第636話 両チームともそろそろ5層の中ボスに挑む件



 急造とも言える姫香チームの探索は今のところ順調で、多少騒がしいのが玉にきずと言った感じか。それでもリーダーの姫香は、締める箇所はキッチリ締めて大きなアクシデントは無し。

 階層更新も順調で、ハッキリ言ってC級ランクは少々物足りない感じ。出て来る獣人軍は、一応バラエティは豊かで装備は整っているけれど。


 やはり雑魚の集まりと言う感覚は否めず、パワーアップしている陽菜やみっちゃんも全く危なげは無い。獣人に関しては、1層でゴブリンで2層は何とサハギン軍だった。

 そしてこの3層ではオーク兵が混じり始めていて、やや手応え的には増して来た感も。とは言え出て来たオークは数える程で、大半は雑魚のゴブリン軍である。


 そんな訳で、姫香チームの面々は少々趣向を凝らして、各々のパワーアップを順に披露して行く事に。面白そうだねと、その陽菜の案は誰からも反対は出ず。

 そして言い出しっぺの陽菜が、一番手を名乗り出てゴブリンの群れへと突っ込んで行った。釣られて突進する茶々萌コンビに邪魔されつつ、陽菜は新スタイルを披露する。


 彼女の戦闘スタイルは、色んな武器を使い分けてのゴリゴリの前衛である。剣や薙刀、一時は双剣での二刀流にはまったけど、今は一巡して普通の剣士タイプへ戻って来た感じ。

 そして来栖家から新しく贈られた『王者の剣』は、光属性で相性的にも良い感じ。そんな彼女の戦闘スタイルは、『瞬身』と『腕白』での完全なるアタッカータイプ。


 とにかく『瞬身』で一気に敵の死角へと移動して、それから『腕白』で上昇した腕力で武器を叩きつける。残念ながら最近覚えた『鋭敏』は、どちらかと言えば探索系のスキルだった。

 例えば、敵の気配を前もって感知するとか、罠を見破るとかには良いのだけれど。戦闘力の上昇には、今の所は結び付けられず残念な引きだった。


 それでも、全体的なパワーアップは大事だし、訓練次第では戦闘にも生かせそう。何より陽菜には、あのザジもうらやんだ《獣化》と言う必殺スキルがあるのだ。

 ただまぁ、これを使うと高確率で理性もブッ飛ぶ賭けみたいなスキルではあるけど。まさに奥の手って感じで、現在は理性を手放す一歩手前までの開放を模索中である。

 ただし今回の戦闘は、そこまで見せずに終了してしまった。


「うむっ、茶々丸に萌も活躍したいのは分かるが……こう、話の流れを読んでくれ。いや、さすがにそれは無理か?」

「叱れば分かるけど、敵が出て来たら戦うのは悪い事じゃないもんね。まぁ、ちゃんと陽菜の成長も見れたし良かったんじゃない?

 新しい武器も、無難に使いこなしてたしね」

「陽菜ちゃんは、そう言う所が上手いっスよねぇ……武器の扱いは器用な癖に、戦闘になると猪突猛進な所があるのがアレっスけど。

 前衛能力は、他のチームの人と較べてもピカ一なのは保証するっス!」

「陽菜ちゃんとみっちゃんは、たまに他の女子チームと組んであちこちのダンジョンに探索に回ってるんだっけ?

 頑張ってるよねぇ、決まったチームが無いってのにさ」


 怜央奈のそんな言葉に、それも転移装置を手にするまでだと嬉しそうな陽菜である。そうすれば、地元で暮らしながら来栖家チームと一緒に探索や合同訓練が出来ると言うモノ。

 みっちゃんも同じく、今回の来栖家の旅行はとっても楽しみにしていた模様。それから次は私の番っスかねと、次の獣人の群れを発見して勇ましく前衛へと躍り出る。


 彼女は女子チームで一番の長身で、体型で言えばバリバリ前衛にしか見えない。それでも『海賊』スキルのお陰で、弓矢の扱いも上手で後衛に配される事も多かったり。

 性格的にも前へ出る感じでもない彼女は、周囲から言われるような海賊の末裔とはかけ離れている気が。それでも『献身』や『流水行』は、間違いなくみっちゃんの戦闘能力を底上げしてくれている。


 特に『流水行』は、流れる水のような動きに加え、水上を自在に歩けると言う島暮らしにはこの上ないスキル。漁のお手伝いもしているみっちゃんには、普段の生活にも役立っていて大助かりだ。

 新たに取得した『曲芸』と言うスキルも、船の上でのバランスを保つのに大助かり。ついでにトリッキーな動きも可能になり、戦闘に幅も出て来たかも。


 現在は、プレゼントして貰った『飛迅の薙刀』を使って、器用に前衛もこなしている。『海賊』と言うスキルの特性は、長物武器と弓矢のどちらにも補正が入るのだ。

 雑魚のゴブリンやサハギン獣人程度なら、この薙刀で充分に制圧が可能だ。そもそもこの『飛迅の薙刀』も、ポンと人にあげるような性能ではない。


 切れ味もそうだけど、衝撃波を飛ばす事の出来るこの武器は間違いなく一級品である。みっちゃんが扱うと、なかなか様になるし漫画の主人公みたいで面白い。

 そう姫香が口にすると、何だか照れたような顔になるみっちゃんである。


 そしてお次は姫香の番となって、それじゃあ軽くと前に出る彼女。『天使の執行杖』を手に、ツグミを伴って先行するその勇ましさと来たら。

 その頃には、既に探索行も4層に到達していて、敵にヤモリ獣人も混じって来ていた。ほんのりと忍者風で、出て来た獣人の中で間違い無く一番強い。


 それを姫香とツグミのコンビで、華麗に片付けて行くその手腕と来たら凄いの一言。懲りずに茶々萌コンビも参加するけど、それすら予定調和でまるで姫香が操っているかのよう。

 そこはさすがの同じチームで研鑽けんさんしているだけはある、ヤンチャな仲間の扱いの上手さは茶々丸で鍛えられたとも言えるけど。そんな姫香は、特にスキルを披露するでもなく敵の群れを全て薙ぎ払って行く。

 その剛腕を、呆気に取られて見守る陽菜たちであった――。




 一方の護人チームも、道のりは順調で護人の前衛も段々と板について来た感じ。コロ助も慣れて来たのか、首筋のムームーちゃんと共にキル数を伸ばして行く。

 探索は既に2層も踏破して、3層へと至った所。この3層では、案内役のレイジーは海沿いのルートを辿っているようだ。自然と出て来る敵も、海系の恐竜が増えて来た。


 まだ浅い層だからそんな巨大な恐竜は出て来ないよねと、後衛の香多奈はおっかなビックリな様子。確かにイメージでは、巨大恐竜は海側に多いイメージ。

 幸いにも、出没するのは三葉虫とかアンモナイトのモンスター版で。まぁ手強くはあったけど、コロ助のハンマーがここでも大活躍を見せた。


 ついでにと、護人はコロ助にこの前覚えた新スキルのお披露目を指示してみる。《咬竜》と言う名のスキルは、夕方の訓練では何度か成功させて強そうではあったけど。

 実践ではまだ試した事は無くて、いざと言う時用の隠し玉になるかも知れない。それは良いねと、超乗り気の末妹は自分の愛犬に頑張りなさいと発破をかける。

 それに応えるように、コロ助は《咬竜》を実戦で初披露!


「おっと、これは自動追尾型なのかな……勝手に敵の方へ飛んで行ったけど、相変わらずアレは竜には見えないな。威力は『牙突』より強そうだから、使い勝手は良いようだけど。

 ふむっ、訓練では敵がいないせいで技を出しにくかったのかもな」

「あっ、ちゃんとしたターゲットが必要だったって事かぁ。確かに、変な牙の塊が勝手に敵に目掛けて飛んでってるね。

 あっ、敵が倒れたらスキルも消滅しちゃった。残念、召喚タイプでずっといてくれる技じゃないみたいだね、叔父さん」


 一撃だけで消える技では無かったけど、ずっと召喚されている訳でもなかった《咬竜》スキルである。何でも噛むのが大好きなコロ助らしい技だが、それでいつも叱られている為にこんな中途半端な出来となった可能性も。

 それは仕方が無いけど、一応は敵を倒すまでは消滅はしないようだ。サハギン獣人があまり強くないので、検証はやや不十分なのが残念ではある。


 それでもMP消費が割と掛かるスキルの多用は、ダンジョン内ではあまりすべきではない。何しろいつ敵に襲われても、全く不思議ではない場所なのだ。

 そんな訳で検証は程々にして、休憩なども挟みながらの探索は続く。メイン前衛のコロ助の頑張りで、3層も順調にクリアして一行は4層へと到達した。


 レイジーの道案内も完璧で、4層でまず彼女が案内したのは懐かしのモアイの仕掛けだった。2体の3メートル級のモアイの中央には、これ見よがしに大振りの宝箱が。

 それを見て大喜びの香多奈と、確かこれには罠があった筈と冷静な紗良の忠告。今回の罠は、近付いた者に超音波攻撃と敵を呼び寄せるサイレンだった模様。


 ツグミがいないので、どちらも作動させてしまった一行は大慌て。レイジーは結局、力技で騒がしくサイレンを鳴らすモアイを爆砕してしまった。

 この辺はさすがに、本職には敵わなくてちょっと要反省な部分かも。もっとも、お互いに足りない所をカバーし合うのが、チームの正しい姿ではあるけど。


 現状はこれで精一杯で、批判的な視線をレイジーに向ける香多奈は我が儘とも。それでも本日初の宝箱を確保出来て、とっても嬉しそうな末妹である。

 もっとも、宝箱の中身は至って標準的な品物ばかりで、特に明記すべき品物は無し。薬品類が数種類に、化石とか恐竜の骨素材とか当たりの品も微妙である。


 魔結晶(小)が5個入っていたので、それが辛うじて当たりだろうか。紗良と香多奈で回収しながら、ついでに前衛陣のMP補給もこなして中ボス戦に備える面々である。

 レイジーも慣れない探索のお仕事を頑張ってくれており、その分精神力も消耗している筈。休憩を多めに取りつつも、それでもここまで順調なのはチームの底力だろうか。


「ここまで順調だと、夕方までに本当に10層に到達出来ちゃいそうだね、叔父さんっ。姫香お姉ちゃんとツグミがいなくても、全然平気なのは凄いかもっ?」

「平気ではないけど、夕方がリミットだとしたら10層くらいは行けそうかなぁ? ここは帰還用の魔方陣とか出ないダンジョンだから、歩いて帰る時間も見込んでおかないとね」

「そうだな、取り敢えずは……5層の中ボスを退治してお昼休憩に入ろうか。チーム員が少なくなってる分、ゆったりと余裕をもって進む感じでな」


 私は全然疲れてないけどねと、生意気な事を口にする末妹であるけれど。姫香がいれば、確実に姉妹喧嘩に発展していたのは火を見るよりも明らか。

 それでも香多奈も、内心では寂しいのだろうと納得して何も返さない護人であった。こで変に混ぜっ返して、末妹の機嫌が損なわれても宜しくはないし。


 その上、階段に辿り着くまで上空と地上から、敵の来襲が突然に激しくなって来た。それをいつもより少ないメンバーで撃退するのは、なかなか骨が折れて大変である。

 ルルンバちゃんの射撃が、かなりの命中率で安定しているのが有り難い。レイジーの火の鳥も、いざとなれば体当たりでプテラノドンを撃ち落としてくれる。


 護人とコロ助は、地上を突進して来る中型と小型のラプトルの群れの相手でてんやわんや。数も多いし、こちらを肉としてしか見ていない噛み付き攻撃はかなりの脅威である。

 それらを武器とスキルで何とか迎撃して、ついでに紗良の《氷雪》も敵を範囲で包み込んで弱らせてくれる。妖精ちゃんも、いざと言う時用に兎の戦闘ドールを準備しているようだ。


 何しろ彼女は、ミケを全く信用していない部門の第一人者であるのだ。あんな小動物に頼るくらいなら、恐竜くらいは自分で倒してやるワイと意気込みも凄い。

 ただし、護人とコロ助の頑張りで前線は何とか破られずに済みそうな気配。空から来襲した飛行軍団も、まずはルルンバちゃんがメインのプテラノドンを撃破。


 ついでのように追随して来た大トンボの群れは、ミケが『雷槌』で一瞬にして倒してしまった。紗良と香多奈が、前衛ばかり気に掛けて上空や後方の確認がおざなりだったせいかも。

 その点、ミケの飛行物体に対する気配察知はさすがのレベル。





 ――天性のハンターは、その気になれば大型恐竜すら一撃で仕留めるのだ。





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