第635話 低層の間引きが両チームとも順調に進む件
「おっと、1層の敵はゴブリンの集団だっ。情報通りだけど、相手の装備は割と揃ってる感じだね。しかしお城を背に斬り合いするのって、何だかヘンな気分だね」
「うむっ、その気持ちは分かるぞ、姫香。それより取り敢えず序盤は、MP節約のために私と姫香の前衛で敵を蹴散らして進むパターンでいいかな?」
「えっ、私も活躍したいっス! あっ、茶々丸と萌のコンビも前に出たいっスか、そうっスか……」
遠慮しぃのみっちゃんは、ヤン茶々丸にもしっかりと主張を通せない模様ですごすごと後衛へ。怜央奈は後衛で撮影役と決まっているので、何の文句も無し。
そして張り切る茶々萌コンビは、前衛の一角として特攻からゴブリン退治へと張り切って参加している。陽菜も、新しく貰った武器の使い心地を試しながら戦闘中。
敵は数体ずつの集団で、1層に出現するゴブリンたちは小剣や槍を装備していた。それなりの鎧も着込んでいるけど、全て和風と言うのが斬新だろうか。
まるで戦国ドラマとか、そんな撮影シーンに入り込んでいる気がして来る姫香だけど。和風の城を背景にしての戦闘は、尚更そんな感情を後押しして来る。
この“水軍城ダンジョン”は、最初の層はフィールド型となっているようだ。観光地と化した元の水軍城跡地は、お寺や墓地も広がっていてそれなりの敷地だった。
資料館とか駐車場も存在して、階段を上った一番上に城郭風の建築物が存在する形だ。対してこのダンジョン内だけど、やりたい放題で和風の城壁の迷路を作っていた。
お城風の建築物もそこかしこに見えるけど、飽くまで香り付けみたい。山の上まで登り階段が続いていて、その通路の要所に敵が配置されている感じだ。
何と言うか、城攻めアトラクションの風味が強い感じの“水軍城ダンジョン”である。その雰囲気に乗ってしまう者は、今の所チーム内にはいなさそうだけど。
みっちゃん辺りは、やぁやぁ我こそはとか名乗りを上げたそう。
「えっ、そんなの全然やっていいよ、みっちゃん! ちゃんと動画で撮影してあげるし、何なら前衛代わって貰いなよ。
新しい武器の威力、試してみたくて仕方ないんでしょ!?」
「嫌っスよ、親父たちのチームでここの間引きをする時は、大抵は誰かが悪ノリしてそんなお茶目に走るんスから!
中年のノリノリの活劇、間近で見るこっちの身にもなって!」
「みっちゃんなら可愛いから、
何故か姫香までその案に乗って来て、どうやら時代劇の雰囲気はチーム内にとっくに蔓延していた模様だ。そんな訳で、1層目から騒がしい姫香チームの攻略である。
そして次に遭遇したゴブリン集団は、みっちゃんの名乗り上げを律儀に最後まで聞いてくれると言う快挙に。良く分からないけど、ダンジョンの独自ルールなのかも。
それにはチーム内でもやんやの喝采、さすが村上水軍の血を引く娘とみっちゃんの株は爆上がりである。瀬戸内だけでなく東南アジア諸国までその名を
まぁ、そんな事実はハッキリとは確認されてないのだけれど。スキルに『海賊』なんてモノを呼び寄せるあたり、案外その評価は事実なのかも知れない。
そして勢いに乗ったみっちゃんは、茶々萌コンビと共に出没したゴブリンを蹴散らして行く。新しく貰った『飛迅の薙刀』は切れ味も
範囲は決して広くはないけど、その威力はなかなかのモノで。あっという間にお気に入りと化したその武器で、力強い動きを示す因島出身の少女である。
周囲の友達からも、なかなかいい動きだねと絶賛されてみっちゃんは有頂天に。主役を取られて面白くない茶々丸は、かくして目立とうとソロで特攻をかける流れに。
それを叱る姫香、リーダー業は本当に大変である。向こうも上手くやってるか、それともチーム員が減って苦労しているかは定かではないけど。
せめて末妹が、茶々丸みたいに暴走していない事を祈る姫香であった――。
一方の護人チームは、前衛の不足をムームーちゃんに託してコロ助とのペアに期待していた。それだけでは不足なので、取り敢えず護人が久々に前衛へと出張っている所。
さすがに幼子のムームーちゃんの面倒を、ヤンチャなコロ助に委ねるのは心配だ。レイジーがいるとは言え、彼女は現在召喚した炎の狼や火の鳥の操作にとっても忙しい。
この召喚獣たちは、例えば一斉攻撃とか単純な命令なら、スタンドアローンで勝手に動いてくれるみたい。ところが敵の感知とか、複雑な行動はやはり指示がないと無理なようで。
しかも入って来る情報も、偵察兵の数を揃えるだけ増えるのは道理である。それを自在に動かすレイジーは、スキルのサポートがあるとは言え並ではない。
護人も頼りにしながら、それでも頼り過ぎは良くないとの思いは当然強い。そんな訳で、前衛に出張って新しいチームの形の模索など進めてみたり。
今後もひょっとして、誰かが欠けた中で探索する機会が出てくるかも知れない。そんな時に慌てないように、色んなチームの陣形パターンを試しておくべき。
そんな訳で、後衛の指揮は紗良に任せて、その護衛はルルンバちゃんの任務だと頼み込んでの探索開始。護人はいつものように前衛が離れ過ぎないよう、それを心掛けてチームをコントロールする。
具体的にはコロ助&ムームーちゃんが、前に出過ぎないよう監視役だけど。レイジーの炎の狼もオートで戦闘をこなしてくれるので、一応壁役は足りている。
何しろこのダンジョンは、1層から密林仕様で敵がどこから出現して来るか分かりにくいと来ている。後衛の安全を確保するには、なるべく敵の早期発見からの殲滅が大前提である。
そんな感じでチームを操りつつ、コロ助にも勝手をさせないのはなかなかの苦行かも。いつもと違う布陣に、コロ助もやや混乱しているみたい。
「基本は同じで良いからね、先に見付けて敵を素早く叩く。ただし追い過ぎず、後衛とも離れ過ぎずに上手に自分の位置を調整するんだ。
ムームーちゃんの遠隔スキルも上手に使ってな、例えば俺の薔薇のマントみたいな感じで」
「あ~っ、なるほどね……分かった、コロ助? 今日はレイジーは召喚で手一杯だし、ツグミもいないから勝手に暴れてるだけじゃダメなんだよっ。
頭を使って、防衛ラインを敷くイメージでねっ!」
「あっ、香多奈ちゃんの今の説明はいいかもね? 茶々丸ちゃんと萌ちゃんもいないからね、前衛が少なくなったのを護人さんと上手くカバーするんだよっ!」
そんな指示を一度に言われて、やっぱり混乱するコロ助は頭を使うのがあまり得意ではない。例えば敵を倒すとか、末妹を護衛するとか単純な命令なら何とかなるけど。
自分達の立ち位置など、母ちゃんでリーダー犬のレイジーが考えれば済む事と思っていたのに。今更自分で考えなさいとは、スパルタが過ぎやしないかと
ただし、ムームーちゃんのマント計画は案外楽しいかも……薔薇のマントでご主人が空を飛ぶ姿を、コロ助はいつも羨ましく思っていたのだ。
あんな多機能性のある装備が欲しいなって思った矢先の、ムームーちゃんの首抱っこである。頼むぜ相棒と伝達したところ、向こうからはまかしぇてとの幼い返答が。
そして始まる遭遇戦は、最初から敵の数が多くて熾烈だった。小型のラプトルや大トカゲ、大ネズミや三葉虫みたいな奴も密林から飛び出して来て。
特に大トンボは、空を飛んで接近して来るので厄介極まりない。それを《水柱》スキルで撃ち落とすムームーちゃんは、相棒として申し分ないかも?
更には前衛に出て来た護人も、盾役だけあって後ろに敵を通す気配はまるでナシ。心配したような忙しさにはならず、逆に肩透かしな心情のコロ助であった。
しかもレイジーの召喚した、炎の狼もサポートとして後ろに控えているのだ。万一それを抜いたとしても、最後の守護神でルルンバちゃんがいると言う。
これを全て突破するのは、極限の平たさのゴキブリでも難しい筈。
そう思うと、随分と気が楽になったコロ助である。そしてすぐに、隣に居座るご主人より前に出ない事で、自分の立ち位置を調整する術を覚えてしまった。
そう言う目端は良く効く、末っ子気質のコロ助である。ムームーちゃんとのペア探索も初めてではないし、この調子なら上手く行きそう。
そうこうしている内に、レイジーが2層への階段を発見してくれた。倒した敵の魔石は、後衛陣が拾ってくれて討伐数はまずまずとの事。
ここも叱られる要因は無いみたいで、ちょっとずつ図に乗り始めるコロ助だったり。何しろ香多奈の応援を一身に受けて、小型のラプトルとも肉弾戦で勝る程なのだ。
ところがすれ違いのレイジーの
ムームーちゃんまでビビッてしまって、調子に乗ったらダメでつと忠告される始末。幼子にまで叱られて、まるで立場の無いコロ助だけどそこはいつも通りとも。
そんな感じで2層に到達、相変わらず出て来る敵は種類も豊富で数も多い。護人も張り切って前衛業をこなしており、いつもと異なる風景に香多奈も興奮しているよう。
『応援』もコロ助と均等に飛ばして貰って、護人もいつになく良い調子を維持している。元気者の姫香不在のチームだが、幸いにも雰囲気は悪くない。
その分、個人の負担は格段に増えていてこの調子で10層まで到達は辛いかもだけど。今の所は、護人もコロ助も前線キープは苦労せず行えている。
ムームーちゃんも、心配していたほど混乱もなく怖がってもいないようで何より。来栖家チームへの帯同が何度も続いたので、いい加減慣れてしまったのかも知れない。
そして各種スキルで、お兄ちゃんのコロ助のフォローもしっかり行ってくれており。薔薇のマント程ではないけど、その存在感はしっかりと示してくれている。
コロ助も首筋に居座る相棒に、危険が無いように動きの工夫を行っているっポイ。その辺はさすがお兄ちゃん、面倒見の良い一面もあるようだ。
そしてレイジーも、全方位の監視から空からの接敵も許さずここまでパーフェクト。少々頑張り過ぎじゃないかと、護人は心配するけどそう言う性格なのだろう。
MPの燃費は決して良くないこの召喚術だが、レイジーは頑張って我が物にしようとしている様子。そんな彼女のエスコートで、護人チームは続けて2層を突破して3層への階段へ到着出来た。
この2層は特筆すべき敵とも遭遇せず、小型のラプトル集団がちょっとウザかったくらいだろうか。今回は海岸線方面まで間引きしていないので、その辺は少し心配ではあるけど。
深く潜るか階層ごとに広く探索して間引きするか、同時に行うのはちょっと無理との判断である。チーム全員揃っていたら話は別だけど、今回は4名も少ないのだ。
その分、時間の許す限りは深く潜る予定。
「今日はお姉ちゃんがいなくて心配してたけど、ここまで順調だし問題なさそうだねっ。茶々丸と萌もしっかりやってるかな、迷惑かけてないと良いけど」
「香多奈ちゃんも、喧嘩する相手敵いなくて寂しいよねぇ……この旅行中は、ずっとこのチーム分けで探索する予定なんですか、護人さん?」
「そうだな……“アビス”とか特に、メダルとリングを数多く集めなきゃならんからな。姫香チームには6層辺りから始めて貰って、こっちは16層辺りから潜るかな?
今回の探索で、転移装置の交換枚数を稼げれば一番いいんだが」
それを聞いて、末妹は今回も宝の地図の場所を探さないのと批難轟々。とは言え、チームを分割して挑む今回は、その時ではないと本人も自覚しているようで。
その代わり、凄いお宝をこの旅行中にゲットしたいよねぇと呟く香多奈であった。相棒の妖精ちゃんが、お前はいつも欲張りだなとそんな少女を
――隣で聞いていた紗良も、それには苦笑いで明後日の方向を眺めるのみ。
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