第637話 お昼を過ぎで両チーム5層も順調に突破する件



 “水軍城ダンジョン”でも、同じく4層で宝箱を発見……と言うより、坂の途中に捨て置かれた背負い籠をツグミが見付けて、その中に薬品や木の実が入っていた感じ。

 その他にも鑑定の書や魔玉や、定番の品々が幾つか入っていたけど当たりはないみたい。それでもようやくの回収品に、盛り上がる女子チームである。


 このダンジョンはフィールド型にしては造りは単純で、行けるエリアも限られている。高台のお城と、そこに至る坂道しか行けなくなっており、道もほぼ1本のみ。

 分岐も無いので、1層に掛かる時間は戦闘を含めて30分も掛からない。お陰で午前中に、5層の中ボス部屋に到達する事が出来そうだ。


 みっちゃん辺りは既にお腹が空いたと弱音を吐いてるので、そろそろお昼休憩を考えるべきか。そんな訳で、姫香も中ボスを突破してお昼にしようと提案する。

 それにはみんな、賛同してくれて後は中ボスを倒すのみ。


「さあっ、そうと決まればサクッと中ボスを倒して、お昼ご飯を食べるぞっ! 旅館の用意してくれたお弁当は、かなり豪華そうだし期待が持てるな」

「そうっスね、貰った時にお寿司の匂いがしてたっス! 巻き寿司かな、ちらし寿司かな……やっぱり遠方からお客が来ると、待遇がまるっきり違うっス!」

「それはいいけど、次は怜央奈の番だっけ? 茶々丸と私が前衛やるから、撮影はみっちゃんに任せて新魔法を披露してごらんなさいよ。

 アンタ、昨日もほとんど活躍しなかったもんね」


 それは来栖家チームが、べらぼうに強かったからでしょと憤る少女の言い分はもっともかも。そんな女性チームだが、前衛陣は素直に姫香の指示に従って配置転換をこなして行って。

 怜央奈は、新しく融通して貰った『魔術師の杖』を手にどんと来いと勇ましいポーズ。それを撮影するみっちゃんは、まるでモデルのように年下少女を言葉で持ち上げている。


 撮影会じゃないんだからと、突っ込む陽菜の声はかなり呆れているかも。それより5層の敵も、多少オーク獣人や忍者ヤモリが増えた程度で難易度に変化は無し。

 それらをブロックする来栖家チームの前衛陣、そこに後衛の怜央奈から放たれる魔法スキルが着弾する。その威力は一撃必殺とは行かないが、まずまずの威力を示していた。


 怜央奈の持っていたスキルは、『灯明』や『危険感知』と後衛にしても頼りないモノばかりだったのだが。新たに《影刃》や、つい最近『光弾』と言う攻撃系の魔法スキルを覚える事が出来たお陰で。

 格段に探索に役立つようになって、チーム内の格もそれなりに上昇した次第である。元々、兄のチームに厄介になっていて、撮影や荷物持ちの仕事をしていた少女だったのだけど。


 最近は、それに加えて魔法アタッカーの仕事もこなせるように。特に特殊スキルの《影刃》は、怜央奈の持つスキルの中では攻撃力もピカ一である。

 最近覚えた『光弾』スキルも、ゴースト系なら一発で追い払えるレベル。まだまだレベルが低いせいか、無双とは行かないが成長は確実にしている模様だ。

 それを仲間に見せびらかして、鼻高々の少女である。


「おおっ、なかなかの威力の攻撃魔法だな……出会った頃のヘッポコ振りに較べると、格段の成長だぞ、怜央奈。しかし光と闇の属性魔法を操るとは、さすがの厨二病だなっ。

 格好良さを追求した感が溢れ出ていて凄いぞっ」

「そっ、そう言われればそうかも……そうか、怜央奈と話してて何か変だなって思ってたけど。その理由は、厨二病にあったんだ」

「ちょっと、私を変な病気にかかってるみたいに言わないでよっ! ちゃんとしっかり褒めて、みっちゃんみたいにっ!」


 そのみっちゃんは、撮影しながらやっぱりモデルを扱うみたいに褒めまくりの言葉を発している。この女子チーム、一応探索は順調だけど変な人ばかりな気も。

 そんな事を思うツグミ、ご主人が類は友を呼ぶでない事を祈るのみ。茶々萌コンビは、何も考えておらず新たな敵が出て来ないかなと周囲ばかり気にしている。


 そもそも、もう目の前は城壁に囲まれた中ボスの間である。その大きな扉は、恐らく少女の腕力でも押せば簡単に開いてくれる仕様の筈。

 とにかくこれで4人とも全員が、皆の前で腕前を披露し終えた訳だ。後は心置きなく中ボスを退治して、仲良く揃ってお昼にすれば良い。


 事前の動画チェックでは、ここの中ボスはオーク将軍が圧倒的に多いみたい。今回もそうかなと、何の気負いもなく開けた姫香が見たのはまさにそんな感じ。

 オーク将軍が1体と、その護衛のオーク兵が3体ほど。ついでにその手下に、ゴブリン兵士が5体いるけど足止め役程度だろう。


 ツグミが真っ先に動いて、城の壁際に隠れていた忍者ヤモリ獣人を倒してくれていた。それから後はお好きなようにと、少女達に手柄は譲ります的な表情。

 それに乗っかる素直な陽菜が、真っ先に前に出て中央突破を仕掛けて行く。当然敵のゴブリン達にブロックされて、その勢いは尻切れトンボに。


 茶々萌コンビも同じく、それでも得意の突進のキレは、陽菜よりはよっぽど凄かった。瞬く間に雑魚のゴブリンを2匹も倒して、今はオーク兵と遣り合っている。

 みっちゃんは弓矢で応戦、と言うか怜央奈と共に後衛からのサポートに徹している。姫香も友達に任せてばかりで、サボってはいられないと飛翔するように前線へ。


 最近は『白百合のマント』が、護人の薔薇のマントの動きを真似て飛翔を頑張って習得しようとしている気が。魔法のマントが、スキルを頑張って覚える事が出来るのかは不明だが。

 たまに思いがけず飛び上がり過ぎて、驚く姫香は割とお茶目かも。


 それより今回も、そんな飛翔効果がはまって中ボスに刃が届く位置へと着地出来た姫香である。背後を取られて慌てるオーク将軍は、雑な斬り掛かりで応戦して来た。

 それを慌てる事無く、キッチリ処理して反撃に転じる少女。仲間の陽菜からは、ズルいぞと批判を貰ったけどそんな事を言ってる場合ではない。


 戦いはいつでも非情なのだ、下手に長引かせて反撃を喰らうなど下策でしかない。そんな訳で姫香は、いつもの《舞姫》と《豪風》込みの回転撃で中ボスを華麗に撃破に至る。

 ついでに慌てる手下どもを、陽菜と挟み込む形で斬り刻んで始末して行く。そこから掛かった時間は、ほんの少々と言った所で結果としては上々だ。


 後衛陣からもブラボーと嬌声が上がっており、不機嫌なのは陽菜だけである。アンタ茶々丸みたいな性格だねと、思わず余計な台詞を口にしそうになった姫香だけれど。

 相手は末妹じゃなかったと、喧嘩を吹っ掛けるのは辛うじて止める事が出来た。代わりに抱擁をしての仲直り、毎回これが出来れば姉妹喧嘩は起きないと言うのに。

 その辺は、全く素直になれない姫香なのであった――。




 新スキルも披露して、テンション上昇中のコロ助は超元気で先頭を進んで行く。その隣には、護人と前衛役を交代したルルンバちゃんが勇んで並んで探索中。

 この案は末妹の香多奈から出て、とにかくルルンバちゃんにも色々と経験を積ませてあげたいと。何しろ彼も、ペット勢(?)の中では既に立派な中堅どころである。


 萌やらムームーちゃんやら、新入りも入って来てお兄ちゃん格となっているのだから。そろそろ他人の指示なしに、立派に独り立ちして欲しいそうな。

 確かに言いたい事は分かるし、それが出来ればルルンバちゃんも一皮むけるだろうと。紗良も賛成して、今は前衛を交代した所である。


 まぁ、この陣形が無理そうなら、再び護人と前衛を交代すれば良いだけの話。ルルンバちゃんの火力に関しては、誰よりも強いのでその辺の心配は必要はない。

 ただし、確かに判断力となると一歩も二歩も遅れてしまうのは確かである。それから“世界樹ダンジョン”で植え付けられた、トラウマ的なアレがどう作用するか。

 考えてみれば、心配事は割とあるのかも?


「大丈夫、ルルンバちゃんはやれば出来る子だからっ! コロ助もサポートしてあげてね、今日はアンタが前衛のリーダーなんだからっ。

 ムームーちゃんと一緒に、しっかり面倒見るんだよっ!」

「それはいきなり、コロ助が大変そうだな……そもそもルルンバちゃんの近接攻撃は、扱いが遠距離武器より得意じゃ無いってのもあるんだよな。

 親方が強い武器を装備してくれてるけど、ルルンバちゃんの腕はスムーズに縦横に振れるようには出来てないからなぁ。敵を連続で斬りつけたりとか、そう言う動作は苦手なんだよな。

 茶々丸みたいなチャージ技なら、まだ可能だけど」


 そう言えばそうだねと、近接装備のルルンバちゃんを眺めながら批評する末妹である。そもそも小型ショベル時代にも、そんな装備を試みた時もあったのだが。

 『念動』付きのマジックハンドでは、鞭とかが限界だと判明した気が。最近貰った《重力操作》を使っても、やっぱり細かい武器の扱いは難しいみたい。


 もっと馬力ばりき頼りの戦法にすればいいのにと、なおも辛辣な批評を加える香多奈。確かに体格とか馬力は一流のルルンバちゃん、それを戦闘に使えないのは悲しいかも。

 とは言え踏み潰し技も、そこまで脚パーツも巨大ではないし使いづらい。高速移動は可能になったけど、戦闘にまで流用するのはちょっと無理。


 “世界樹ダンジョン”では、火災を恐れて強火力のレーザー砲を封じられたせいで。あまり活躍出来なかった印象のルルンバちゃんなので、近接戦闘もこれを機に得意になって欲しい。

 ただまぁ、機体の構造上に無理な動きがあるのも事実なので。話し合った結果、色んな近接武器を試して貰って、ルルンバちゃん強化月間とする事に。


 同時に前衛の動きも覚えるために、積極的に前に出て貰う事になりそう。魔導ゴーレムボディの彼は、とにかく頑丈なので前衛向きではあるのだ。

 心優しくてちっとも勇猛果敢ではないのをさっ引いても、盾役の素質は充分のルルンバちゃんである。意外と機動力もあるので、ハスキー達とも足並みを合わせられるかも。


 そんなお試しをしながらも、護人チームは5層も順調に探索を進めて行く。程無く砦のような造りの中ボスの間を発見して、さてお昼前の最後の運動だ。

 今回も香多奈に推されて参戦するルルンバちゃんは、ヤル気だけは物凄い。やはり人間に頼られるのは、生活お助けAIロボにとっては嬉しい事なのだろう。


 特に気負わず突入した中ボス部屋に、待ち受けていたのは大型の草食恐竜だった。首長竜の類いだろうか、バカみたいに大きなそれに、いきなり突っ込むレイジーの召喚火の鳥の群れ。

 これからお昼休憩だし、それなら送還しちゃえ的な操作なのだろうけど。いきなり炎をぶつけられた中ボスは、絶叫を上げて暴れ始める。


 コロ助も同じく、覚え立ての《咬竜》を発動して大物に攻撃を仕掛けて行く。出遅れたルルンバちゃんだけど、律儀に近接攻撃を仕掛けようと右往左往している所。

 香多奈が後ろから、気張りなさいよと喝を入れている。その効果が乗っかったのか、近接装備を掲げてのショートチャージはなかなかの威力で中ボスに突き刺さる。


 相手の巨体が揺らぐほどのパワーは、やはり魔導ゴーレムの強靭ボディが原因なのかも。装備された大剣は、見事に首長恐竜の前脚の付け根に突き刺さっている。

 それが致命傷となったのは、やはりルルンバちゃんのチャージの効果だろう。この辺は規格外のパワーの持ち主、苦手な前衛でもしっかり結果を出してくれる。


 魔石に変わって行く中ボスを見て、ひゃっほうと喜ぶ末妹はある意味単純である。紗良は頑張ったルルンバちゃんを褒める気満々で、全体を見ての気配り屋さん。

 護人も皆をねぎらいながら、まずまずのペースにホッと安堵のため息。本来のチームから4名も抜けた状態なのに、皆が頑張ってその穴を埋めてくれている。

 特に前衛陣は、B級ランクのダンジョンなのに気合入りまくりだ。





 ――出来れは後半も、この調子で頑張りたい所。






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