 コロ助も香多奈に『応援』を貰って巨大化すれば、移動にそれほど不便はない。ルルンバちゃんも同じく、水陸両用と言えば聞こえはいいが、荒れ地にも順応する高性能振りである。


「さて、配置転換もこんな感じで良いかな……この先は、恐らく水場の敵が多く出て来そうだから注意して行こうか。

 もちろん恐竜系も多いだろうし、頼んだよレイジーにみんな」

「頑張ってね、レイジー……コロ助とムームーちゃんも、引き続きしっかりね。案外良いペアなんで、ちょっとビックリしちゃってるけど。

 油断しちゃ駄目だよ、敵はどんどん強くなって行くんだからね!」


 そんな末妹の声援に、揃って任せておいてとのペット達の表情である。護人も再び前衛へと出て、早速出現したワニ型の古代生物を相手に奮闘中。

 やっぱり湿原の敵は、古代生物においても狂暴な奴が多いかも。少し進んだ先では、カバのご先祖みたいなモンスターに襲われて、コロ助が慌てて対応する破目に。


 環境の変化に苦心しつつも、何とか7層目は最短で突破に成功。レイジーの監視眼は、たくさん飛ばしているだけあって半端なく有能である。

 そして辿り着いた8層だけど、より湿地帯の割合が多くなってきた気が。遠くに首長竜の群れも見えたりしちゃって、まさにジェラシックワールドである。


 やっぱり間引きは適当にすべきだよねとの末妹の言葉に、レイジーは偵察部隊を引っ込めて戦闘モードへと移行する構え。なるほど、彼女もやっぱり暴れ足りなかったらしい。

 それじゃあ付き合おうかと、護人も相棒に許可を出す。





 ――そこからは、A級チームによる巨大恐竜の狩りの始まりである。







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