第633話 何とかかんとか目的地の尾道へ辿り着く件
予期せぬ依頼のお陰で、本来の旅行の目的地へと辿り着いたのが夕方の6時過ぎと言う。当然ながら、半日も待ちぼうけを喰らった陽菜とみっちゃんはカンカンである。
或いは心配して待っていてくれたのかも、それを思うとひたすら謝るしかない来栖家&怜央奈である。そして因島の旅館の宴会場に通されて、早速始まる歓迎会だったり。
ここは以前と言うか、去年も宿泊させて貰った海辺の宴会場付きの古びた旅館である。そして地元は、A級ランクの探索者が来たぞと大盛り上がりしているようで。
宴会場の畳部屋は当然の如く貸し切りで、テーブルには海の幸がズラリと並んでおり。海の衆と言うか、地元のみっちゃんの探索者仲間が全員集合しての盛り上がり。
とは言え、若者はほんの数える程度……後は漁師上がりの、日に焼けたむさ苦しい親父が大半を占める連中である。それだけに、酒を勧める速度の半端ない事と来たら。
子供達がまだ未成年で本当に良かったと、人身御供の護人は心から思う次第。それにしても異様な盛り上がり、宴会とはこうあるべしを素で行っているような。
もちろん主催側の、漁師のオッちゃん達も浴びるように酒を飲んでいる。その辺は公平なのだが、それ故に理性のタガが吹っ飛んでいるとも。
護人はさり気なく、来栖家の子供とその友達に適当な所で退出を伝えておいて。教育上あまり宜しくない、酒飲み連中の宴会からの早期離脱を言い含めておく。
「いや、しかし……あれがみっちゃんの彼氏なのか……日に焼けて逞しくて、なかなかの逸材じゃないか。島の者なら、親父殿からの反対もないだろうし好条件だな。
しかし、奥手そうに見えたみっちゃんが彼氏持ち1番乗りとはな」
「本当にねぇ、でも幼馴染なんでしょ? それならこう……自然にくっつくパターンってのが王道なんじゃない、みっちゃん?」
「いやまぁ、馴れ初めはそんな感じっスけど……」
ひたすら照れまくっているみっちゃんは、お酒も入ってないのに耳まで真っ赤。友達に詰められてヒソヒソ話をしながら、宴会に一緒の席の彼氏の話で盛り上がっている。
それでもご馳走の消えて行くスピードは、物凄く速くてさすが育ち盛りの子供達である。女子ばかりとは言え、食欲旺盛なのは間違いはない。
お喋りの速度もそれに比例しているのは、久し振りの再会なので仕方が無いだろう。宴会の席は、そんな酒飲みとお喋りの席で極端に二分化されている次第。
そして女子チームは、お腹も膨れて適当な所で退散する方向へ。二度目のお風呂に入るとか適当な理由をつけて、酔っ払いで騒がしい席の離脱に成功する。
そしてこちらも騒がしい女子たちは、離れの二階へと揃って移動を果たす。途中で中庭に放たれていた、ハスキー達やペット勢とお休みの挨拶を交わすのを忘れずに。
石灯篭の上に箱座りしていた、ミケはもちろん香多奈が回収して行く。この辺の了承は、既に確認済みでミケの他にも萌やムームーちゃんも一緒に寝室へ。
もっとも、この2匹は抜け毛の心配は全く必要無いけれど。用心棒としても頼もしいし、本当に来栖家のペット勢は優秀である。
今夜宿泊予定の離れの寝室は、モロに和風で旅館とはかくあるべきって設えだった。8畳の大部屋には、既に6人分の布団が敷かれてある。
「さて、それじゃあお待ち兼ねの女子トークを始めようか? 主にみっちゃんを問い詰め……祝福する場として、大いに活用して貰いたいな。
1人だけハッピーオーラがウザいとか、その手の類いの発言も受け付けるぞ」
「素直に祝福したら駄目なの、陽菜……みっちゃんの顔色が、みるみる蒼褪めて行ってるんだけど? でもまぁ、紗良姉さんを差し置いて彼氏持ちってのは、確かに断罪されるべきかもね」
「えっ、私は別に何とも思ってないけど?」
素っ頓狂な声音でそんな返しをする紗良は、祝福してあげようよと飽くまでみっちゃんに優しい。
それよりもう少し、為になる話し合いをしようよとの姫香の突っ込みに。それなら先に、今日の探索動画を観ながら反省会でもしようよと末妹の正論が。
それからついでに、魔法アイテムの鑑定も済ませる流れに。
【ペンギンのネックレス】装備効果:水耐性&MP回復up・小
【恐竜の深藍鱗】使用効果:炎耐性&物理耐性up&・永続×4
【殺戮のバルカン砲】装備効果:弾丸&魔玉の高速射撃・大
【キーンブーツ】装備効果:加速&衝突緩和・大
【ンチャ眼鏡】装備効果:衝撃吸収&遠見付与・中
その他:『魔素鑑定装置』(高性能)×1
そして旅館の一室では、動画を観て
特に『魔素鑑定装置』に関しては、買えば100万円近くする高級品である。サイズもコンパクトだし、持ち運びにも便利そうである。
それから機神ゴーレムの落とした『殺戮のバルカン砲』は、何とも破壊力の高そうなアイテムである。弾を揃えられればの話になるが、ルルンバちゃんに装備しても良さそうな。
『キーンブーツ』と『ンチャ眼鏡』の2つは、名前こそふざけているけど性能はピカ一かも。特に『ンチャ眼鏡』は、スキル付きで『遠見』が可能になる魔法アイテムだ。
紗良も持っているのだが、ツグミが優秀過ぎて最近は使っていないと言う事情が。それでも便利には違いなく、スキル付きの魔法アイテムは売っても値段は跳ね上がる傾向が。
それを聞いて興奮している末妹、それでもチームで使うのが良いよねと理性は働いている様子で何より。『キーンブーツ』にしても、加速はともかく衝撃緩和は防御力上昇に良いかも。
こちらも、誰かギルドで必要な者へと融通するべきか。
「凄いね、さすがレア種級の敵を倒しただけはあったよ……陽菜とみっちゃんも、元ネタのアニメだか漫画だかは知らないよね?」
「知らないな、ドラゴンボールなら辛うじて知ってるが。アレは確か、7つの玉を集めて神龍に何でも好きな願いを聞いて貰えるんだろ?
このダンジョンには、そんな仕掛けは無かったのか?」
「さすがにダンジョンが節操無くても、そこまではしないでしょ。そもそもダンジョンが漫画とかアニメのパクりって、かなりのイレギュラーじゃないかな?」
「そうかもねぇ……確か、ずっと昔にその漫画に出て来る村を、江田島に作ってひと夏だけお披露目したんだっけ?
それが恐らく、切っ掛けになったんだと思うけど」
そう説明する紗良は、ミケを撫でながら既に半分夢の中。付き合いで1杯だけビールを飲んだだけなのに、ノックアウト寸前のよう。
末妹の香多奈が、そんな姉を見てもう寝なよと甲斐々々しくお世話をしている。今日は予期せぬ探索仕事も入って、末妹自身も疲労で眠たそう。
そんな訳で、場はまだ元気な者と眠りかけの紗良と香多奈で別れる流れに。姉妹の為に部屋の灯りを落として、元気な者は部屋の隅に集まって魔法の灯りで密談形式。
陽菜とみっちゃんは、来栖家チームの午後の動画を観ながら姫香に質問を飛ばしている。そして改めて、来栖家のハスキー軍団は凄いなとの素直な感想。
その剛腕振りと器用な探索風景は、確実に半年前よりも1ランク上昇している。いつも一緒の姫香には気付かない、その指摘は恐らく的を射ているのだろう。
それから、怜央奈は何もしていないなとの辛辣な感想も2人からは漏れて来て。当人も出番は無かったけど、一緒について行って面白かったよとアトラクション気分だった模様。
ミケさんでさえ戦ってたのにと、みっちゃんか動画を観ながら隣のニャンコを撫でる素振り。イケずなミケは、それを華麗に避けて既に就寝中の紗良と香多奈の方へ。
そこで一緒に寝るのだろう、その辺はいつもと変らぬ行動である。最近変わった事と言えば、2階の扉を開けっ放しにせずに済んでいるって事くらい。
ミケが『透過』スキルを覚えたせいで、この慣習が無くなったのは割と良い事ではある。何故なら、田舎は平気で虫が家の中へと入って来るのだ。
来栖家は比較的、天性のハンターのミケやルルンバちゃんがいてくれるので撃退数は多いのだけど。部屋に入られるのは、さすがに田舎暮らしの長い姉妹でも嫌である。
この宿は、山の上と違って潮騒の音が窓から微かに入って来てとっても風情がある。照明も半分落としているので、どことなく異世界の情緒に思えなくもない。
そんな中、ようやく動画を観終わった一行は感想を口にしながらわちゃわちゃ。姫香は明日の予定とかどうするのと、そっちの方が気になるみたい。
その質問を聞いて、みっちゃんが大きな地図を取り出した。
「これは、尾道市が出してる“ダンジョン配布マップ”の最新版なんスけど。尾道市とその周辺の地域のダンジョン分布が、かなり詳細に記載されて便利っスよ。
そう言えば、今日の来栖家チームが遭遇した新造ダンジョン騒動ですけど。あれって、“巫女姫”八神の予知の内の1つだったかも知れないっスね。
恐らくは、海の異変の予知じゃないかと」
「へえっ、そうなんだ……さすが2人は、色んな方面にアンテナ張ってて情報収集も抜かりが無いねぇ。こっちは護人さんより紗良姉さんが、情報を集める係だけど。
探索業が本職って思ってないから、そこまで詳しくは調べないかな」
「地図に記された星マークが、ダンジョンのある場所を示している。色と大きさは、ダンジョンの出現時期とランクなんかの情報だな。
私たちはこれを見て、探索するダンジョンを決めたりしてる訳だ」
そう説明する陽菜は、因島の2つのダンジョンを指し示す。明日の探索予定の場所は、チームを2つに分けて2ヵ所同時攻略と洒落込まないかと。
確かに来栖家チームは戦力的に、2つに分けても平気な程には強大ではある。姫香とツグミが陽菜たちのチームに合流しても、恐らく問題は無いだろう。
陽菜はそれから、観光ついでに尾道の近くのダンジョンを巡るのはどうかと提案して来た。来栖家チームは西広島がメインの活動の場なので、東広島はどこも珍しいだろうと。
それなら福山市の“鞆の浦ダンジョン”などは、風光明媚で訪れるに良いかも知れないとの提案が。そこは某ジブリ映画のモデルとなった土地とも言われており、海を望む町並みは情緒あふれていて訪れるのも良さそう。
とは言え、3日目に予定している“アビス”を含めて、さすがに3日連続の探索は辛いかも。その辺を含めて、予定をどうしようと相談する陽菜である。
来栖家チームは、予期せぬ新造ダンジョンの攻略が旅行の初日に入ってしまったし。やたらと詰め込み過ぎは、家族旅行の趣旨にも添わない気がする。
ちなみに4日目の最終日は、船と島を貸し切って姫香の誕生日会を企画している陽菜とみっちゃんであった。当人にはもちろん秘密のサプライズだが、バレている気がしなくもない。
とにかく初日のハプニングで、思いっ切り当初の計画がオジャンとなったギルド会合。いや、来栖家にとっては家族旅行で、探索は二の次なのかも知れないけど。
姫香も悩みながら、護人さん次第だねぇと連続探索自体に苦は無い模様だ。ハスキー達はむしろ喜ぶだろうし、紗良や香多奈もリーダーの決定に文句は言わないだろう。
むしろ子供達がやりたいと言えば、呆気無くそちらに決まってしまう可能性が。家族旅行がこんなんで良いのかって思うも、探索業は儲かるし色んな景色も楽しめるレジャーでもある。
そう考えるのは、まぁ高ランク探索者の特権ではある。
「確かにそうだな、私達も早くB級に上がりたいものだな、みっちゃん。怜央奈の方は、チームの探索活動はどんな感じなんだ?」
「う~ん、毎週それなりに頑張ってこなしてるけど、探索に行くのはC級ランクのダンジョンばっかりかなぁ?
こっちもB級ランクを目指してるけど、到達はまだまだ先だと思うよ」
「焦る事は無いっスよ、実力が伴わないとランク上げてもキツいだけだし。今回のギルド探索で、存分にその実力をあげさせて貰いましょう!」
そんな事を口にするみっちゃんは、超楽しそうでさっき彼氏問題で
姫香ももちろん、陽菜もみっちゃんも怜央奈も大好きである。
――明日のチーム探索も、それはもう楽しみで仕方無い程に。
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